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ガーディアン  作者: 閃天
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第十三話 夕焼け空を見上げて

 あれから、数日が過ぎた。

 あの後、守の事が校内新聞に載る事は無かった。それ以上に大きなスクープが、その次の日に見つかったから。部室の窓が割られ、地面には何かの爪痕と黒焦げた跡。それから、あの落雷に襲われた時、たまたま理穂がシャッターを切ったその写真に写っていたのだ。青白く輝く鬼獣の姿が。その事が大々的に記事にされ、もう守が理穂を襲ったと言うそんな話は報道部から消え去っていた。ついでに、報道部は今もその謎の生き物を探しているとか。


 放課後の教室に一人残る彩。もう、空は夕色に染まりつつあり、綺麗なオレンジの空と青い空が二層にくっきりと分かれて見える。そんな空を頬杖を突きながら見据える彩は、ふとため息を漏らす。誰もいない教室内に響く彩のため息は、少々大きく聞こえる。少し悩みがあった。いや、実際には少し所じゃない。

 その悩みと言うのは、守との事もある。あれから、一度も話をしていない。その為、報道部の新聞の事とか、鬼獣の事とか話したいことは沢山ある。だけど、守に話し掛けるタイミングが中々つかめない。と、言うより完全に避けられている様だ。例え、傷ついてたとしても、鬼獣を封じるのが封術士の仕事。可哀想と言えど、仕事は仕事なのだ。

 また、ため息を漏らす彩は、机に突っ伏して篭った声で叫ぶ。


「あ〜っ。何で、こうなっちゃうのかな〜っ」


 顔を上げ、机の上に両手を重ね合わせて置く。暫し俯いたまま机を見据える彩は、背中を丸め机に置いた重ね合わせた両手の上に顎を置き目の前の壁を真っ直ぐ見つめる。そして思う。自分は一体何をしているのだろうと。そう思うと、やはりため息が毀れた。



 夕暮れの空を見上げながら、守は岐路を歩む。ガードレールを左手で叩きながら、のんびりとした足取りで足を進める守は、十字路の信号機の前で止まる。車が目の前を行き交うのをジッと見据える守は、静かに息を吐く。信号が青に変わり足を進めると、守の横を何人もの人が追い抜いていく。別に皆が早く歩いている訳じゃない。守が遅すぎるのだ。信号を渡りきると、信号が点滅しすぐに赤に変わる。その時、守は思い出した様に呟いた。


「あっ。向うだった……」


 そう呟いた守は、すぐに青に変わった歩道をゆっくりと歩き出した。その後も、何度も渡る信号を間違えながら、ようやく細い道の続く住宅街に辿り着く。ギリギリニ台通れる位の道幅の住宅街を歩く守は、後ろから何人もの人に抜かれていた。高校生や中学生と学生ばかりに追い抜かれ、時々自転車に乗ったおばさんも通る。何人に抜かれても全く気にせず、マイペースに足を進める守は、T字路を真っ直ぐ進んだ後足を止め振り返り呟く。


「間違えた……」


 道を引き返しT字路を曲がった守。いつも以上に家に帰るのが遅い。いつもは二十分位で、家に着くが、今日は信号を間違え、道を間違えと行ったり来たりでかれこれ、一時間ぐらいたつ。流石に呆れてしまったフロードスクウェアは、渋々と守に声を掛けた。


『オイ。最近、ちょっと、おかしかったが、今日はいよいよやばくなったか?』

「なんですか? そのいよいよやばくなったかって?」


 不満そうにそう言う守は、首にかけたフロードスクウェアを右手で掴み、目視する。すると、壁際を歩いていた守は、そのまま電柱へと激突した。これには、フロードスクウェアも笑うしかないと、言った感じで、『ハハハ……』と、呆れた様な笑い声を響かせた。蹲り少々赤くなった額を押さえる守は、目を細めてフロードスクウェアを見据え、「イテェ……」と、小さく呟く。


『お前が、前見て歩かないからだ』

「でも、お前が声掛けるから……」

『人のせいにするな』

「エーッ。でも、フロードスクウェアは人じゃないですし……」


 語尾をフロードスクウェアに聞えない程度の声量で言ったつもりだったが、フロードスクウェアに全て聞えていたらしく、『なんだって?』と、少し恐い声で聞き返された。もちろん、守は惚けた。半笑いを浮かべながら。また、すぐに足を進めた守は、住宅街に唯一あるコンビニの前を通りかかった。四、五人のガラの悪そう学生と少し気弱そうな眼鏡を掛けた一人の学生がいる。ガラの悪い連中は、制服のボタンを全開に開き、下から着ているシャツが見えている。しかも、髪は金髪から赤など色鮮やかな髪をしている。とてもじゃないが、関わり合いにはなりたくない感じを漂わす。

 暫し足を止め、遠くからその光景を見据える守は、ふと小さくため息を吐く。流石に見てみぬフリは出来ない。タバコを吸ったり溜るのは別に構わないけど、流石に人様に暴力振るってお金を盗るだなんて、許せるはずが無い。目を細めてもう一度ため息を吐く守は、渋々と言った感じで、そのガラの悪い学生達の方に歩み寄った。



「おい! 金だせよ!」


 五人の中で、一番体格がでかく、制服の下に真っ赤な布地の中央に、白で不気味なドクロの絵が描かれたシャツを見せるリーダー格の男が、気弱そうな眼鏡を掛けた学生の右肩を強く叩く。眼鏡の学生の体は、後ろに弾かれ、壁に背中をぶつける。その衝撃で、眼鏡がずれるが、すぐに学生は眼鏡を掛けなおす。意外と几帳面だ。少し恐がる様な素振りを見せる気弱な学生は、尻のポケットから財布を取り出し千円札を二枚出す。


「い、今、これだけしか……」

「ハァ? ふざけんなよ! てめぇ!」


 髪を真っ赤に染め後ろ髪を長く伸ばした男が、横から眼鏡を掛けた学生に掴みかかる。「ヒィッ!」と、小さく声を上げる眼鏡の学生は、制服を掴む男の手を咄嗟に両手で掴む。驚きのあまり、勝手に体が反応してしまったのだ。そんな眼鏡の学生の腕に光る金のブレスレット。変わったデザインのブレスレットで、五センチほどの長さがあり、幅は眼鏡の学生に合わせた感じだろう。そして、丁度中間部分の所にオレンジ色の水晶の様な物が輝く。そのブレスレットに興味を示す真っ赤な髪の学生は、眼鏡の学生の腕を掴むとブレスレットを無理やり奪おうとする。


「や、止めてください! こ、これは!」

「五月蝿い! 金がねぇなら、これで簡便してやるって!」

「あ〜。あっ、君達、止めないか。よってかかって、恥かしいと思わないんですか?」


 無理やりブレスレットを奪おうとする真っ赤な髪の学生に、背後からそう言ったのは、守だった。暫し呆れた様な顔を向ける守の方に、「はぁっ?」と不服そうな声を上げて五人のガラの悪い学生が一斉に顔を向ける。しかし、間近で見ると……マジ恐い。と、思う守は、冷や汗を掻きながら、苦笑いを浮かべて言い放つ。


「お金を人から奪うだなんて、恥かしいとは思わないんですか? 大体――ウガッ!」


 殴られた。力一杯。周りにいた他の三人の男に。しかも顔を。一瞬視界が真っ暗になり、よろめいたのが分かった。それでも、守は倒れるのを踏み止まり立ち尽くした。だが、その後の記憶は曖昧だ。結局、一発目の不意打ちで殆ど意識が朦朧としていた為、正直言うと何も覚えていない。ただ、気付いた時にはガラの悪い学生はいなくなっていて、コンビニの横のゴミ捨て場に、ボロボロになった眼鏡の学生と一緒に寝かされていた。もちろん、財布からお金は抜き取られていた。


「ハグゥ〜ッ。大丈夫ですか? 見ず知らずの学生さん」


 頬や瞼を腫らし、アチコチ擦り切れ血を流す守は、フロードスクウェアがあるのを確認しながら横に寝かされる眼鏡の学生に声を掛ける。右瞼は結構腫れていて、殆ど目が開けられず視界は狭まれていた。口の中には血の味が広がっているが、水を買うお金も無い為、守は口の中の血を吐く。そんな守に、眼鏡をかけた学生が返事を返す。


「ウウッ……。す、すいません。巻き込んでしまって……」

「いえいえ。首を突っ込んだのは自分からですから」


 微かに笑って見せるが、すぐに口の中が痛み上手く笑う事も出来なかった。制服についた埃を払う守は、「それじゃあ。次から気をつけてください」と、告げ歩き出す。フラフラとした足取りで。やはり、まだ意識ははっきりしていない様だ。足が地に着いていないと、言う感じだった。


『お前、弱すぎるぞ』


 フラフラの守に声を掛けたのは、無論フロードスクウェアだ。物凄く呆れた口調で、守を少し馬鹿にしている様にも聞える。そんなフロードスクウェアに、「俺は、非暴力主義なんです……」と、弱々しく言う。全くもって説得力の無い守の姿に、フロードスクウェアは呆れた様に笑い声を上げる。



 フラフラと歩く守の後姿を見据える学生は、掛けていた眼鏡を外し胸ポケットに入れる。その際、学生の腕のブレスレットに埋め込まれた水晶が一瞬光り、


『そろそろ、無駄に殴られるの止めたらどうだ? 大地』


と、声がする。それに対し大地と呼ばれた学生は、右手で髪を掻き揚げ目付きを変える。その顔付きは先程とは違い、雄々しく男らしい顔付きに変わっていた。そして、軽く笑みを浮かべ堂々とした声で返事を返す。


「知ってるだろ? グラットリバー。俺が群れる連中は相手にしないって。でも、まさか意外な所で、会っちまったな」

『あれが、火のガーディアン? 何か弱そうだな。しかも、まるっきし力感じねぇし』


 グラットリバーと呼ばれたブレスレットが、口の悪い言葉を連呼するが、大地はそれを制止楽しそうに笑みを浮かべながら、「ガーディアンとしちゃ、合格じゃんか」と、言う。呆れた様にため息を漏らすグラットリバーは、『あれで、合格なのか?』と、ボロボロでフラフラと歩く守の方に視線を送りながらそう言った。

 お久し振りです。崎浜秀です。

 『ガーディアン』もやっとの事で、十三話……。

 更新が遅くて、本当に申し訳ないです。数少ない読者の皆様、本当にご迷惑おかけしております。

 次の更新がいつになるか分かりませんが、今月中に更新したいと思っています。

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