表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガーディアン  作者: 閃天
101/101

最終話 また、戻って来いよ〜再会を約束して〜

 静まり返った青桜学園の屋上に守は居た。

 町を覆っていた漆黒の膜は消滅し、空は夕焼けに染まり、町を寂しく照らしている。崩れかけの建物。崩れた建物。瓦礫、血痕、泣き声、悲鳴。町は惨劇と化していた。

 その光景を目の当たりにし、守は強く拳を握り締めた。

 結局、あの時守には何も出来なかった。町の人を守る事も、一人の少女を守る事も。そして、思い知った。自分がどれ程無力なのか。

 小さく息を吐き、胸元で静かに揺れるフロードスクウェアを手に取り、


「無力……ですね」

『……だな』


 水晶が僅かに赤く光り、フロードスクウェアが静かに答える。


『だが、お前は良くやった。俺はそう思う』

「でも……結局、誰も守れなかった……」


 俯いた守がくぐもった声でそう答えた。この時、フロードスクウェアは守の涙を初めて見た。どんな時でも笑ってみせる守の涙が、静かに頬を伝いフロードスクウェアの上に零れ落ちる。

 静かに流れる時の中、思い返すのはあの時の光景。奈菜を貫いた刃が弾け、光の柱が上り漆黒の膜を突き破った。その瞬間に漆黒の膜は分解される様に消滅。最悪の事態は免れたが、元凶である達樹には逃げられてしまった。

 その後の事は守もフロードスクウェアも良く覚えていない。守はショックで何も考えられず、フロードスクウェアも半分意識を失っていたから。気付いた時には屋上におり、既に空が夕焼けに染まり始めていたのは覚えている。



 小さく吐息を吐いた彩は、夕焼け空を見上げた。

 色々と考える事があるが、一番考えなければならない事が、この先の事だった。自分の担当の地区で、これ程の被害を出したとなれば、間違いなく責任問題となる。

 組織の調査隊に連れて来られた簡易テント。円や武明、愛も一緒だった。五大鬼獣や他の人達は、調査隊や組織のメンバーが来る前に、消えていた。誰かが連れ去ったか、自力で去っていったのかは定かじゃないが、とりあえず無事なのは確かだろう。

 もう一度小さく吐息を吐く彩は、ふと愛の方に視線を向けた。先程からずっと俯いたまま黙っている。


「大丈夫かな?」


 ボソッと呟く。誰に話し掛けたわけでも無いが、その言葉に円が返答した。


「大丈夫よ。あんたが心配すること無いわよ」

「でも……」

『彩ちゃんが心配しても、しょうがないのよ。それに、愛ちゃんだって、分かってるのよ。彼が、こう言う選択をした理由を』


 円のサポートアームズのエディがそう述べた。円の言う通り、彩が心配する事では無いが、何故か愛の事が気になった。それは、彼女のパートナー晃が、守と似ていたからそう感じたのだろう。自然と愛の前に立っていた。


「何?」

「彼の事――」

「別に、アイツとはそういう関係じゃない。単なるパートナーでしかないから」

「でも……何だか、寂しそう」


 彩の声に、複雑そうな表情を見せた愛が、薄らと笑みを見せる。その笑みがやはり寂しげに見え彩は、「ごめん」と小さな声で謝った。その言葉に対し、軽く首を振った愛は、冷やかな目を向け静かに答える。


「言っただろ。アイツは単なるパートナー。そんな関係じゃない。アイツがどうなろうと、私には関係ない。ただ……」


 口篭った愛は、小さく鼻を啜った。やはり、彼女にとって彼の存在は――大きかったのだろう。

 彼女のパートナー桜嵐晃は死んだ。あの戦いの最中、皆川奈菜に剣を突き立てて、光の柱が漆黒の膜を消し去ると同時に。胸から流れた血。脈など初めから無かった様に体は冷たくなり、彼の体は動かなくなっていた。彼の突き立てた剣も、奈菜の胸から完全に消え去り、残ったのは僅かな光の粒子だけだった。

 その時は、何が起こったのか分からなかったが、達樹の言葉と愛の態度でその場に居た誰もが気付いた。彼の行った行動がなんだったのか。

 達樹の言った言葉――クッ! バカな事を――。そのまま拳を震わせ雷轟鬼と共にその場を離脱。と、同時に愛の冷やかな笑い声が響き、「お前……本当にバカな奴だよ」と、涙声で言ったのを、彩は覚えていた。

 もし、あれが守だったら、と考えると、涙が滲んだ。何故、そうなったのか彩自身分からなかった。涙ぐむ彩に気付いたのか、愛が小さな笑い声を上げる。


「クスッ……なんで、あんたが泣いてんだよ。あんた、アイツの事知らないだろ?」

「な、泣いてなんかない。ただ、少し悲しくなっただけ」

「ふ〜ん。もし、自分のパートナーがそうなったら……なんて、考えたのか? まぁ、あんたのパートナーも、アイツと似た所あるからな」


 先程よりも少しだけ和らいだ笑みを浮かべる愛に、怒った様に顔を真っ赤にして怒鳴る。


「べ、別に、そんな事考えてないわ! ちょ、ちょっと目にゴミ…が……」


 そこまで言って言葉を詰まらせた。愛のあまりの切なそうな表情に。何を考え、何を思っているのか、彩には分からない。だから、黙る事しか出来なかった。

 黙りこくる彩に気付いた愛は、もう一度笑みを見せる。無理に作った様な笑みだったが、今までで一番明るい笑顔だった。

 何も出来ず、俯く彩。こんな時、どんな言葉を掛ければいいか、考える。“泣いてもいいんだよ”“無理にしないで”“大丈夫だよ”浮かんでくる言葉は、似た様な言葉ばかり。戸惑い口篭る彩に、言葉を続けたのは愛だった。


「あんたも……大変よね」

「へっ?」

「ああ言う連中は、残された人の気持ちとか考えないから……」


 その言葉に「やっぱり」と呟くと、愛は首を軽く振り「違うわよ」と続け、一度吐息を吐き、更に言葉を続ける。


「アイツの事……好きだった奴が居るのよ」

「へぇ〜っ」

「もちろん、私じゃないから」


 そう付け加えた愛が、彩の疑いの眼差しを真っ直ぐに見据える。その目に僅かに照れ笑いを浮かべた彩は、「違うの?」と呟く。呆れた様に目を細める愛は、「違うわよ」と多少ドスの利いた声で言い、更に言葉を続ける。


「まぁ、私も嫌いではなかったわ。パートナーとしては、結構頼りになったから。でもね……彼女はアイツの事をずっと思い続けていたから、きっとショックを受けると思う。家族も悲しむ……特に妹さん達は――」


 愛の切なげな表情が、彩の胸を打つ。家族――想い人――。守にも、そんな人が居る。だからだろう。守がもしもそうなったらと考え、複雑な気持ちになった。そんな彩の気持ちに気付いたのか、愛は無理に作った笑みでもう一度告げる。


「私は……平気だからさ。あんたは、あんたのパートナーの所に行ってやんな。きっと、色々と凹んでると思うからさ」

「……ごめん。色々……」

「良いって。私の方こそ、ごめん。色々、気ぃ使わせて」


 最後まで無理に作った笑みを見せた愛に、軽く頭を下げ彩はその場を去った。その時、愛が小さく言った「ありがとう」と、言う言葉を胸にしまい。



 昇降口を開くと夕闇に染まった空が目の前に広がった。冷たい夜風が優しく頬を撫で、肩で息をする彩の口の中をカラカラに乾かす。走った為乱れた着衣とセミロングの黒髪を整え、ゆっくりとした足取りでフェンスにもたれ掛かる守の方へと進む。

 項垂れる様に俯いた守が、足音に気付き静かに視線を上げる。


「こ、ここに居たんだね」


 ぎこちなくそう言って笑みを浮かべる彩に、守はゆっくりとフェンスから体を離し、少々よろめきながら笑う。


「ハハハ……心配掛けちゃいましたか? すいません。急に居なくなって……」


 何処かおかしい。そう思ったのは、喋り方のせいだろう。フラフラと僅かに上半身を揺らす守に、彩は言葉を掛ける。


「守……大丈夫?」

「えぇ……俺は、割と――」

『平気そうに見えるか?』


 口を挟んだのはフロードスクウェア。その言葉に「えっ?」と、驚きの声を上げたのは彩。少しの間の沈黙。そして、また、言葉が発せられる。


「ごめん……俺、何も出来なくて……」


 僅かに上擦った声に、彩は俯き静かに答える。


「……ううん。そんな事無いよ」

「そんな事あるんだよ! 今日、改めて分かった。俺は、無力――。誰も守れない……って」

「けど――」

『無力なのは、初めから分かってただろ』


 彩の言葉を遮り、フロードスクウェアがそう述べた。奥歯を噛み締める守が、静かに拳を震わせる。そんな守に、フロードスクウェアは言葉を続けた。


『あの時、お前が言ったんだ。俺とお前は、最低最弱のコンビだって……。俺達は確かに無力だが、俺もお前もまだ可能性がある。これから先、強くなる可能性が――』

「俺は……強くなっている、そう思ってた。でも、それは間違ってた……。俺は、あの時から何も変わってなかった。弱いままだったんだよ!」


 二人の声が屋上に響き、冷たく乾いた風が吹き抜ける。また、言葉が詰まり、静寂が周囲を支配した。流れる風だけが音を奏で、その場を優しく包み込む。

 どれ位の時が過ぎ様とした頃だろう。俯いた守が静かに口を開く。


「ごめん……。俺――」

「守はさ、強くなってるよ……。きっと、もう私なんかよりもずっと……だからさ、自分が弱いとか言わないでよ。ねぇ」


 寂しげな笑みを浮かべる彩が、この時眩しく見えたのは守だけだろう。胸に刻まれる晃の言葉と、今の彩の笑顔。胸が締め付けられる様に苦しくなり、守は俯き謝る。


「ごめん……水島」

「ううん……私こそゴメン、何の力にもなれなくて……」

「俺は、間違ってたんだな……自分が犠牲になってでも、誰かを守れれば良いって、思ってたけど、違うんだな」

「ンッ? どう言う意味?」


 不思議そうな顔をする彩に、守がゆっくりと歩み寄り、少し乱暴に頭を撫でた。その行動に驚き、戸惑う彩に、僅かながら優しい笑みを浮かべ、


「結局。何かを犠牲にして守っても、誰かが悲しむ。そう言う事ですよ」


 彩の頭を撫でた手が、ゆっくりと守の頭の後ろに回され、いつもの様な穏やかな笑みが生まれた。その笑みに安心した様に吐息を吐いた彩は、嬉しそうに笑った。



 この日、多くの命が奪われ、多くの血が流れた。その戦いに幕を下ろしたのは一人の少年。彼の行った行動は、一人の少女を――いや、少女の中に存在する鍵を、自らのサポートアームズを使い封じる事。それは、“共喰らい”であり、初代ガーディアンマスターと命を共にした、彼のサポートアームズのみが、行う事の出来る封印の方法だった。

 その方法は、“共喰らい”である彼のサポートアームズを、彼女の胸の奥に存在する鍵に突き立てる事。そして、代償は――彼の中に存在するサポートアームズのみ……のはずだった。だが、少年はサポートアームズを失うと同時に、自らの役目を果たした様に命を――落とした。

 理由は簡単な事だった。彼のサポートアームズである“共喰らい”が、心臓の役割を果たしていたからだ。だから、サポートアームズを失った少年の体には、心臓は無くただ冷たく冷え切っていた。

 彼は知っていたのだろう。最後に光の中で呟いた。「ありがとう」と。



 数日が過ぎ――。


「そうですか……。戻るんですか」


 玄関口で守がそう呟くと、荷物を詰めたバッグを足元に置いた彩が、寂しげに笑う。


「うん。やっぱり、前回みたいな事があったから……。多分、その事だと思う」

『まぁ、静かになって良いじゃないか』

『な、何ですか! その言い方は! もう少し――』

「こんな時に喧嘩は止めましょうよ」


 ニコヤカに仲裁に入る守に、フロードスクウェアもウィンクロードも黙り込む。彩は今日この町を去る。やはり、あの事件が原因なのだろう。担当していた地区であんな大掛かりな事件を起こされたんだ。処分が無いはずが無い。覚悟はしていたが、彩は少しだけ涙目で笑う。


「今までありがとね」

「いえいえ。俺の方こそ、色々と教わりましたから」

「エヘへ……そう言ってもらえると、嬉しいよ」


 照れ臭そうに笑う彩の頭を、守が少々乱暴に撫でる。


「俺はお前のパートナー、だろ? また、戻って来いよ」

「うん。分かってる。まぁ、最低最弱のパートナーだけどね」

『酷い言われ様だな』

『フン。本当の事じゃないですか』

『んだと! テメェ!』

「だから、喧嘩は――」

『うるせぇ! 馬鹿にされて、黙ってられっか!』

『本当の事を言って何が悪いんですか!』


 結局、最後までフロードスクウェアとウィンクロードは揉めていた。出会った時から変わらず、結局二人はこう言う関係なのだ。

 小さく「クスッ」と笑った守。それにつられて「フフフッ」と笑う彩。二人の笑い声は、フロードスクウェアとウィンクロードの声に消されたが、その笑顔だけは消える事は無かった。そして、彩は再会を約束し守と別れた。

 『ガーディアン』を最後まで読んでくださり、ありがとうございます。

 作者の崎浜秀です。

 番外を抜けば、丁度百話。連載を始めて三年位になるでしょうか? 連載を始めた時から読み続けてくれた方が居れば、嬉しい限りです。

 途中、更新をストップしたりしましたが、ここまで続けてこれたのは、読者の方がいてくれたからだと思います。ありがとうございます。

 感想や評価も励みになり、勉強にもなりました。これから、書くであろう作品に活かせる様頑張りたいと思います。

 まだまだ力量も足りず、読み難い作品だったと思いますが、最後まで読んでくださった方には感謝しています。

 一応、続編を書く意欲はあります。その時は是非、よろしくお願いします。

 最後にもう一度、最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ