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ガーディアン  作者: 閃天
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第十話 蒼い線香花火

 随分と日がくれ、辺りは暗く静まり返る。月光は微かに町を照らし、信号はすでに赤く点滅する。何の音も聞えず、全く車が通る気配は無い。人の影も無く、どの家も殆ど電気が消え、皆が寝静まっている時間だ。街灯がいたる所に灯っているが、通るのは野良犬や野良猫程度で、時折通る人は千鳥足で酔っ払った人位だ。

 そんな夜遅く。裏手を森に囲まれた大きな高校。名を『青桜学園』。校門は完全に閉じられ、校舎内の電気は全て消されている。グランドの中央には破れたネットを張ってあるサッカーゴール。その端には小さいながらもテニスコートが備えられている。少し離れた所には野球の専用グランドもあり、意外と広々としている。そのグランドを青光りするモノが駆け抜け、それを追う様に足音が二つ響く。一つは一生懸命といった感じだが、もう一方はまるで覇気を感じさせない。青光りするモノは、そんな二人を引き離し闇の中へと姿を消す。グランドの中央で立ち止まった二つの影は動かずにいる。


「ハァ…ハァ……。に…逃げ足……速すぎ……」

『大丈夫ですか? 彩様』

「う…うん。大丈夫。それより……」


 少し困った表情を見せる彩は振り返り、後ろに居る今にも死にそうな顔をしている守を真っ直ぐに見据える。何があったのか分からないが、落雷のあったあの時から可笑しいのは何と無く気付いていた。実は、あの時彩はあの場所に来ていた。報道部の人達が居たため、姿は見せなかったが、隠れて様子を窺っていたのだ。そして、落雷が落ちた時、報道部の部長と若葉を傷つけないため低級呪文で壁を作り、落雷の衝撃を消したのだ。

 あそこで、何があったに違いないが、それは彩には予測も出来ない。だが、守があれから少し様子がおかしいのは確実だ。何処か上の空と言うか、魂を抜かれた感じと言う方が正しいかも知れない。


「ねぇ、あなたやる気あるの?」

「えっ? う…うん。あるよ……」


 やはり何処か元気の無い感じの返事に、彩はため息を吐き暫し呆れた表情を見せるが、守は特に反応を示さず、ボーッとしていた。不満そうに口を尖らす彩は、守に背を向け小声でウィンクロードに問う。


「絶対、おかしいわよ! あの時、何かあったに違いないわ!」

『そうでしょうか? 私にはただやる気の無いだけの様にしか見えませんが?』

「いえ。午後の授業が始まる前まではあんなに張り切ってたのよ。それが、急に変わるなんて可笑しすぎる」

『彩様の考えすぎではございませんか?』

「いいえ。何か臭うわね。きっと――」


 彩はそう言って右手の人差し指で眉間を触っている。

 一方、肩を落としうな垂れる守は、呆然と立ち尽くし空を見上げていた。月の周りを取り巻く星々を見据える守に、フロードスクウェアが静かに口を開く。


『まだ、気にしてるのか?』

「気にしてる? 何を?」

『あの事だよ。あの娘を襲った事だ』

「あ〜っ。あれか……。って、言うか襲ってないんだって。大体、あの状況で襲える訳無いでしょ」

『まぁ、確かにな。だが、向うはそうは思っちゃくれないな』


 フロードスクウェアのその言葉に、更にうな垂れる守は「そうなんですよ」と、呟く。事故とは言え、理穂の胸を触った事は悪かったと思うが、流石に謝ってすむ問題じゃないだろうと守は思う。そして、頭の中で考えが働く。

『校内新聞に載る→校内の生徒に知られる→もちろん、皆川さんにも知られ→『守君最低』といわれ→確実嫌われる』

 一瞬で求められたこの計算の答えから、自分が確実に嫌われる事を悟る守は、蹲り頭を抱える。そして、「う〜っ」と、呻き声をあげながらどうすれば、嫌われないで済むかを計算する。

『確実に嫌われる理由=皆川さんに知られるから→校内の生徒に知られるから→校内新聞が配られるから』

 逆算したこの計算から、更に更に頭をフル回転させる守は答えを絞り込む。

『校内新聞→決定的瞬間の写真→消す→証拠不十分→ただの噂?→皆川さんに嫌われない?』

 考えが纏まった守は、顔を上げ目を輝かす。だが、すぐに頭を抱え唸り声を上げる。


「ダメだ〜! そんな事しちゃまるでやましい事をしたみたいじゃないか! うお〜っ。何か、他に方法は――」

『お前、大丈夫か? あまりのショックで何処かおかしくなったか? 大体、やましい事が無いなら別に気にする事無いだろ?』


 半ば呆れ気味でそう言うフロードスクウェアの言葉に、守が顔を上げ、一瞬にして明るい表情に戻る。今まで感じられなかった覇気は、いつもの様に戻り、守の顔から笑顔がこぼれる。先程の状態から一瞬でここまで変わった守に、多少呆れながらフロードスクウェアは様子を窺う。すると、立ち上がった守が笑顔でフロードスクウェアに言う。


「ありがとう。そうだよ。やましい事が無いなら、気にする事無いんだ! うんうん。あれはただの事故だったんだし、皆川さんだってちゃんと理由を説明すれば、嫌われる事は無いよ!」


 まるで、自分にそう言い聞かせる様な口振りの守に、フロードスクウェアは軽くため息を吐く。そんな時、何処からか焦げ臭いが漂い始めた。微かに漂うその臭いに、守は気付き辺りを見回す。何処から漂うのか分からないが、何処かが燃えているのはわかった。そして、これが鬼獣の仕業だと言う事も。彩の方に下がりつつ、守は彩に問いかける。


「臭うぞ。彩」

「そう。臭うのよ。絶対に、何かあったに違いないのよ。でも、一体あそこで何が――」

「何かあったって、決まってるじゃないですか。鬼獣が暴れてるんだよ」

「そう、鬼獣が――って、あれ? 守。なんだかさっきと雰囲気が……」

「何を言ってるんです。行くぞ。あんまり被害が大きくなるのはよくないですから」

「そ、そうよね。行きましょう」


 微かに首をかしげた彩は、守と一緒に焦げ臭いのする方に向って走った。徐々にはっきりとしてくる黒煙の位置は、部室の並ぶ校舎脇の方からだ。間違いなく、そこに鬼獣が居ると二人は更に走る速度を上げ地を駆ける。校内に響く二人の足音は、交互に音を奏でた。

 闇に浮ぶ蒼い光。それが見えると、二人は足を止める。肩口まで伸びた黒髪が、少々頬の方に向って風に煽られるため、彩は邪魔にならないようにそれを頭の後ろで束ねた。珍しく寝癖の立っていない守の黒髪も、少々だが風に靡く。迸る稲妻を体にまとう鬼獣は、青光りする体をこちらに向け威嚇するかの様に、稲妻は弾かせる。


「お〜っ。蒼い線香花火みたいですな」

「何、のん気な事言ってるのよ。今夜で決着を着けるわよ」

「おっ。早速、あれを封印するんですか。それじゃあ。俺は少し離れた位置から――」


 のん気に笑いながらそう言った守が、その場を離れ様とした時、その右腕を力強く掴まれる。ピタリと動きを止める守は、目を細めゆっくりと彩の顔を見る。何と無く嫌な予感はした守だが、一応訊いてみる事にした。


「あの〜。この手は、ナンデスカ?」


 ちょっと、片言になる守に彩は即答する。


「時間稼ぎ」

「はい? ごめん。ちょっと、よく聞えなかった」

「時間稼ぎするのよ。封印する為にはある程度、相手の体力を削らなきゃいけないし、私も念を練らなきゃならないんだから」


 彩にそう言われた守は「やっぱり、こうなるんですか」と、小さく呟きため息を吐いた後、フロードスクウェアを具現化させた。いつもの様にフラフラと、前屈みに倒れそうになりながらも、フロードスクウェアを構える守は、真っ直ぐに青光りする鬼獣を見据える。

 どうも。先週の水曜日振りです。崎浜秀です。

 いかがですか? 『ガーディアン』 楽しんでいただけているでしょうか? 更新が週一と少ないですが、読者の方はどう思っておられるのでしょうか?

 それで、先週から始まりました次回予告。ちょっと読者の様子を見て、これから先を考え様と思っていたら、あんまり反応が……。まぁ、気にせず、今日も次回予告をやりたいと思います!


【次回予告】

 蒼く輝く鬼獣を前に、守に告げられる「まともに戦おうと思うな」の一言! 

 その言葉に怒りを露にするフロードスクウェアに、遂にウィンクロードが告げるフロードスクウェアの本当の姿!

 そして、結成された迷コンビ! 次回『お前は俺のサポートアームズだ! 結成! 最低最弱コンビ(仮)』を、お届けしたいと思います。


 ついでに、タイトルはあくまで仮です。途中、変更などあるかも知れません。ご了承ください。それでは、また来週の水曜日に会いましょう♪

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