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配合

作者: CRUX

 今から話すのは100%作り話だから安心してくれ。


 俺の友人に、ある薬品工場で夜間警備のアルバイトをやってたやつがいて、仮にこいつをクマと呼ぶ。

 体はでかいし空手もやっているので、誰か忍び込んでくれれば実戦を兼ねた特訓が出来ると豪語していたバカさ加減は感心しないが、正直、興味をひかれない訳ではなかった俺も五十歩百歩と言うところだ。


 ある夜のこと、門の警備員室の前で黒塗りの車が止まり、明らかにヤバイ系の男たちが出て来て「今すぐ中へ入れろ」と言われたそうだ。

 さすがに少しビビったクマだが、そこは勤務中なのと多少腕に自信があったのとで断わると、親会社の社長の名前とハンコを押した書類を出して「自分たちはいつでも出入りが許されている」と言った。確かに書類にはそう書かれている。

 クマが「自分はアルバイトなので警備会社に確認させて欲しい」と答えると、書類を見せた男の後ろにいたDQN風の兄ちゃんが騒ぎかけたが、男に「静かにしろ」と一瞥されて大人しくなった。さらにクマのほうを向いて「急いでいるから一分だけ時間をやる」と言った。

 この男は本気でヤバイと思ったクマ(そもそもこいつがヤバイなんて思うこと自体、その男のヤバさを現している)が、急いで会社に電話するとオペレーターが出た。

 まずい。上につながってから説明していると一分以上かかる。

 あせりつつも、ハッと思い出して古参のおっちゃんが仕事用に持つ携帯へ直接かけると幸いすぐに出てくれて、こういう書類を持ったやつらが来ていると手短かに説明すると、おっちゃんは「黙って通せ、何も聞くな」と答えた。

 クマは即、門の開閉スイッチを押して男たちを中に入れた。


 彼らは慣れた様子で薬品の原液を貯槽するタンクが設置してある工場の扉を開けて、車のトランクから布に包まれたモゾモゾ動く何かを担いで中へ入ったが、警備員室からは距離があり、実際にそれが何だったのかは分からなかったらしい。

 しばらくして工場内から「ゲーッ」とか「バーッ」とか聞いたことの無い、形容しがたい声らしきものが聞こえて来たので、警備員室の扉と窓をピッタリ閉めて勤務中は禁止されているiPodの音量を上げて音楽を聞いていたそうだ。

 そう言えばおっちゃんは「何も聞かずに通せ」ではなく、「黙って通せ、何も聞くな」と言ったことを思い出して、これが初めてのことじゃないと気づき吐きそうだったらしい。


 そのうち黒塗りの車が戻って来て、例の男が「何か聞こえたか」と尋ねた。

「いえ、自分は音楽を聞いてたので何も」と答えると、男は「なかなか見どころがあるな」と、内ポケットから分厚い茶封筒を取り出してクマに渡した。

 札束だと直感したが、受け取らないほうがヤバイと思い「どうも」と受け取ったそうだ。

 来た時にクマにすごんだDQN風の兄ちゃんは、暗い夜の車内、しかもクマから見て向こう側の運転席にいるにも関わらず、顔面蒼白なのが分かったらしい。


 それからすぐにそのバイトを辞めたクマだが、周囲の人間にコンビニのサプリメントは使うなとしつこく言うようになった。

 理由をどれだけ尋ねても、絶対に話そうとはしない。


 俺の部屋で酒を飲んでいた時に話してくれたのがこの話だが、話し終わってすぐに「今のは作り話だ、嘘だから信じるな」と言いながらボロボロ泣き出した。

 クマがこんなに情けなく泣く姿など想像もしなかった俺は、それ以上何も聞かず、酔いが醒めたあとも話なんて聞いていないと言ってやった。でなければクマは誰かに話したことになるからだ。


 だから俺はこの話が作り話だと信じている。

 ただし、コンビニのサプリメントは絶対に使いたくない。


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― 新着の感想 ―
[一言] こわいですね。 でも、こういう実話としては書けない話を小説として書くのが、小説家の生き方かなと思ったりします。
[良い点] クマさんがどれほど怖かったのか、じわじわと伝わってきますね。 ウソだと信じていても、使わない、という主人公の心中が面白いです。
2011/07/14 21:36 退会済み
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