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第7話 怒りマックス

 翌日、学校から帰り、部屋にカバンをぽいと投げ出して、ブレザーも脱ぎ捨て、ズボンも脱いでいる時、携帯が鳴った。

 誰かと思ったら、蘭ちゃんだ。珍しい。基樹のことかな?

 何てのんきに構えながら電話に出ると、蘭ちゃんはすごい勢いで、

「私!蘭!聖君?」

と名乗ってきた。なんだか、すごい焦ってるようだ。


「桐太って知ってる?」

 え?桐太?

「そいつが、今、高校のそばまで来てる。桃子を聖君から奪うとか、わけわからないこと言って…」

 何だって?桐太が?桃子ちゃんを奪う?


「よう、聖」

 いきなり、電話に桐太が出た。

「なんでお前、桃子ちゃんの高校まで行ってるんだよ!何しにいったんだよ!」

「桃子ちゃんを俺のものにしようと思って、こうやって来たの。いいだろ?お前も俺の女、奪ったんだから」

「奪った?俺が?」

 何を言ってるんだ、こいつは!


「あほなこと言うな!誰もお前の彼女なんか奪ってない。そんなことより、お前、桃子ちゃんに手出してみろ!ただじゃすまないからな!」

「聖、今江ノ島だろ?俺を殴りに来ることも、この前みたいに桃子ちゃんを助けに来ることも、できないよな?ははは。江ノ島で指くわえてるしかないじゃん。ま、悔しがれば?早くに自分のものにしておかなかったことを、後悔したらいいさ」


 このやろう。俺は慌てて、ジーンズを履きながら、

「てめえだけは、まじで、ただじゃすまない!」

と、怒鳴り散らした。

「ただじゃすまないって、さっきからみんな言うけど、何が出来るんだよ?なあ、教えてくれよ?それに、もうそんなにすごまれても遅いよ?俺、桃子ちゃんにキスもしたし」

 キス?!

「やめて!聖君には言わないで!」

 桃子ちゃんの声?

 

「聞こえただろ?嘘じゃないよ。ほんとのこと」

「桐太!桃子ちゃんに何をしたんだよっ!!!」

「そんなに怒鳴るなよ。耳がおかしくなるから」

 桐太はそう言って、笑ってから、

「そんなに大事?そりゃあ良かった。大事なものを奪われたり、壊されるの、どう?お前の悔しがってる顔が見てみたいよ。なんなら今からこっちに来る?」

と言って来た。


 こいつ!なんだんだよ!何がしたいんだよ。どうして、俺をわざと怒らせるようなことするんだよ。

 駄目だ。おさまんない。怒りがおさまんない。

 キスだって?桃子ちゃんに?大事なものが奪われる?桃子ちゃんを奪う?壊される?桃子ちゃんが?


 冗談じゃないっ!!!!!!!今すぐに、ぶんなぐりに行ってやる!

「お前には何も出来ないだろう?笑えるよな。今、どんな顔して怒ってるの?俺のことでも殴りたい?でも、出来ないよな?」

 ちきしょう!携帯がつぶれるかと思うくらい、手に力が入った。


「グエッ!」

 なんだ?今の声。俺が携帯を思い切り握ったから、携帯が変な音が出たのか?

「桃子!」

 携帯の向こうで、蘭ちゃんの声がした。

 また、桐太のやつが、何か桃子ちゃんにしたのか?


「桐太?」

 返事がない。

「蘭ちゃん?何?何が起きたんだよ!」

「携帯!」

 かすかに蘭ちゃんの声がした。携帯?何?どうなってんの?


「歯!俺の歯!」

 桐太の声?歯?歯がどうしたって?

「すごい!桃子」

 蘭ちゃんの声…。すごいって何?それになんか、歓声と拍手の音まで聞こえる。


「蘭ちゃん、どうした?桃子ちゃんがどうかした?」

 俺は思い切り大きな声で、聞いた。

「え?何が起きたかって?」

 蘭ちゃんの声がようやく、ちゃんと聞こえてきた。

「桃子が、グーで桐太のこと殴った!聖君が殴りにこなくても、私が代わりに殴ってやろうかと思ってたのに、桃子が殴っちゃった。それで、桐太の歯まで折れて…」


 グーで殴った?桃子ちゃんが?殴った?桐太を?!

「え?どういうこと?もう一回説明して」

「聖君!私だったら大丈夫だから、心配しないで、じゃあね」

「桃子ちゃん?」

 プツ…。プー…、プー…。

 き、切れた…。


 頭の中を整理しよう。桃子ちゃんが、桐太を殴った。それで桐太は歯が折れて。

 桐太は桃子ちゃんにキスをして、キス…。

 ムカ~~~~~~!キス?あいつが、桃子ちゃんに?!

 頭に血が上った。冷静になんて考えられない。俺は慌てて、制服のシャツを脱ぎ、その辺にあった、Tシャツと、セーターを着た。それから、スタジャンを羽織ると、ものすごい勢いで、下に下りた。


「聖?どうしたんだ?」

 リビングにいた、父さんが驚いてた。

「ちょっと出てくる」

「え?」

「塾はさぼる!」


 くそ!靴がなかなか履けない。ああ、めちゃくちゃ、焦る!

 殴った?どうして?そこまで、桃子ちゃんは辛い目にあってた?そこまで追い詰められた?


 今、どんな心境でいるんだ。俺には大丈夫だって言った。心配かけたくないから?俺が塾サボって、絶対に駆けつけるって思ってたから?

 キス?桃子ちゃんに?


 ちきしょう!はらわたが煮えくり返るって、こういうことを言うのか!

 今、まだあいつといるのか?

 桃子ちゃんになんで、近づいたりしたんだ!仕返しなら、俺に直接しろよ!


 あいつが、桃子ちゃんを傷つけた。

 桃子ちゃんを守りきれなかった。


 もうすぐ駅だってところで、携帯を出した。桃子ちゃんに電話をしたけど、まったく出ない。蘭ちゃんなら出るか?蘭ちゃんの携帯に電話してみた。

 3回くらいのコールで、蘭ちゃんが出た。

「蘭ちゃん?」

「あ!聖君?」

「桃子ちゃん、そこにいるの?」

「え?桃子?いるよ」


 蘭ちゃんが桃子ちゃんと、電話を変わった。

「桃子ちゃん!大丈夫なの?」

「うん、大丈夫」

 本当に?声、震えてるじゃんか。


「まだ、あいつそこにいる?」

「うん」

「まじで、桃子ちゃん、殴ったの?」

「うん」

 桃子ちゃんのうんって声も、震えてるのがわかる。泣くのを我慢してる。


「もう江ノ島の駅だから。これから電車乗ってそっちに行く。とにかく、桃子ちゃんは家に帰って。あ、蘭ちゃんに送ってもらって。あいつからは、もう離れて!」

「え?聖君は?」

「桃子ちゃんの家に行く」

「き、桐太君には?」

「そのあと、会いに行く。ぼこぼこにしてやる」


「え?でも、もうすでに、一本歯、折れてて」

「俺が全部へし折ってやる」

 それだけでも、気がすまないかもしれない。

「じゃ、家にいる」

「うん。待ってて!駆けつけるから。ね?」

「うん…」

 それから、電話を切って、来ていた電車に乗り込んだ。


 電車が走り出した。ものすごく遅く感じた。もっとマッハのスピードで走ってくれないか。そんな気分だ。

 怒りはおさまってくれない。シートに腰掛けても、いらいらしてくるばかりで、俺は立ち上がり、車両の端から端まで歩いた。


 どうしてもっと、あいつのことを脅かさなかったんだろうか。

 桃子ちゃんに絶対に近づくなって、どうして…。

 花ちゃんのお姉さんの相談に乗らなければ良かったのか。

 これも必然で起きたことなんて、そんな浮かれてのんきなこと言ってる場合じゃなかったじゃないか。


 父さん。今起きてる状況ももし、必然なら、なんでこんなこと起きるんだよ?!

 ちきしょう。怒りしか出てこない。

 くそ!握り締めた拳で、ドアをたたいた。隣にいたおっさんが、驚いて俺を見た。

 くそ!見てるなよ!


 ああ、早くに着いてくれ。いてもたってもいられない。

 今、桃子ちゃんは泣いてるんじゃないのか。泣くのをこらえてたのが、まるわかりだった。

 なんで、俺、桃子ちゃんのそばにいてやれなかったんだろう。

 ちゃんと、守ってやれなかったんだろう。

 桐太も憎い。でも、俺自身も許せない。


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