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第6話 俺って冷たい?

 その次の土曜、花ちゃんと花ちゃんのお姉さんが、桃子ちゃんとれいんどろっぷすに来た。桐太とのことで、相談があるらしく、桃子ちゃんに頼まれ、しかたなく話を聞くことにした。

 俺、本当はどうでもいいんだよね。でも、桃子ちゃんの頼みだからしょうがない。

 そういうところも、俺、冷たいかな?


 最近、告られてもすぐにふっちゃったり、チョコやプレゼントも受け取らないのは冷たいって、そんなふうに言われてる。桐太にも言われた。まあ、あいつから言われてもどうでもいいけど、一番へこんだのは、菜摘からそう言われたことだ。

 断るにしても、もっと言い方があるでしょうと、言われてしまった。


 そうか。俺、冷たいのか。でも、他の子が傷つかないようにとか、泣かないようにとか、そんな配慮までしてられない。

 自分と桃子ちゃんのことで精一杯だ。桃子ちゃんのこと大事に思うので、いっぱいいっぱいだよ、俺。


 でも、今日はそんな桃子ちゃんの頼みだからな。断れなかった。

 そして3人でやってきて、桃子ちゃんと花ちゃんはカウンターに座り、俺と花ちゃんのお姉さんとで、テーブル席についた。

 桐太、二股かけたり、浮気したり、私はどうしたらいいかわからないと言われた。そんなこと言われても、嫌なら別れるしかないし、好きなら、桐太にそういうのをやめてくれって言うしかないんじゃないかなって、そう言った。


 いきなり、花ちゃんのお姉さんはしくしくと泣き出した。でも、泣き方が変だ。なんていうか、わざとらしい。

 これ、同情を買おうとか、俺の気を引こうとかしてるんじゃないだろうか。って、俺、かなりひねくれてるかな?だけど、何度か告られたり、いろいろとそういうことがあって、泣きまねか、本当に泣いてるのかを見抜けるようにもなってた。


 そのあと、聖君、いろいろと話を聞いて、これからも相談に乗ってと言われた。だけど、それはできないって、はっきりと言った。そうしたら、

「聖君って、そんなに冷たいって思わなかった」

と、いきなり逆切れされた。

 そんなにって、何?俺のことまったく知りもしないで、勝手に優しい人だと思われても、すげえ迷惑。って思ってる自体、俺って冷たいのかな。


 でも、そのあとだ。俺、すげえ驚いた。桃子ちゃんが、花ちゃんのお姉さんに、ちゃんと聖君に話をしたらってそう言った。俺はけっこうストレートにものを言うけど、俺と話すことで、自分と向き合えたり、気づけたりできるって。


 桃子ちゃんもそうだったの?俺、ストレートに言って、傷つけたことあるのかな。

 知らないうちに泣かせてることもあったんだろうか。

 桃子ちゃんだったら、傷ついてても黙って、俺のいないところで、泣いていそうだ。


 花ちゃんのお姉さんは、話を真剣にすることを決意して、話だした。自分と向き合い、本音を語り、それをはじめて聞いた花ちゃんの方が、動揺していた。

 花ちゃんのお姉さんもまた、親からの愛情を感じられず生きてきたようだ。ああ、桐太に似てる。似たものどおしだったんだ。


 花ちゃんのお姉さんも、やっぱり桐太を本気で好きなわけじゃなかったし、きっと桐太もだろう。

 自分をもっと大事にすると、花ちゃんのお姉さんはそう言って、桐太とは別れると決め、帰っていった。


 そう、父さんがリビングで俺らの話を聞いてて、こんなことを言った。

「聖は一見、冷たそうに見えるし、実際、ズバズバものを言って、傷つけることもあるけど、それも相手にとっては必要なこと。だから聖、自分を冷たい人間だなんて、否定する必要なないよ」

 父さんはよく俺に言う。すべては必然だよって。


 俺はこの言葉で、なんか一気に救われた。そっか。俺が冷たいわけじゃないんだ。

 それにもう一個、俺、桃子ちゃん以外の子が泣いてるからって、動揺したりしないそんな俺でよかったって思った。

 もし、そうだったら、俺、そのたびに心痛めたりして、桃子ちゃんのことだけを考えられない。


 桃子ちゃん以外の子のことまで考えてたら、桃子ちゃんを傷つけることもあるかもしれない。そう思ったら、なんだ、俺、桃子ちゃんのことだけでいいんだなって、なんかそこんとこもすっきりしたんだよね。


 桃子ちゃんに頼まれたからしかたなくってことだった。でも、今日あった出来事もまた、必然だった。俺にはすごく、必要で起きたことだったんだ。


 花ちゃんと花ちゃんのお姉さんを駅まで、桃子ちゃんと送っていった。そのあと、桃子ちゃんと海の方に行った。

 桃子ちゃんは俺に、聖君は冷たくないよって言ってくれた。それも優しさだと思うよって。

 まじで嬉しかった。


 桃子ちゃんには、俺の弱さも、情けなさも見せてきたと思う。なのにいつも、そんな俺のことまでひっくるめて、好きでいてくれる。

 桃子ちゃんの隣を歩いてて、ほっとする。それに、すごく幸せを感じる。


 桃子ちゃんと店に戻ると、父さんも店を手伝っていて、忙しそうだった。桃子ちゃんは気を使ってくれて、もう帰るって言ってくれた。駅まで送り届け、俺は急いで店に戻った。


 最近、パートさんが休むことも多くて、俺も塾で店を手伝えなくて、母さんが一人で大変な時がある。父さんもできるだけ手伝うようにしてるみたいだけど、でも、父さんにも父さんの仕事がある。仕事の締め切りがあったりすると、店も手伝えなくなるし、母さんはこれから大丈夫なんだろうかって、心配だ。


 俺、そういうことも何も考えずに、大学選んだんだよな。ただ、沖縄の海、潜りたい。それが動機だ。

 それが夢だった。


 だけど、それ、ほんとのほんとに俺がしたいこと?

 店に出て、俺はキッチンに入った。洗い物はたまってたし、母さんはオーダーのものを作るだけで、手一杯だった。

 

 いくら店が大変でも、母さんは疲れた言うことがない。弱音も、愚痴もはかない。そのへんは、もしかして、昔、仕事をばりばりやってた頃の癖なのかもしれない。

 弱音を吐いてもいいし、休んでもいいのにって俺は思う。


 ぎりぎりまで頑張って、いつかバタンって倒れやしないか…。最近まじで、心配なんだ。俺が手伝ってた頃は、そんな心配なかった。俺のことこきつかってたし、たまに、こんなにこきつかわせるなよって思ったこともあったけど、でも、言われたことも毎日してると、できるようになっちゃってたしな。


 パートさんだとそうはいかないようだ。パートさんが具合が悪ければ、母さんがその分、いろいろとしないとならないし。

 俺が塾に行くことで、バイトをやめたけど、初めはわからなかった。母さんが大変になること。


 こんなで、俺、沖縄に行って、大丈夫なのかよ?何かあっても、すぐに駆けつけることもできないんだよ?

 

 それに…。俺も大丈夫なのかよ?今はすぐそばに桃子ちゃんがいる。パワーをもらえてる。でも、離れたら?

 桃子ちゃんは俺が、沖縄に行くことにたいして、何も言わない。

 きっと、俺が夢を叶えることを、邪魔したり、諦めさせたりしたくないんだと思う。それで、もしかすると、我慢してるのかもしれない。


 そばにいるから、大丈夫だ。でも、離れたら?じいちゃんは大丈夫だろって言ってたけど、本当に?ああ、桃子ちゃんのお母さんだって、大丈夫だって言ってたっけ。

 俺も大丈夫だって思ってたんだ。思ってたんだけどさ。


 お客が一区切りついて、母さんが俺と父さんの夕飯をさっと作り、俺らはカウンターでそれを食べた。

「桃子ちゃん、帰っちゃったの?」

 父さんが聞いてきた。

「え?ああ、うん」

「悪かったね。もっと聖といたかったんじゃないの?」


「え?」

 そんなことを聞かれて、なんて答えていいかわからず、黙ってご飯を食べていると、

「聖も、あまり桃子ちゃんと会えてないんだろ?」

と父さんは、聞いてきた。

「うん。いや、会えてるかな」

 この前も、桐太のことがあって、会ったしな。


「お前見てるとさ」

「え?」

「桃子ちゃんは、すごい癒しになってるようだから」

 げ、ばれてる?

「会えないと、勉強もはかどらなくなるんじゃないの?」


「なんでわかんの?」

「はは、やっぱり?よく受験生だとさ、勉強も手につかなくなるし、ちょっと距離をおきましょうなんてこともあるじゃん」

「うん」

「お前の場合は、そばにいたほうが、勉強頑張るって感じだもんな」

「う、うん」


 それ、まじで最近感じてた。桃子ちゃんのパワーはすごいってさ。塾もあるし、会わないようにしてたんだ。でも、だから勉強頑張れたとか、集中できたかって言うと、そうでもないしな。


 いつ会えるから、頑張ろうとかそういうのはあった。会ったその日に、元気になって、頑張れることもある。

 やっぱり、桃子ちゃんはパワーの源なのかもしれない。

 


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