第3話 俺の本音
「すげえ大事で、壊さないよう、傷つけないよう、泣かせないよう、ものすごく気を使ってきた。いつだって、もっと抱きしめたかったし、キスしたかったし、でも、ずっと我慢してきた」
「……」
「本気で、桃子ちゃんのことは、傷つけちゃいけないって、ずっと俺…」
大事にしてきた。でも、でも…!
「他のやつに取られるのも嫌だ。絶対に嫌だ」
ああ、言っちまった。
こうなったら、全部をぶちまけよう。どう思われてももう、かまわない。
「俺、無理じいをして、桃子ちゃんに嫌われたり、去っていかれるのが怖かった。失うのがすごくすごく怖かった。でも、そうやって、大事に大事にしてる間に、もし、他のやつが強引に、桃子ちゃんをかっさらっていったらと思ったら、気が気じゃなかった」
桃子ちゃんの顔は見れなかった。
「他のやつに桃子ちゃんを取られるくらいなら、俺のものにしようかって思ったことも何度もある」
「……」
桃子ちゃんはずっと、黙ってる。
「俺、すげえ身勝手だよな。桃子ちゃんを抱いて、俺以外のやつのことなんて、絶対に考えさせられないくらいにしたいって、そんなことも思ってるんだから」
まだ、黙ってる…。でも、顔が見れない。
「今だって、幹男ってやつがたまらなく、憎たらしい。あいつに渡すくらいなら、今すぐにでも、桃子ちゃんを俺のものにしたいって思ってる」
なんで黙ってる?困ってる?呆れてる?引いてる?それとももう、とっくのとうに、嫌になってた…とか?
桃子ちゃんはちょっと、座ってる位置を後ろにずらした。ああ、やっぱり引いてる?
「情けないし、とんでもないだろ?俺って。桃子ちゃんを失うのが怖くって、どうしていいかもわからなくなってる」
「……」
「すげえ好きで、俺のものにしたくて、でも、嫌われるのも怖くて、避けられるのも、嫌がってる桃子ちゃんも、俺、どうしていいかわかんなくなってて」
「……」
「情けない。自分でもすげえ情けない。最近は勉強だって手につかない」
ああ、止まらない。思ってたことが、全部口から出てる。
「沖縄、行くのをやめようかとも思ってる」
「な、なんで?」
やっと桃子ちゃんが口を開いた。
「だから、怖いんだって。桃子ちゃんを失うの。幹男が言ってるの、当たってるよ。離れて、もし桃子ちゃんのこと、他のやつに取られたりしたら、後悔するなんてもんじゃない」
「ど、どうしちゃったの?いきなり、そんな」
「桃子ちゃんには、自信持ってなんて言ってたくせにね。とんだ弱気になってるって、思ってるよね?」
「……」
桃子ちゃんは目を丸くしていた。
「でも、俺もそんなに強くないよ。本当は桃子ちゃんは、俺のこと好きだって言ってくれるけど、俺が想うほど、想ってないんじゃないかとか、沖縄だって無理に来させたら、悪いんじゃないかとか、そんなことも考えるし」
情けないよな、俺。まじで情けない…。桃子ちゃんは黙ってる。きっと呆れてる。
「キスしても、抱きしめても、いつまでも硬直してるのは、緊張とかじゃなくて、嫌だからかなとか、でもそんなのも聞けないでいるし」
俺の顔をじっと見たまま、黙って桃子ちゃんは聞いてる。
「会わないでいると、そんな不安もたくさん出てくるし…。情けね。こんなで1年離れられるのかって、まじ、最近悩んでて」
俺は桃子ちゃんの方を向いた。そして続けた。
「俺、好きになりすぎてる?こんなで、桃子ちゃん、引いてる?うっとうしい?」
「え?」
「なんか、好きの量が違ってる?温度差がある?」
「……」
桃子ちゃんは黙ったままだ。なんだか、がっくりきてしまった。
「自分でも、何してるんだって思うよ…」
全部をぶちまけて、ようやく我に返った感じだ。俺、今まで何を言ってたんだろう。
ボタボタボタ…。桃子ちゃんの膝に涙がこぼれ落ちた。え?
「ひっく」
泣いてる?え?なんで?
「なんで泣いてるの?」
「く、苦しくて」
「え?」
「胸が、苦しくて」
「な、なんで?」
「だって、だって…」
俺が苦しませてる?それで泣いてるの?
「なんで、苦しいの?俺、困らせた?そうだよね、困らせたよね?」
「違う」
「何か、俺に言いたいことがあって、それを言えずにいて苦しいの?俺を傷つけるかと思って、言えないでいるの?」
「違う」
「もしかして、あいつ、幹男の方が、好きになったとか」
「ち、違う!」
「じゃ…?」
「わ、私」
桃子ちゃんは、まだ苦しそうに泣いている。何かを言おうとすると、ひっくひっくと涙が溢れてしまうみたいだ。
「ま、待って、今言うから」
どんなことを言われるのか。すげえ怖い。でも、桃子ちゃんは必死で泣くのをこらえようとしている。
そして、自分の思いをちゃんと伝えようとしてるのがわかる。
「私」
桃子ちゃんは、大きな深呼吸をした。でも、まだまだ、苦しそうだ。
「ゆっくりでいいよ。俺、待ってる。どんなこと言われても、ちゃんと聞く。覚悟決めたから」
桃子ちゃんのそんな必死な姿を見て、なんだか、気持ちが落ち着いた。何を言われても、受けとろう。
桃子ちゃんは、俺の袖口をひっぱった。
「ん?」
「私…」
桃子ちゃんは泣き止んだ。
「私、本当のことを言うからね?」
「うん」
覚悟は決めた。大丈夫。ありのままの君を受けとめるから。