第27話 ずっと隣で
俺と桃子ちゃんは車に乗り込んで、桃子ちゃんの家に向かった。俺は助手席ではなく、後部座席の桃子ちゃんの隣に座った。
ってところまでは覚えてる。どうやら乗ってすぐに寝ちゃったらしい。
「聖、聖」
父さんに起こされた。
「ほら、桃子ちゃんの家に着いたから、もう起きな」
「ん?あ、あれ?ここ、どこ?」
「桃子ちゃんの家だよ」
「…え?あ!俺、ずっと寝てた?」
「寝てたよ。熟睡してた」
「なんで?桃子ちゃん、起こしてくれたら良かったのに。もしかして俺、ずっとよっかかってた?重くなかった?」
「大丈夫」
桃子ちゃんは、そう言うと、にっこりと微笑んだ。
「なんだか、まだぼ~~っとする。あ~~。まじ、よく寝てた。俺」
「お前はまだ、ここでのんびりしてろ。桃子ちゃんは俺が玄関まで送っていくから」
「え?俺も行くよ!」
「駄目。そんな寝ぼけた顔で、桃子ちゃんのお母さんに会ったら、笑われるぞ」
「ええ?」
どんな顔だよ。俺は慌ててミラーで顔を見ると、確かにすんごい寝ボケ顔してた。
「わ。ほんとだ」
「だからここで、待ってろよ。なんならもう少し寝ててもいいぞ」
「……。寝ないよ。でも待ってるよ」
俺はそう父さんに言ってから、
「なんだ。桃子ちゃんと今日全然、話もしてない」
と、つぶやいた。
「いいじゃんか。ずっと桃子ちゃんによっかかって寝れただけでも。それだけ、桃子ちゃんに会えて、ほっとできたってことだろ?」
「え?」
「安心したから、寝たんじゃないのか?お前」
「うん、そうかも」
「じゃ、桃子ちゃん、玄関まで送っていくよ」
父さんはそう言って、車から先に降り、歩き出した。桃子ちゃんは、
「おやすみなさい」
と、俺にささやいた。
「おやすみ。桃子ちゃん。それと、ほんとよっかかっててごめんね」
俺も小声で桃子ちゃんにそう言った。
「本当に大丈夫だよ。それに聖君の寝顔も寝息も可愛かったから、得した気分だし」
「え?何それ」
なんか照れくさいぞ。
俺が照れてると、桃子ちゃんがそっと俺のほっぺたにキスをした。わ!こういうことも、前はしなかったのに。俺はめちゃ、嬉しくなった。
車から降りようとした桃子ちゃんを呼びとめ、
「口にもして」
と、言ってみた。してくれるかな。
桃子ちゃんは一気に真っ赤になったけど、父さんの方を見て、父さんがもう玄関の方に行ってるのを確認し、俺にそっとキスをしてくれた。
「サンキュー。桃子ちゃん。最高のバレンタインだったよ」
「お、おやすみなさい」
桃子ちゃんは真っ赤になりながら、そう言った。可愛いな。
桃子ちゃんは車から降りた。俺はその後姿を見ていた。門までは見えてたけど、そのあとは見えなくなった。
俺はシートにもたれかかった。
父さんが言ってたこと、本当だよな。俺、桃子ちゃんが横にいると、あんなに安心していられるんだ。
父さんが戻ってきた。車に乗り込むと、
「助手席に移るか?」
と聞いてきた。
「ううん、ここでいいや」
俺はそう言って、外をぼ~~っと眺めた。父さんは車を発進させた。
「最近、寝れてなかったみたいだもんな。聖」
「え?」
「よく寝れてよかったな」
「ああ、うん」
もしかしてそれで、今日車で送るって言ったのかな、父さん。
父さんは音楽をかけた。静かなジャズの音楽だった。俺は外をずっと見ていた。
「あのさ」
「え?」
俺が話しかけると、父さんはちらりとバックミラーで俺を見た。
「母さんといると、父さん安心したりする?」
「するよ」
「母さんの方がいつも、父さんに頼ってるようにも見えるし、励ましてるのもいつも、父さんの方だってそう見えてたけど」
「え?そうなの?」
「うん。母さん、強そうに見えて、弱かったりするじゃん」
「ああ、まあね。そうだな。俺が励ましてる時もあれば、その逆もあれば、いろいろだよ」
「そっか」
「桃子ちゃんもきっと、お前といて安心できたり、元気になったりするんじゃないの?」
「そうかな」
「多分、お前以外の誰かによっかかれたりされるのは、桃子ちゃん嫌なんじゃない?」
「え?」
「お前だから、安心しきった顔でいたと思うけど」
「桃子ちゃんが?」
「うん。すごく優しい顔でいたよ、ずっと」
「……」
そうなんだ。
「道間違えて、遠回りしちゃったんだよ」
「え?また?父さんそんなに、方向音痴じゃないよね」
「ああ、なんでかな~。桃子ちゃんの家に着くのが、遅くなっちゃうから桃子ちゃんに悪いことしたなって、謝ったんだけど、桃子ちゃんはその分、お前が寝てられるからって、優しい顔して言ったんだ」
「え?」
「自分のことより、お前のこと考えてるところが、すごいよね」
「うん」
なんだか、恥ずかしくなって俺はまた外を見た。反対車線の車のライトが綺麗だった。
「早く免許取りたいな」
ぼそってそう言うと、
「それで、桃子ちゃんとドライブに行きたいんだろ?」
と父さんに聞かれた。図星。俺はそれには何も答えずに、外を見続けていた。
家に着き、机に向かうのはやめて、風呂に入って寝ることにした。もう、今さらだよな。ここらへんで、開き直ってもいいよな。
なんでだかわからないけど、気持ちがすっきりとしていた。
そこへ、桃子ちゃんからメールが来た。
>大好きだよ。聖君。
勉強の邪魔をするからって、遠慮してた。でも、ちゃんとこの想いは届けないと。
いつでも、そばにいる。いつでも、力になる。だから、いつでも呼んでね。私を。
俺は驚いた。桃子ちゃんがそんなふうに思ってくれていたことに。
やべえ、すごい感動だ。嬉しくってしょうがない。
何度もそのメールを読み返した。
桃子ちゃん、本当に変わった。今、桃子ちゃんのあったかさや、優しさ、大きさ、強さ、そんなものをものすごく感じる。
俺、すごく桃子ちゃんに、大事に思われているんだ。桃子ちゃんの想いの大きさに感動していた。
>ありがとう。桃子ちゃん。
しばらくじ~~んって、感動を味わってて、なかなか返信ができなかったけど、どうにかそう送り返した。そしてしばらくしてから、またメールした。
>帰りの車で父さんに聞いたよ。父さん、道間違えて、遠回りしちゃったんだって?でも、桃子ちゃんが、その分聖がたくさん寝れるって、そんなこと言ってたよって。まじ、ありがとう。嬉しかった。それに、ほんとに桃子ちゃんの隣は、安心できるよ。
桃子ちゃんからの返信はなかった。俺はまた、
>でもさ、ほんとに桃子ちゃん疲れてない?俺、重かったでしょ?
ってメールした。すると、
>大丈夫。ずっと嬉しかったし、幸せだったよ。
っていう、メールが来た。
ああ!何それ!俺がよりかかって寝てるのが、嬉しくて幸せなの?俺、寝てたんだよ?よりかかってずっと、寝ちゃってたんだよ?
く~~~~~~!嬉しすぎる!
俺はベッドに寝転んだまま、イルカのぬいぐるみを抱きしめ、じたばたした。すげえ、幸せ。めっちゃ幸せ。俺って、本当に幸せ者じゃん。
しばらくじたばたして、それからメールを返した。
>桃子ちゃん、俺も超幸せ!(>▽<)
俺もね、桃子ちゃん。桃子ちゃんのことをずっと大事にしていくよ。桃子ちゃんの隣が、俺の居場所で、桃子ちゃんが一緒じゃないと、夢を叶える意味がないんだってことも、なんだか痛感しているんだ。
これから先もずっと、ずっと、ずっと、そばにいて、桃子ちゃんの隣で俺は幸せを感じて生きていくんだって、妄想じゃない。確実にそうなるんだって、そう思ってる。
その日の夜は、本当に安心して熟睡した。そして夢を見た。桃子ちゃんはエプロン姿で、ご飯を作ってて、その横で、俺は小さな子を抱っこして、あやしていた。
俺らの子だ。
朝、目が覚めて、それは妄想なんかでも、単なる夢なんかでもなく、未来に起きることなんだって、はっきりとそう予感できた。
その日から、不思議と気持ちが落ち着いて、勉強もできたし、試験にも落ち着いて臨むことができた。
そして、合格発表がある前も、冷静でいられた。
合格発表の結果は、まっさきに桃子ちゃんに教えよう。受かっても、受からなくても。
そして、桃子ちゃんにすぐに会って、思い切り抱きしめよう。何度も、何度も。
ああ、本当に桃子ちゃんの存在は、もう俺にはかけがえのないものになってる。ものすごくでかい、はかりしれないくらい、かけがえのない存在だよ。
今も、これからもずっと、桃子ちゃんは大事な存在なんだ。
俺は、落ち着いた気持ちのまま、合格発表を見に行った。結果は、合格だ!
俺はすぐに桃子ちゃんにメールした。
さあ、4月から俺は、大学生だ。新しい生活が始まる。
夢だったダイビングのライセンスも取るし、免許も取るし、いろんなことがわくわくだ。そして、これからも、隣には桃子ちゃんがいるんだ。ずっと、ずっと。
~かけがえのない君だから おわり~
番外編を最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
ようやく終わりました。これからは、永遠のラブストーリーの続きを書いていきますので、引き続き、そちらもよろしくお願いします。