第23話 桃子ちゃんパワー
れいんどろっぷすに着くまでの道のりは、うきうきわくわくで、スキップしそうになる衝動を必死で抑えていた。
俺ははっきり言って、何を話していたかも覚えていない。きっととりとめのないことをべらべらと話していたと思う。桃子ちゃんは、相槌を打ったり、笑ったりしていた。それだけでも、ものすごく嬉しかった。
れいんどろっぷすのドアを開けると、母さんが元気よく桃子ちゃんを出迎えた。
「桃子ちゃん、いらっしゃい。風邪もう、大丈夫?」
「はい。もうすっかり」
「そう良かった。聖、ずっと桃子ちゃんに会えなくて、しょげてたから」
「母さん!何言ってんだよ」
「あら、駄目だった?ばらしちゃ」
「…う。まあ、そうなんだけどさ」
なんだよ。母さんにもそういうの、ばればれだったのか。
俺は桃子ちゃんの手を取って、2階に上がった。
「ヒーターつけるね」
俺は先に入り、ヒーターをつけた。
桃子ちゃんは、部屋に入り、上着を脱いだ。それから、注意深く歩きながらベッドに座った。
あ、そっか。床にいろんなもの散らばってた。
「ごめん、散らかってて」
慌てて、床にある参考書やら問題集を、どかした。
「聖君、勉強で疲れてるんじゃないかと思ってたけど、すごく元気そうだね」
桃子ちゃんがそう言ってきた。
「だから、桃子ちゃんに会えてるから元気なんだって」
そう言って、俺は桃子ちゃんの横に座り、
「今日、会えることだけを励みに、頑張ってたよ、俺」
と正直に言った。そして、桃子ちゃんにキスをして、ぎゅうって抱きしめた。
「ああ、桃子ちゃんだ~~~」
う、嬉しすぎる!桃子ちゃんの匂い、ぬくもり、全部が嬉しい。
「すげ、会いたかった」
そう言って、もう一回抱きしめると、桃子ちゃんも俺を抱きしめてくれた。ぎゅ!その腕の力がめっちゃ嬉しい。
「桃子ちゃん、今日…いい?」
思わず、俺は甘えてそんなことを聞いた。
「え?でででも、下にお母さんいるよ」
「店にいるから、聞こえないし大丈夫」
「お、お父さんは?」
「今日出かけてる」
「杏樹ちゃんは?」
「部活」
「クロは?」
クロ?クロのことまで、気にするの?
「店すいてるし、店にいるよ」
「……」
「駄目なの?駄目ならいいんだ。こうしてるだけでも」
「……」
桃子ちゃんは黙っている。
ぎゅう。桃子ちゃんの俺を抱きしめる腕に、力が入った。
「聖君」
「え?」
「いいよ」
「え?」
「大丈夫…」
「ほんと?」
「うん」
俺は、めちゃくちゃ嬉しくなって、すぐに押し倒してしまった。
どれだけ、我慢してたかな。桃子ちゃんを抱きしめること。桃子ちゃんのぬくもりも、キスも。
キスをすると桃子ちゃんは、俺を色っぽい目で見つめてきた。ああ、この目。ずっと夢の中で、見ていたよ。
桃子ちゃんの服を脱がして、キスをして、抱きしめて、その頃ようやく気づいた。やけに、今日は桃子ちゃんがはっきりと見えることに。あ、電気つけっぱなし。
だけど、桃子ちゃんも気にする様子もないし、そのままにしておいた。
体の線、前よりも女らしくなった。桃子ちゃんはどんどん、どんどん大人に成長してるんだな。
胸は真っ白だ。だけど、ほんのり赤くなってるのがわかる。
今までは、すげえ可愛いだった。でも今日は、すげえ綺麗だ。
こんなに綺麗だったかな。こんなに桃子ちゃんは女らしかったっけ?やべえ。毎回、毎回、桃子ちゃんは違う顔を見せてくる。そのたびに俺、惚れちゃってるんじゃないの?
桃子ちゃんはぼ~って宙を見ている。目線を追ってみると、俺の部屋に貼ってあるイルカや海の写真を見ているようだ。そういえば、最近、写真が増えたんだっけ。癒されたくて海の写真を、貼ったりしたんだ。
俺は桃子ちゃんにキスをして、桃子ちゃんの胸に顔をうずめた。すげえあったかいし、いい匂いがする。ああ、桃子ちゃんだ。
「もう少し、こうしてていい?」
俺が聞くと、
「うん」
って、桃子ちゃんは静かにうなづいた。
「なんか落ち着く」
「え?」
「心臓の音や、桃子ちゃんのぬくもり、落ち着く」
「そう?」
桃子ちゃんが俺の髪をなでてきた。されるがままにしていたけど、だんだんとくすぐったくなってきた。
「桃子ちゃん、くすぐったいよ」
俺は体を起こして、腕枕をした。
「髪、伸びたね」
「俺?」
「うん」
「そういえば、しばらく切ってないもんな~~」
「サラサラだよね」
「俺?」
「うん、羨ましいな」
「桃子ちゃんの癖毛だって、可愛いよ。俺、好きだよ」
「ありがと…」
桃子ちゃんの髪を、指に絡めてみると、くるくると巻きついてくる感じがした。面白いな、これ。
「……、海の写真増えたね」
「さっき、見てた?」
「うん」
やっぱりそうか。
「海にいる気分になると、落ち着くから。本当は、この部屋、真っ青に塗りたいくらい」
「え?」
「今、カーテンモスグリーンだけど、濃いブルーでもいいな」
「海の中にいるみたいで?」
「うん。モスグリーンは、母さんの趣味なんだ。中学の時、このカーテンにして、そのまま変えてないから」
「それまでは?」
「空のブルーに白の雲の模様のカーテンだったよ」
「へえ。それもいいね」
そう言うと、桃子ちゃんは俺の顔をじっと見つめてきた。その目がまた、色っぽくてドキドキする。
「あ!!」
「え?!」
突然、桃子ちゃんが声をあげた。
「何?」
「で…」
「で?」
「電気…」
「ああ。つけっぱなしだったね。忘れてた、消すの」
そう言うと、桃子ちゃんは顔を真っ赤にさせた。
「今、そんなに真っ赤になっても、遅いって、桃子ちゃん。それに、もういいじゃん?」
「い、いいって?」
「そんなに恥ずかしがらなくても」
「は、恥ずかしいよ~~。まだまだ、恥ずかしいもん」
桃子ちゃんはそう言うと、そそくさと布団にもぐりこんだ。
「あ、俺も入れてよ」
俺も布団にもぐりこんだ。
「桃子ちゃん、でもさ」
「え?」
「いや、いい。やっぱり」
こんなこと言ってもな…。
「何?」
「いいって」
「気になる」
う~~ん、言っちゃおうかな。じゃあ…。
「あのさ。恥ずかしがってるけど、でもいつも、その」
「え?」
「無抵抗になっちゃうでしょ?」
「え?う、うん」
「そんときは、けっこう大丈夫みたいだよ」
「何が?」
何がって…。
「裸、見られてても」
「え?!!!」
「なんか、いっつも色っぽい目で、俺のこと見てるだけだし」
「え?え?え?」
「だから、全然見られても平気なんだなって思って、今日、電気消さなかったけど」
「平気じゃない!」
「そうかな~」
「全然平気じゃない!」
「でも、さっきまで電気がついてることにも、気づかなかったんでしょ?」
「う…」
桃子ちゃんは言葉に詰まっていた。
「桃子ちゃんって、色白いからかな」
「え?」
「ほくろ、けっこうあるよね」
そう言うと、さらに桃子ちゃんは真っ赤になった。そしてぐるっと後ろを向いてしまった。
っていうリアクションをとるだろうなって思って、わざとこんなことを言う俺ってどうよ。なんて思いながらも、俺は後ろから桃子ちゃんに抱きついた。
「もう少し、こうやっていようね」
そう言って、桃子ちゃんの肩にキスをしたり、髪にキスをした。
「ああ~~。桃子ちゃんだ」
めっちゃ嬉しい!
「わ~~。やっと、抱きしめられた」
「え?」
「ずっと、夢でしか抱けなかったから」
「夢?そんな夢見てた?」
「見てた。毎日、見てた」
俺はまた、桃子ちゃんを抱きしめた。
「あとちょっとで、受験も終わるけど、どうにか、頑張れそうだ」
「え?」
「桃子ちゃんから、パワーもらえたから」
「ほんと?」
「うん!」
やっぱり、桃子ちゃんパワーは偉大だよ。まじで俺はそう感じていた。