第21話 嬉しすぎだろ!
俺と桃子ちゃんは夕飯を食べ、リビングに移り紅白を観た。
夕飯の準備を一緒にしたり、一緒に食べたり、片付けたり、そしてリビングでまったりとテレビを観たり、俺はどれもこれもが嬉しくって、めっちゃ幸せを感じていた。
もし、桃子ちゃんと一緒に住んだら、こんな毎日なんだ。すげえ!
あ、そうだ。お風呂!
「お風呂入るよね。今、準備してくるね」
俺はそそくさと風呂場に行って、風呂の用意をした。今日、一緒に入れないかな…なんて妄想しながら。
リビングに戻り、
「一緒に入る?」
と桃子ちゃんに聞くと、桃子ちゃんは真っ赤になってぐるぐると首を横に振った。
なんだ。やっぱり、無理だったか。ちょっとだけ、桃子ちゃんが真っ赤になってこくんとうなづくところまで、妄想してたのにな。
桃子ちゃんが先にお風呂に入った。俺はソファに座り、紅白を観ていた。
去年は、家族と観ていたっけな。
は~~~。やべ。俺、幸せだ。さっきからテレビの画面を観てるのに、まったく目に入らない。それにきっと、ずっとにやけてるよ。
桃子ちゃんがお風呂から出てきた。ほっぺがピンクに染まり、濡れた髪が色っぽい。
俺の隣に座ると、ほんのりとシャンプーの匂いがした。ドキドキした。
俺も風呂に入りにいった。風呂場のドアを開けると、さっきまで桃子ちゃんから香っていたシャンプーの香りがした。
それだけでも、ドキドキしてる。
風呂から上がって、リビングに行くと、すっかり髪を乾かし終えた桃子ちゃんがいた。俺も髪を乾かして、明日も早いしもう寝ようって、寝ることにした。
ベッドはシングル。狭いけど、桃子ちゃんとくっついて寝ることにした。
桃子ちゃんは、俺の胸に顔をうずめてきた。く~~~~。可愛い。そしてしばらくすると、鼻をすする音がした。
え?あれ?
「桃子ちゃん?泣いてる?」
「嬉し泣きだから」
「うん…」
可愛い。嬉し泣きしちゃってたんだ。桃子ちゃんにキスをした。ああ、朝まで、桃子ちゃんが隣にいるんだ。
「こうやって、桃子ちゃんと寝れるなんて、夢みたいだよね」
俺がそう言うと、桃子ちゃんは、もっと俺に顔をうずめてきた。
あったかくって、可愛くって、いい匂いがする。俺は思い切り幸せを感じながら、いつの間にか眠っていた。
5時、目覚ましが鳴った。目を開けると、桃子ちゃんの可愛い寝顔が目に入ってきた。
わ!あ、そっか。昨日隣で寝たんだ。
桃子ちゃんは、すーすー寝息を立てて、静かに寝てる。目覚ましを止めた。桃子ちゃんは目覚ましの音で、目が覚めなかったみたいだ。
桃子ちゃんのことをしばらく見ていた。不思議だな。すごく心が癒される。ものすごく優しい気持ちになれる。
俺、女の子と一緒にいてこんなに癒されたことってないな。
中学の時、初めて付き合った子は、一緒にいても何を話していいかもわからず、特に何も話さずに、学校から帰ってきたことがあったっけ。家に着くと、ものすごく疲れてたことを覚えてる。
一緒にいてもつまらない。聖君、何を考えてるかわからないって言われたっけな。
そのあと、中3で、付き合うまでいかなかったけど、気になる子ができた。委員会が一緒で、とにかく元気のいい子だった。話しやすかったし、一緒にいても楽しかったけど、二人で偶然一緒に帰ることになったとき、やっぱり、話に困っちゃったっけ。
他の誰かがいて、みんなでわいわいする分にはいいんだけど、二人きりになると何を話していいか、わからなくなるんだ。
それから、その子のことも、変に意識してしまって、あまり話せずに、卒業しちゃった。で、変な話だよな。高校入ってしばらくして、あの子、お前のこと好きだったみたいだよって、友達に言われた。俺のほうが、告白も何もしなかったから、向こうも、勝手に諦めちゃったらしい。
そのあとに好きになった子は、高校1年の時。同じクラスの子で、すごく元気で明るい子だった。だけど、その子はあまり男子と話すことがなくって、俺も女子と話をしなかったから、結局1年間話を特にすることもなく、終わってしまった。
いや、チャンスはあった。隣の席になったこともあった。だけど、いったい何を話していいかもわからず、ぎくしゃくしただけで、席替えになり、話す機会もなくなってしまった。
さんざん、葉一に馬鹿じゃないかって言われた。そういう葉一だって、好きな子がいても、意思表示ができないくせにさ。似たもの通しだよな。
そして、高校2年、夏、菜摘を好きになった。またもや、元気はつらつな子。今度こそ、告白もするし、彼女にするぞってかなりの意気込みだった。それを基樹にも葉一にも、宣言したほどだ。
でもやっぱり、同じ。話をしようと思っても、話ができず、基樹と蘭ちゃんとバカやって終わる、みたいな…。
そうなんだよな。俺って、女の子が苦手なのかなって自分でも思ってた。男子とバカしてる方が楽しいし楽だし。好きな子ができても、何も話せなくなってたし、もし付き合ってもまた、つまらないって言われて、終わるんじゃないかって、そんなことも思ってたし。
なのにな…。桃子ちゃんは違ってたんだ。
ちょっと話すだけで、真っ赤になってた。すげえ、可愛いって思った。話しかけると、必死で話をしてるのがわかった。
そんなリアクションが可愛くって、それをまた見たくて、話しかけたっけな。
もっと桃子ちゃんのことが知りたいって思った。
知れば知るほど、好きになった。可愛くって、どんな表情も見逃したくないって思った。
話しづらいって思ったことは、一回もないし、何を話していいかわからないってことも、一回もない。不思議だよな。
それに、一緒にいて、安心ができる。桃子ちゃんの隣は、あったかくって、嬉しくって、すごい幸せをいつも感じるんだ。
これって、俺の居場所なんだって最近、マジで思う。桃子ちゃんの隣が、俺の居場所なんだ。
こんな気持ちにさせてくれたのは、桃子ちゃんが初めてだ。
すう…。桃子ちゃんはすごく気持ちよさそうに寝ている。可愛いな。その寝顔をずっと見ていたいって思ったけど、俺はベッドから出て着替えて、顔を洗い、初日の出に行く準備をしてから、また部屋に戻った。
桃子ちゃんはまだ、すやすや寝ていた。
「桃子ちゃん、起きて」
桃子ちゃんはまったく起きる様子がない。
「桃子ちゃん、起きて、朝だよ」
ようやく、桃子ちゃんが反応した。
「お母さん、あと5分」
え?お母さん?
「ブッ」
俺は思わず、ふきだした。可愛い!寝ぼけてるよ!
「桃子ちゃん、お母さんじゃないよ。俺だよ、聖だよ」
「…聖君?」
そう、俺。って、あれ?なんで手を伸ばして、何かを探してるの?
「桃子ちゃん、何探してんの?」
「…え?」
ようやく桃子ちゃんは目を開けた。
「あ、あれ?ここ?」
「俺の部屋」
「……」
桃子ちゃんは、まだ眠そうな顔をしている。
「もう5時過ぎたけど。どうする?眠たいなら、初日の出はあきらめて、もう少し寝ちゃう?」
「初日の出?あ!そうだ!」
桃子ちゃんは、ようやく目をぱちりと開いた。それまでは、今にも寝ちゃいそうだったもんな。
「ごめん、聖君。起こしてくれてた?」
「うん。いいよ。ほんと眠いなら、まだ寝てても」
「大丈夫、起きる」
桃子ちゃんはベッドから出た。
「ごめんね。急いで用意する」
そう言うと、パジャマを脱ぎかけてから、
「聖君、着替えるから部屋から出ててもらっていい?」
と聞いてきた。
「ああ、うん。じゃ、リビングで待ってる」
でもな、桃子ちゃんの着替え、今までも見てるんだけどな。
「でも、別に桃子ちゃんが着替えるところなんて、もう前にも見てるし」
そう俺が言うと、桃子ちゃんは、
「でも、恥ずかしいの!」
と、真っ赤になりながら言った。あはは、可愛いな~~。
桃子ちゃんが行く準備を整え、一階に下りてきた。菜摘と葉一が海岸で落ち合おうとメールをしてきたから、みんなで会うことにした。
浜辺に行くと、初日の出を見ようと出てきた人たちが、けっこういた。
その中から、葉一と菜摘を探し出し、4人で初日の出があがるところを見た。
感動だった。桃子ちゃんも、感動していたようだ。
1年前も、桃子ちゃんと元旦は過ごしていたっけな。1年、たったんだな~~。
そして、また今年も1年、俺は桃子ちゃんのそばにいるんだ。沖縄に行くのもやめたしな。
桃子ちゃんを見た。去年一緒に初詣にいったときよりも、大人びて見える。背も伸びたし、ますます綺麗になったし。
高校3年の桃子ちゃんも、高校卒業して、どんどん大人になっていく桃子ちゃんも、俺はずっとずっと見ていくんだな。ずっと隣でさ…。
新しい年の初めに、俺はそんなことを思っていた。
そして、すぐそばにいる桃子ちゃんを見ながら、俺ってすげえ幸せものだって、めっちゃ感激していた。