第20話 俺の本音
俺は桃子ちゃんの本音を聞いて、決心がついた。自分でもびっくりするくらい、きっぱりと決めることができた。
「沖縄、やめた」
そう言うと、桃子ちゃんはものすごく驚いていた。
「迷ってたし、どうしようかって悩んでいたけど」
「でででも、もうちょっと考えて…」
「考えた結果だよ」
「……でも、突然すぎる」
「突然じゃないんだけど。ずっと悩んでたし」
「……」
桃子ちゃんは目を点にしたまま、固まっていた。
「俺、夢も大事だと思うけど、1番は家族なんだよね」
「……」
「俺の夢を叶えることで、家族が大変な思いをするのは、嫌なんだ。それに、本当に俺、考えたんだ。沖縄の大学に行かないと、お前は夢を叶えられないのかって、自分に聞いてさ」
「うん」
桃子ちゃんは真剣に話を聞いてくれた。
「そんなことないんだ。ただ、沖縄にあこがれて、いつも潜りたい時に潜れて、なんかいいな~~、そういうの…。くらいの軽い気持ち」
「……」
「でも、なんか執着になってた」
「執着?」
「沖縄行かないと、俺の夢は叶わない、みたいなそんな頑固な夢になってた」
「……」
「それで、母さんや父さんが大変な思いをしたり、桃子ちゃんに我慢させるの、なんか違うよなって」
「でも…」
桃子ちゃんの顔、困ってる。
「行って欲しくないんでしょ?」
「うん」
「じゃ、素直に喜んでね」
「……」
まだ、桃子ちゃんは困った顔をしていた。
「……。えっと、まだ本音言ってないか、俺」
「え?」
「俺も、桃子ちゃんに会えなくなって、大丈夫かなって思ってた」
「え?」
「一分一秒でも長く、会っていたいのに、今なんて、夢にも出てくるし、それなのに1年も離れて、俺、耐えられるのかなって思っていたよ」
「ほんと?」
なんか、こういうこと言うの照れるな。
「だけど、沖縄行きは俺から言い出したことだし、なんか桃子ちゃん、俺の夢を応援してるみたいな感じだったし、言えなかったんだよね」
「……」
「ただ、桃子ちゃんが高校卒業して沖縄に来たら、ぜ~~ったいに一緒に住んでやるって、意気込んでたけど」
「い、一緒に住む?!」
あれ?なんでそんなにびっくりしてるの?
「あれ?桃子ちゃんはそんな気、まったくなかったの?」
桃子ちゃんは真っ赤になって、こくんとうなづいた。
「あれ?そのつもりかなって思ってたよ」
「……」
なんだ。そういうこと考えてたの、俺だけなんだ。
あ…。桃子ちゃん、赤くなりながら意識がどっか飛んでってる。今、もしかして同棲してるところでも、妄想してる?
「桃子ちゃん、戻ってきて、話の途中だよ」
「え?」
「また、どっかいってたでしょ?一人の妄想の世界?俺と同棲してるところでも、妄想してた?」
「う、うん」
やっぱりね。
「で、俺の本音だっけね」
さて、なんて言おうかな。やっぱり、思いをそのままだよな…。
「桃子ちゃんと、俺も離れたくないな」
こういうの、改まって言うのって、ほんと照れる。桃子ちゃん、よく本音、話してくれたよな。
「あ、そうえいばさっきの、甘えてるとか、わがままだとか、足を引っ張ってるとか、困らせてるとか、あれ、ぜ~~んぶ、桃子ちゃんの思い込みだから」
俺は、半分照れ隠しでそう言った。
「え?」
「俺、そんなこと一回も思ったことないよ。あ。一回くらいあるかな」
あ、照れちゃってて、そんなこと言っちゃったよ。ま、いっか。
「え?一回はあるの?何?いつ?」
「桃子ちゃんが、胸さわったら、嫌だって抵抗した時には、ちょっと困っちゃった、俺」
桃子ちゃんが、真っ赤になってうつむいた。
「あとはない!」
あ、待てよ。あの時もか。
「あ、もう一回あるかな」
「いつ?」
桃子ちゃんが、ちょっとこわごわ聞いてきた。
「子供っぽい下着だからって、脱がされるのを抵抗した時。あれも困った」
そう言うと、桃子ちゃんはますます赤くなった。
えええい。こうなったら言っちまおう。今思ってることも。
「ごめん、桃子ちゃん。俺、嘘をついていました。実は今もすごく困っています」
「ええ?なんで?」
桃子ちゃんは焦った顔で俺を見た。
「セーターとジーンズ。今日はいいのか、駄目なのか、その辺がわかんなくって、困ってます」
「う…」
桃子ちゃんが固まった。でも、俺も引き下がらないよ。
「できれば、本音でお願いします。どっち?」
「どっちって?」
「今日はOK?それともNO?」
聞いてもいいよね?っていうかさ、教えてくれないとわからないもん、俺。
「どうして、ジーンズとセーターだと、駄目なんだって思ったの?」
お、逆に聞いてきたぞ。
「…なんかの雑誌に載ってた」
「え?なんて?」
「ジーンズ履いてきたら、NOの合図」
「へ?」
「スカートならOKとかなんとか」
あ、黙っちゃった、桃子ちゃん。
「そうなの?それとも違うの?」
「わかんないけど、私は違う…」
「え?違うって?」
「その…、えっと…」
あ、困っちゃった、桃子ちゃん。
「スカートだとね、夏ならいいけど、この季節、素肌は寒いかなって。友達と出かける時は、タイツや、スカートの下にスパッツを履くの」
あ、一気に話し出した。
「え?うん。そうなの?」
「そうすると、あったかいし。だけど、タイツもスパッツも、ぬ…」
ぬ?
あ、あれ、うつむいちゃった。
「ぬ?」
俺が聞くと、顔を上げて真っ赤になって俺を一回見てから、またうつむいて桃子ちゃんは、話し出した。
「脱がせにくい…かな~~って思って」
「え?!」
脱がせにくい…ってことは、
「俺がってこと?」
「うん」
うわ!そ、そんなこと考えてくれちゃったの?
「そういうこと桃子ちゃん、考えたの?」
「う…うん。だから、ブラウスもやめたの」
え?ブラウスも?
「ボタン、外すの大変だろうから」
「だから、セーター?」
「うん」
桃子ちゃんは真っ赤になって、思い切り下を向いた。
「……じゃ、駄目ってことじゃなくって、その逆で…」
「うん」
うわわ。そうだったんだ。
「そうなんだ」
あ、俺も真っ赤だ。顔熱い!
「じゃ、えっと…。今日は、その…」
その気で、来てくれてるってことは、
「子供っぽい下着じゃないんだよね?」
「なななな、なんで?」
「だって、それって、俺が服を脱がしちゃってもいいってことでしょ?」
あ、桃子ちゃん、首まで真っ赤になっちゃった。でも、小さくうなづいた。わ~~。そうなんだ。
「桃子ちゃん、ちゃんとそういう気で来てくれてたんだ」
俺は桃子ちゃんの横に座りながら、そう言った。
「そっか。なんだ。俺が勝手に駄目なのかなとか、そんなことを考えちゃっただけか」
「う、うん。ごめんね」
「え?なんで?」
なんで謝ったの?
「ややこしい格好できちゃって」
「いや、俺が勝手にいろいろと考え込んだだけだから」
桃子ちゃんってば、そんなことで謝ってくれるなんて…。
「えっと…」
やっぱ、あれかな。桃子ちゃん、明るいと嫌かな。
「う、うん…」
桃子ちゃんは緊張した感じで聞き返した。
「電気は消した方が…」
と俺が言いかけると、桃子ちゃんは思い切りうなづいた。
俺は立ち上がり電気を消した。でも、外が明るいから、あまり部屋が暗くならなかった。
「やっぱり、あまり電気を消しても変わらなかった。今日、天気いいから」
桃子ちゃんは黙っている。
「どうする?」
「え?」
「カーテン閉めれば、ちょっと暗くなるかも」
桃子ちゃんは、うんうんとうなづいた。
カーテンを閉めた。部屋が暗くなった。それから俺は、桃子ちゃんの隣に座るとすぐに、桃子ちゃんにキスをした。
桃子ちゃんはいきなり体がぐにゃってして、俺はそのまま桃子ちゃんを押し倒してしまった。桃子ちゃんを見たら、色っぽい目で俺を見ている。
あ。駄目だ。もう、止められないぞ、俺。
桃子ちゃんにキスをして、髪をなでて、それから、
「桃子ちゃん、大好きだよ」
と耳元でそっと言うと、桃子ちゃんがくすぐったそうな顔をする。く~~。その顔も可愛い。
どんだけ、俺桃子ちゃんが好きなんだろうとか、どうしてこうも、可愛いんだろうとか、そんなことが頭によぎりながら、桃子ちゃんの服を脱がせていった。
それにしても、これだけ抵抗がないと、なんかかえって、どぎまぎする。それに、桃子ちゃんが言うように、確かに、今日の服脱がせやすい。と、思う。なにしろ、この前は桃子ちゃんが自分で脱いだから、比較できないけどさ。
やべ~~~~~。心臓が高鳴ってる。嬉しすぎて、可愛すぎて、桃子ちゃんにキスしまくってるよ。なんでこうも、なんでこうも、なんでこうも、可愛いんだよ~~~~~~!!!
俺の本音。桃子ちゃんに完全に、まいってます。
惚れまくってます。アウトです。ずっとこうして、抱き合っていたいです。
ってのは、さすがに言えなかった。そんなのめっちゃ恥ずかしくって、言えないだろ。やっぱり…。