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第18話 18歳の誕生日

 クリスマスイブ、桃子ちゃんと山下公園に行った。大きなツリーがあって、それを二人で眺め、そのまま腕を組んで歩いた。

 そのうちに港が見える丘公園の方まで行き、ベンチに座った。


 寒かったけど、桃子ちゃんが横にいるからか、俺はまったく寒さを感じなかった。

 桃子ちゃんはそこで、俺にクリスマスプレゼントと、誕生日プレゼントをくれた。また手編みだ!セーターと帽子。すげえ、こんなの編めちゃうなんて。

 俺はすぐに帽子をかぶってみた。あったかかった。


「……。すげ、嬉しいな。大変じゃなかった?これ」

「秋から編んでいたから、そうでもないよ」

「え?そんな前から?知らなかった」

「……へへ」

 桃子ちゃんがちょっと照れて笑った。うわ!

「可愛い~~。桃子ちゃん!!」

 俺は思い切り、桃子ちゃんを抱きしめた。


 桃子ちゃんも俺の背中に腕を回してきた。ああ、感激。前だったら硬直したままだったり、手で押されたりしてたのに。

 俺は桃子ちゃんにキスをした。

 桃子ちゃんは目をあけると、色っぽい目で俺を見た。前は、赤くなって目を伏せていたのにな。

 その目に俺は、ドキッてする。俺は、桃子ちゃんを抱き寄せた。


「桃子ちゃん、最近、俺のこと手で押したり、突き放したりしないね」

 俺は思わず、聞いてみた。

「うん」

「どうして?」

「どうしてってなんで聞くの?そんなの当たり前だよ」


「え?」

「だって、もう心臓苦しくならないし」

「そうなの?」

「うん。それに、こうやって聖君にくっついてるの、すごく嬉しい」

「そ、そうなんだ」

 うわ。めっちゃ嬉しい。


「聖君」

「ん?」

「大好き」

「うん。俺も」

 嬉しくて、桃子ちゃんをまた抱きしめて、

「愛してるからね」

って桃子ちゃんの耳元で言った。


 あ~~。やべ~~。俺、すげえ幸せだ。こんな幸せでいいの?っていうくらい幸せだ。

 腕の中にいる桃子ちゃんは、あったかくって、可愛くって、柔らかくって、小さくって。すんごい愛しい。ぎゅう…。俺は、ずっとこのままでいいかもって思いながら、桃子ちゃんを抱きしめていた。


 すると、どこからか、やたらと色っぽい女の人の声や、息遣いが聞こえてきた。

 げ!もしかして、この声って…。

「桃子ちゃん」

「え?」

「なんか、ここ、やばいかもね」

「え?」


「カップル、けっこういるかも」

「うん」

「それも、茂みの中とか。寒いのに…」

「う、うん」

 俺は、桃子ちゃんを抱きしめていた腕を桃子ちゃんから離して、

「そろそろ、行く?」

と聞いて立ち上がった。

 

 桃子ちゃんも慌てて立ち上がり、俺らはさっさと足早にその場を離れた。

 こんな寒い冬でも、外でいちゃついたりするんだな。

 あ、待てよ。俺らもそんなカップルのうちの一組か。あのままだったら、俺もやばかったかもしれないし。


 俺らは、そのまま洋館のレストランに入り、夕飯を食べることにした。

 そこで、俺は桃子ちゃんにクリスマスプレゼントを渡した。桃子ちゃんは赤くなりながら、嬉しそうに箱を開けた。


「指輪…」

 桃子ちゃんの目が、大きくなった。びっくりしたみたいだ。

「サイズ合うかな?」

 そう聞いてみると、桃子ちゃんは指輪を取り出し、はめようとした。

 え?なんで右手?


「左でしょ?左の薬指」

 桃子ちゃんは俺がそう言うと、左手の薬指に指輪をはめた。あ、ぴったりだ。

「これ、アクアマリン?」

 桃子ちゃんが聞いてきた。さすが、石の名前知ってるんだ。

「うん、誕生石でしょ?」

 なんつって、知ったかぶり。俺もあの店で初めて知ったのにさ。


「うん…。いいの?高くなかった?」

 桃子ちゃんが少し、恐縮した感じで聞いてきた。

「そんなでもないよ。そんなに高いのは買えないし。次に買う時は、給料3か月分とかいう、そんな指輪かな」

 なんつって。あ、桃子ちゃんが真っ赤になった。わ、俺も赤いかも。顔が熱い。


「本当に、左の薬指にしてても、いいの?」

 はあ?

「何?それ~~。また、そういうこと桃子ちゃん言うんだから。ちゃんと、はめててね。そうしたら、周りの男が、もう彼氏がいるんだってわかって、近寄ってこなくなるでしょ?」

「ありがとう。すごく嬉しい」


 そう言った桃子ちゃんの鼻が、みるみるうちに赤くなり、目がうるんできていた。

「ブッ!鼻真っ赤だ。今、泣くのこらえてる?」

「うん」

「あはは。可愛いよね、ほんと」

 本当に可愛いよ。付き合ったあの頃から、全然変わってないよね。


 レストランから出て、元町を歩いた。それから、桃子ちゃんの家まで送っていった。

 その間に俺は、今、沖縄に行くのをどうしようか悩んでるんだってことを、桃子ちゃんに話していた。


 桃子ちゃんは聞くだけで、何も言わなかった。

 俺も、桃子ちゃんに、沖縄に行ってほしくない?本当はどう思ってる?って聞かなかった。

 聞いたところで、桃子ちゃんは言うんだろうか。行ってほしくないとか、寂しいとか。俺に遠慮して、困ってしまうんじゃないだろうか。そんな気がして聞けなかった。


 翌日はクリスマス会。れいんどろっぷすは貸切にして、店でクリスマス会を開く。これは俺が1歳の頃からずっと恒例だ。

 その会は俺の誕生日会でもある。


 昔はまだ、れいんどろっぷすに、ばあちゃんもじいちゃんも、父さんの妹の春香さんもいた。

 俺にとっての、ひいばあちゃん、ひいじいちゃんも会に来ていたし、母さんの方のばあちゃんや、じいちゃんも来ていたし、そりゃもう、すごい人数でにぎやかなクリスマス会だった。


 もちろん、1歳の頃のなんて、俺は覚えていない。覚えてるのは、確か、4歳頃からかな。

 一番、はしゃぐのはじいちゃん。春香さんがケーキを焼いてくれてた。ばあちゃんは静かに嬉しそうに見ていて、父さんは俺を嬉しそうに抱っこしてくれて、その横で、涙ためて俺らを見ていた母さん。


 みんなが俺に、誕生日のプレゼントをくれた。それとは別に、サンタさんからも毎年プレゼントをもらってた。あれ、父さんだったんだよな。


 じいちゃんとばあちゃん、春香さんが伊豆に行ってからは、なかなかみんなでクリスマス会をすることもなくなった。だけど、その代わりといっちゃなんだけど、俺や杏樹の友達を呼んで、クリスマス会をするようになった。

 葉一は中学の頃から来てる。ほんと、長い間友達してるよな。


 俺も葉一も彼女なんかいなくって、いつも母さんに、あんたらは色気がないのねって言われてた。

 でも、去年から違う。俺にはしっかりと彼女がいて、俺の誕生日を祝ってくれる。


 ああ、これもずっとずっと、続くんだろうな。そのうちに、俺らの子どももできて、そうしたら、父さんと母さんはじいちゃんとばあちゃんになるんだ。

 

 やべ!また妄想だ!今は、勉強中だろ!俺。塾に来てるときには、勉強に集中しろよ。なんつって、たまに勉強してても、桃子ちゃんの顔がちらちらと浮かんじゃって、手につかないことも最近多いんだけどさ。


 塾が終わり、俺は大ダッシュで、家に帰った。

 店に入ると、キッチンにはもう桃子ちゃんがいた。わ!ピンクのエプロンしてる。すげ、可愛い。あれだ、あれ。若奥さんって感じだ。


「俺も手伝うよ」

 そう言うと、母さんがあれこれ指示を出してきた。それを俺は、桃子ちゃんの横でこなしていった。

 桃子ちゃんは、ケーキを作っている。あれ、俺の誕生日ケーキでもあるんだよな。


「桃子ちゃん、それ、泡立てるやつ、俺やるよ」

 母さんから頼まれたものはすべて終わり、俺は桃子ちゃんの手伝いをすることにした。

「うん」

 桃子ちゃんから、ボールを受け取り、泡だて器で泡立て始めた。しばらく桃子ちゃんが、ぼけっと俺の手を見ていた。


「すごいね、聖君」

「え?」

「手際がいいね。なんでもできちゃうし」

「ああ、こういうのもずっと、手伝わされてきたから」

「へ~~~」


 へ~~~と言う桃子ちゃんの目、なんていうか、尊敬のまなざしで見てるよ。いや、こんなことたいしたことないと思うんだけど。

 真剣にホイップクリームをケーキに塗ったり、フルーツを並べている桃子ちゃんの方こそ、すごいと俺は思った。もう、パテシエの顔してるよ。


 それから、葉一、菜摘、ひまわりちゃん、杏樹の友達、そして基樹がやってきた。

 みんなで乾杯をして、食べだすと、しばらくして、桐太もやってきた。

 実はあの、告白の日以来、ちょくちょくれいんどろっぷすに来るし、俺にメールや電話をしてきていた。


 で、クリスマスイブに俺の誕生日のお祝いをしたいって言って来たから、その日は桃子ちゃんと二人でデートだから、クリスマスの日に店に来いよって、誘ったんだ。

 葉一も菜摘も驚いていたけど、そういえば、桐太が、俺の友達になったって話は二人にはしていなかったっけな。


 俺のことを恋愛感情つきで好きだってのは、まあ、ちょっと横に置いといて。桐太は、友人として、俺は受け入れることにした。

 話してみると、けっこういいやつ。まあ、あの俺の彼女にちょっかいを出すって事件のある前までは、仲良かったしね。あのことだって、結局は俺のことを思ってやったことだったわけだし。


 クリスマス会は、楽しく過ぎていった。

 駅まで俺はみんなを送っていった。葉一はどうやら、菜摘の家まで、送っていくみたいだったけど、俺は、店の片付けもあるし、桃子ちゃんとひまわりちゃんは、桐太に送ってもらおうと思っていた。


 そろそろ新百合だなって時間に、メールをして、桐太に二人を家まで送っていってと、そう頼んだ。桐太は、しょうがねえなって返事をしてきた。

 そうくると思っていた。あいつ、桃子ちゃんに手を出したことも、傷つけたことも、どうやら、すごく後悔して、自分を責めていたようだったし。


 少しは、その罪悪感が、消えたらいいんだけどな。って、すっかり許してる俺も俺だけど。だけど、あのことがあったから、俺と桃子ちゃんは結ばれたんだもんな。

 あんなことがなかったら、今でも俺、桃子ちゃんのことおあずけくらって、もんもんとしてたかもしれないしさ。


 そう思うと、やっぱり父さんが言っていたように、すべてが必然だよなって思うんだよ。うん。 

 ただ、桃子ちゃんはもしかしたら、桐太を許せないかもしれないし。だからこそ、桐太が家まで送っていったら、少しは桃子ちゃんも、気を許すかもしれないかな、なんてちょっと期待したりして。

 

 俺、そういえば、もう18だ。車の免許も取れるし、結婚だって出来る年だ。

 そんな年齢になったんだな。

 なんて、ちょっと感慨深い。


 まだ、高校生だから、結婚なんて考えられないけど、でも、いつかするんだとしたら、桃子ちゃんと、それだけは、決めている。


 そして今日の、ピンクのエプロンをつけた桃子ちゃんのことを思い出し、新婚の俺らってどうだろうかって妄想したりするんだ。

 二人で暮らすってのもいいかもな。なんてさ。あほだよな。


 そうだ。そんなことよりも、すぐ未来のことを考えなくちゃ。沖縄行き、どうするんだよ。俺…。

 店の片付けも終わり、俺の部屋に入り、机の上に参考書だけを広げ、そんなことを俺は、考えていた。


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