第10話 すげ、可愛い
目をぎゅっとつむって、俺にしがみついたまま、桃子ちゃんは真っ赤になってる。すげえ、可愛い。そっとキスをした。いつもなら、体を硬くするけど、桃子ちゃんは今日は違う。それに手で押しのけるけど、今日は違う。
桃子ちゃんが目を開けた。俺のことをじっと見て、ますます赤くなった。う、可愛い!
「桃子ちゃん」
声をかけた。桃子ちゃんが、ドキッてしたのがわかる。
「え?」
「すげ、可愛い」
そう言うと、桃子ちゃんは首まで真っ赤になった。
もう一回キスをした。あれ?桃子ちゃん、なんか、硬直するどころか、逆に体、俺に預けちゃってない?
ぎゅってしがみついてた手も、力が抜けてるみたいだし、つないだ手もだらんってしてる。
いつもだと、押し返されるから、キスも長くできない時がほとんど。だけど、今日はまったく抵抗しないから、俺はしばらくそのままキスをしていた。
桃子ちゃんの髪をなでた。桃子ちゃんはまだ、目をつむっている。
「桃子ちゃん、ほんとに抵抗しないの?」
「え?」
桃子ちゃんが目を開けて、俺を見た。あれ?なんかいつもと違わない?目、とろんってしてるけど…。
「本当に、いいの?いつもみたいに、心臓持たないとか、バクバクするとか、そういうのないの?」
桃子ちゃんは黙って、こくんとうなづいた。あ、あれ?…その顔つきがやけに色っぽいんだけど、俺の気のせい?
「体、いつも硬直しちゃってるのに、なんで今日は全然なの?」
「なんでか、わかんない」
「え?」
わかんないって?
「わかんないけど、でも、力が逆に抜けちゃったの」
「え?」
どういうこと?
「だ、だから、聖君、すごく優しいし、なんか力が急に抜けちゃって、抵抗も何も出来ないくらいに」
「……」
俺が優しい?うわ。なんかめちゃ照れる。
そう言って俺のことを見る桃子ちゃんが、めちゃ可愛い。髪をなでると、また、色っぽい目で俺を見る。
やばい。やばい、やばい。鼓動が早くなってる。
桃子ちゃんにキスをする。柔らかい。鼻にもほっぺにも、あごにもキスをする。桃子ちゃんが、少しだけ体をよじらせた。そしてくすぐったそうな顔をする。それから俺をまた見た。その目はやけに、熱い目だ。
「桃子ちゃん、好きだよ」
そう言うと、真っ赤になって目をふせた。ああ、そういうところも、めっちゃ可愛い。もう一回キスをした。そして抱きしめた。
桃子ちゃんが俺の髪をなでてる。ドキ!桃子ちゃんの手が触れるところ、ものすごく熱くなる。ぎゅう。思わず力を入れて、抱きしめてしまった。
「……」
桃子ちゃんの息が、耳にかかる。顔をあげると、桃子ちゃんが泣いていた。
「桃子ちゃん?」
どうして?
「どうしたの?」
桃子ちゃんは、目をまだ潤ませながら、
「うれし泣きだから」
って、つぶやいた。
あ。やべ…。すげえ、可愛い。可愛すぎるよ。
「桃子ちゃん、すげ、可愛い」
思わず、声に出してた。そして、桃子ちゃんにいっぱいいっぱい、キスをした。
無抵抗なままの桃子ちゃんの、ブラウスのボタンに手をかけた。
「あ…」
桃子ちゃんが、びくんってした。
「え?」
やっぱり、駄目?
「だ、駄目?」
駄目って言うのかな。桃子ちゃん。
「で、電気」
電気?ああ。電気がついてた。あ、明るいと嫌だってことだよね?
「ああ」
俺は、ベッドから立ち上がり、電気を消した。
それから、桃子ちゃんの横に膝をついた。
桃子ちゃんの横に寝そべりながら、電気を気にしたってことは、あれだよね。いいってことだよね、なんて考えていた。
桃子ちゃんを見ると、目をぎゅってつむっていた。
わ。その顔も可愛い。両手はどうしていいのかわからないのか、胸の前で、中途半端に握りこぶしを作っている。
両足はぴったりとくっつけて、さっきよりも、体が固まっちゃってる感じだ。
ボタンに手をかけると、また、ビクンッて動いた。それから握りこぶしの位置が胸に近くなり、ぎゅって力を込めて、握っているようだ。微妙に震えてるのがわかる。
目もさっきよりも、ぎゅうってつむってる。
ああ、緊張しちゃってるんだな。俺はボタンに手をかけながら、外していいものかどうか、迷いが出てきてしまった。
どうしようか。このまま、いいのかな、続けても…。
「緊張してるの?」
思い切って聞いてみた。
「え?なんで?」
桃子ちゃんが驚いたように聞いてきた。
「だって、一気に力が入っちゃったみたいだから」
「ご、ごめん」
桃子ちゃんが、申し訳なさそうな顔をした。
「…いいよ。もし、嫌だったら、やめるよ?無理したり、我慢したりしないでもいいから」
俺がそう言うと、桃子ちゃんはさらに、困った表情をした。
俺に申し訳ないとか思ってるのかな。体を固まらせたまま、天井を見ている。困った表情のままで。
俺は、さっき、外したボタンをまた、はめようとした。すると、桃子ちゃんがいきなり、
「私、あの!」
と、大きな声を出した。
「え?」
その声に思わず驚くと、
「今日、その…」
と、何かすごく話しづらそうにしている。
「何?」
優しく聞いてみた。頭の中では、どんなことを言い出そうとしてるのか、フル回転で俺は考えてる。
やっぱり、心臓が苦しいから駄目とか、心の準備ができてないとか、怖いとか、勇気が出ないとか…。
すると、桃子ちゃんは、俺が想像していたのとはまったく違うことを言って来た。
「子どもっぽい下着で…」
「へ?」
下着?子どもっぽい?って何?
え?そんな理由で、今、悩んでるの?え~~~?
俺の頭の中は一瞬、真っ白。桃子ちゃん、何言ってるの?って感じだ。
あ、もしかして、それ言い訳?本当は嫌なんだけど、そう言うと悪いからとか、そう思った?
「だから、恥ずかしくて」
「え?」
「それを見られるのが…」
下着を?
何?やっぱり、言い訳じゃないの?それがほんとの理由?
「まじで?それ言い訳してるんじゃなくて?」
「言い訳じゃない。でも、こんなこと言ったら呆れられるかなって思って、言い出せなくて」
桃子ちゃんは真っ赤になって、そう言った。
まじかよ!
「あはははは!」
駄目だ。思わず笑っちまった。
「そんなの気にしなくてもいいのに」
「よ、よくない」
「そうかな。俺、きっとどんなのが子供っぽくて、どんなのが大人なのかも見分けつかないと思うけど」
「え?」
「女の人の下着なんて、わかんないもん、俺」
桃子ちゃんは、困った顔をまたした。
「そっか。だけど、桃子ちゃんには一大事だったりした?」
「うん、かなり。どうしようって、ぱにくってた」
「あはは。それで、固まってた?」
「うん」
「あはは!駄目だ。腹いてえ」
なんだよ、それ。可愛すぎるよ。想像もつかなかったよ。下着でそんな、悩むとは。
「ごめん。わかった。じゃ、見ないようにする」
「え?」
「目隠しでもしようか?俺」
「……」
桃子ちゃんが、それはちょっとって顔をした。そうだな。それはやばいプレイになっちゃうね…。
「それとも、大人っぽい下着に着替えるのを待ってるとか」
って、俺、それまで何してたらいいの?だいいち、また脱がせるのに…。
「やっぱ、それはいくらなんでも、手間かかりすぎだよね?その間、俺、待ちぼうけだし」
俺がそう言うと、桃子ちゃんは困ったって顔をまたした。
「やっぱさ~~。気にしなくてもいいのにな~~」
桃子ちゃんは、俺の言うことを聞いてるのか聞いてないのか、赤くなりながら、
「布団に入ってもいい?」
と聞いてきた。
「え?うん」
布団?なんで?寒いとか?
「それで、その…。服とか、下着っていうのは、自分で脱いじゃったら、聖君、引いちゃう?」
「え?」
え?何?え?それって、桃子ちゃんが布団の中で自分で脱ぐってこと?
「ううん。全然」
い、いいけど。でも、え?桃子ちゃん、意味わかって聞いてる?
「い、いいよ。えっと、あれだよね?布団に入って、自分で脱ぐってことだよね?」
「うん」
うんって、うなづいたぞ。まじ?
わ~~~~~。
「俺、後ろ向いてる」
わ~~~~~~。俺はとりあえず、後ろを向いた。
「もういいって言ってね」
俺の頭は真っ白。でも、そんなことを言ってた。
わ~~~~。桃子ちゃんが布団の中に、もぐりこむ音がする。どひゃ~~。なんだか、俺の方がめっちゃ恥ずかしい。
桃子ちゃん、恥ずかしがり屋なんだか、大胆なんだか、わかんないよ、俺…。