青い鳥2
初夏の空は雲が赤子のように成長しており、膨らんでいる。
そんな中、1羽の鳥が気持ち良さそうに飛んでいた。
追い風を受けながら、自由きままに飛んでいく。
名前をコルリと人間は呼ぶ。
青空よりも濃い青色の身体で、お腹だけが白かった。
ー今日も気持ちがいい。
雨だとどこかに雨宿りするのだが、最近は晴れ続きで、コルリは飛行を楽しんでいた。
輝くその姿はサファイアよりも美しく、誰も文句が言えなかった。
ーさて、どうするか。下降して人間にちょっかいを出してみるか。
コルリは不思議な力があり、人間と関わろうとする癖があった。
他の鳥達は皆、避けたり、攻撃したりするのだが、コルリは人間と対等の関係だと思っていた。
ー命があるもの同士、どちらが上とか下とか関係ない。生きているうちに、楽しむ時は楽しむべきだ。
コルリは翼を広げると、「きゃあ」と悲鳴が聞こえた。
何だと思っていると、女性が一生懸命、走っている。
その後ろを男性が追いかけているようだった。
ー何かやばい気がする。
男性は手にナイフを持っており、女性を殺すつもりなのか、殺気を放っていた。
他の人間は関わりたくないのか、助けることもせず、通り過ぎていく。
ー同じ人間同士、助けてやれよ。
コルリはお人好しではないが、女性が必死に助けを求めているので、降り立ち、人間の姿となる。
「ーおい。助けてやる」
「へ? へ? へ?」
女性はいきなり現れたコルリにびっくりし、凝視してくる。
青い髪に、背中には白い羽。
とりあえず戸惑っている女性を背中に隠すと、男性に立ち向かう。
「ーやめておけ。人殺しは最大の罪だ」
「うるせえ!! 俺の勝手だろ!!」
「何がお前の勝手だ!! 嫌がっているだろうが!!」
コルリは怒鳴ると、女性が背中を見て呟く。
「て、天使様…!!」
「…天使じゃないけれど、うわ!!」
急に抱きつかれ、コルリはびっくりして振り向く。
「た、助けてください…!! お礼は何でもするので…!!」
「ー分かった。先程も言ったけれど、助けてやる」
「ありがとうございます!!」
「とりあえず放してくれ。これじゃあ、動けない」
「す、すみません!!」
女性が離れると、コルリは男性と向き合う。
「俺の恋人なんだから、どうしようが勝手だろう!!」
「そうなのか? 恋人なのか?」
コルリが問うと、女性は涙目で首を横に振る。
「じゃあ、何なんだ?」
「元恋人です…!! 今、警察にも相談していて」
「…なるほど。男のほうが未練があるのか。面倒くさい」
コルリは男性を睨みつけると、忠告する。
「他にも女ならたくさんいるだろう? どうしてこの娘なんだ? そんなに気に入っていたのか?」
「うるせえ!! お前、邪魔だ!!」
「ちっ。しょうがない」
コルリは向かってくる男性を素早く避けると、首の後ろを殴りつける。
男性が「ぐはっ」と緩んだところを狙い、腹を殴る。
その力は強く、男性はナイフを手放す。
「く、くそ…!! この野郎!!」
「お前には、かなりの調教が必要なようだ」
コルリは少し浮かぶと、男性の顔を蹴りつける。
そのまま後ろに倒すように、また強く蹴ると、男性はふらふらとなり、コンクリートの上に倒れる。
コルリはゆっくりと近づくと、男性が自分の顔を触り、血が出ているのを確認する。
「ち、畜生…!! 馬鹿にしやがって…!!」
「まだやるつもりか? 少しは頭で考えろ」
コルリがそう言うと、「きゃあ」とか「何?」とか、ようやく周囲がうるさくなってきたので、ナイフを拾うと女性に渡す。
「私が関われるのはここまでだ。あとはお前が何とかしろ。分かったな?」
「は、はい…!! ありがとうございました、天使様」
「天使…。…まあいいか。じゃあな」
「ち、ちょっと待ってください!! お礼は…?」
「もらうつもりでいたが、やめておく。周りがうるさくなりすぎているから」
コルリは女性の頭を撫でると、鳥の姿となり、飛んでいく。
「う、嘘…!!」
後ろから聞こえてきたが、コルリは無視し、上昇していく。
ー全く。人間というものは、面倒くさいものだな。嫌なら離れればいいのに。子どもができることが、できないのか?
コルリは若干、不満を持っており、しばらく何も言わずに飛んでいく。
そんな彼を慰めるように、雲の通路ができたところがあり、優しく包んでくれる。
ーふう。落ち着いてきた。
雲に礼を告げるように、翼を広げると、コルリは気持ち良さそうにさえずる。
その美声は人間の騒がしさを消してくれたが、中には耳がいいのか、注目する人間が少なからずいるのだった。
ー気にしない、気にしない。人間は自分が関わっていなければ、無視する生き物だから。自分の身に何か起こらないと、SOSを出していても助けないんだから。
ぼやくように飛んでいくと、「はあはあ」と荒い息づかいが聞こえてくる。
何だと気にして下降すれば、10代くらいの少年が、座り込んでいた。
コルリはどうしようか迷ったが、少年に手を差し伸べられるのは自分しかいないので、声をかけてみる。
「ーおい、大丈夫か?」
人間の姿になって聞くと、少年が胸を押さえながら、びっくりした顔となる。
それはいつものことなので流すと、コルリは膝をつき、少年に声をかける。
「病気か? 病院に連れて行ってやるか?」
「え、いや、あの、大丈夫です。しばらくすれば落ち着くので」
「我慢するな。息が荒すぎる」
「これは…その、パニック症候群で…」
「パニック症候群…? 何だ、それ」
オウム返しに言うと、少年は深く息を吐き出し、言う。
「外に出ると、目眩がしたり、汗をかいたり、こういう風に、その、荒い息を吐いたり…。心の病なんです」
「心の病か…。それはな」
コルリは何かできないかと考えていると、少年が表情をわずかに緩める。
「大丈夫です。いつものことなので」
「そうなのか? その、薬はないのか?」
「飲んでいます。でも僕の場合、酷いようで…。何回も外に出ようと、努力しているのですけれど」
「…そうか。努力しているのか」
コルリは辛そうに息をする少年の背中を撫ででやる。
少年は驚いたようで、「い、いいです」と言ってきたが、コルリは真顔で言う。
「甘えられる時に、甘えろ。今、私しかいないから、ゆっくり呼吸しろ」
「は、はい…。…あの?」
「何だ? どうした?」
「その…天使様ですか? 背中に、あの翼が…」
「魔法だ。そう見えるだけだ」
コルリは軽くかわすと、少年の背中をずっと撫でてやる。
すると少しずつ少年がリラックスしてきて、息の荒さが緩くなっていく。
コルリはそろそろいいかと手を放すと、少年が表情を緩めてくる。
「あ、ありがとうございます。助かりました」
「そうか。それは良かった」
コルリが行こうとすると、少年がトートバッグから、何かを取り出してくる。
「ー何だ、それ?」
「グミです。専門店で買ったんですけど、これ、お礼にあげます」
「いや、いい。偏食なんだ」
断ったのだが、押し付けてくるので、コルリは一粒だけもらうことにした。
少年が見ているので、口に含むと
「うん? 柔らかい。しかも花の蜜よりもすっと甘い」
噛むほどに味が濃くなっていくので、コルリも喜んで笑う。
「ありがとうな。じゃあ」
「あ、あの…!! もし良ければ、連絡先を…」
「悪いけれど、私は自由でいたいんだ。じゃあな」
鳥の姿になると、少年が「うわ」とびっくりした声を上げたが、コルリは気にせす、少年から離れていく。
ーグミか。人間は面白いものを発明する。
コルリは飛んでいくと、冷たいものが当たった。
雨だと気づき、周りを見ればいい天気のままなので、すぐに止むだろうと結論づける。
ーしかし翼が濡れてはな…。…そうだ。
コルリは笑う代わりに声を上げると、とある場所を目指す。
そこはカーテンが開いており、中が見えるのだった。
ーまた油断しているし。あの女…!!
コルリは怒りつつ、下降すると、フライパンだけは避けようと降りたったのだった。
窓をノックすると、女性が近づいてくる。
ふふと笑いつつ、窓の横に隠れると、ガラッと窓が開く。
「あ、あれ…? え?」
「やあ」
言葉をかけると、素早くキスするのだった。
女性が離れようと叩いてくるが、コルリは許さず、抱きしめる。
「ーすず、来たぞ」
すずと呼ばれた女性は怒りつつも、力が入らないのか、身体を預けてくる。
いい気分だとコルリが笑うと、女性の身体をぎゅっと抱きしめ、耳元で囁く。
「ーフライパンはいかが?」




