半目勝負!~俺たちのクライシス・モメント~
こんにちは。こちらのページを開いていただきありがとうございます。
最後まで明るい感じで進んでいきますので、気楽に読めるザマァがお好きであればぜひお読みいただければ嬉しいです。
『ムカつく先生も、ろくでもない同級生も、まわりに全くいなかったぜ!』なんて人は少ないですよね。
代わりにやっつけてもらっちゃってください!
中学ってのは一番恐ろしい牢獄だと俺は思う。
その牢名主がうちのクラス担任のような女だともう最悪だよ。
だいたい男子校だってのになんで独身のわりと若めの女教師が幅を利かせているのかわからない。
まあこんなことを口にしたら、やれ女性差別だなんだかんだとあの女なら言いかねないから俺も俺の友人たちも我慢しているんだ。
今、最悪な女教師が最悪な連中の肩を持ったせいで、俺の友人の一人がとんでもないことになった。
そのことで、そのとんでもない目にあわされている友人の親戚でもある別のもう一人の俺の友人がいるんだが――これが説明するのが面倒くさい関係性なんだけど。
つまり、今回悲惨な目に合っている奴の父親の従弟が俺の別の友人ってわけ。
それでそいつは今、悲惨な目に合っている奴を助けるために学校をサボってなにやら調べまわっているらしいんだ。
俺たちはいつもだいたい六人で集まって行動しているんだけど、揃いも揃ってまあ曲者ばかり。
多分感覚がまともなのは俺だけだと思うよ。
もしこれから先に彼女ができるとするならば、多分俺が一番早いはずだ。
話を戻すとこうだ。
そいつ、奴はとにかく怒り狂っていて、哀れな目に合っている従弟の息子のために学校にも来ないでなんか色々動き回ってるところ。
いつもいつも奴は誰にも相談せずに勝手にそういうことを始めるから困るんだ。
奴のお母さんから俺の母親に連絡が入ったのがついさっき。
その後で、俺の母親が気を利かせてくれて、すぐに俺に連絡をよこした。
―――『あんた、サボってることにならないように上手くごまかしてあげなさい。こういう時はどっかの駅で熱出して倒れたらしいとか言っときゃいいから』
せめてもう少し早ければ、とは思ったけど。
でも、俺はまあまあこんな母親が嫌いじゃない。
奴は普通の顔してニコニコしながら家を出たらしい。
制服を着ていつものように母親に手を振って『行ってきます』と言ってたとさ。
ふざけるなよ!
こういう時に尻拭いをさせられるのはだいたい俺なんだ。
そんなわけで、うちのクラス担任の最悪クズ女教師が、奴の家に電話したらしくて大変なことになった。
―――「今日はお休みということでよろしいでしょうか?誰も連絡を受けていないので、確認のためにお電話いたしました」
だとよ。
『クソ担任ババア余計な電話してきやがって』と奴が怒り狂っている姿が目に浮かんで恐ろしい。
俺が気が付けばよかったんだけど、あの担任から「今日はお休みって聞いてる?」と聞かれた時に、つい正直に答えちまった俺が悪いのか?
そんなはずはないだろう?
その後、担任は俺だけじゃなくて、俺の友人たち全員に欠席理由を聞きまわったせいでこんな大事になっちまった。
俺はコソコソとそいつに「なんとかあのアホ教師をごまかすから、どっかの駅で倒れたとか、熱中症になったとか、適当なことをメールしてこいよこのアホが!そのメールを見せて学校に来れなった理由はこれだって言っとくから」と具体的な案までメールしてやったのに、奴はひと言。
こうだ。
―――『今日は熱中症で倒れるような天気じゃないだろ。うまく適当にやっといてくれ』
くそったれが!
本当にこういう奴らばかりで俺は毎日疲れているんだよ。
でも俺らはいつだって仲間を大切に思いながらこの牢獄の中で生きている。
ハズいこと言ってるのはわかってるけど、それが本当なんだからしょうがないっての。
俺の仲間はかなりの変わり者の集まり。
そんでもって実際かなり強い連中だ。
別に喧嘩とか体力面がとか、そういう強さじゃない。
図太さとかそういう系のこと。
一番か弱いのがデリケートな俺かもしれないのがつらいとこなんだが、今はとにかく追い詰められて悲惨なことになっている俺の友人・咲太郎を助けなければならない。
ジャンケンで負けて『第二学年文化祭実行委員』にさせられた咲太郎に、保護者と生徒から集めた寄付金泥棒の容疑がかかった。最悪だ。
各家庭・学生個人からの、『一口、千円以上、五千円未満』の任意の寄付。
管理が面倒なので千円以上としているが、寄付するしないはもちろん自由。
毎年文化祭のためにこれを集め、各学年の実行委員長が管理する。
―――二学年で集まった寄付金、なんと三十二万円。
俺らの学校の文化祭は地域でも有名な文化祭で、一応まあ偏差値の高い名門と言われる男子校なので、文化祭には多くの客が訪れる。
なので、文化祭には気合が入るってもんだ。
なんたって女子が沢山やってくる。
咲太郎って奴は、実行委員なんてとてもじゃないけどできそうもない野郎なんだ。
それなのに、俺ら二年生の実行委員長をやらされるハメになった。
奴らのせいだ。
奴らが咲太郎を陥れるためにわざと実行委員にして、その上、二学年の
実行委員長にさせやがった!
寄付のことだが、大抵の家庭は息子のために寄付をするんだが、俺んちの母親ときたらこうだ。
―――『ハァ?なんで私があの女に寄付しなきゃなんないの?あんたのクラスの馬鹿女に寄付するくらいなら他のクラスに寄付してやるよ。したかったらお前が勝手にしろ!』
もうどうすりゃいいんだって?
別にあいつに寄付するわけじゃないっての。
俺の母親は『寄付金が多いとあの女が職員室で鼻高々になるような気がするから絶対イヤだ』なんていうもんだから、仕方なく俺が尻拭い。
家でも学校でもこうなんだから最悪だよ。
仕方がないから俺が寄付したよ、見栄張って二千円を。
寄付と言えば、烈――今行方不明扱いとなっている俺の友人なんか、堂々とこう言いやがった。
―――『俺の家からは寄付しません。俺が断りました。母も父もどうしてだって俺を叱りましたけど、当の本人が寄付したくないからしないんです。すみません先生。任意なので構いませんよね?』
これを聞いた時のババアの顔が最高だったから、烈よくぞ言ってくれたって思ったけど、今更ながら二千円も出した俺ってどうかと思うよ。
奴は担任に聞こえるようにこうまで言いやがった。
―――『来年もし、ヨシノ先生が担任になってくれたら俺が小遣いから五千円払おうかな』
こりゃちょっと言いすぎかなとは思ったけど、俺はちょっとスッキリしたぜ。
この担任の野郎は、俺の足を潰したあいつらをかばいやがった。
寄ってたかって体育の時に俺の足を引っ掛けて転ばせて、その後で三人がかりで踏みつけやがった。
そのせいで、もうサッカーは出来なくなった。
歩けなくなったわけじゃないけど、もう前みたいに全力では走れなくなった。
実は結構、足の速さには自信があったんだ。
可哀そうとか言うなよ?
同情なんて真っ平だから。
もう去年のことだから俺の気持ちも多分もう落ち着いているし大丈夫、なはずだと思っているから。
あの時は、体育の先生が授業の成績評価チェックのノートだかなんだかを探していたりして、ちょっと目を離した隙の出来事だった。
だから、その状況をわりと間近で見ていた慶次と雄士(と俺)の叫び声を聞いて慌てた先生は、もう完全にパニック状態になっていて、先生が俺を助け起こしておぶって保健室に連れて行こうとしたんだ。
その時に、慶次が先生に大声で怒鳴ってた。
―――『折れてるかもしれないのにやめてくれ!タンカで運ぶから余計なことしないでくれ』
慶次がそう言ってくれて、クラスの連中がすぐに保健室からタンカを持ってきてくれて、みんなで注意深く乗せて運んでくれたんだ。
あの時は俺ら六人全員同じクラスだったんだけど、慶次と雄士と咲太郎が俺を大切に運んでくれた。
三人ともなんか泣いちゃってさ、男のくせにしょうがないよな全く。
その時に、烈と燐が何してたかっていうと、後から聞いた話だと体育教師が慌てふためいてる隙に、野郎共をしこたまぶん殴ってくれたらしい。
カッとしやすい二人だけど、いつもあいつらは誰かのためにカッとなってるだけなんだ。
クラスの半分くらいの奴が、あいつらが俺の足を潰したところを目撃してたから、まともな奴は殴られて当然だと思ってくれたからよかった。
このことで烈と燐が処罰されたら辛いから。
その時のこと。
今と同じで去年も俺らのクラス担任だったあの女は、クラスのほとんどの奴が、あいつら三人がわざとやったと証言してくれたのに、あいつらをかばって何の処分もしなかった。
スポーツの最中の事故はよくあることだって?
よくあるのか?
三人で折れるまで他人の足を踏みつけることが。
倒れている奴を笑いながら踏みつけるのは普通のことなのか?
後から烈が言ってた。
あの担任、首謀者のあいつの親類なんだとさ。
最悪じゃないか!
最初に烈のお母さんとお父さんが俺の母親と一緒になって抗議してくれたけど、ダメだった。
続いて『この学校は昔はそんな学校じゃなかった』って、慶次のお父さんが仕事を休んでまで学校に来て抗議してくれたのに、クソ担任はまともに聞いてもくれなかった。
まるでモンペに対応するみたいに、被害者面して苦笑いしてたって話だよ。
―――『そんなことを仰ったらスポーツができなくなりますよ』
だとさ。
ついでに言うと、学年主任までもあの女と一緒になって俺たちの心を潰そうとした。
俺らの話は一切聞いてくれなかった。
あの野郎!将来ハゲるよう呪ってやる。
うちらの学年で俺たちの話を聞いてくれたのは、おばあさん先生のヨシノ先生だけだった。
ヨシノ先生だけは職員会議で言ってくれたらしい。
―――『真実を捻じ曲げてはいけませんよ。あの三人が卑劣なことをしたことは明白です。そのせいで久慈 透さんは、大好きなサッカーができなくなったんですよ。あなたたち二人はそれをわかっていますか?』
俺の母親も烈の両親も、雄士の父さんや燐の母さんも、慶次のお父さんと、もちろん咲太郎の親も、皆の親が乗り出して俺のために抗議してくれたのに、あの女教師と学年主任の野郎!
―――『スポーツ時の事故を処罰できません』だと。
俺が入院している間の出来事らしいけど、かなりやり合ってくれたらしい。
でも、俺がもういいって言った。
だってもうどうしようもないだろ?
もう足が治ることはないんだし、だからしょうがないって。
あいつらみんな、いつまでも怒ってくれて、そんな姿を見てたら――もういいって、しょうがないかなと思ったんだ。
一生懸命リハビリもしたけど、元通りにはならなくて。
それでも諦めずに一生懸命やったけど。
みっともないかな?しぶとくいつまでも色々調べたりしたけどダメで。
それでもう、どんどん辛くなってきて、ああやっぱりダメなんだってわかってきて、もう思い出すのも嫌だ。
でも不思議なんだ。
あのクソ女担任、二年になった時に、偏屈で扱いずらい慶次と特に気性の荒い燐以外の俺たち四人をまとめて受け持ちやがった。
首謀者のあいつも一緒に。
烈が職員会議を盗み聞きしたらしいんだが、あの女、こんなことを言ってたらしい。
―――『私が責任をもってあの事故のわだかまりを解決して、友情を取り戻すように力を尽くします』
素晴らしい教師じゃないかって?
ふざけんなよ?
烈が言うには、もし俺らがヨシノ先生のクラスになったりしたら、あの女の立場が危うくなるからだろうってさ。
将来は俺の呪いでハゲ確定の学年主任と一緒に企んだに違いないって言ってた。
俺もそう思う。
あの二人、校長先生に言ったらしい。
――『私たちと生徒たちにチャンスをください。わだかまりを残したままクラスが離れてしまったら、彼らには互いを尊重し合うという大切なことを知る機会をなくしてしまいますから』
本当に〇んでくれと思ってしまったよ。
そう思う俺が悪いと思うか?
俺らにどんなチャンスがやってきたっていうんだよ。
まあ俺のことはいいさ。
あんまり俺が足のことを気にすると、烈の野郎が発狂するから気を付けてるんだ。
あいつは特に女教師を恨んでくれていて、しょっ中こう言ってる。
―――『俺が絶対に復讐してやるから見とけ。絶対に許すもんか』
そういうわけで、俺は俺以外の五人が暴走しないように常に調整し……調整役なんてごめんなのにさ、いつもいつもなだめて回ってるってわけ。
今回は人畜無害でお人好しの咲太郎があいつらのターゲットになった。
理由はあるのかって?
そりゃあるさ。
俺は、咲太郎が囲碁部のあいつに余裕で勝ったことが始まりだと思ってる。
嘘みたいな圧勝だった。
二回とも圧勝。
囲碁部の顧問の先生は咲太郎を部に勧誘した。
咲太郎は断ったのに、あれはかなりしつこかったな。
あの日、咲太郎はもう嫌だと言ってるのに、あの顧問がもう一度だけあの野郎と勝負しろとか言ってきて、その時の勝負は『黒の半目勝ち』ってやつだったらしい。
それがどれだけすごいのかとか、俺にはよくわからんけど。
どうやらすごい接戦ってやつらしくて、咲太郎が勝ったことは間違いないけど、さっき楽勝の二勝をした咲太郎と接戦をしたってことで、顧問はクソ野郎を『さすがうちの部のホープだ』って褒めたんだが、そりゃ悔しかったと思うぜ?
部員でも何でもない咲太郎に二敗した上、三回目の勝負で接戦で負けて褒められるってさ!
俺だったら泣く。多分。
それでその後で、咲太郎がわざと接戦にして相手の尊厳を傷つけたって噂が立って、みんなから責められたんだ。
咲太郎は何も言い返さず無言を貫いた。全くあいつらしいよ。
それがまた気に障るってのもわかるけど、でもたとえ何かを言ったところでクソ野郎は満足しないだろうよ。
咲太郎が悪く言われるたびに、雄士と烈が発狂しそうになるのを止めるのが精いっぱい。
慶次と燐が別のクラスだったのがせめてもの救いだったよ。いたら大変だったろうよ。
そんなこともあって哀れな咲太郎が盗難事件の犯人になっちまった。
最後にお金の入った二学年の『青い布袋』を触ったのが咲太郎だっていうんだが、そりゃ仕方がないんじゃないか?
だってあの咲太郎が二年の実行委員長なんだから、確認作業で触るのは仕方ないじゃないか。
それなのに、このことであの女担任の野郎が校長先生にこう言ったんだとよ。
『和泉咲太郎さんが二学年の文化祭実行委員会室の管理を担当してくれているのですが、私は、常々彼に言っていました。ここには文化祭のために皆さまが寄付してくださった大切なお金を入れた金庫があるので、委員会を終えて部屋を閉める時は必ず二人以上で鍵を閉めるようにと。それなのに、その日、和泉さんは一人で閉めて帰ったそうです。他の委員の子に聞いたところ、彼は自分一人で閉めるからいいよと言ったとか』
絶対に違う!
咲太郎はちゃんとあいつに一緒に部屋の鍵を閉めてくれって頼んだって言ってた。
それなのにあいつはそれを無視してとっとと帰ったんだ。
咲太郎が嘘をつくはずがないんだ。
あんなに馬鹿正直で、ほんの小さな嘘さえ付けないお人好しはいない。
俺たちは絶対に咲太郎がそんな嘘をつくはずがないってわかってるし、クラスのもう一人の実行委員のあいつが、絶対に咲太郎をハメたんだ。
最初は担任も『和泉さんは知らないと言っているのですから、ひとまずお金を取った者が名乗り出るのを待ちましょう』とか言ってたんだ。
でも二日経っても誰も名乗り出る者はいなかった。
ここの卒業生の慶次のお父さんが『四の五の言わずにもう警察に連絡して調べてもらうべきでは?』と言った時もあの女はそれを無視したし、烈のお父さんは『彼を犯人だと決めつけるなら、ちゃんと第三者に調べてもらう必要がありますよ。外部の者の盗難の可能性だってあります』と言ってくれた。
俺の母親はあの通り怒りまくってるし、俺らの親たちは昨日みんな揃って、学校にきちんとした調査をしてくれるように要望書を提出した。
でも警察沙汰になると『和泉さんの将来にかかわる』からちょっと待ってくれだとさ。
咲太郎の将来だと?もう犯人だって決めつけてるみたいな言い方じゃないか。
昨日それを聞いた烈が、なにやら恐ろしい顔であの女教師を睨みつけてたもんで、何かやらかすとは思ってたんだ。
明日は咲太郎の親が学校に呼び出されることになってるってのに、今日、烈は学校をサボリやがって何をしているんだか。
あいつのサボリ理由については、結局俺がクソ担任に嘘を言った。
どうだこれ、素晴らしい作文だと思わないか?
―――「烈は朝からどうも熱っぽかったみたいで、学校へ来る途中の駅で降りたそうなんです。それを見た駅員さんが心配して駅長室だか休憩室だか知りませんが、そこで休ませてもらっているうちにうっかり寝てしまったみたいです。少し落ち着いたらお父さんに迎えに来てもらって帰るつもりみたいです。烈は、最近風邪で体調を崩していたお母さんに心配かけたくないみたいで俺に電話してきました。ほら、俺らって一年の時から仲いいですから。でも烈は息苦しそうで、話すのが辛そうだったから俺もすぐ切りました。なので今日は欠席にしてください。先生と同じく俺も心配でたまりませんけど、苦しそうな奴をいつまでも話させ続けて、あげく先生に電話を代わらせるなんて出来なくて」
こんなことばかり俺にさせやがって!
奴のためにこんな言い訳をさせられて、俺はもう朝からずっと死にそうな気分だったけど、午後にやっと烈から連絡が入った。
―――『なんとかなりそうだ。咲太郎に、頼むから絶対に諦めないでくれって言っといて。とんでもない証拠をつかんだから。絶対にあいつらを叩きのめしてやるからな』
烈から直接あいつに言ってくれて思ったけどさ、いつもこういう時に伝書鳩をやらされるのは俺なんだ。
◇◇◇◇◇
翌日。
土曜日の朝から大変なことになった。
クソ担任の野郎が咲太郎のお母さんをこともあろうに俺らのクラスの中に入らせて、大勢の生徒が見ている前で吊し上げようとしたんだ。
俺の足の事件の時に、咲太郎のお母さんが俺のために結構ガンガン文句言ったことの報復なんじゃないかって思う。
あれから事あるごとに咲太郎に嫌がらせをするクソ担任ならやりそうだよ。
だから多分、今回の教室への呼び出しはあいつの復讐の一環だったんだろうよ。
うちの学校は文化祭の三週間前から、全学年が土曜時間割はすべて文化祭準備のための時間になるんだけど、それをわかっていてあのクソ担任は、咲太郎のお母さんに俺らの教室に入って自分が行くまで待っているようにと言ったらしい。
どうせわざとだろ?何様だよテメエは。
雄士が二階で、奴らの仲間がコソコソと話してるのを聞いたそうだ。
奴らは笑いながらこう言ってたらしい。
―――『河島先生が二階の面会室に来てた和泉(咲太郎)の母親に、三階のクラスに入って待っているようにと指示したらしいぜ。今からすぐに三階まで来させられるぞ!見物だぜこりゃ!ザマァ、みんな呼んで来いよ』
まさかそんな陰湿なことをする先生がいるのかって思うだろ?
でもうちの担任の河島というクソ担任はそれをやったんだ。
そのことを俺に耳打ちした雄士はすぐに、別のクラスにいる燐と慶次を呼びに行った。
もし担任として親を説教したいんなら二階の面会室でやればいいじゃないか。
それで充分じゃないか。
本当に最悪だ。
咲太郎のお母さんは、文化祭準備で学校中がわちゃわちゃとした雰囲気になってて、みんなが割と自由に校舎をウロウロできる状況の最中に、わざわざ三階の俺らのクラスまで来るよう言われた。
きっと河島の野郎は、この階の生徒がわらわら集まってきて見世物みたいになるだろうことをわかっていて、あえて咲太郎をお母さんをうちのクラスに呼んだんだ。
他のクラスにいる奴らの仲間が、廊下側の窓から身を乗り出してこんなふうに言うんだ。
笑いながら。
―――『あーあー、泥棒のお母様。俺らの寄付金返してくださいよ』
―――『ちゃんと弁償してくださいね』
―――『泥棒のしつけをしないとダメですよ、そこの綺麗なお母さん』
―――『八百長もやめさせてくーだーさーいー。黒の半目勝ちとか最悪』
―――『ヤンキーみたいなお仲間に守られて和泉クンは安心保険加入中!』
別のクラスの慶次と燐を呼びに行った雄士が、二人と一緒に咲太郎のお母さんをかばいながら教室に入って来た時、既におばさんは泣きそうだった。
とっても気が強くて、いつもはものすごく口が達者な人なんだ。
俺の足の事件の時も一生懸命抗議してくれた人だ。
その上、咲太郎とは似ても似つかない、かなり美人なお母さんなんだけど、いくら気丈な人だって泣きたくもなるだろうよ。
うちのクラスは階段から一番遠い、つきあたりの奥にあるんだぜ?
あいつらの手下共がわざと大声で非難してくる中を教室まで歩いてくるんだ。
映画でさ、アメリカの監獄で新入りの囚人が入って来た時に牢の中の囚人がわめいてる場面とかあるじゃないか。
まさにそれ。
咲太郎のお母さんは俺たちの牢獄の新入りになっちまった!
いじめているのは牢名主のババア・河島だ。
こんなことになってるってのに、烈は何のつもりか何やってんのか知らないけど、朝からほとんどずっと校門のあたりをウロウロしていて教室にいなかったんだ。
なかなか戻ってこないから俺は本当に心配していたんだよ。
そんな俺の気持ちも知らないで、あいつがやっと数分前に俺にメールを寄越した。
―――『やっと透の復讐もできそうだ。待ってろ、今から戻る』
ニタニタしながら烈が戻ってきた時には、もう咲太郎のお母さんは教室のすみっこで真っ青になって立っていた。
その姿を見た烈は驚いて目と口をパッチリパックリと開いた。
「咲子おばさん?なんでここにいるの?今日はあいつに呼び出されてるんでしょ?どうして面会室に行かないの?」って。
烈はすぐに咲太郎のお母さんに駆け寄って「俺が面会室まで一緒に行くよ。二階に行こう」と言って震えているその手を取ったその時、クソ担任が入ってきやがった。
この担任、なんか晴れがましい顔をしやがって。
楽しそうに見えるのが憎らしい。
烈が今にも殴りかかりそうな顔であの担任を睨みつけ、雄士と燐が腕組しながら『クソ野郎が!』と言っている。
覗きに来ている他クラスの連中は、よくもまあ担任にそこまで言えたもんだと思ったんだろうな。
烈の目つきや雄士たちの態度を非難がましく見つめているが、あの女は言われて当然のクズ野郎なんだ。
本当に最低最悪の教師。
俺は朝からずっと咲太郎のそばを離れないようにしている。
まるで彼女みたいにべったりとくっついている。
彼女ってもんがここまでくっついてくれるか知らんけど。
ぴったりとくっついて、トイレだろうがどこだろうがついていった。
そうでもしていないと不安なんだ。
なんか、すぐにでも消えてしまいそうな顔つきをしているから。
下を向いているのは、お母さんを見るのが辛くてたまらないからか?
申し訳なくて顔向けできないからか?
こんな悲しい思いをさせてしまったのは、自分のせいだと思っているからか?
咲太郎はいつだって本当のことしか言わなかったし、自分がやったとももちろん言っていない。
だからといって情けなく黙り込むなと言いたいよ。
嘘つきで卑怯なあいつらと戦おうとしないなんて間違ってる。
当事者が戦おうとしていないのに、まわりの奴らが必死こいてる状況ってのは本当にもどかしい。
咲太郎には俺たちの気持ちが伝わらないのか?
このままだと退学処分になっちまうんだ!
ただ下を向いて黙っている情けないあいつだが、おれは咲太郎を放っておけない。
このまま泣き寝入りなんて絶対にごめんだ。
そういや一昨日、いつもいつもクラスの中で勢いのあるやつの後ろにくっついてまわってるキョドった野郎が烈にこんなことを言ったんだ。
―――『自分のやらかしたことは自分でなんとかするべきだよ。どちらにしても、あいつは委員長なんだから。まわりがあまり甘やかさない方がいいと思う』
勇気があるのかバカなのか。
今あんな状態の烈にそんな余計なことをいうとはね。
その後で、キョドり野郎は烈にすごまれて泣きそうになってた。
烈は言ったよ。
―――『助けたいから助けようとして何が悪い?人のことでは動けても、自分のことでは動けない奴がいるんだよ。だから俺たちがやるんだ。てめえはすっこんでろ!』
その通りだ。
咲太郎は俺の足の時には本当に必死になって訴えてくれた。
ヨシノ先生や、他の学年の先生まで引っ張ってきて俺のために、力を貸してください、話を聞いてくださいって頼み込んでくれたんだ。
驚いたことに、そのことで他の学年の先生が、わざわざ入院中の俺の見舞いに来てくれて、その時その先生からそれを聞いた。
―――『あの子が三年の教室に来てこのメモを見せてくれたんだよ。5枚もあるんだよ』
咲太郎が、俺のために足を痛めつけられた時の状況を細かく紙に書いて、ついでに棒人間の絵(〇と線であらわした人間の絵)を描いて、俺がどんなふうに転ばされて踏みつけられたかを説明してくれたらしい。
そんな咲太郎が、やってもいないことで退学になるなんて絶対に許さない。
俺たちはなにがなんでも、最後まで抵抗する。
◇◇◇◇◇
担任の河島の浮かれた顔ったらないぜ。
俺たちが睨みつけても余裕って感じでものすごく晴れがましい顔をしてやがる。
他のクラスの連中が教室をのぞきに来てヤジを飛ばしているのに注意もしない。
マジで驚いたんだが、河島がぬけぬけとこう言ったよ。
「和泉さんのお母さんから皆さんに話したいことがあるようですよ」
その時に、咲太郎以外の俺ら五人と咲太郎のお母さんは嘘みたいに声が揃ったんだ。
―――『は?』
河島の野郎!嬉しそうにまたこう言いやがった。
「えっ?クラスの生徒にお詫びしたいんじゃなかったんですか?じゃあさっきのは私の聞き間違いかしら?きっと和泉さんならそうなさりたいだろうかと思っていたから……私が勘違いしてしまいましたか?」
咲太郎のお母さんは半泣きだったけど、これに対してははっきりと言った。
だから俺は咲太郎のお母さんが好きなんだ。
「いいえ。私はお詫びしようと思って三階に来たわけじゃありません。河島先生が三階のクラスで話がしたいから教室に入って待っているように仰ったのでここに来たんです」
河島の顔が少し歪んだ。
顔が歪もうが笑おうが、性根腐った野郎だと知ってるから気味が悪いぜ。
咲太郎のお母さんが綺麗だからその対比がすごい。
それでまた、河島のクソ野郎が慌ててこう言ったんだ。
「驚きました。いえ、そんなふうにお思いなんですね。和泉さんはなにかとこう……どちらかというと生徒の行いには厳しい立場の方ですよね?誰の話とは申しませんが、その、生徒同士のちょっとした諍いについても結構はっきりとしたご意見をお持ちでしたから。以前、私が和泉さんに責められた時は私もちょっと驚きましてね、でも決してわざとではなかったとしても、それがちょっとした行き違いであったとしても、生徒の失敗を厳しく追及するその姿勢はある意味素晴らしいと思っていたのですが。今回のことは、息子さんのことですから、少しばかり以前の考え方を改めたということでよろしいですか?」
なるほど。
やっぱり咲太郎のお母さんに恥をかかせようとしたんだな。
「河島先生がいつのことを仰っているのかはよくわかります。クラスメイトを転ばせて、足を三人で寄ってたかって踏みつけて、硬いスニーカーの踵を使って何度も何度も痛めつけるような人間を厳しく罰するべきだという考えは変わっていません。彼の気持ちを考えたことはあるんですか?あの事件のことをちょっとした行き違いだとか、失敗だとか仰るとは……私は先生の考え方が理解できません」
ありがとう咲太郎のお母さん、でも泣きたくなるからその話はもうやめてほしい。
河島のクソ野郎、よくも俺の前でその話を持ち出せたもんだ。
河島と咲太郎のお母さんが見つめ合って(睨み合ってか?)いる時のこと。
「慶次、これ撮ってるか?」烈が聞いた。
「最初から全部な」と慶次。
「俺も撮ってるぜ」と雄士。
「悪い、すっかり忘れてた」と燐。
俺たちみんな結構大きな声で話しているのに、俺らの声を誰も気にしていない感じだ。不思議だ。
このクラスのこの状態の録音・録画の話をしてるのに無関心って、ここの奴ら平和な連中だよな。
きっとみんな河島の野郎主催の『咲太郎のお母さん吊し上げイベント』に夢中なんだろうな。
さて、そういう俺も録音中。
さて、ちょっと驚いたんだけど。
ずっと発狂寸前みたいな顔をしていた烈が教室の入口を見てニタニタと笑ったんだ。
◇◇◇◇◇
その時、ほんの一瞬――確かにざわざわっとした声があがった。
でもすぐにまた音が消えて、なんか静かになったんだ。
俺にはみんなの口が『おおお!』とか『マジ?』とか言っているように見えたんだけど、あまり声は聞こえなかった。
入口近くのクラスの連中と廊下側の窓から身を乗り出して中を見ている他クラスの奴らと、廊下の立見席の野次馬たち、そいつらが驚いたような声だったよ。
俺ら六人にも聞こえていたくらいだから、絶対に河島のクソ野郎にも聞こえたはずなんだけど、廊下に背中を向けていた河島は、その異変に全く気付いていないようだった。
ほんと不思議だよな。
人って、悪だくみに夢中だと、まわりの異変に気が付かないものなのかな?
驚いたことにこの時、ヨシノ先生と、誰かわからないけどスーツを着た女の人と、近くの中学の制服を着た女子生徒が三人。そして、どっかで見たことがあるような顔の男の人が二人、教室に入って来たんだ。
女子生徒の一人は俺も良く知っている女の子だった。
烈の姪のエリカちゃん。
烈の姉ちゃんの子供だから、烈の姪にあたる女の子。
すごくかわいい子だから、野次馬共もびっくりして静かになったんだと俺は思った。
ヨシノ先生と一緒に教室の入り口から入って来たのに、河島はまだ気づいていないようだ。
結構マヌケなんだなこいつ。
さあ、さっきの続きだ。
「和泉さん、今回の盗難のことでお母様が生徒たちに謝るつもりがないことはよくわかりました。息子さんを信じていらっしゃるのでしょうね?そのお気持ちはよくわかりますが、でも和泉さんは、第二学年文化祭実行委員長なんですよ?彼が引き起こした不始末を、親御さんが謝罪する気がないとはっきり仰るとは……正直驚きました。別に謝罪を強制するつもりはありませんが、三十万円を超える大金をしっかりと管理できなかったのは事実ですよね。このことに責任を感じておられないというのは……私には理解できません」
言ってくれるじゃねえかババア。
さすがの俺も堪忍袋の緒が切れたぜ。だから怒鳴りつけてやろうと思ったのに、慶次に先をこされた。
チクショウ!エリカちゃんの前でいいところを持っていきやがった。
「先生、やってもいないことをどうして咲のお母さんが謝る必要があるんですか?咲太郎は絶対に金を盗んでなんかいませんよ。断言できます。やったのが誰なのかなんて、先生だって本当はわかってんでしょ?またこいつらをかばうつもりですか?人の足を踏みつけて痛めつけるようなクソ野郎共を!」
慶次がこう言うと、教室の中からも外からも怒声が上がった。
慶次は平然として腕組み。烈はニタニタ。
雄士と燐が怒声に負けじと言い返す。
こいつら、かわいい女子がいるのにとんでもない大騒ぎをしやがって!
エリカちゃんだけはさすがに烈の妹分だけあって、男子の大声にびくともしてないが、他の女子生徒は震えあがった。
ついでに言うと、スーツの女性はのけぞってヨタって、ヨシノ先生に支えられている。
「河島ァ!お前がこいつの親戚だって知ってんだよ!」と雄士。
頼むから呼び捨てるのはやめとけ、と冷静で繊細な俺は思う。
「おい河島、来年は俺もお前のクラスの生徒にしてくれよ。わくわく楽しいクラスになるぜ」と燐。
だから呼び捨てにするなって。お前とか言うんじゃねえよ。
「あなたたち!口を慎みなさい。はずかしくないの?」河島が叫ぶ。
でも俺たちは無視。慶次が続ける。
「咲のお母さんをこの教室に行けと命令したそうじゃないですか。あんた最低な教師ですね。面会室からここまで、咲のお母さんを歩かせて楽しんでたんでしょ?こいつらにはやしたてられて泣きそうになってんの見て喜んでたんだろ?あんたさ、さっきお母さんに言ったな?
――『生徒にお詫びしたいんじゃなかったんですか?謝らないなんてびっくりよ。私の聞き間違いかしら?』とかなんとか言ったろ?そんなこと言うクズ教師が担任とか、かなり辛いんすけど」
あいつらより言葉遣いはマシだけど、ちょっと言い過ぎな気がするよ慶次。
でも、ああもう!咲太郎のお母さんが泣きだしちゃったよ。あんなに気丈な人が。
「河島ァァ!お前の親戚のこの野郎が透の足を折って、あいつはずっと辛くてもリハビリして泣いてたんだよ。お前はこのことに責任感じないのかよ!平気なのかよ?お互いを尊重だと?面白くもない冗談か?このカスが!」
そのヤンキーみたいな『河島ァ!』ってのは、ほんともうやめといたほうがいい。
泣きながらそれ言うと本当にヤンキーの熱い喧嘩みたいじゃねえかよ。
このままだと、女子生徒にうちの学校が避けられてしまうよ燐。
「咲太郎にいっつもネチネチネチネチ嫌がらせしやがって!テメエ、咲が黙ってるからって調子乗りやがって。お前言ったよな?『和泉さんは口がきけないんですか?』とかって!このカス教師ガァ!」
雄士はヤンキー1号だな。
「河島ァ!俺がお前のクラスになったらそんなセリフは絶対に出てこねえからよ!俺は年がら年中お前と口きいてやるからな!楽しみにしとけ」
ああこっちは2号か、燐よ。
一応うちの学校は超の付く進学校で、品行方正のはずなんだけど、なんなのこれ?
烈と、タイミングを失った俺はまだ何も言ってないが、俺らは代わる代わる『河島ァ!』を糾弾した。
咲太郎のお母さんはずっと泣きどおし。
なんか俺たちに向かって頭を下げてくるし。
俺らに謝ってるみたいに見えちゃうからそれはやめといてほしい。気の毒で見ていられないよ。
で、俺たちに向かって「黙りなさい、恥を知りなさい」とか言いだした河島が、今度は咲太郎のお母さんにまでこう言ったんだ。
「この状態に何の責任も感じない方がいらっしゃるとは。それこそ本当に大変なことですよ。この連中を見て何も感じないんですか?全て和泉さんの友人の発言ですよ」
こう言われて、ついに烈が一歩前に進み出た。
恐ろしい目つきで何かを言おうとしたところで、ヨシノ先生が烈の肩を叩いて止めた。
「今、あなたこの連中と言いましたね?河島先生、あなたこそ恥ずかしくないんですか」
ヨシノ先生カッコイイぜ!だから好きなんだ。
河島ァ、が恐る恐る教室の入り口のほうを振り返った。
ヨシノ先生がいるのを見て河島が震えあがったのをしっかり俺は見た。
何も言えなくなっていて、情けない姿をさらしているのにヨシノ先生に反抗的な顔つきをしている。いや、そう見えてしまう。
ヨシノ先生はそのまま続けてこう言った。
「河島先生はこちらの皆さんが教室に入ってこられたことにも気が付かななったようですね」と言ってから謎の来客に向かって深々と頭を下げた。
「わざわざ足を運んでくださったというのに、このような醜態をお見せして本当に申し訳ございません。私もまさかこんなことになっているとは思ってもみませんでした。てっきり面会室で話をしていると思っていたのに、まさか今回の当事者の保護者の方を教室に呼びつけているとは、恥を知る必要があるのは誰なのか……」
ヨシノ先生最高!
それでこの後、なぜか烈を見つめてこう言ったんだ。
「佐倉烈くん、あなたが始めたことですよ、ちゃんと始末をつけてみなさい」
えっ?烈が始めたことってなんだ?何も聞いてないぞ、と思っていたら烈がまた静かに怒り狂った表情で一歩前に進み出た。そして言ったんだ。
「はい。こちらにいらっしゃるのは英光女子学院の生徒さんと先生、そして東高の生徒さん。そしてこちらは俺たちがしょっ中お世話になっているカラオケボックスの店長さんとマネージャーさんです」
なんだなんだこれ!烈ってば一体何やってたんだよ?と思っていたら、ペラペラと話し出したんだ。
「本当に偶然のことだったのですが、俺は駅で、ここにいる生徒さんとは違う、別の英光女子学院の生徒さんがあることを話しているのを耳にしたんです。それだけでも俺はおどろいてしまったのですが、なんとその後で、またもや偶然にも東高の生徒さんがマックで、またとんでもない話をしているのが聞こえてきたんです。
うちの学校の生徒が、女子生徒をカラオケボックスで襲おうとしたらしいと。
それで、実際はその卑劣な行為に失敗した野郎共が、腹いせに彼女が恥ずかしくなるような写真を撮ったということを――でもこれだけは言っておきますが、最悪な酷い目……わかりますよね?つまり最悪なことにはならなかったそうですから、それだけはその生徒さん、彼女の名誉のためにも誤解しないでください。
今回俺が色々調べてまわってわかったことなのですが、実はその時に、こちらにいらっしゃるカラオケボックスのマネージャーさんがドアを開けてくれて止めてくれたんです。監視カメラを見ていたらどうもおかしいなと思って声をかけてくださったそうです。
でもその前に、口止め用の写真にして脅すために、女子のスカートをめくりあげて写真を撮ったそうです。
本当に恥知らずな連中です。今日ここにいらした生徒さんの一人はその場にいたそうなのですが、卑怯な連中に押さえつけられていたために友達が写真を撮られるのを止められなかったそうです。
こんなこと、思い出すのも辛いのはわかっていたのですが、昨日、俺が咲太郎のために、ある証言をお願いしたところ、勇気を出して今日ここに来てくれたんです。本当にありがとうございます。
まだ先があります。さっきの写真のことですが、それを聞いたその翌日に、その卑劣な行いへの抗議と、彼女の写真を消去するように話をしに来たその女子生徒さんの従妹さんが――友人と三人で抗議したそうです。なかなかできることじゃありません。俺はそれを聞いて感動しました。
勇気を出してくださり本日こちらに来てくださいましたが、こちらの東高の生徒さんはそいつらに突き飛ばされて転ばされたあげく、ペットボトルのお茶をかけられたそうです。頭からですよ。
そんなことをするなんて最低な行為です。正義のために抗議したのにそんな卑劣なことをされて、それを思うと腹が立つし本当に気の毒で、それに申し訳なくて、聞いた時は同じ学校の生徒として恥ずかしかったです。またそれだけじゃないんです、実は――」
烈の声はなぜか教室中に響き渡った。誰も声を出さずに耳をそばだてるように大人しく聞いてるもんだから、多分廊下にいる連中にもよく聞こえたと思う。
烈が続ける。
「――続きですが、英光女子学院の生徒さんはカラオケボックスの部屋で、その日、うちの学校の生徒がものすごい札束を持っていたのを見たそうです。女子生徒さんは二人だったそうですが、二人共その札束をしっかり見たそうですよ。
防犯カメラの日付も確認していただきましたが、ちょうど、文化祭のためのお金が無くなった日のことでした。こんな偶然ってあるんでしょうかね?
監視カメラに映っているので証拠になりますこれ。本当に映っていましたから。顔もはっきりと。
まだあります。そいつらが笑いながら話していたそうです。
―――骨が折れる瞬間って音がするって。
英光女子の生徒さんは驚いて聞きかえしたそうです。
『それ、どういうこと?』って。
そうしたら『去年、同じクラスだった生意気な細っこい野郎が体育の授業中に倒れた時に足が折れた』と。倒れただけで折れるなんてなかなかないと思うけど。
それで、そいつは言っていたそうです。
―――結構足が速いやつだったんだけど、もう前みたいに走れなくなった、ザマァと。
そう言って笑っていたそうです。
俺、これって透の怪我のことかと思いました。
だって、そう思われても仕方ないですよね?
俺は英光女子学院や東高の生徒さんたちから聞いたことを、どうしても確認したくって、無理やり店長さんとマネージャーさんに頼み込んで、そいつらが映った監視カメラをみせていただいたんですよ。驚きました。映っていましたよ札束が。
咲太郎がお金を盗んだと言われて、ものすごく苦しんでいたけど、多分、三十万くらいの札束が綺麗に映ってました。
お札の厚さがどうのこうの言うんだったら、そういうのが得意な慶次に、実際の三十万の厚さの札束と同じかどうかを画面の大きさの比率から計算してもらえば証明できると思うんです。
あとこんなことも言ったそうです。うちの学校は金持ちに紛れて奨学金で入った貧乏人も結構いるけど、俺たちは余裕がある家だから、別にこんな金はへでもないって!
そいつら、咲太郎が金をとったとか言いやがった時には、こんな大金を泥棒しやがってとか叫んでたんですけどね。へでもない金を学校帰りに持ち歩くって怖すぎると思いましたよ。
まだあります。でも、それはもう後で、面会室で話しましょうか?俺もう我慢できなくなってきたんで。すみません、俺、こいつに頭突きしてもいいですか?」
ヨシノ先生が大声で止めたけど、ダメだった。
さっきから話しながらタラタラと涙を流していた烈が、クソ野郎に頭突きをドカンと炸裂させると、それと同時に恐ろしいわめき声が響き渡った!
もう滅茶苦茶だ。
燐と雄士がうおおおおおぉぉぉぉ~と叫んだもんでヤバイ奴感が出すぎだろと思って頭を抱えてたんだけど、二人は奴の頬を、順番に平手でぶん殴った。
順番に平手ってとこがちゃんと学習しているよな。
グーと平手だと結構印象が違うんだって!
エリカちゃんは何のために来たんだか知らんけど、「あーあ」とため息をついてこんなことを言ってた。
―――「バーバとジジへの報告が辛い」とね。
◇◇◇◇◇
さて。ここは二階の面会室。
さっきの面々と学年主任の井福も参戦。
井福の野郎は、河島と一緒になって、昨日の烈のサボリを突っついて来たけど、これについてはヨシノ先生が一喝した。自分が責任をもって、家族や友達に心配をかけた烈に反省を促すと言って。
このことには、英光女子学院の生徒も加勢してくれた。
――『彼の行いが間違っているというなら、真実は葬られてもよかったってことになりますよね?』
一つ年上のお姉さん、マジかっこよかった。
そりゃそうだよ、おれの足の事件のことも咲太郎の泥棒疑惑も、犯人が全く処罰されないなんて普通じゃない。
でも不思議なことに、机の向こう側で下を向いてるこいつらの一人が、なぜか急に自白してくれたもんで全てのことが明るみになったんだ。
妙なこともあるもんだと思った。
やっぱり悪いことしていると神様ってやつが罰をくだすとかさ、罪悪感が妙なものを見せるとか、オカルトじゃあるまいしと思ったけど――さっき、三階の教室で三人の卑怯者のうちの一人が急に叫び出したんだ。頭を抱えてさ。
『守護霊か?もうやめてくれ』とか言い出して、しまいには『わかったから。もうわかったから』とか言って首謀者を指さして、こいつが久慈(透)の足を砕こうぜって命令してきたって白状したんだ。
ついでに文化祭のお金のことも。咲太郎に大きな荷物を持たせて前が見えないようにさせて、その隙に青い袋から金を抜き取ったらしいってね。
そんなおりこうさんに白状してくれるなんて、そんなうまい話があるのかって思ったけど、気味の悪いことをブツブツ言いながら全て白状したんだ。
ついでに言うと、河島もうすうす感づいていたんじゃないかってさ。
とんでもない話だよ。
学年中から責められていた咲太郎は相変わらず黙り込んで誰のことも責めたりしなかったけど、俺たち五人が泣きじゃくってるのを見て、咲太郎は目を押さえてた。
本当に小さな声で『ごめん。ありがとう』って言ったのが聞こえた。
俺も他の四人もそれでじゅうぶんだよ。
しょうがない咲太郎にはそれくらい言うので精一杯だろうからな。
女子生徒さんもカラオケボックスの二人も、俺たちが泣いてるのを見て、なんか涙ぐんでくれてさ。
俺たちのためにその人たちは時間を使ってくれたんだ。
イヤなことを思い出しても助けてくれた。
本当に感謝していて、嬉しくて、目の前がちょっと開けた気がしたよ。
言葉にすると、いい言葉がみつからなくてあんまりうまく表現できないけど、同じことを他で返すよ。
今日してもらったことを、これから他で返すってこと。
もちろん彼女達とはこれから感謝のおもてなしという、楽しいお付き合いが?!あるかもしれないぜ?
またまたついでに言っとくと、学年主任の野郎は三か月後に控えてた家庭科の先生との結婚が破談になった。なぜかわからないけど、あの時、三階のうちのクラスの誰かが叫んだんだ。
―――『井福の不倫相手は河島だ』って。
廊下の方でもこんな声があがったんだ。
―――『俺も渋谷で二人を見たぜ』『家庭科の先生がかわいそう』『美人の家庭科の先生を開放しろ』『河島とくっつきゃいだろうが!』『お前らがお似合いだ!』
でも誰も言ってないっていうんだよ。そんなことあるはずないだろ?
表向きは人気の先生みたいな顔して過ごしてたけど、実際は河島と井福が陰ではいかに嫌われていたかってことに尽きるよな。
お気の毒かもしれないけど、結婚前に二股とかはダメだろ。その相手が河島だなんてバカだよなと思う。
こんなわけでさ、俺たちは一年をかけて奴らをぶっ潰した。
奴らは退学処分。そりゃ当然だろ?
河島は提携校に飛ばされたし、井福は二年の学年主任を外されていったん一学年下を担当することになった。
卑怯者の取り巻き連中やキョドり野郎共はおとなしくなってスッキリ爽やかってこと!
最後に。一番良いいことになったのは担任のことだ。
このことで今後の学生生活において、俺ら六人を見る時、まわりの者の中には、“友達を退学に追いやった六人”だということで非難の目を向ける者がいるかもしれない……とかなんとか、慶次のお父さんが言い出して、この六人は学年中の鼻つまみ者になったから、今後クラスがばらけるといじめ等が発生する可能性が大だ、とか。
――(俺らには全く非はないのに何を言い出すのかと思ったけど)
咲太郎や俺みたいな繊細な奴はともかく、他の四人がいじめられたりするのか?と思ったけど、慶次のお父さんが暗い顔をしてどんよりとしゃべりだして、最終的には俺の足の話を持ち出して、脅すみたいにこう言ったんだ。
―――『彼らの安全のために、六人は互いに助け合える環境に置くべきでは?これは決して特別扱いではありません。久慈透君の足の怪我と和泉咲太郎君の盗難事件が全ての答えです。彼らは高校を卒業する時まで同じクラスにしてください。安全のために。私の時代にも学生の安全を守るためのこうした配慮があったんです』
なぁんてことを深刻な顔して訴えてくれたんだ。
それで、校長と教頭が約束してくれた。
―――『うちは理系・文系を分けずにホームクラスを作りますので可能です』とね。
そしてなんと、うちの学校の宝!才媛・ヨシノ先生が来年から受け持ってくれることになった。
―――『他の誰があの六人を扱えるっていうんです?私がやるしかないってことでしょう?』
なぁんて言ってさ!なんか嬉しそうなヨシノ先生が校長先生の前で言ったんだ。
『約束は守りなさい、佐倉烈君。あなたは毎年、文化祭の寄付は自分の小遣いから五千円、必ず払いなさい!』
ってさ。
おわり
お読みくださりありがとうございます。
連載のほう(空飛ぶカァちゃん)の登場人物が何人か出ておりますので、あれっと思われる方がいらっしゃるかもしれません。
お時間があればそちらのほうもぜひお読みいただけたら嬉しいです。




