第七話
コツコツコツ
廊下に甲高い靴の音が鳴り響く。
音を鳴らしている人物を見れば、
仮面をつけ執事のような格好をしたその人物がいた。
その人物が身につけている仮面は笑っているが、
その内側の表情は読み取ることができない。
灰の入った瓶を片手に、館内を歩いていた。
「いやぁ…あと三人…。毎回呼びに行くのも面倒なことですね…。次の会議の後は覚えていてもらいましょうかね…。私だって、暇なわけではないんですから。それに、会議の内容は覚えていても、会議の日程を覚えていないなんて変な話ですかね…。」
その人物はボソボソと小さい声で言葉を漏らしながら、長い長い回廊を進んでいった。
館内はとても広く、しっかりとした構造は分からない。地図なんてものも存在していないければ、時計だって本当にちゃんとした時間を刻んでいる物があるのかすら、分からないのだから。
その人物がしばらく歩いていくと、ある扉の前で立ち止まった。
だが、暫くすると首を振ってその人物はその扉の前から離れていった。
「…。もう、思い出すのもいい加減にしてほしいのですが…。」
その人物は仮面に手をあて、上を見上げた。
そこにあったのは模様が入った憎くも綺麗な天井だけ。
無機質なその天井が不意に、その人物を嘲笑っているようにも見えた。
その人物は仮面から手を離すと、目の前の廊下をまた歩き出す。
その後ろ姿は救いを求める様でもありながら、いらない。
と、突き放している様だった。
その人物が歩いている廊下の壁に、二つの時計が掛けてられている。
その時計が示していた時刻...。
1つの時計は12**年**月**日**時**分を表していた。
もう1つの時計は20**年**月**日**時**分を表している。
何故だろうか。その2つの時計の間は時空が歪んでいるかのようになっていて、空間が揺れている。
その人物は時計を一目見るとその歪んでいるように見える、空間の奥へと入っていった。
コツコツコツ
音を鳴らしている人物を見れば、
仮面をつけ、執事のような格好をした人物が立っている。
その人物は長い長い廊下を歩いて行く。
所々空間が揺れている場所を進みながら歩いて行く。
しばらく経てば、その人物は一つの扉の前で立ち止まった。
その扉の前には赤い彼岸花が飾られている。
その人物は静かにその扉をノックした。
コンコンコン
扉をたたく音が鳴り響く。
相変わらず返答が…あった。
その人物の目の前にある扉が開く。
扉の奥には、濃い赤髪に瞳は黒。
服装は明らかに貴族然としていて、壁に腰を掛けていた。
「こんにちは。赤の貴公子さん。会議の時間です。会議室の方まで来てもらえますか?」
その人物は仮面越しに、目の前にいるその男性に言った。
その男性は壁に腰を掛けながら何か考える仕草をした後、直ぐに言葉を発した。
「会議…か。もうそんなに時間が経ったのか。何人呼んだ。」
その男性はその人物の言葉に返答しながら、質問を返した。
「何人ですか?何人でしょう?何人だと思います?」
その人物はその男性の問いに対して曖昧に返答した。
いや、返答じゃない。分かっていて質問を返した。
「質問に質問で返すな…。何人ね…。部屋順で考えたら6人じゃないのか?」
その男性はその人物の問いに対し答える。
その男性の返答を聞いたその人物は、仮面は笑っているがその下は笑っている様には見えない。その人物の言葉には怒りのような、悲しみのような、よく分からないが、少しドスのきいた声だった。
「いいえ?6人ではありませんよ。貴方様が、6人目です。今までお呼びしたのは5人ですよ。」
その人物の声に圧倒されたのか分からないが、その男性はその人物の仮面の奥をジッと見つめ、「すぐに行く。」とだけ言葉を残せば扉を閉じてしまった。
その様子を見ていたその人物は静かに扉から離れると更に長い長い廊下を歩いて行く。
その人物は静かに言葉をつぶやいた。
「…。もう、皆さん忘れたと思っていたんですけれどね…。」




