表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/22

3章:第11話 何の契約違反もございませんが?

「もう充分ですよ、フェナリア。助かりました」


 目の前には馬の上で静止するリェズヴィー。

 辺りは一面の砂原。隠れる場所なんて無い。

 オレたちは遂に、コイツを追い詰めたってワケだ。


「ああ、そうだなァ亜人ども。テメェらは充分生きた」

 余裕たっぷりに笑うリェズヴィー。

 敗北するだなんて微塵も思ってない表情だ。


「何を言ってるんですか? もう隠れる場所も無い。アナタはワタシたちに追いつかれ、逃げ切れないことを悟った。そうでしょう?」

「そーだそーだ!」

 便乗するフェナリア。


「ワタシはアナタに暴力を振るわない。ワタシたちはアナタから何も奪わない。たった二つ要求するだけ。『体を治す』『いくつか質問に答える』いかがですか?」

「いかがだ!?」


 ともあれ、この女はこれで詰みだ。

 さっきのキャラバン隊の惨状から、犯人はコイツで間違いない。

 『カスの参加資格を奪ったこと』を認めさせれば、裏で起きていた事件は解決。

 あとは安心して優勝を狙うだけ。

 そのハズだ。


「いつもそうだよなァ? 亜人」

 短剣を愉しそうに弄ぶリェズヴィー。

 だが、その表情は少しも愉しそうじゃない。

 こちらを真っすぐ睨み、憎悪の感情を露わにしていた。

 いや、睨んでいるのはオレじゃなく、フェナリアの方か?

 しかしその焦点は僅かに定まっていない。

 彼女を通して『別の何か』を見ているみたいだ。


「どうしてそこまで亜人を憎悪するんです? 別に、好きに憎悪してくれて構いません。ですが、そこまで敵意をむき出しにされると、気になってしまいます」

「あァ? そんなこと答えるワケねェだろ。オレはお前らに何も与えない。金も土地も何もかも。当然、答えだってくれてやらない」

「それは残念ですね」


 答えないとは意外だな。

 この女は追い詰められている。

 だから、どうにか時間を稼いで次の一手を狙うべきだ。

 なのにそれをしないとは、自分の置かれている状況が分かってないのか?


「オイ、亜人。お前今、オレを『品定め』してるだろ? お前の視線は、そういった下卑たモノだ。ムカつくんだよなァ。オレたち純血種の国に紛れ込んで、『当たり前です』って顔で生きるお前らがよォ」


 乱暴に短剣を投げつけるリェズヴィー。

 それは、オレたちの足元に突き刺さった。


「テメェのその余裕、奪い返してやるよ。余裕の笑みを浮かべるのは、オレの方だ」


 刹那──

 砂地は軟化し、オレたちの体は沈み込む!

 だが、

 オレには切り札がある。


 ──魔術師の荷縄!

 オレは伸ばしていた縄をフェナリアの体に巻き付け──


「そんな場所は無ェンだよ!」

 リェズヴィーは諸手を挙げ、沈んでいくオレたちを見下ろす。


「『隠れる場所は無い』って言ったのはテメェの方だったよなァ? 商人さんよォ。それはつまり、テメェが鉤縄を引っかける場所も『無い』ってことだぜ!」

「どうしよう、カイ! どれだけもがいても、わたしの足じゃ抜け出せないよ!」


「じゃあ、抜け出すのは諦めましょうか」

「そんな……!」


「オイオイ? 観念したか? 命乞いでもするかァ? それとも『その鉤縄でオレを制圧しよう』とでも考えてンのかァ?」

 マントをはだけるリェズヴィー。


 きらり。

 星の光に照らされ、何かが煌めいた。

 それは、

 鎧に付いたトゲ……ッ!


「オレは斬りつけた全てを泥にする。当然、魔法で形作られたモノだってなァ」


 確かに、彼女の言う通りだ。

 魔法は基本的に、後出しが有利。

 オレの鉤縄だって、彼女に斬りつけられれば泥になってしまうだろう。

 もちろん、棘鎧に触れない方法で縛り上げる手だってある。

 だが、あの女が抵抗し、棘が縄に少しでも触れれば終わりだ。


「追い詰めたと勘違いしたか? 勝ったとでも思ったか? だが、その驕りは奪い去ってやるよ。有り金全部出すってンなら、話聞いてやるケドよォ」

「ハハ、それは困りますね。商人にとって、金は命にも等しいですから」

「ちょちょちょ、ちょっと! カイ、何冗談言ってるの!? ピンチなんだよ?」

 フェナリアは思わず人型に戻り、オレに憤慨する。

 今、狼の姿を保つほどの余裕は無いってワケだ。


「ご期待には沿えませんが、ワタシとしてはもう、手を尽くしました」

「ウソでしょ!? わたしたち、ドロドロの底に埋まって死んじゃうんだ! レースももう、優勝できないんだぁーッ!」


「いいえ、フェナリア。安心してください」

「でも今、『もう手を尽くした』って──」

「ええ。既に、値踏みは終わりました。ワタシたちの勝ちです」


「なッ、何を言っている? 現にテメェらはオレの前で無様に沈んでいくだけだッ! 仲良く地の底でくたばるんだよッ!」

 リェズヴィーはこちらに短剣を向ける。

 だが、


 オレには分かっていた。

 それは、不安を紛らわせるための行動だ。

 今、オレが、どんな手で詰ませたのかが分からない。

 だからこそ、安心感を覚えるため、苦し紛れにナイフを構えた。

 理性的と言うよりは、本能的な行動だ。


「リェズヴィー、アナタ様は知っていますか? この塩砂漠が生まれた理由を」

「何だ? 時間稼ぎか? それとも観光案内かァ? あいにくオレは──」


 その時だった。

 振動する地面の砂。

 そしてその揺れは、次第に大きくなっていく。


「元来、この場所は海でした。だが十年前──冥府の大災害の日、一瞬にして蒸発。そして塩だけが残った。場所によっては、緻密なバランスで均衡が保たれています」

「まさかッ──」


「例えば、ここ──かつての海溝の上だとかね」


 瞬間──

 地面は大きく窪み、流れ落ちていく。


「オレの魔法を逆手にとって、流砂を作り出しただと!?」

「交易路上、鉤縄で掴める場所が無い場所。十中八九この辺りだと思っていました。辺りに岩場や朽ちたサンゴ礁が無いってことは、『本来の海底はもっと下だった』ワケですからね」

「バカな! だがこれじゃあ、テメェも道づれだッ!」

「いいえ、違います。商人はね、商談の前に全ての準備を終えるものですよ?」


 オレはリェズヴィーに示した、

 手のひらから伸びる鉤縄の先を。

 それは遥か後方、ここからは見えない遠くの岩場に固定されている。


「テメェ、さっき『何も奪わない』って──」 

「はい、言いましたよ。ワタシは暴力を振るわないし奪わない。アナタ様が『一人』で魔法を使い、『一人』で失うんです。何の契約違反もございませんが?」

「このッ、詐欺ヤロー!」


 流砂は、術者諸共オレたちを飲み込んでいく。

 そしてこの流砂(いや、流塩か?)は、魔術を解除しても止まらない。

 何故なら、泥の魔法はトリガーに過ぎないから。

 積もった塩のバランスを、一度さえ崩せば作戦は完了する。


「良かったですね、差別主義者さん♪ 地面の底なら、亜人のニオイなんて気になりませんよ? それにきっと、アナタ様から何かを奪う敵も存在しません。あるのは、自我と閉じた世界だけ。望みが叶いましたね♪」

「ッ……!」


 オレたちに何か吐き捨ているようだが、彼女は流砂の中。

 上手く聞き取れない。

 まあ、そろそろ引き上げてやるか。

 商人ってもんは、金は取っても命は取らないからな。


「この子、かわいそうだよ。助けてあげようよ、カイ」

「いえ、少しからかっただけです。安心してください。すぐに引き上げますよ」

 オレは魔術師の荷縄を伸ばし、彼女の体を引き上げる。

 しかし、その意識は既に無い。


「もしかして、死んじゃった!? どうしよう、カイ!」

「どうやら、気絶したみたいですね。まあ、気絶するまで待ってたんですけど」

「ふえ!? どうして?」

「だって、もがいてたら縄が、棘鎧に触れちゃいますからね」

「それもそうだけど……!」

 その後に出かかった言葉を飲み込むと、フェナリアは大きく肩の力を抜いた。

 どうせ、作戦が穏便じゃなかったことに対する苦言とかだろうな。


「とにかく、みんな無事で良かった~」

 へにょへにょな声を上げ、大きく伸びをするフェナリア。

 どうやら、さっきまで緊張しっぱなしだったみたいだな。


「くたびれてるとこ恐れ入ります。が、さっさと次の目的地──オアシスまで向かいましょう。そろそろ夜が明けてしまいますから」

「ええ!? わたし、こんな疲れてるのに!」

「夜が明ければ日差しが強くなりますからね。まあ、フェナリアが干物になりたいなら別ですよ? この砂漠なら、美味しい味付けになりそうですし♪」

「わたし保存食じゃないが!?」


 ともあれ、

 オレたちは近くのオアシスまで向かった。

 もちろん、気絶したリェズヴィーと彼女の馬も連れて。


「オアシスの次は第2のゴールですね」

「でも、心配だな、わたし。ニルちゃんに勝てるのか……とか」

「確かにライバルたちは手強いでしょうね。しかし──」


 オレはさっきのことを思い出す。

 彼女が目をつぶった時に見せた、最強の走りを。


「アナタには切り札がある。第2ゴールではそれを、完全にモノにしましょう」

「ふえ!?」

「問答無用です。ほら、辺りも明るくなってきましたよ」

 驚くフェナリアの手綱を引き、オレは前へ前へと導いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ