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エージェント:クリスタル エピローグ

 報告書


【名前】 クリストファー=ティンワース (第5級貴族ティンワース家4男)

【瞳色】 黒    【髪色】 黒

【出身】 メロヴィング王国 第2級貴族コロンバス領

【経歴】 幼少の頃より、魔法面で才能をする。

     父親のガーランドに、魔法の才能を領主コロンバスに仕え、才能を

     役立てるよう言われるが「誰かの下に仕える気はない。冒険者に

     なって一攫千金を狙う」と拒否する。

     クリストファーの言葉に激怒したガーランドは、学校卒業後に絶縁する

     ことを仄めかすが、当人は聞き入れず平民になることを承諾する。

【近況】 入学直後の能力測定で強力な魔法『フレアロード』を使用し、

     校庭を半壊させる。

     パーティーメンバーは総合成績2位のアルフレッド=シック、3位の

     ケヴィン=グールド、16位のアマリア=エブニーと組む。

     アマリアとは意見の衝突により、パーティーを脱退させる

【性格】 学校での言動から、虚栄心が強い、傲慢、利己的、礼儀知らず、自分に

     都合の良い考え方、独善的、反抗的な態度が多く見られた。

【評価】 幼少の頃より才能が特出している点、冒険者を志望する点、才能を

     誇示する点、教師に対して反抗的な態度をとる点、以上の事から転生者

     と思われる。

【結果】 上記の性格と下級部部長デトロイトの軍への入隊を拒否したことで、

     更生は不可能と判断。

     将来、王国の脅威となる危険性が高いと判断。

     魔獣討伐の際、洞窟に誘い込み事故死を狙うが、クリストファー自ら

     『チェーン・ボム』を使用して洞窟を崩壊させる。

     洞窟付近で、ティーナの装備が見つかったことから、4人が洞窟の

     崩壊に巻き込まれたと学校側は判断。

     洞窟崩壊後3日経過するも、救助されることはなく、脱出した様子も

     ないことから対象含む4人は死亡と判断され、処理された。

【私見】 ファームで教わった通り、色仕掛けは転生者に対して非常に有効で

     あった。

     また独善的傾向が強いことから、全肯定しつつ誘導することで、目的

     達成しやすい。


【担当】 クリスタル / クリスティーナ=コットン



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 報告書を読み終えたシャーリーン様が、顔を上げて私に目を向ける。

 敬愛する主人の眼差しを受けて、気持ちが引き締まる。


「クリスティーナ、ご苦労様でした。期待以上の成果です」

「ありがとうございます」

「私の側近として着任早々大変とは思いましたけど、貴女にお願いして正解でしたわ。

 お兄様からは、半年以内に処理して欲しいとの依頼でしたのに。まさか10日ほどで終わらせてしまうなんて。しかもちゃんと依頼通り事故死ですし。

 これならお兄様も満足なさるでしょう」

「シャーリーン様のお役に立てたようで。恐縮です」


 シャーリーン様に喜んでいただけたようで、誇らしい気持ちになる。

 主人のお役に立てた、主人の喜ぶ顔が見られたことが何よりも嬉しい。

 シャーリーン様は兄であるアーノルド王子の為、王国の為と頑張っていらっしゃるけど、私としてはシャーリーン様が何より最優先である。シャーリーン様のためなら命を懸けられる。

 それはきっと、シャーリーン様の側に立つみんなも同じだろう。私達はシャーリーン様に救われたのだから。

 私が感慨に耽っていると、ファームの同期で、シャーリーン様の護衛を努める武官見習いのリラが声を上げた。


「報告書で気になる点があります。よろしいですか?」

「何でしょう、リラ?」

「同じパーティーにいたアマリアは生きているのですよね?今後、ティナの正体がバレる危険性があるのではないでしょうか。そうなると、シャーリーン様にも何かしら影響が出る恐れが」

「その辺はどうなんですか?」

「問題ありません。

 元々、彼女は望んであのパーティーに入ったわけではありません。彼らに無理矢理入れられたようなものでした。それに、彼女から「パーティーを抜けたい」と相談を受けていました。

 彼女を生かしても問題ないと判断しましたので、脱退に協力しました。

 仮にアマリアに見つかったとしても、彼女の性格から周囲に言いふらす真似はしないかと。むしろ彼女に恩を売ったことになりますので、平民街で任務がある際に、協力者として使えるかと考えました」

「それでしたら、クリスティーナが能力に問題ありと罰せられることはないようですね。安心しましたか、リラ?」

「いえ、別に私はティナを心配したわけじゃ・・・。ただ、ティナの仕事が半端なせいで、シャーリーン様に迷惑をかけないかと思っただけですから」

「あらっ、そうでしたの?私、てっきりリラがクリスティーナのことを心配してるのかと」

「オードリー?そんなこと、あるわけないじゃないですかッ。何で私がティナのことを」

「そうでしたか?いつも「ティナ、1人で大丈夫でしょうか?」「ちゃんと任務果てせるでしょうか?」「ティナは、いつ戻ってくるのでしょうか?」といつも言っていたじゃない」

「ちょっ、ちょっと、オードリー!?私、そんなこと言ってないですよねッ!?嘘言わないでください!」

「そうだったかしら?私の聞き間違いだったのかしら?」

「そうですッ。オードリーの聞き間違いです」


 リラがオードリーと会話している様子に、目を丸くしてしまった。

 オードリーはシャーリーン様の身の回りのお世話をする礼官見習いだったはず。私は着任した日に任務に出てしまったので、最初に挨拶した以来である。17歳のはずだけど、見た目はもう少し年上にも見える。話し方や仕草から、とても柔和で、包容力のある女性(ひと)みたいだ。

 ファームで同期だったリラは、私以外の者とは距離を置いて、真面に話すことが出来ないでいた。それがたった10日ほど見ない間に、会ったばかりのオードリーと話せるようになっているなんて。もちろん、オードリーのコミュニケーション力によるところが大きいのだろうけど。

ただ、リラが私以外の人と普通に話していることに、驚きと喜びと得体の知れない感情が沸き上がってきた。


「ちょっと、ティナ!貴女、泣いてるの?」

「えっ?嘘?」


 目元を擦ると指先が僅かに濡れた。自分でも気づかない、思ってもいないことに驚きしたけど、嫌な感じではない。


「なんか、リラが私以外の人と話してるのを見たら・・・」

「ちょっ!バカにしてないでよ。私だってやれば出来るんだし。成長するんだからね」

「そっか。そうよね」

「フンッ」

「仲がよろしいのですね?」

「「失礼しました」」


 主人の前であることを忘れて、ついリラといつもの砕けた感じでやり取りしてしまった。そう言えば、リラとこれだけ離れていたのは久しぶりだった。早く任務を終わらせてシャーリーン様の側で仕えたいと思っていたけれど、心のどこかで、リラがいないことを寂しく思っていたのかもしれない。

 こんなこと、本人には絶対言えないけど。


「それでクリスティーナ、すぐに私の側近として働いてもらうことは出来ますか?もし、怪我などあれば言ってください。報告書を見た限り、洞窟の中に貴女も一緒にいたのでしょう?」

「はい、問題ありません。洞窟からは、魔法に巻き込まれる前に転移石で脱出しましたので」

「そう。それは何よりです」

「お気遣いありがとうございます」


 些細なことでも、私、私達のことを気に懸けてくださるシャーリーン様に感謝の念が絶えない。

 シャーリーン様は、孤児だった私とリラに、――おそらくオードリーとここにいないアリスも――生きる糧と目標を与えてくださった。優しさと温もりを教えてくださった。

 そのご恩に報いようと、ファームでのツラい訓練や環境に耐えて来た。お側で仕えることを目指して、多くの技術と知識を身につけてきた。

 私の全てをシャーリーン様に捧げるために。

 ようやく、その夢、願いが叶うことに、私は心と身体が喜びで震えた。


「それでは、そろそろお兄様に報告に参りましょうか」

「「「はい」」」


 私はできるだけ目立たないよう、慎ましい姿を装うと、先を歩くシャーリーン様の後ろをついていった。

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