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闘技大会 01

「あのぉ、クリスティーナ様。伺いたいことがありまして」


文官コースの教室で席に着いた早々、オーロラに声をかけられた。その後ろにはジョリエットとピオリアもいる。3人とは課題でいつも組んでいるので、クラスメイトの中では仲が良く、気さくに話をする関係であるけど今日は少し様子が違った。どこか遠慮がちな様子である。聞きづらい事なのでしょうけど、何でしょうか?

私は努めて平静を装い、笑顔で応えた。


「はい。何でしょうか、オーロラ様?」

「そのですね。もうすぐ『闘技大会』がありますよね?」


少し大きめの緊張したオーロラの言葉にクラスの空気が一変した。教室内に聞こえていた会話や笑い声、挨拶など全ての声が消え去った。全員が隠すことなく、興味深そうに私を見つめている。それだけでオーロラやクラスの皆が聞きたいことがわかった。

以前リラはジャクソンビルを圧倒した。武官見習いの中でトップクラスであったジャクソンビルに、一撃ももらうことなく倒したことで、それ以降リラは校内最強の称号を与えられている。その強さだけでなく、見た目の可愛らしさからファンは多い。皆が気にかけるのも当然でしょうね。


「ええ。毎年とても盛り上がると聞きました。楽しみですね」

「そうですね。

え~と、それでですね。リラ様は出場なさるのでしょうか?」

「リラですか?さぁ、どうでしょう?何も聞いていませんけど」

「あっ、あのぉ、クリスティーナ様から出場されるようお口添え願いませんか?」

「ぜ、是非ッ!」


ジョリエットとピオリアが力強く頼んできた。

3人が期待に目を輝かせて私を見てくる。いや、3人だけではない。周囲からも無言の圧力を感じる。

あまりの圧力に思わず怯んでしまった。


「え、え~と。聞いてはみますけど、――シャーリーン様の護衛もありますし・・・」

「そ、そうでしたわね。大事なお役目がありますわよね・・・」

「そうですね。王女様の護衛ですものね・・・」

「ええ。リラ様の勇姿が見られないのは残念ですけど。大事なお役目を投げ出すわけにはいきませんよね・・・」


目の前の3人だけではない。クラス全体が悲愴感に包まれた。言葉通り、空気が重く感じる。息苦しさすら感じた。

余程リラの戦う姿を見たかったようです。コースの違うオーロラ達にとっては滅多にない機会でしょうし、気持ちはわかりますけど。でもこれ程とは・・・。

結局その日文官コースは、一日中重く沈んだ雰囲気が漂っていた。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



放課後館に戻る途中、私はシャーリーン様に『闘技大会』の事を聞くことにした。

隣にはリラもいるし、取るに足らない面倒ごとは早く終わらせるに限る。何より、今日のような雰囲気が明日も続くのが嫌だった。何故か私に期待するような眼差しを、四方から四六時中向けられるのは煩わしかった。


「シャーリーン様、お伺いしたいことがあるのですけど」

「なんでしょう?」

「『闘技大会』に、リラは出場させるのでしょうか?」

「あら、どうして?」

「実は、クラスメイト達から聞いてきて欲しいと頼まれまして」

「シャーリーン様、私もクラスの友人達から尋ねられました。私はどうすべきでしょうか?」

「あら?リラは出場したいの?」

「いえ。その気はありません」

「そう。でしたら出場しなくても構いません。と言いますか、出場させるつもりはありません」

「わかりました」

「理由をお伺いしてもよろしいでしょうか?明日、クラスメイトに説明しなくてはなりませんから」

「だって、これ以上リラのファンが増えたら大変でしょう。ねぇ、クリスティーナ?」

「うッ」

「もしかしてティナに迷惑かけてる?」

「大丈夫ッ。そんなことはないからッ」

「そう。心配なだけですよね?」

「心配?大丈夫、心配しないで。前より人と話せるようになったし、友達も出来たから」

「ふふ。それが心配なのですよね、クリスティーナは」

「シャーリーン様ッ。

そ、それではクラスメイト達には、護衛の役目があるのでリラは出場出来ないと伝えておきます」

「ええ、それで構いません。リラも友人達にはそう答えてください。護衛という役割上、手の内を明かすことは出来ませんからね」

「はい。オードリーとアリスにもそのように伝えておきます」

「ええ。よろしく」



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



その日の夜、私はオードリーとアリスを呼び出して、シャーリーン様の意向を伝えた。


「そう。わかったわ。私も友人達から聞かれてたのよね。助かったわ」

「わかった」

「話はそれだけ――ではないわよね?リラもいるのだから」

「はい。お2人に聞きたいことがありまして。護衛をするにあたり、当日はどのような状況なのかと」

「そうね。礼官、武官、文官それぞれの発表の場があるのは知っているでしょうけど、今度の『闘技大会』が一番盛り上がるわね。やっぱり、派手――だからでしょうね」

「他の2つだって、開催する意味は十分あると思うが」

「それはそうでしょうけど。でも礼官の『給仕披露会』は、実質お相手探しの場になってますし。文官の『研究発表会』は専門的すぎるのよね。それに比べて『闘技大会』は誰でも楽しめるでしょ」

「それなら騒ぎに紛れてってこともありますね」

「うん」

「その辺はあまり気にしなくて良い。シャーリーン様は貴賓室でご覧いただくことになる」

「貴賓室――ですか?そのようなのがあるのですね?」

「ええ。アーノルド様が造らせたの。アーノルド様が入学した当時は貴族派の力が圧倒的だったから。それだけ危険が多かったようなの」

「対魔法と対物理の障壁が備わっているから、中にいる分には安全」

「先生達が設置したものだから、とても強力よ」


学校の先生達は生徒達を教えるだけではない。研究者という面も持ち合わせている。この国で最も優れている知識人とも言える存在である。そして学校は国が管理していることから、皆王族派である。だからこそ、貴賓室の安全性は信頼できると言える。少なくとも、学生程度の能力(ちから)ではどうしようもないはず。


「わかりました。それでは『闘技大会』を多少は楽しめそうですね」

「ええ。でも気を抜いては駄目よ、2人とも」

「「はい」」

「よろしい。でも残念ねアリス。今年は出場出来なくて」

「元々、今年は出るつもりはなかった」

「今年はって、去年は出てたのですか?」

「そうなの。ほら、シャーリーン様が入学されたのは今年からでしょ。去年は護衛とかなかったから。

でも、2回戦で負けちゃったのよね」

「仕方ない。相手は4年生の実力者だった。何より、シャーリーン様の護衛が決まっていた私が目立つわけにはいかない」

「あの、私すごい目立ってますけど・・・。良いのでしょうか?」

「問題ない。護衛が強者であることが認知されれば抑止力になる」

「そう。それにリラが強いことでシャーリーン様の評価が上がるのよ」

「でも、大勢の前で剣を振るったし。シャーリーン様が「手の内を見せたないように」って仰っていたでしょ」

「気にすることはない。リラの強みは戦いのセンスだ。技術を分析しただけではどうにもならない」

「そうなのですか?センスと言われても、自分ではよくわかりません」


そう言いつつも、アリスに褒められたリラは嬉しそうだった。その嬉しそうな顔を私に向けて来て、少しだけ心に引っかかりを覚える。昔みたいに、自分にだけ懐いていたリラはもういない。アリスやオードリーにも心を開くようになったし、友達もできた。

少しだけ寂しくなって、昔みたいに頭を撫でてみた。

驚いた表情を見せたけど、昔みたいに甘えた表情を見せてくれた。

昔と変わらない距離感でいることがわかって安心した。でもそれも一瞬だった。

すぐに手を払われてしまった。


「ちょっと!恥ずかしいから止めてよッ」


昔は私の気が済むまでまで撫でさせてくれたのに。恥ずかしそうに「まだ撫でるの?」とか「もうちょっと撫でて」と言っていたのに。

リラの成長が寂しかった。

私も成長しないといけないのでしょうけど、出来るのでしょうか?



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



翌朝、私が教室に入ると教室内の声が一斉に止んだ。

時が止まったかのように教室は静まりかえり、誰一人動こうとしなかった。ただ、目だけは私を追っている。その期待に満ちた輝く目に良心の呵責を覚える。

私は皆の視線を無視して、真っ直ぐオーロラ達の所へ向かった。


「ごきげんよう、オーロラ様、ジョリエット様、ピオリア様」

「「「ごきげんよう、クリスティーナ様」」」

いつもとは違う、緊張した声の挨拶が帰って来ました。昨日の返事が待ちきれないのが伝わってきます。ご要望に応えられないは残念ですけど、シャーリーン様が決められたことですから仕方ありません。


「その、昨日オーロラ様に尋ねられた件ですけど」

「ハッ、はい」

「護衛の役目上、リラは出場出来ないことになりました」

「まッ!」

「そんなッ!」

「なんてことッ!」


3人が驚きの声を上げる。いえ、3人だけではありません。クラス中の皆が驚きと悲嘆の声を上げています。いつもの貴族らしい上品な姿は振る舞いはなく、思いのまま嘆く者もいます。

そこまで悲しむものでしょうか?


「クリスティーナ様ッ」


周りの様子に驚いていると、ピオリア様が私の腕を掴んできました。怖いくらい目が血走っています。

いつもは快活ながらも優しげな雰囲気を纏ったピオリアが初めて見せる姿に、私だけでなくオーロラとジョリエットも気圧されてしまいました。


「なっ、何とかなりませんのッ!?」

「そ、その、も、申し訳ありません。何分、シャーリーン様が決められたことですし。理由も護衛という役目上のことですから・・・」

「そ、そうですか・・・。そう――ですよね」

「ピオリア様、残念ですけど仕方ありませんよ。護衛であるリラ様が王女様のお側を離れるわけにはいかないでしょうから」

「そうですわ。こればかりは、どうしようもありませんわ。諦めるほか・・・」


オーロラとジョリエットが宥めるようにピオリアを慰める。なんとなく自分自身に言い聞かせているような気がしましたけど、間違いではないはず。

それにしても、ピオリアがこれほどリラを気にかけているとは思いませんでした。リラのファンクラブの一員ではありますけど、普段はそれらしい様子は全く見せませんでしたのに。我を忘れるほど熱狂的とは思いませんでした。

もしかして、ファンクラブの人は皆このような感じなのでしょうか?大丈夫でしょうか?シャーリーン様が恨まれたりしないか心配です。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



こうして私達によってリラが『闘技大会』に出場しないことが伝えられたことで、多くの生徒が悲しみに暮れてしまった。校内のどこにいても、リラの勇姿が見られないことを嘆く声が聞こえてきた。

ただ、欠場を決めたのが王女であるシャーリーン様ため、食い下がることも文句を言うことも出来ず苦しんでいるようでした。

その一方で、リラが出場しないことを喜ぶ人もいた。『闘技大会』に出る者達は、校内最強と称されていたリラがいないことで安堵したようだった。その大半が「嫌われ者にならずに済んだ」という理由なのだけど。今やリラを敵に回すということは、全女生徒を敵に回すと同義である。万が一傷つけでもしたら、残りの学校生活を嫌われ、憎まれ続けながら過ごす羽目になるでしょう。下手したら、その後の人生もずっと。会場には、すぐに傷を癒やす治癒の魔法陣が設置されているのですけど、それとこれとは別だそうです。

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