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エージェント:パパラチアサファイア 01

 第2級貴族カルガリー邸でシャーリーン様の為に用意された部屋に、私達は集まっていた。

 公務で王都から西にあるカルガリー領にシャーリーン様が向かわれ、側近である私達も同行していた。公務自体は恙なく終わったのだけど、その最中に緊急の連絡が届けられた。


「お兄様から、緊急の連絡です。

 ゴート帝国の暗殺者が王国に密入国したようです。そしてターゲットは私だそうです」


 護衛達の間に緊張が走る。

 これまで他国は王国にとって不利益な事を多々行ってきたけど、王族を狙ったことは一度もなかった。正しくは、歯牙にかける必要がなかったと言って良いだろう。マリア王妃の件で多くの貴族に見限られて、王族は権力を失っていた。

 しかし現国王のチャールトンが王位に就いてから、少しずつ状況が変わってきている。自国を脅かす他国の暗躍や転生者の処分を徹底的に行うようになった。私とオードリーが関わった学校内での麻薬取引もその1つである。

 そしてゴート王国と言えば、先月王国西側に拠点を置いている密輸組織“フェンリルの牙”とゴート帝国の取引を、諜報局が急襲して潰している。犯人達の確保には至らなかったけど、密輸品の宝石の流出は防げたと報告されていた。


「それは、先日の諜報局が取引を潰したことに対しての報復でしょうか?」

「タイミングを考えれば間違いないでしょう」

「“フェンリルの牙”は今回の件に関わっているのですか?」

「お兄様からの手紙には何も書いていませんね。ただ暗殺者が王国に入って来たのです。証拠はありませんけど、サンノゼ家が関わっていることでしょう。そうでなければ、密入国などできませんから」


 密輸組織“フェンリルの牙”の実態が、第1級貴族サンノゼ家であることは周知の事実である。しかし、これまで王家の権力が弱かったことで何も出来ないでいた。そして何より、サンノゼ家と“フェンリルの牙”を結びつける証拠が全く摑むことが出来ないでいたため、今でも表だって動くことが出来ないでいる。先日の急襲でも早々に気づかれてしまい、犯人達には逃げられてしまっている。報告を聞く限り、宝石を取り戻せたのは運が良かった結果と言える。


「それで、アーノルド様はシャーリーン様の警護をどのようにお考えなのでしょうか?」

「10人ほど騎士を送ってくれたそうです。夜に到着するようです」

「今いる5人と合わせて15人ですか。暗殺者に関しての情報はありますでしょうか?名前、人数など」

「いえ。複数人とだけしか書いていませんね」

「わかりました。警護の強化をする必要がありますので、隊長に情報を伝えてきます。

 リラ、行きますよ」

「はい」

「アリス、よろしくね」


 アリスとリラが部屋から出て行った。今はアリスがシャーリーン様の護衛に関して全て仕切っている。1年先輩なのでまだ先だけど、私達より先に卒業していなくなる。その時、リラはアリスに代わって護衛を取り仕切れるのでしょうか?リラが仕切っている姿が想像できません。大丈夫かしら?戦いに関するセンスは素晴らしいのだけど・・・。


「私達はカルガリー様の所に行きしょうか。騎士達のための寝床と食事をお願いしませんと」



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 カルガリー家との朝食を手短に終わらせた後、シャーリーン様と共に近衛兵の元に向かった。

 王子様が送ってくださった騎士達は予定通り昨夜到着したらしく、部屋には随行していた5人の近衛兵と新しい10人の騎士、そしてアリスとリラが私達を出迎えた。シャーリーン様とカルガリー家の会食中に、王都までの警護に関する話し合いをしてもらっていた。


「お待ちしておりました、シャーリーン王女。

 早速ですが、王都までの警護について説明させていただきます」

「よろしくお願いします」


 今回の公務でシャーリーン様の護衛隊を率いた隊長が場を仕切って説明を始めた。


「まず暗殺者についてですが、5~10人と複数人。ただ正確な人数はわかりません。また王国で把握していない者が送られてきたそうです。これは合流した騎士からの情報です。

 続いて、アーノルド王子から伝言があるそうです」

「はい。王都への移動に関しては予定通り行うこと。時間とルートも変更なし。暗殺者を撃退して、王族の強さを示すようにとのことです」

「そうですか。わかりました。

 大変でしょうけど、よろしくお願いしますね」

「命に替えましてもシャーリーン王女をお守り致します故、どうかご安心を」

「ありがとうございます」


 部屋にいる騎士全員が、右拳を胸に当てる騎士の礼をとった。

 打ち合わせたわけでもないのに全員の動きが揃い、美しさすら覚える。それだけでここにいる騎士達が精鋭であることがわかる。


「それでは警護の説明に戻ります。

 先導は私と部下のエディンとバーグ、最後尾はウィチタとフォールズが務めます。合流していただいた騎士の方達には、馬車の側面を随行してもらいます。

 全体の指揮は私、アレンが執ります。ただし、戦闘時には私の部下が騎士の皆さんに指示をしますので、従ってください。

 それと敵の襲撃ですが、待ち伏せがセオリーです。私達を足止めして、逃げ道を塞ぐように囲んで襲撃する。ですので、怪しい気配がしたらその都度確認、場合によっては排除します。これに関しては騎士の方達だけでなく、シャーリーン王女もご理解ください」

「わかりました」

「それと馬車ですが、常に“対魔法障壁”を張っておいてください。遠距離からの魔法攻撃で、馬車を破壊されないように魔力を注いでください。側近の方達、よろしいですか?」

「「わかりました」」


 アレン隊長の指示に私とオードリーが返事をする。戦闘で護衛達の負担を少しでも軽くするため、緊急時以外では文官や礼官も積極的に警護に協力する必要があった。今回は襲撃されることがわかっているため、僅かでも気が抜けない。常時結界を作動させるのは大変だけど、これもシャーリーン様のためである。いつ、どこで、どのように襲われるかわからないのだから。


「それでは、シャーリーン様の荷物の積み込みが終わり次第出発します。

 行動開始!」


 アレン隊長の号令と共に、近衛兵と騎士の方達が一斉に動き出した。

 私達も立ち上がり、シャーリーン様の支度を調えようと部屋を出ようとしたところアリスに止められた。


「シャーリーン様、アレン隊長に相談したいことがあります。少しお待ちいただけますか?」

「構いませんよ」

「ありがとうございます。

 アレン隊長、警護のことで提案があります。襲撃された際、念の為にクリスティーナにシャーリーン様の身代わりを務めさてはと考えているのですが、いかがでしょうか?」

「クリスティーナとは?」

「はい。私です」

「う~ん。シャーリーン王女とは似てないようだが・・・」

「そこは、顔を隠してシャーリーン様の上着を羽織ることで誤魔化します。一瞬でも敵を惑わせれば良いですから。出来る手は打っておきたいと思いまして」

「そういうことなら構わない。ただし、護衛の者達がわからないようでは困る。シャーリーン様だとわかるようにしてもらわないと」

「それでしたら、靴ではどうでしょうか?シャーリーン様は黒のヒールですけど、クリスティーナは茶色のブーツを履いてます。これで見分けはつくでしょうか?」

「ふむ。それならば問題ないでしょう。わかりました。部下達には伝えておきましょう」

「ありがとうございます。シャーリーン様よろしくお願いします。オードリー、シャーリーン様の荷物から変装に使えそうな物を準備してください。クリスティーナ、よろしいですね?」

「はい」


 こうしてシャーリーン様の警護が決まり、準備が整うと私達は王都に向かって出立した。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 馬車が止まり、外から声がかけられた。


「前方に幌馬車が止まっています。安全確認のため、しばしお待ちください」


 馬車の前方にある小窓を開けてみると、道を塞ぐように幌馬車が止まっているのが見えた。アレン隊長の隣にいた2人の近衛兵が、馬車に向かって行く。


「車輪が1つ外れているようです。馬車の近くには男が2人見えます」


 隣で私と同じく小窓を覗いていたアリスが、シャーリーン様に状況を説明すると今度は私に顔を向けた。


「念の為、打ち合わせ通り変装を」


 私はアリスの指示に答えると、オードリーが用意したスカーフで頭を覆いケープを羽織った。知る人が見ればシャーリーン様ではないことはすぐわかるけど、顔を知らなければ身に纏った装いで勘違いさせられるでしょう。それに何かあれば、私がシャーリーン様の代わりに出て行くことになっている。

 変装が終わり再び小窓を覗くと、近衛兵の1人が馬を下りて男の1人に声をかけているようでした。


「あの男、下がりませんね。格好からは商人のようにみえますけど」

「暗殺者で間違いないでしょう。王家の旗を掲げた馬車の行く手を塞いでいるのに、平民が平然としていられるわけありません。

 それからクリスティーナ、近衛兵や騎士達、襲撃者の動き、全体の流れをしっかり覚えておくように。私が抜けた後、緊急時に指揮を執るのは貴女の役目です」

「私ですか?リラでは?」

「彼女の戦力は素晴らしいですけど、指揮するには不安が残ります。もちろん鍛えていくつもりですけど彼女次第です。貴女に役目を引き継いでもらうこともありえますので、しっかり学んでおいてください。リラをサポートするためにも」

「わかりました」


 突然アリスから思ってもいなかった役目を言い渡されてしまった。確かにアリスの言う通り、リラは戦闘面での能力は非常に高いけど、全体像を見ているようには思えない。おそらく本人もそれはわかっているはず。

 アリスは私に任せるかもと言いましたけど、そうはならないでしょう。リラは間違いなく指揮能力を身に着けます。私はサポートする役目に留まるでしょう。

 アリスの言葉に色々考えていると、近衛兵が剣を抜いて男に突きつけた。


「恐れている素振りは見せてます。ですけど、逃げません。決まりですね」


 アリスがそう言い終わったのと同時に、近衛兵が躊躇うことなく男を切り払った。声は聞こえないけど、これまで十分警告はしていたはず。下がることもひれ伏すこともしなかったのだ。仮に自国の平民だったとしても当然の結果と言える。

 もう1人の男が慌てた様子を見せると、幌馬車の中から男が2人飛び出した。


「幌馬車から男が2人出てきました。2人とも武器を持っています。

 一手遅いですね。出てきたところを、近衛兵が直ぐさま切り倒しました。残った男が隠していた武器を取り出したようです。挟みこむ形で、近衛兵が男に近づいていきます」


 アリスがシャーリーン様と私のために、状況を逐一説明していく。


「情報より襲撃者の人数が少ないですね。5~10人と言ってましたので、少なくともあと1人はいるはずです。おそらくですが、右側の林の中にいると思われます。あそこから魔法で援護するのか、数人でこの馬車を挟み込むつもりだったのか?どちらにしても、幌馬車から遠く離れた所で馬車を止めましたので、襲撃者の思惑は大きく外れたことでしょう。

 あとは、残った1人を捕獲できれば終わりです」


 男が近衛兵達を近づかせないように剣を振り回していますけど、逃げ腰のため、近衛兵は気にする素振りなく距離を詰めていきます。間合いに入ると、男が振り回した剣を近衛兵が叩き落としました。その衝撃で男も地面に倒れます。直ぐさまもう1人の近衛兵が男の武器を踏みつけて、反撃の機会を奪いました。


「男の武器を奪いましたので、あちらは問題ないでしょう。

 ですが、終わったと気が緩んだ時に襲われることもあります。覚えておくように」


 アリスから忠告を受けた時、馬車の外から怒号が響いてきた。


「敵襲!」


 驚いて小窓を覗くと、真っ黒な全身鎧を身につけた戦士が、残っていた男を庇うように近衛兵達と対峙していた。鞘から抜いた剣も鎧と同じく真っ黒で、剣と鎧で一対であるように見えた。

 新たに現れた鎧の襲撃者に近衛兵が斬りかかるも、片手の一振りで鎧を身につけた近衛兵を簡単に弾き飛ばしてしまった。体格からは信じられない膂力に、鎧の戦士の正体が頭に浮かぶ。


「もしかして転生者でしょうか?」

「その可能性が高い。シャーリーン様、暗殺者の中に転生者がいるようです。後はクリスティーナがシャーリーン様の身代わりになりますので、馬車の外には出ないようにしてください」


 私はアリスの言葉を聞き、急いで変装に取りかかる。

 その間に、アリスが馬車の外にいる騎士と今後の段取りを話していく。


「あっ、近衛兵が鎧の人の剣を叩き落としました」


 シャーリーン様が外の状況を説明してくださった。アリスが席を離れたことで外が見られるようになったらしい。他のことに集中しているので、シャーリーン様の説明はとても有り難い。


「近衛兵が斬りかかります。あッ、鎧で弾かれてしまいました。鎧の人が近衛兵に殴りました。

 どうしましょう?倒されてしまいました。

 商人風の男が林の方へ走って逃げていきます」


 どうやら、暗殺者の捕獲に失敗してしまったようです。逃がしてしまったのは残念ですけど、撃退できたので一安心といったところでしょうか。

 そう、私が気を緩めた時であった。先程アリスに忠告された事を愚かにも失念してしまった。


「来襲!来襲!」


 馬車の外から敵の接近を告げる怒号が聞こえた。慌てて小窓から外を見ると、剣を握った全身鎧の戦士が悠然とこちらに歩いてきている。

 待ち伏せによる襲撃は失敗に終わったのに、力尽くで決行するつもりでしょうか?


「この戦力差で、まだ続けるつもりでしょうか?」

「余程自身があるのでしょう。転生者の特徴通りです。剣を叩き落とされたことから、練度は高くないはず。転生者に多い、力任せの戦い方なら負けることはないです。

 ですが、馬車を攻撃されてはシャーリーン様に危険が生じます。クリスティーナ、外に出ますよ。

 シャーリーン様はここに残ってください。窓を閉めて、中にいることを悟られないようにお願いします」


 私は王族に見えるよう振る舞いながら馬車の外に出る。すぐ後ろにはアリスが従者のように控えている。

 アレン隊長の指揮の下、こちら側が臨戦態勢であるのにも関わらず、鎧の戦士は悠然と隙だらけの状態で近づいてきた。


「貴族は国を護り、民を守るための存在。どれだけ権力を持っても、国を支える民を傷つけて良いはずがない。まして、馬車が壊れて道を塞いでしまったのは運が悪かっただけ。それを助けてこその貴族だろう。道を塞いだのを気に入らない。たったそれだけで殺すなんて。

 その傲慢な思い上がり、俺が叩き直してやるッ!」


 鎧の戦士が剣を構えると、場違いな正義を吠えた。

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