第8話 渓谷への疾走と迫る戦闘の予感 ショウタ編
「南の渓谷地帯にグリードの群れが出現したと伝令があった!!」
アルドリック団長を追い、地走竜の厩を抜けた先。
校庭ほどの広さの四方を石壁に囲まれ、砂埃舞う広場に総勢50名ほどの者が整列している。
「グリード自体は大した脅威ではない!! だが、タイミングが悪かった!!戦ってるのは訓練中の新兵どもだ。伝令によると負傷者十二名、そのうち四人が既に重傷!! 複数のモンスターどもの生息域が重複しているため、乱入も予想しておけ!! 遊撃隊は装備が整ったものから先発、後詰めも準備を怠るな、急げ!!」
「了解!!」
石壁すらも震えるような大音量だ。
それだけでモンスターを蹴散らしそうな声を前に、しかしそこに狼狽える者は存在しない。
金属製の鎧を着こんだ者は長大な剣や大砲等の武装を携えつつ、看護服を思わせる軽装の鎧を着こんだ者らは包帯などが満載したカバンを手に、迷うことなく駆け出していく。
(・・・っと)
こちらに駆け寄ってくる救護兵を壁裏に隠れてやり過ごし、頃合いを見てショウタも駆け出した。
向かう先は、道すがら繋がれていた地走竜の元だ。
地走竜は、ダチョウを思わせるシルエットの全身を緑色の鱗が覆う地上生の竜だ。
ゲーム内でも移動用モンスターとして使われており、ある程度クエストを進めると解禁される要素だった。
辿り着いた厩には、兵士たちが乗ることのなかった地走竜が何頭か居残っている。
その中で、額に白い稲妻のような模様が入った竜をショウタは選んだ。
手綱を引くと、まるで長年連れ添った愛馬のようにショウタに身を寄せ低く喉を鳴らす。
あぶみに足を掛け鞍に腰を下ろすと、これまで生きてきた中で出会ったどんな乗り物よりもしっくりときた。
「よしよし・・・いい子だ」
目的地である南の渓谷は、拠点から破壊された旧村道を通り抜けた先にある。
ゲーム中のチュートリアルでもその道を通るように言われ、先ほどの兵士たちも皆その方向に走って行った。
しかし、ショウタはゲームに慣れた者特有のショートカット方法を知っている。
地走竜の腹を軽く蹴ると最初はゆっくり、やがて駆け出して拠点を囲う石壁が眼前にぐんぐんと迫ってくる。
激突すると思った刹那、地走竜が―――飛んだ。
まさしく飛翔するような跳躍を見せた竜は高い壁を乗り越え、石壁を支える崖へと着地する。
そのまま勢いを殺すことなく、跳ねるように切り立った崖を駆け下りていく。
ショウタは身を低く沈め、腰を浮かせて衝撃を殺す体勢を自然に取っていた。
頬が風を叩く感触、凄まじい勢いで通り過ぎていく空を背に、ショウタは眼前の景色を見ていない。
あるのは一つ、今から始まる獰猛な戦闘の予感だ。