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第7話 救難要請と団長の問いかけ ショウタ編

瞼越しに陽光が目を焼く。真っ赤に染まる視界、その眩しさにショウタは目を開く。

格子状に組まれた明り取りの木枠から、既に高く昇った太陽が室内を照らしている。


ゲームに慣れていないころ、モンスターに負けて戻ったときに嫌というほど見慣れた天井だ

そこは、ギガントハンターズでクエスト受注やアイテム整理など行うプレイヤー拠点だった。


黒檀を思わせる木材で組まれた壁際には雑多な武器が静置されている。

使い込まれて傷は目立ちながらも錆や真新しい汚れはなく、よく手入れされていることが見て取れる。

途中から黒檀から石材に壁が変わったところで、間接照明の松明が設置されていた。

今は昼間だから火は灯っていない。


ゲームだったらこの扉の前に団長が立っててクエスト受注するんだよな、と思ったところで扉が乱暴に開かれた。


「お、目を覚ましたか」


そこに現れたのは、ゲームと同じく団長だった。

現実の質感がある団長の存在に、ショウタは眩暈に似た感覚を覚える。

ゲームと違うのは、団長が頭に包帯を巻いていることだ。

真新しい傷なのか、今も血が滲んでいる。


「・・・ええ、はい。確かレッドバーナーを倒してそれで・・・」


「そういうことだな」


団長はショウタの傍の椅子に腰を下ろす。


「そしてここは俺たち第七兵団の宿所で、俺は団長を務めているアルドリックだ。体の調子はどうだ?」


「介抱して頂いてありがとうございます、おかげさまで痛いところなどはありません。ご迷惑をおかけしました」


「・・・なんだ、やけに丁寧なやつだな」


丁寧な所作と言葉遣いで礼を述べるショウタに、団長は何故か呆けたような表情を浮かべる。


「まあ、礼儀正しいのは悪いことじゃない。だがここは狩場だ。礼儀よりも刃が通る世界だぞ。」


近寄り、ショウタの肩を軽く叩く。

力を込めたようには見えなかったが、手足の生えた大木のような重量感がその手からは感じられた。


「お前、名前はなんと言う」


「ショウタと言います」


ショウタはギガントハンターズを本名でプレイしている。

そのため特に気にすることなく己の名前を口にした。


「変わった名前だな。それよりお前、どうやってレッドバーナーを倒したんだ?誰かと共闘してたんじゃないのか?」


「いえ、自分1人で倒しました。とにかく無我夢中で・・・ただ、バルカンブレードは一番使い慣れてる武器なんです」


「思った通り、同業者か。にしてもバルカンブレードが一番使い慣れてるか・・・随分と命知らずだな」


「そうなんですか?」


「ああ、あんな使い勝手の悪い武器を好んで使ってる奴なんて見たことないぞ」


現実のギガントハンターズにおいては、バルカンブレードは一番人気の武器だった。

攻略サイトでもおすすめ武器として紹介されていたため、特に深く考えずショウタは使っていた。


「あの武器は、確かに火力は高い。だがモンスターの脳天に刃物を突き立てるほど肉薄する上に、爆発するまでその場に留まらなければいけない。隙もでかいから、そこを圧し潰されることもある。命が惜しい奴は使わない武器だ」


アルドリックの言葉にショウタはなるほど、と思う。

確かにゲーム上ならば多少の被弾は問題ないし、負けたとしてもやり直しが聞く。

しかし現実に巨大なモンスターと戦うならば、人間など爪のひと薙ぎで胴体は両断され、炎の一息は肉を焼き焦がし、その巨躯に軽く伸し掛かられるだけで全身の骨が砕け散る。

なぜ現実の野生動物ハンティングで、人が銃を使うのかということだ。


「そうなんですね・・・大した怪我もなくて僕は運がよかったんですね」


値踏みするような視線と共に顎をさする団長から、ショウタは目をそらす。


「運がいい? そんな言葉で片づけられちゃこちとら商売あがったりだ。お前一体何者・・・」


アルドリックの言葉を遮るように法螺貝の音が拠点全域に響き渡る。


「おっと、このままゆっくりおしゃべりと言うわけには行かなくなったな」


アルドリックが椅子から立ち上がり、そばに置いていた太刀を手に取る。


「この音は?」


知っているが、ショウタはあえて聞く。


「救難要請の合図だ」


端的に言葉を切り、アルドリックはきびすを返す。

いかにも重そうな鉄の鎧を感じさせないような素早さで扉に駆け寄ると、そのまま走り去っていった。


「・・・」


これがゲームの通りなら、救難要請が来るということはそれだけ危険なモンスターが待ち構えているということだ。


自分はここで死ぬのかもしれない。

そのこと自体には不思議と何も感じない。

ただ、学校生活で顔を合わせるクラスメイトや教師の顔が浮かぶ。

自分がいなくなって、彼らはどうするんだろうか。


恋しくなったわけではない。

それはどちらかというと責任感のようなものだった。

しかし、それを塗りつぶすように先ほどの戦いの高揚感も思い出す。


しばしの思案。

結局ショウタは、団長のあとを追ってみることにした。


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