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第5話 宿屋の誘いとモンスター討伐への挑戦 アキラ編

店に案内されてほっと一息、簡素な木のテーブルの上ではこれまた木製のマグカップから湯気が立ち上っている。


一口すすると、ミントティーのような味がした。軒先に咲いていた花と似たような香りがしたので、ひょっとしたらあれを煎じたものかもしれない。


「というわけでラキア、改めてありがとう。命の恩人には店の中の商品どれか一つ無料でプレゼント・・・

と言いたいところだけど、そうもいかないの。私も商売があるからね」


頬の前で手を合わせ、媚びるような笑顔で小首をかしげる。


「い、いや。気にしなくていいぜ、欲しいものとか特に・・・」


まるでTVで見る早熟な子役のようだ、と逸らしたアキラの視線の先。

木製のカウンターの上に置かれている写真立てには、父母らしき大人に抱かれて幸せそうな笑顔を浮かべる子供の顔があった。

今よりだいぶ幼いが、その柔らかそうなオレンジ色の髪の毛と面影は・・・


「あ、それお父さんとお母さんよ。私はその頃の記憶ないんだけど、旅の写真屋さんがうちの商品と交換で撮ってくれたらしいわ」


なんでもないことのように続けるが、アキラはエイラの顔を見返すことが出来ない。

会話をどう続けていいものか、自分自身のコミュ力の低さに暗澹たる気分になる。


ふと、クラスメイトのショウタの顔が脳裏に浮かぶ。

あの陽キャラの代表みたいなあいつなら、こんなときでも会話をつなげて自然な笑顔を引き出すことが出来るのだろうか。

いるはずもない助けを求めて視線をさ迷わせるアキラの目が、ふと戸棚の上の小箱に止まる。


「ああ、あれね・・・」


黙り込むアキラを助け舟を出すかのように、エイラが小箱を手に取って持ってきた。

ガラス製の小窓がついたその箱の中には、黒曜石のような鉱石が収められている。

サイズ感といいデザインといいお洒落なインテリアのようだが、視認出来るほど色濃く立ち上る黒いオーラが全てを台無しにしている。


「・・・なんだこれ」


ギガントハンターズのゲーム内でも見たことがないアイテムだった。

好奇心よりも先に、不気味さが先行する。


「これを持ってると強力なモンスターをおびき寄せちゃうの。村の子供が訳も分からず拾ってきちゃって、その時は村中大騒ぎになったんだよね。で、この村じゃだれも持ちたがらないし、たまたま店にあったこれまた使い道がない封印用魔法具があったから、それに入れてずっとそのまま」


ああ、あれか。

引き寄せの香。

特定のモンスターをおびき寄せるシステムは存在し、ゲーム内ではテキストだけで説明されていた。


実物はこんな感じなのか、とアキラは合点がいく。

引き寄せの香には大きさや形状、色によってランクがあり、呼び出せるモンスターの強さが変わってくる。

エイラの手にあるそれは、ゲーム内の知識に照らし合わせるならば、かなり強めのモンスターを呼び出すことの出来るランクだった。


「なるほど・・・。それ、俺に譲ってくれないか?」


先ほどの戦闘中の高揚感を思い出す。

自在に、そして永遠に動けるんじゃないかと錯覚するような万能感は、まさしく自分自身がゲームのキャラクターになったかのようだった。


「え、なんでよ。命の恩人を危険にさらすような真似はできないでしょ」


「いや、俺なら大丈夫だよ。俺の強さ見ただろ?」


「見たけど、この石がおびき寄せるモンスターは別格。この村なんて数分で壊滅させちゃうようなのに遭遇しちゃうことだってあるんだから」


確かに引き寄せの香はいわゆるエンドコンテンツだった。

最初のころは苦戦したもんだな、と懐かしい気分になる。


「分かった。じゃあこうしよう。今後どんなモンスターに襲われても大丈夫って証明できれば気持ちよくその石を俺に譲れるだろ?」


少しの間逡巡するエイラ。

考え込むときの癖なのか、上唇を人差し指で弄びながら下唇を噛んでうつむ。

ややあって、アキラに向けられた視線には打算の色が光っていた。


「分かった。さっき来た森とは反対方向の岩山の通り道に、先月から居ついてしまったモンスターがいるの。そのせいで隣村との交流が絶たれてしまって。まずはそのモンスター退治をお願いできるかしら?岩山へは・・・」


村からモンスターが居ついている場所までの順路の説明を聞き、目的が明確になると途端に調子づくアキラ。


「お安い御用だぜ!」


早速モンスター退治に出かけようと意気揚々と出発しようとするアキラの服を掴んで制止するエイラ。


「ちょ、今からいくの? 今日はもう遅いし・・・」


と言いかけたところ、白髪交じりの女性が入店してきた。

浅黒く日焼けしつつ整った目鼻立ちは、若いころは美人と持てはやされたことが想像できる。

今はたっぷりと肉を蓄え、山盛りの果物が入った籠を携えた腕は現実のアキラよりも太く逞しい。


「お、見ない顔だねぇ」


いかにも近所の朗らかなおばさんと言った笑顔で、入店するなりアキラの存在に気づき興味津々の様子。


「あんた、ハンターだろ。いやいや隠さなくてもいいよ、その恰好を見れば一目瞭然だ。最近はモンスターの数が増えてきてんのにハンターの数は減る一方でサ。こんな小さな村にハンターが来るのは一体何年ぶりだろうねぇ」


「はぁ・・・」


アキラの苦手なタイプだ。


「あんた今晩この村に泊まるんだろ?だったらうちの宿屋に来なよ。ハンターのお客さんなんて久々だからね。最近行商人が来たばかりだから、魚もあるよ、魚も! もちろん海の魚さ!」


「いや、それはまだ・・・」


間近で喋っているのになんて声の大きさだ。

宿屋の女将は気安く肩を叩いてくる。

思わず助けを求めるように横を見やると、エイラがいたずらっぽい表情でこちらを眺めている。


「ちょうど良かったじゃない。おばさんの料理は美味しいって山の向こうにも評判なんだから」


「いや、俺はモンスターを・・・」


意に介さず。

善は急げといった感じで、女将はアキラの腕を掴み店を出ようとする。

それを見送りながらエイラがアキラに告げる。


「明日の朝また店に来て。渡したいものがあるから」


振り返ろうとしたが、想像以上に強い女将の力に引きずられたためにエイラの顔は見ることが出来なかった。

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