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第1話 現実(リアル)と見紛う異世界への転移 アキラ編

「うそだろ・・・マジかよこれ」


茫然と呟く彼の眼前には、見知らぬ森が広がっている。

昔テレビで見た密林のような、生命のうねりに満ちたその空間。

しかしその密林は、彼の知識の中にあるどの密林とも違っていた。

薄紫色にぼんやり発光する幹に、同じく発光する白い葉。

周囲からは虫とも獣ともつかぬ生き物の唸り声が響き、頭上を仰いで見れば、鬱蒼と茂る葉の隙間からは陽光らしきものが差し込んでいる。

差し込んだ日差しは湿った土と、そこかしこに生える赤い苔を切り裂くように照らしている。

その苔もまた、陽光とはまた別にそれ自体がぼんやりと発光している。


現実では見たこともない光景。

しかし単純に見たことのない光景ならば、彼は地球には自分が知らない光景があるんだな、とぼんやり驚く程度で終わっていただろう。

しかしそうはならない。

なぜなら彼―――アキラは、先ほどまで自分の部屋でPCモニターを眺めていたのだから。


===============================================



夜は深まり、星が瞬く静かな時間。街の灯りは遠くにぼんやりと輝き、夜風がカーテンをそっと揺らしている。

照明が落とされたアキラの部屋は薄暗く、PCモニターから発せられる光だけに照らされている。

PCモニターの中では、アキラが操作する戦士キャラクターが剣を振り回してモンスターと戦っていた。

静まり返った部屋の中、唯一聞こえるのはヘッドホンからの音漏れと、めまぐるしく動くゲームパッドのボタンを押す音だけだ。


「はは、そう来たか。まあでもこうなるよね。」

シンジは独り言を漏らしながら、キャラクターを操る。

学校から出された宿題はほったらかしだ。

そもそも学校の授業どころか、休み時間も机に突っ伏して寝てばかりだ。

学校生活よりも大事なことがある。

それがアキラにとっては部屋の中のPCモニターで繰り広げられる、巨大なモンスターとの戦いだ。

ギガントハンターズ。

このゲームはモンスターを狩ることだけではなく、他のチームを妨害することによって獲物を横取りすることも可能だ。

そういった対人要素も相まってEスポーツ大会も多く開催されており、世界中で人気を博している。

このギガントハンターズにおいて、彼は一流の戦士だ。

学校では目立たない彼も、ここでは別人のように自信に満ち溢れていた。

本来ならチームを組んで狩猟する強大なモンスターも、彼の手にかかればたった一人で討伐することは容易い。

・・・一緒に遊ぶ友達がいないからではない。


「へっ、いいもんね。1人で戦ったほうがモンスターのパターンも読みやすいし」


蒼い獅子を思わせるモンスターの巨大な爪がゲーム内の主人公に迫る。

しかしそれをアキラは完璧なタイミングで盾でいなし、返す刃でモンスターの頭を切り裂く。

致命傷を与えられたモンスターは大きくのけぞり、耳をつんざく絶叫で主人公を怯ませ―――ない。

絶叫による硬直すら回避モーションで避けたアキラは、そのまま大きく飛びあがって兜割りをモンスターの脳天に叩きこんだ。

トドメの一撃だ。

先ほどの絶叫とは違った、か細い悲鳴を上げてモンスターは倒れ伏した。

地響き、そしてゲーム内のスコアを示すリザルト画面へとモニター内は進んでいく。


もう何度となく繰り返した作業だ。

ゲーム内のクリアタイムランキング上位のアキラにとっては、目をつむっても思い出せる見飽きた画面。


だからこそ、そこから起きる異変はアキラにとって他の人間以上に驚くことだった。

画面が一瞬青白く閃き、大きくノイズが走る。

リザルトを示すはずの文字列は無茶苦茶な文字化けが並び、かつその文字列は有機的にうねり始める。


「なんだ? バグか?」


文字列はやがて、幾何学的な紋様を描き始めた。

まるで魔法陣のようだ、そう思った瞬間PCモニターがひと際強い光を放つ。

思わず閉じたアキラの瞼の向こう側で、それすらも貫く明滅が収まった後―――目を開くと、そこは異世界だった。


===============================================


異世界だ。

そうとしか形容できない。

以前VRゲームをやったことはあったがそんなものではない。

眼前の風景だけではなく、頬を撫でる風や土の匂いは、現実としか思えない。


「えっ、なに…?!」


アキラは混乱しながらも、周囲を見渡した。

見渡して周囲を認識するにつれて、アキラの混乱はより深まっていく。

見知らぬ風景だから、ではない。

むしろよく見知った・・・ひらたくいえば、先ほどまでPCモニター越しに見飽きたはずの風景だったからだ。

ここは、ゲームの中で何度も訪れたはずの場所。

だが、画面越しの風景とは明らかに違う。空気が違い、風が違い、全てがリアルだった。


「これって… まさか流行りのあれ?」


彼は自分の声が震えていることに気づいた。

手を見ると、そこにはいつもの自分の手ではなく、ゲーム内のキャラクターの手があった。

装備していたはずの武器も、しっかりと彼の手に握られている。


「これって・・・異世界転生、いや転移?」


アキラは立ち尽くすのみだった。


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