第84話 心置きなく巡礼しよう
袋を取り戻したシーリカ達は、三つ目のマサリ村へ向かうために街道を歩いている。変身の粉の効果が切れたリック達は、普段の姿に戻り、見つからないようにシーリカ達と少し距離をとって尾行する。
たまに街道ですれ違う人に元気に挨拶したりして、のんびりと三人は楽しそうに歩いていた。朝からミャンミャンが袋を無くしたことで、予定は狂ったが何とか暗くなる前にはマサリ村にはつけそうだ。陽が沈み始める時間になり、街道の先に小さい山が見えてきた。見えてきた山はリーコン山、マサリ村はリーコン山の麓にある。リーコン山に巡礼の最終目的地のニコールフン遺跡がある。
最後によるマサリ村は一番大きくて栄えている。また、今までの二つの村と違い、街道の脇に村があるのではなく、街道が村の真ん中を通っている。入り口からそのまま街道が、村のメインストリートになっていて、宿屋や酒場などが並んでいる。
街道をそのまま真っ直ぐいくとリーコン山へ入れる出入口があり、教会はリーコン山の入り口の手前にある横道に入った先にある。
「なんとか三つ目の村まで来ましたね」
「そうだね」
リックとソフィアはシーリカ達が、教会に入るまで確認しようと、村の中で尾行を続けている。
「ねぇシーリカ。見てみて! なんかやっているよ」
街道の脇に大きな人だかりができていて、興味を惹かれたミャンミャンがシーリカ様を呼びとめる。三人とも足を止めてその人だかりに向かっていく。リック達は近くの建物に隠れて様子をうかがう。
「何をしてるんだ?」
黒い服を来た人を中心にいて、何かの説明をしながら、売っているみたいだが、人の話し声がしてうまく聞き取れない。
「あっ!」
人だかりの中からシーリカ達が出てきた。売られていた物を買ったみたいで、三人で瓶を手に持って楽しそうにして再び歩き始めた。寄り道は一か所だけで三人は無事に教会へ到着した。他の村と同じで祈りを捧げ、今日はマサリ村で泊まる。
教会に入るのを見届けたリックとソフィアはこの村の宿屋に向かう。
「今日は道具袋、熱くないですか?!」
「そういえば…… これで明日は問題ないのかな」
「だといいですねえ」
リックは道具袋に手を当て、熱くなってないことを確認し、ホッと安堵の表情を浮かべ、ソフィアは彼を見て笑うのだった。
宿屋に向かうため二人は、教会から街道に戻ってきた、先ほどシーリカ達が何かを買った、黒い服の商人を囲む人だかりが見えてきた。
「えっ!? ちょっと! ソフィア!?」
ソフィアがリックの手を引いて、人だかりの方に連れて行く。
「リック…… ちょっと見ていいですか? 私…… 実はさっきから気になってて」
「実は…… 俺も!」
リックの答えを聞いてソフィアは嬉しそうにほほ笑む。リックもソフィアが自分と同じ気持ちだったのがうれしく笑う。二人は人波をかぎ分けて先頭までやってきた。
二人の前にはテーブルが一つ置かれ、その上には小さい瓶の中にピンク色の液体が、入ったものがずらっと並んでいる。黒いローブを着た白髪が混じった長い髪の中年女性が人だかりを抜けて来た二人に視線を向ける。女性は緑色の目をし目元のシワ多く、少し不気味な雰囲気をしていた。女性の雰囲気に釣られたのか、テーブルの周りの客は重苦しく緊張した空気が流れている。女性がソフィアを見ると優しく微笑む。
「そこのお姉さん。さぁ見て! みてみてみて! ここに出しますはかの有名な塗り薬……」
おばさんが威勢よくしゃべりはじめた。やや高い声で軽快にしゃべる様子は想像と違っていた。女性の軽快な口調に周りの緊張した空気が一気になごんでいく。女性の説明によると、このピンク色の液体はリーコガマと言われる、マサリ村周辺に生息する、白い小さいカエルの油を元に調合した疲労回復に効く塗り薬だという。
「ピンクで綺麗ですよ。リック」
瓶を見たソフィアがつぶやく、それを聞いていた女性は素早く反応する。
「あっ?! お兄さん。お連れさんかい!? チッ…… まぁいいや。ほら彼女欲しがってるよ。毎度あり!」
「えっ!? あっ! ちょっと!? まだ買うとは……」
「なに言ってんだい?! そこのかわいい彼女のためだろ!? 男がしみったれてないで買いなよ」
女性は少し不機嫌な顔で、素早く手を出してリックに小瓶を渡した…… というか無理矢理押し付けてきた。その様子をみたソフィアがリックの方を見てうれしそうに笑う。
「リック? 買ってくれるんですか?」
「もう、わかったよ! 一個だけだよ」
「ありがとうです」
「毎度ありー!」
リックは女性の迫力に負けて小瓶の塗り薬を買ってしまった。小瓶を受け取って金を払うリックだった。この後、リックに釣られて薬を買う人が出て来たので二人はその場からすぐに離れた。
「はいよ」
「わーい」
人だかりを抜けてすぐにリックはソフィアに渡した。嬉しそうに彼女は微笑む。ちゃんと効果があるかはわかないが、ソフィアが嬉しそうにしているのでリックは満足だった。
宿屋について食事を終えたリック達は、部屋で明日の予定の確認をする。シーリカ達は早朝に出発し、リーコン山の中腹にあるニコールフン遺跡に向かい、三つの札を納めて巡礼は完了となる。順調にいけば明日は帰り道のポックロ村で泊まることになるはずだ。
「うん? どうしたの?」
自分の袋からソフィアが、さっき買った小瓶をだして、手にもって嬉しそうにしてる。
「美味しいそうです」
「えっ!?」
「なんかピンク色で甘そうで……」
「あっ!? ノッソフィア! こら!」
ソフィアが瓶からピンク色の液体の薬を、手の上に出して口の近くまで持っていき、舌で薬をソフィアが舐めた……
「苦いです……」
瓶の中の薬を舐めたソフィアは、眉間にシワを寄せて舌をだし、薬を吐き出していた。
「もう…… 薬だから苦くて当たり前だよ。それにこれさっきのおばさんが塗り薬だって言ってたでしょ。口に入れたらダメでしょ」
「だって…… 美味しそうだから……」
「そのなんでも食べようとするのやめてよ」
「うぅ…… はい」
しょんぼりとしてソフィアがうつむいている。リックは少しかわいそうに思ったが、不用意になんでも口にし腹を壊したり毒だったら苦しむのソフィアなのでしっかりと注意する。
二人は明日の予定の確認を終えたリック達は眠りについた。翌朝、教会に向かう道の手前で二人はシーリカ達を待っていた。
「今日は山道で近くで尾行することになるから先に変身の粉を使って変身しておくよ」
「はい」
リックは変身の粉をソフィアに渡す。昨日、変に熱を持ったり光を出してないので大丈夫だと二人は安心しきっていた……
「えぇ!? なっなんで?」
変身の粉を振りかけると、リック達の体はまた熱くなってうっすらとした光を放つと、視線がさがって周りの建物などが大きくなっていく。
「またちっさいでしゅ!」
「はぁ…… しょうぎゃないね。あっシーリュカしゃま達が来た。きゃくれて」
教会からシーリカ様達がやってきた。リック達は近くの建物に身を潜めた。三人は楽しそうにリーコン山へと向かう。リーコン山は岩がむき出しの、あまり大きい木もない小さな山で、中腹に作られた神殿の残骸がニコールフン遺跡だ。
ミャンミャンとシーリカ並んであるき、犬とタンタンが後ろからついていくように歩いてリーコン山を登っていく。リック達は距離を取り気づかれないようにしゃがみながら進む。
三人は順調にニコールフン遺跡の前まで登ってきた。ニコールフン遺跡は石造りの小さい遺跡で、元は立派な神殿だったようだが、今は柱が数本と石でできた祭壇が残るだけにだった。神殿はグラント王国の建国のはるか前から存在し、このブロッサム平原を守る伝説の聖獣白銀狼を祀っていたたといわれている。
神殿の入り口には石でできた階段があり、三人はそこに腰掛けて休憩をしていた。
「あゎゎゎ! はぁはぁ……」
「大丈夫? シーリカ?! でも、私も疲れたわね。さすがに巡礼始まってから歩きどおしだしね。タンタンは?」
「僕も少し疲れたよ」
「ねぇ! 昨日買った疲労回復の薬をつかってみようよ」
「あゎゎゎ、いいですね」
ミャンミャンが袋の中から、昨日マサリ村で買った薬を出して足に塗り始めた。
「はぁ…… 気持ちいい! ほらタンタンも塗ってあげる」
「えっ!? 嫌だよ。自分でやるよ」
「いいから! お姉ちゃんにやらせなさい」
「わっ! わー」
タンタンを捕まえ、ミャンミャンが無理矢理に靴を脱がして、彼の足に薬を塗っている。ミャンミャンはすごい楽しそうだ。タンタンも途中までは嫌がっていたが、最後は素直に薬を塗られていた。
「はぁ! すーっとして気持ちいいね。お姉ちゃん」
「でしょう?」
「あゎゎゎ、私も塗ろうっと」
気持ちよさそうにしてる二人をみた、シーリカも慌てて靴を脱いで薬を足に塗りだした。
「あゎゎゎ! ほんとですね。すーっとして気持ちいい。これで元気いっぱいです! さぁ行きましょう」
休憩を終えて三人は、先に進むために立ち上がった。後はこの遺跡に札を納めれば巡礼は終わりだ。帰り道もあるので厳密には終わりではなく半分終わりというところだ。なお、リック達にはミランダへの報告などがあるので巡礼から戻っても仕事はある。
「なっ何これ!? タンタン!」
「おっお姉ちゃん!? ぼっぼく…… 足が動かないよ!」
慌てた様子でミャンミャンとタンタンが声をあげた。二人の足が灰色の石へと変わってく。
「リッキュ! ミャンミャンしゃんとタンタンしゃんがいしゅになってます」
二人の様子を見たシーリカは、慌てて魔法で回復しようと手を伸ばした。
「あゎゎ。ミャンミャン! タンタンさん! 待っててください。今助け…… あっ……」
しかし、魔法を唱えようとしたシーリカも、足から石になっていった。
「クチョ! 行くよ。ソフェア」
「はい。リッキュ」
リック達は三人がいる石段の前へとやって来た。三人は全身が石になり、恐怖におびえた表情のまま、動かなくなっていた。二人は階段を上って三人の元へ……
「邪魔をしないでいただけるかしら!」
リックとソフィアを遮るような強風が吹きつける。風によってリック達の足が止まると、何かが上空からシーリカ達の近くへとおりてきた。
「フフ! 石になってもシーリカ姉さまはやっぱりきれい。あら! こっちの二人も…… 綺麗ね! さっ行きましょう」
泉に居た女が突如現れて、石像となったシーリカを舐めるように見ている。
「待て! お前は何をしゅてる?」
「あらぁ!? あなた達は…… 昨日のガキどもね。だから邪魔をしないでって言ってるでしょ? 悪い子達ね!」
「お前がしゃん人を石にしゅたのか? 元にもどちぇ」
「いやよ! シーリカ姉さまは私の物なんだから」
女はなにやら呪文を唱え始めた。リックは階段を駆け上がり、ソフィアは弓を構えた。
「ガルルー!」
「痛-い! ちょっと何なのよ! 犬? 何よこいつは!?」
石像になったタンタンの、足元にいた子犬が牙をむいて女に飛び出した。子犬は女の足に食らいついた。苦痛の表情をした女は、ほうきで犬をはたいて、足から離れた犬を足蹴にする
「キュイーン!!!!!」
「あぶにゃい!!」
蹴られて犬が悲鳴を上げ吹き飛んでいった。リックは蹴られて、飛んだ犬のところまで走って行って、なんとか地面に落下する前に捕まえた。
「お犬しゃんにひどいきょとして! 許しゅましぇん」
ソフィアが弓で女を撃った。矢が女に向かって飛んでいく。女が手を前に出すと彼女の周りに、ピンク色の薄い光の魔法障壁が展開された。魔法障壁はどんどん大きくな広がっていき、飛んできたソフィアの矢を吹き飛ばした。
「うわ!?」
「キャッ!」
魔法障壁はどんどん大きくなって、リックとソフィアと犬は遺跡の外まで飛ばされたしまった。
「あなたたちは邪魔だから遺跡の外にいなさいね」
「まちぇ!」
「嫌よ。じゃあねぇ。バーイ!」
女はリック達に手を振ると振り返りミャンミャン達の元へ。石像になったミャンミャン達に女が手をかざすと、手から発せられた緑色の光に包まれて石が浮き上あがる。
そのまま浮き上がった石は女の後をついていく、女は微笑みを浮かべてニコールフン遺跡の中に入っていた。
「クチョ!! ソフェア大丈夫?」
「はい…… へいきゅでしゅ。リッキュお犬しゃんは?」
「うん。大丈夫ぢゃよ。念のため回復しちぇあげちぇ」
「はい」
リックは地面に子犬を置いて、ソフィアに託し魔法障壁の元へ向かう。
「ヂャメきゃ……」
魔法障壁にリックは、攻撃を加えてみるが、傷一つつかない。剣が魔法障壁に当たると手に衝撃が走ってしびれるだけだった。
「お犬しゃんの回復できました。リッキュ! 私がやってみます。しゃがってくだちゃい」
「わきゃっちゃ」
回復が終わったソフィアが、子犬を今度はリックに預けて魔法障壁の前に立った。リックは彼女の指示通り犬を抱えて距離をとった。ソフィアが手を前に出し、かすかに口を動かすと、彼女の手から魔法がはなたれて魔法障壁を攻撃した。青白い光の玉が障壁にぶつかって爆発する。白い煙が魔法障壁から上がり魔法がぶつかった場所が隠れる。
全てが壊れなくても、少しの穴でもあけば中へ入れるのだが……
「ダメでしゅ。強力な魔法でしゅね。私じゃ魔法障壁はこわしぇないでしゅ」
「うーん…… ソフィアでもダメか! それならイーノフさんなら…… でも呼びに行ってる時間は…… おい!? どうしたんだ?」
リックが抱いていた子犬が急に暴れだした。彼が手を緩めると子犬は地面に飛びおり、女が作った魔法障壁の手前に座った。
「うわぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!!!!!!!!!!!!!!!」
子犬が顔を空に向けて口を開いて遠吠えをする。その声はどんどん大きくなっていく。激しい音にリックとソフィアは耐え切れずに耳をふさぐ。
「えっ!?」
犬のすぐ前の魔法障壁に白い線のような亀裂が入っていく。亀裂が広がって蜘蛛の巣のような形になると犬は遠吠えをやめた。
「わう!」
遠吠えを終えた犬が、魔法障壁に体当たりをすると、ボロボロと魔法障壁が崩れて二十センチほどの穴が開いた。大人の二人なら通れない小さな穴だが子供の二人なら通れる。
「お犬しゃんがやりましゅたよ。これでしゅしゅめましゅね」
「よし。しゃきを急ごう。ソフェア」
駆け寄ってソフィアが犬を抱きかかえた。どことなく自信満々な表情をしたような子犬をソフィアが撫でてる。リックは撫でられる犬を見ながら、ソフィアでさえ破壊できなかった、魔法障壁を破壊した犬が何者なのか疑問に思っていた。




