第82話 どこにいったかな
「シーリカって幼い顔つきのくせに意外とおっきいんだね。あはは! プニプニでやわらかーい!」
「あゎゎゎ! あん! ミャンミャン! 揉まないでください。それに大きな声で大きいとか言わないでください! 恥ずかしいです」
「タンタン。おいでー。シーリカとお姉ちゃんと一緒にはいろうよ」
ミャンミャン達の楽しそうな会話に、リックの耳がピクンピクンと激しく動く。特に一緒に入ろうと言われたタンタンに嫉妬のようなうらやましいような感情が入り混じる。
「(こら! タンタン! ダメだ! そんなはしたないことはリックおにーちゃんが許しません)」
地面に座っているリックは、首を小さく横に振り眉間にシワを寄せた。
「ダメだよ! 僕はお犬がいるから……」
タンタンは少し恥ずかしそうにミャンミャンの提案を拒否する。
「(そうだ。きちんと断われてえらいぞタンタン。それでこそ我がグラント王国の紳士だ!)」
リックはタンタンの声に、大きくうなずいて右手の拳を、空に突き上げた。
「きょら! おちょなちくするですよ」
「うぅ……」
右手を突き上げたリックの後ろからソフィアが彼を注意する。リックはしょんぼりとうつむくのだった。リック達は水浴びをするシーリカ達を護衛するため、森から出ていくフリをして近くの茂みに身を隠していた。もちろん、リックはソフィアの監視され、水浴びをするシーリカ達に背を向けて座らされている。リックはものすごく振り返りたいが、ソフィアの手は常に青白く光り、怪しい動きをすれば即座に電撃の餌食となる。
「タンタン大丈夫だよ。その子犬は疲れて寝てるだけだから。ほら! だから来なよ。えーい!」
「あっ! お姉ちゃん! やっやめて!」
「あゎゎゎ、ミャンミャンさんそれは……」
悲鳴のようなタンタンの声が聞こえるリック。気になるが振り向くことはできない。
「やめてったら! わー! お姉ちゃん! ぼっ僕のパンツ返してーー!」
どうやらミャンミャンにより、タンタンは強引に脱がされたようだ。リックの耳がまたピクンピクンと小刻みに動く。
「いいから! いいから! ほらほら! 行けー」
「あっ! うわー!」
何かが水に落ちる音がし、続いてバシャバシャと水面を何かが暴れる音がする。
「あゎゎ。こら! ミャンミャン! タンタンさんをいじめたらいけませんよ。あん! タンタンさんくすぐったいですよ」
「シーリカ姉ちゃん! やわらかい! 気持ちいい」
「こらー! 二人で楽しんでずるいわよ! ほら! タンタン! お姉ちゃんのも」
「ちょっと…… お姉ちゃん! 苦しいよ挟まないで…… 両方からプニプニ……」
苦しそうでどこか嬉しそうな、タンタンの声が聞こえる。今度は、耳でなく体を大きく、震わせるリック。
「(なっなんだと!? タンタン! てめえ! 何に挟まれてるんだ!? 上か!? 上のプニプニか?! それとも下のプニプニか!?)」
我慢できなくなったリックは、前を向いたままソフィアに叫ぶ。
「ちょっと! なにが!? 起きちぇるの? ノレル! タンタンが大変みちゃいだけど! たしゅけにいかないと!」
「こっち見ちゃダメでしゅー! 大丈夫でしゅよ! タンタンしゃんがミャンミャンしゃんとシューリキャしゃまにお胸ではしゃまれてるだけでしゅ!」
愕然とした顔をするリックだった。彼はうつむいて静かに目をつむり拳をギュッと握りしめる。
「(タンタン…… うらやま! ちがう! そんなのタンタンには刺激が強すぎるだろ! はぁはぁ! くそ! 俺は…… 俺は…… 行くぞ! そうだ! 男には死ぬとわかっていても! やらなきゃいけない時が…… あるんだーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!)」
顔をあげたリックは素早く立ち上がり、泉の方へ向かうために体を回転……
「ぎゅあーーーーーーーーー!!!!!!!!」
回転しようとリックは即座に電撃を浴びされたのだった。
「こっちむいちゃダメっちぇ! いっちゃでしょ!」
「ごめんなしゃい! ソフェア…… たしゅけて…… ビリビリ……」
振り向こうとするたびに、電撃魔法がリックを襲う。仮に電撃を突破したとしても、リックはソフィアが泣いたらやめるだろう。つまり彼が、どんなに強い心を持っても、ソフィアにはかなわないのだ。
「くっ……」
膝をついて悔しそうにするリック。頬を膨らましたソフィアが彼の横に来て腰に手を当てている。
「もうちょうがないでしゅね、そんにゃに女の子のお胸にはしゃまれちゃいなら! あい! どーじょ!」
ソフィアがリックの前で両手を広げ、抱き着いて来いってアピールをした。リックは小さいソフィアでも抱き着くのは恥ずかしい。それに今のソフィアの胸では彼は挟めない……
「はやきゅ! きなちゃい!」
「いやぢゃよ! えっ!? ソッソフェア……」
「ふぇぇぇぇん!」
ソフィアが泣き出してしまった。リックは手を広げた。
「はい。おいぢぇ」
「わーい」
嬉しそうに泣き止んだソフィアがリックに抱き着いてくる。手を首にまわしてソフィアがリックをぎゅーってしてくる。少し苦しくていつもと違って少しソフィアは硬くて、抱き心地は正直よくない、だが、リックはソフィアとくっついていると、不思議とすごい安心して落ち着くのだった。
「あっ! あなた達! 何をやってるの!?」
「あゎゎゎゎ…… おおませさん達ですね……」
「ふにぇ!?」
声がして慌ててソフィアがリックから離れる。声の方を振り向くと茂みの上から、ミャンミャン達が抱き合う、リックとソフィアを覗いていた。
「まったく着替えてる時に音がするから来てみたら…… あれ? あなたたちはさっきの子たちよね!? 帰ったんじゃ?」
「あっあにょ…… みちゅにまよっちぇ!」
「あゎゎゎ、それなら一緒に泉の外に行きましょう」
「ふーん……」
慌てて言い訳をするリック達を、ミャンミャンが細い目をして上から見つめている。普段は自分より小さい人を見上げるリックは変な感じがした。
「本当に!? 道に迷ったの?」
「うっうん」
「お姉ちゃんたちのこと、覗きに来たんじゃないの!?」
「えっ!? しょっしょんなことしないよ!」
ミャンミャンが前かかがみになって、リックの目を見て詰め寄ってくる。必死に首を横に振るリック、ミャンミャンの目は鋭くて怖かった。彼は確かに覗いていない、覗けなかっただけだが……
「あゎゎゎ! ミャンミャン! この子が怖がってるますよ。やめてください」
「えぇ!? だってさ。シーリカ! みてこの子。プルプルしてかわいいんだもん」
「あゎゎゎ! ミャンミャン! やめなさい。嫌がってますよ」
「ほら。ほっぺプニプニしてる! かーわーいい!」
ミャンミャンの怖い顔が急にほころぶと、リックを抱きしめた彼女は、頬ずりをする。ミャンミャンのほっぺたは柔らかく唇が近くてリックは顔を赤くする。必死に手を伸ばしてミャンミャンをはなそうするリック、なぜなら何よりもソフィアが頬ずりされている彼をジッと睨んでいたからだ。リックにはこっちの方が恐怖だった。
「リッキュゥ」
「うぅ…… ソフェア…… ちぎゃう」
「うん? ねぇ! …… あなたたちの名前を聞いて無かったよね? 教えてくれる?」
リック達に名前を聞くミャンミャン。二人は名前を聞かれるとは想定しなく動揺する。あわあわするソフィアの横で、リックは必死に頭を巡らせる。ハッとひらめいたリックは近くに落ちていた枝を拾う。
「えっ!? あなた字がかけるの? すごーい!」
「お姉ちゃんより頭良いね」
「タンタン! 怒るわよ」
小さくなってうまくしゃべれないので、リックは地面に適当な枝を使って名前を書いていく。ソフィアは途中で気づいたみたいで、リックの顔をみてコクコクと頷いている。
「シーリカ、これ読める?」
ミャンミャンは地面に書かれた、リックの文字を指してシーリカに尋ねる。
「あゎゎゎ! これは…… エルザ? それにロバート?」
「そう。僕はロバーチョ! こっちの子はエリュザだよ」
「えっ!? エッエリュザでしゅ」
リックは自分達をロバートとエルザと名乗った。実は最初に彼が頭に浮かんだのは、アイリスとスラムンだったが、それだと彼がスラムンになってしまうので却下した。
「ふーん。なんかさっきと呼び名が違う気がするけど?」
「えっ? しょれは……」
ミャンミャンに尋ねられて、困っているとシーリカが彼女を止める。
「あゎゎゎ。ミャンミャン。子供にあんまりいろいろ聞いたらかわいそうですよ。それにこの子たちは恩人ですよ」
「シーリカお姉ちゃんの言うと通りだよ」
「あぁ。そうだね。ごめんね、あなた達! さっいこっか」
ミャンミャンはリック達を送っていく。とりあえず二人はガザマール村の入り口まで送ってもらうことにした。リックはミャンミャンに手を引かれて、ソフィアはシーリカと手をつないでいる。タンタンは少し後ろで子犬を抱いて歩いていた。
「ねぇ? あなたとあのエルザって子は?」
「おちょもだちだよ」
「ふーん!? あなたはあの子こと好き?」
「えっ!? あっあの……」
急にソフィアのことを、好きかと聞かれて、変に動揺するリックだった。またミャンミャンは、リックのことを不思議そうに見てる。とっさにリックは子供らしく、無邪気に答えることにした……
「だいしゅきだお! ちょうらいけっきょんするー」
「はぁ!? もう…… いい? あなた! あなたはいい男になりそうなんだから。エルフなんかにたぶらかされたらダメよ。私の知り合いも一人いてね…… 胸でかい…… すぐにイチャつく……」
リックがあえて無邪気に答えたのに、ミャンミャンはなぜか熱くなり顔を近づけ真剣に語り始めた。子供相手の発言とは、思えない言葉にリックは逆らうと、めんどくさいと思い何も言わずにただ黙って聞いていた。ちなみにミャンミャンの言う、エルフ相手にたぶらかされた男は彼のことだが、ソフィアにたぶらかされていると思っていないので、自覚はなくリックはミャンミャンが誰のことを言ってるのか本気で不思議だった。
泉を出て村の入り口まで、リックとソフィアはミャンミャン達と一緒に戻ってきた。
「ほんとうに、ここまでで平気? お家まで送るよ?」
「はい。大丈夫でしゅ」
「はっはい。村にゃら迷いませんから。いきょうエリュザ」
リック達はミャンミャン達に手を振ってガザマール村に中へ入った。村に入ってすぐに入り口から見えない家の影に移動し様子をうかがう。リック達を送ったミャンミャン達は次の目的地に向かう。ホッと二人は胸を撫でおろし互いに顔を見詰める。
「危なきゃっちゃね。ソフェア」
「はい。気を付けましょう」
「ちゃんと戻れりゅきゃな……」
「しょれは……」
リック達は元の姿に戻れるか不安だった。変身の粉の効果は五時間ほどでもうすぐ切れる、もう一度使えば変身し自分の姿に戻すこともできるが、不安定な動作をした道具をまた使う気にはなれなかった。
「うっ…… リッキュ…… 体ぎゃ」
「おっ俺も……」
二人の体が熱くなり白い光に包まれた。すぐに光は消えそこには……
「リックの大きさが戻りました」
「ほんとだ。ソフィアも元に戻ってるよ。よかった」
ソフィアがリックの顔を、覗き込んで嬉しそうにしていた。二人の体は元に戻った。
「ちっさいリックはかわいかったから少し残念です」
「えっ!? もう…… やめてよ」
リックの頭を撫でながらソフィアが残念そうにする。リックは首を大きく横に振るのだった。
「のんびりしてないで早くシーリカ達を追いかけよう」
「はい」
二人はテレポートボールを使ってシーリカ達を追いかける。次の目的地はポックロ村という村で、ブロッサム平原の入り口からニコールフン遺跡までのちょうど中間にある村だ。三つの村の中で一番小さく教会と数件の民家で構成されてる。
リック達はテレポートボールでポックロ村に先回りし、ガザマール村の時と同様に街道を王都方面に戻っていく。
「あっ! シーリカ様達ですよ」
ソフィアがシーリカ達を見つけて声をだした。リックは彼女が指した方へ視線を向ける。五人の人間達にシーリカが囲まれている。
「まずいな。よし。行こう。はい。ソフィア変身の粉だよ!」
「また昔になりますかね!?」
「わかんないけど。やるしかない」
リック達は体に変身の粉をふりかける。すぐに二人の体が光り始める。子供になった時と違い体は熱くならずに視界の変化もない。どうやら問題なく変身できたようだ……
「ソフィア。頭! 頭!」
「ふぇ?! 頭が爆発してます!」
ソフィアの頭が紫色でモコモコチリチリになり、顔も何故かほりが深く濃くなり、肌の色も褐色になっていた…… 彼女は自分の頭に手を当て触りながらリックを不思議そうに見ている。
「リックも頭が……」
「俺もって?! どうなってる?」
「髪が長くて女の子みたいです」
「えぇ!?」
肩に視線を向けるリック、肩から胸の辺りに水色の長い髪が垂れているのが見える。近くにあった水たまりで自分の顔をみると目が丸くなり女性のような顔に代わっていた。彼は念のため、自分の股間に手を当ててみたが、変化はなかった。見た目だけが女の子にみたいになってるみただった。
「私はこんな姿想像してないです……」
「俺もそうだよ……」
変身の粉は自分のなりたい姿を思い浮かべると、その姿に近い姿になるがリック達はこんな姿は想像していない。さきほどは体が小さくなったりと朝から変身の粉の調子が悪いようだ。だが、とにかく今は自分の容姿を気にしている場合ではない。
「とにかく行くよ。ソフィア」
「はい」
リックとソフィアはシーリカ達の元へ駆け出した。
「さっさと! 金をだせって言ってんだろ!」
大きな声で金を要求する声が街道に響くしてる。男たちは街道に巣食う盗賊のようだ。男達は毛皮の鎧をつけ、四人は革の帽子だが、一人だけ骨の角が両脇に生えた兜をつけている。真ん中にいる兜の男が大きな声をあげシーリカ達を脅している。彼がリーダーのようだ。
「ちょっと! 私の友達に手をだしたら許さなんだからね」
「あゎゎゎ! ミャンミャン! ムチャをしないでください」
「シーリカ、大丈夫よ! 私だってこれくらい!」
前に出てシーリカを、かばうようにしてミャンミャンが、鎌を構える。
「なんだぁ! お前は!」
兜の男が手に持った棍棒でミャンミャンに殴りかかる。キラッと鎌の刃の光がリックに見えた…… 次の瞬間にはコロコロと兜の男が持っていた棍棒が真っ二つになって転がっている。さらに兜の男の角も二本とも落ちて地面にささっている。
「ひぃ! なんだこの女!? 逃げろ!」
落ちた角を見た兜の男は、悲鳴をあげ逃げ出すと、他の盗賊達も続く。
「逃がさないんだから! お仕置きよ! えい」
ミャンミャンの鎌が紫色に光り伸びていく。笑顔でミャンミャンは鎌を横に構える。シーリカとタンタンの方に鎌がむかっていき二人は慌ててしゃがむ。ミャンミャンは鎌を回転させ刃の部分が当たらないようにして、逃げる盗賊たちの足元に横に振ると次々に男達を転ばしていく。
「あゎゎゎ。ミャンミャンすごいです」
「任せてよ! 私だってもうすぐ中級冒険者なんだから! ココだって私の才能に驚愕……」
「ウソだ! ココお姉ちゃんはまだまだすぐ調子に乗ってダメだって言ってたもん」
「うるさいわよ! タンタン!」
リックとソフィアは飛び出していったのが、ミャンミャンが全員を倒してしまったので、走るのを止めると歩いて旅人のフリをする。急に反転すると怪しまれるので、王都方面に歩いていたリック達はとりあえずそのままシーリカ達とすれ違う。
すれ違った瞬間、リック達をミャンミャン達は不思議そうに見てた。
「ふぇ!? ミャンミャンさんが一人で倒しちゃいましたね」
「そうだね。とりあえず、ソフィア! 全員逮捕かな。全員盗賊みたいだし」
「はい」
ミャンミャン達とすれ違い、見えなくなるのを確認した、リック達は盗賊達を縛り上げた。二人は王都に移送するための応援を呼びに一旦詰め所に戻る。戻ったリック達の姿を見たカルロスやメリッサが笑いをこらえているのがわかった。
カルロスに変身の粉が不調なことをリックは伝えたが、すぐに対応できるかわからないが一応ココに連絡してくれるとのことだった。リック達はまたすぐにテレポートボールで戻って、村に入ったシーリカが教会に入ったことを確認するのだった。
昨日と同様で札に祈りを捧げた後はこのまま教会に泊まる。リック達もこのポックロ村で宿泊することになった。ソフィアと二人で宿屋に向かって歩く。
「あっつ! また道具袋が……」
「そういえば…… 昨日もシーリカ様が教会に入ってから……」
「そうだ! 教会でお札にお祈りをするんだよね。きっとまだ祈ってる」
「まっまさか?! 全滅聖女の力が……」
ソフィアの言葉にリックの背筋は寒くなる。
「いや。いくら全滅聖女デスシーリカだからって祈って魔法道具に影響なんて……」
「この間ミャンミャンさんが持ってきた、お守りでキラーサーベルウルフさんやヴァリアントオウルさんが出ましたよ」
話を聞いたリックは何かを振り払うように大きく首を横にする。全滅聖女の力をもってすれば、冒険者ギルドの道具に悪影響を与えることなどは、造作もないことは理解していたがリックは認めたくなかった。
翌朝。リックとソフィアは建物の陰から教会をのぞく。教会から出て来たシーリカ達、すぐにミャンミャンが必死に自分の体をまさぐっていた。リック達はジッとその様子を見つめていると……
「あゎゎゎゎ。ミャンミャン! 袋を落としたですって!? どうするんですか? あの中には旅の資金と何よりガザマール村で祈ったお札が……」
教会の前でシュンとしたミャンミャンに、珍しくシーリカが叫びながら詰め寄るのだった。




