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一兵卒だけど無双する ~ 最強の王国兵士、勇者も姫騎士も冒険者もみんな俺が守る! ~  作者: ネコ軍団
冒険者編 エピソード3

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第80話 どこへ行くのかな

 東の草原を歩いて夜が明け始めるころには、以前にリック達が盗賊と戦った東の砦が見てくる。少し小高い山の上に立った砦が朝日に照らされて、灰色の壁た少しオレンジに照らされて優しく光っている。


「夜も明けたし、そろそろシーリカ様達も出発したかな」


 東の砦の小高い丘の下に走る、街道をさらに行くと、看板が立っていてブロッサム平原へと入った。王都と平原をつなぐ街道の横に木の看板が立って、ここからブロッサム平原と書いてあるだけなので風景はほとんど変わらない。

 ブロッサム平原に入って少し経つと、薄暗かった平原も日が昇って明るくなっていた。


「ふわぁ! ようやく目がぱっちりです」

「ははっ。よかったね」


 目が完全にさめてきたのか、ソフィアがリックより前に駆けだしていき、腕を空に向けて伸ばした。大きく伸びをしたソフィアが朝日を浴びている。銀色の髪が赤く光って綺麗に見える。


「リックー」

「えっ?! うっうん」


 振り向いたソフィアがリックに向かって手をだして笑顔で近づいて来た。これはリックと手をつなぎたいという彼女の合図である。リックは少し恥ずかしかったが、早朝の平原は人通りはほぼないため彼はソフィアの手をそっと握った。


「うれしいです」


 朝日を浴び、少し赤みを帯びたソフィアが、リックにほほ笑みかける。平原の街道で二人は手をつないで歩く。もう少し行くとブロッサム平原の分かれ道だ。分かれ道が最初の目的地となる。


「ありましたよ。あれが首つりの木(ハンギングツリー)ですよ」


 ソフィアが街道の横に生える木を指した。彼女が指したのは、平原には珍しい大きな幹の背の高い木だった。首つりの木(ハンギングツリー)と名づけられたこの大きな木が分かれ道の目印となっている。

 この木の名前の由来は、大昔に王都にせめてきた敵軍の将兵を威嚇するために、殺害した捕虜の首に縄を付けてつるしたとからだと言われている。周囲には草しか生えない平原で、木がここまで大きくなったのは、縄が腐って落ちた死体から栄養を取っていたからなんて言われてる……

 首つりの木(ハンギングツリー)の目の前で街道は二手に分かれている。右に進むと巡礼の最初の目的地ガザマール村、左に行くと船乗りの洞窟へと行ける。最初の巡礼の手助けは、ここで待機して巡礼の正しい道を教えることだった。


「地図もあるしミャンミャンとタンタンは冒険者だよ。二つの分かれ道で待機する必要あるのかな」

「そんなこと言っちゃダメですよ。任務なんですから」

「わかってるよ」


 リックのぼやきを注意するソフィア、二人は首つりの木(ハンギングツリー)の近くで待機するのだった。


「そろそろ準備するよ」

「はーい」


 首つりの木(ハンギングツリー)の横にある、花が群生している場所で、無邪気にチョウチョを追いかけてるソフィアに声をかけるリック。近づいて来たソフィアに、リックは道具袋から、変身の粉の入った瓶を取り出して渡す。変身の粉は文字通り姿を変えてくれる魔法道具だ。ちなみにココが一回の使用量を小分けにして瓶に詰めてくれていた。使い方は蓋を開けて自分の振りかける時に、どんな顔に想像するだけで良い。


「それじゃあソフィア! 変身の粉を…… ちょっと! ダメ!」


 舌を出してソフィアが瓶から、手に出した変身の粉をなめようとしており、慌ててリックが止めた。


「ソフィア!」

「べぇ…… 苦いです!」


 しかし、止めるの間に合わずにソフィアは変身の粉を舐めてしまった。ソフィアは目をつむって口をあけて眉間にシワを寄せた。


「何でも口に入れちゃダメだよ! もう!」

「だって…… サラサラして薄ピンク色してたから甘いと思ったです……」

「そのなんでも甘いと思うのやめなよ! これは体にかけるの」

「ふぇぇ……」


 シュンとしてソフィアは、渋々瓶のを頭の上にかざし、粉を頭から振りかける。なお、このシュンとしているのは、リックに叱られたことじゃなくて、変身の粉が苦かったことに対してだ。

 リックもソフィアと同様に、瓶のふたを外して頭から粉を振りかける。


「ふぇぇぇぇー!?」

「うわ!」


 リックとソフィアの体から、やわらかな白い光が出てきて全身を包みこんでいく。白い光は全身を包むとすぐにおさまる。


「リックが髪がイーノフさんみたいで…… 顔はメリッサさんみたいです」

「えっ!? ソフィアも髪が緑でアイリスみたいだよ!」


 リックは金髪で瞳が青くなって、顔つきが少しきつくなり、ソフィアは髪が緑で目の色が黒くなって、目つきがよりまるくなってエルフのアイリスみたいになっていた。


「これで大丈夫ですね」

「そっそうかな」


 リックの顔を覗き込み、ソフィアは自信満々な顔する。だが、リックは少し心配だった。ソフィアはエルフのままでなんとなく面影が残っていたからだ。

 心配するリックをよそに、王都の方面の街道に三人の人影が見えて来た。


「シーリカ様達がきましたよ、リック!」

「うん、とりあえず旅人の夫婦のフリをして、木の近くで休んでいるように見せるからね」

「はいです。リック!」


 リックとソフィアは木陰で、休んでいるかのように根元に腰掛け。シーリカ達の様子をうかがう。シーリカ達三人は仲良く横に並んで歩いていた。三人の右側を歩くミャンミャンで、真ん中シーリカで、タンタンは左側だった。シーリカの神官服の袖口から覗く手袋には装甲がついていた。エドガーの店で試着した鎧を装備しているようだ。また、彼女の腰には護身用であろう短剣がさしてあった。

 あんまりジッと見てると怪しまれるので、リック達はこっそりと目線をミャンミャンたちに送りながら行動を確認する。地図を見ながらミャンミャンが歩いてくる。曲がり角に差し掛かった彼女は少し考えて周りを見渡していた。

 今はこの街道を行き交う人はなく人はリック達しかいない。ミャンミャンはリック達が木の下にいるのをみると、シーリカ様と何かを話して近づいてくる。

 

「あの人たちは夫婦かしらね? シーリカ」

「あゎゎゎ、なんでしょうね? エルフ女性と人間の男性の組み合わせをみると……」

「わかる! シーリカ! なんかその組み合わせってみるとイライラするよね」


 大きくうなずいて笑顔のシーリカとミャンミャンだった。


「(声がでかいよ…… ミャンミャン! 失礼でしょ! 俺達だからいいけどさ…… もし同じ組み合わせの人見ても絶対に言っちゃダメだぞ)」


 リックはミャンミャンの行動に、あきれながらそっと様子を見守っている。ミャンミャンは一人で、リック達に近づいて来て、リックに声をかける。


「すいませーん! ちょっとお聞きしていいですか?」

「なんだい? お嬢さん」

「私達はガザマール村に行きたいんですけど、この分かれ道はどっちに行けばいいですか?」

「えっと…… 街道のあそこの分かれ道を右に行くんだよ」

「ありがとうございます! あれ?」


 じんわりと汗をかくリック、ミャンミャンが彼の顔をジーッと覗き込んで来たのだ。正体がいきなりバレたのかと思い、リックの心臓の鼓動が速くなっていく。


「えっと、おにいさん…… どこかで私と会ってません? こっちのお姉さんも?」

「そうかなぁ? 俺は知らないなぁ…… なぁ?」

「私も知らないですよねぇ」

「ふーん!」

「あゎゎゎ! ミャンミャン! どうですか!? わかりましたか?」

「ごめん! シーリカ! わかったよ! じゃあ、ありがとうございました」


 ミャンミャンはリック達にお礼を言うと、シーリカとタンタン達の元へと戻っていった。


「ふぅ……」

「ふぇぇぇ…… ミャンミャンさんに疑われましたね」

「うん。危なかったね。でも、これで道がわかったから俺達は先に……」


 リックは一行の様子を見ていた。ちゃんとリック達が教えた右に曲がるはず……


「おい!」


 道を聞いてきたミャンミャンが、先導して左に曲がっていく。


「リック! ミャンミャンさん達がいきなり道を間違えてますよ」

「くそ! ソフィア! 追いかけるよ」


 リック達は慌ててシーリカ達を追いかけて声をかけた。


「ちょっと君達! こっち! こっちだよ! ガザマール村は! さっき教えただろ?」

「えっ?! さっきあなたに聞いたんだけど…… 地図にガザマール村はこっちって書いてあるから…… 地図の方を信頼……」

「もう…… お姉ちゃん! だから僕は違うって言ったじゃん」

「ちょっと何よ?! タンタン! もうだってほら! 見てくださいよ! 地図に」


 ちょっとムッとした顔でミャンミャンが、地図を前に突き出してリックに見せてくる。地図は左端に紐を通して数枚にまとめられていた。小さい王国の地図を地域ごとにまとめて持ってるようだ。リックは地図を見てすぐに気づいた。


「これは地図の地域が違うよ。似たような平原の地図だけどこれは王都南の地図だよ。この地図に書いてあるのはガシマアル村だ」

「ただしいのは! こっちだよ。ほらこれが東の地図でここが首吊りの木(ハンギングツリー)で……」


 ミャンミャンがリックに見せたのは、王都南領域の地図だ。ここは王都東領域なのでミャンミャンに説明するリックだった。


「あっ、そうなんだ! これが東でこれがガザマールって読むんだ……」

「あゎゎ!? ミャンミャン? もしかして字が……」

「うん! 私は字が少ししか読めないよ? 田舎じゃ必要なかったし」


 リックは驚いた顔した。これはミャンミャンが字を読めないことに驚いたのではなく。字が読めないのに王都へとやってきたことだった。グラント王国の識字率は周辺国よりも高いが五割程度で、特に地方では読み書きが必須ではなく読み書きができない者も多い。しかし、王都で仕事を探すとなると、読み書きが必須になる。リックも騎士になるために、必死で読み書きを覚えたのだ。


「あゎゎ! じゃあ、クエストの時とかどうしてらっしゃるの?」

「受付の人に依頼書を読んでもらったり、最近はココから字を教えてもらってるよ」

「ウソだぁ! ココお姉ちゃんが、せっかく教えてくれてるのにさぼってばっかりじゃん」

「うるさいわね! タンタン! お姉ちゃん怒るよ!」


 タンタンがシーリカの後ろに隠れ、ミャンミャンにべーって舌をだして、ミャンミャンはそれを見て頬を膨らました。その様子を見たシーリカ様が二人をなだめている。


「あゎゎ。ミャンミャン。さぼる自分がいけないんでしょう!? あまりタンタンさんを怒ってはいけませんよ。ほら! 早く行きましょう」

「ははっ…… しょうがないなミャンミャンは! じゃあ気を付けてね。君達」

「うん!?」


 ミャンミャンが不思議そうにリックの顔を見た。リックは何かまずいことを言ったのかと焦りまたじんわりと汗をかく。


「あゎゎ! ほら、ミャンミャン、先を急ぎますよ」


 先に街道に向かって、歩き始めたシーリカがミャンミャンを呼んだ。タンタンはシーリカに隠れたまま、彼女の尻あたり服を掴んで後ろにくっついたままだった。


「あっ!? 待ってよ。ねぇシーリカ。あの人…… なんで私の名前を?」

「あゎゎ!? ミャンミャンが最初に名乗ったんではないのですか?」

「えっ!? 私…… 名乗ったっけ……」

「あゎゎ。名乗ってないと勘違いしてるか気のせいですよ」

「まぁお姉ちゃんがさつなのは王都では有名だからね」

「なんですって!? タンタン」


 ミャンミャンがタンタンを捕まえようと手を伸ばし、動きを察知したタンタンはシーリカから手を離して逃げだした。逃げるタンタンを追いかけてミャンミャンは走って行くのだった。


「ははっ…… にぎやかで楽しそうだな……」


 疲れた顔でつぶやくリック。三人が街道に戻る直前にシーリカだけが振り返って、リック達に頭をさげた。ミャンミャンがそれに気づいて同じく頭をさげている。ミャンミャンとシーリカを見て今度はタンタンが頭を下げた。

 リック達はシーリカ一行が正しい道を行くのを見送った。姿が見えなくなるとソフィアがリックに声をかける。


「さぁ! 次はテレポートボールを使ってガザマール村に先回りですよ

「あぁ。巡礼って忙しいのね……」


 返事をしたリックの顔が疲れていて面白いのかソフィアが微笑む。二人はポケットから、テレポートボールをだして握りしめるのだった。

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