第75話 ちぎれた夢をつなげ
先行して砦の様子を見に行っていた兵士が帰ってきた。慌てた様子でメリッサの前で報告を始めた。
「オーク達が砦の門を突破したみたいです。スノーウォール砦のいたるところに煙がみえます」
「チッ! みんな! 準備は出来てるね? すぐにスノーウォール砦に向かうよ!」
報告を聞いたメリッサの号令で、リック達は急いでスノーウォール砦へと向かった。森の一部で木が薄くなっているところまでやってくるとスノーウォール砦が見えて来た。
「急がないと……」
スノーウォール砦を見たリックがつぶやく。兵士の報告通り、森を抜けたところにある山に建つ、スノーウォール砦から複数の煙が上がっていた。リック達は進軍のスピードを上げ、スノーウォール砦がある山の麓にまで来た。オークの数百人程の軍団が城門に群がっているのが見える。オークの鎧や武器は真新しく騎士団から、横流しされた武具を使っていた。雪原の真ん中に第四防衛隊のリック達とホワイトガーデンの防衛隊が横に並ぶ。
リックはスノーウォール砦を見つめ拳を強く握った。
「(援軍…… といっても第四防衛隊四人とホワイトガーデンの防衛隊の二十人だけ…… 門が突破されてどれくらい経ってるかわからない。でも、俺達は負けない。だって絶対にエルザさん達は生きて俺達のことを待ってるはずだ)」
メリッサはゆっくりと歩き、リック達の前に立ち空へ槍を掲げた。
「みんな! 見てご覧よ。ビーエルナイツとホワイトガーデンの防衛隊が苦戦してるよ。正直…… 騎士団は嫌なやつも多い! でも、彼らも私たちの守るべきグラント王国民だよ。だから私達は絶対に砦のみんなを助ける! いいね?」
「「「「「「「「「「はい」」」」」」」」」」
全員が声をそろえて返事をした。横に一列に並んだリック達は持っている武器を持った手を前だした。メリッサが自分持った槍と兵士達がもつ武器を合わせながら歩いて大きな声で叫ぶ。
「グラント王国民と共に我々は歩んできた! 今までも! そして…… これから先も! 共に歩もう! 王国の輝く未来へと! 王国民が苦しみ涙を流すなら! 我々は彼らの盾になり守る!!!! 我らは誇り高き鉄の防壁! グラント王国防衛隊!!!!!!」
「「「「「「「「「「おおおおおおおおおぉぉぉぉーーー!!!!!!!」」」」」」」」」」
全員手を挙げ武器を空に突き立てた。メリッサさんはスノーウォールに槍の刃先を向けて静かに言葉をかける。
「目の前のオーク共に…… 死を!!!!!!!!!!!!!!!!!!! 行くよ!!!! お前ら!!!!」
「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉー!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」
号令がかかりメリッサを先頭にリック達は砦まで駆けだした。オークの集団がリックたちに気づいて隊列が入れ替わっていく。慌てた様子でオークの弓兵が隊列の前にでて矢をつがえ、一斉にリックたちに向かって矢を放つ。
百を超える矢が放物線を描きながら、冷たい空気を切り裂いてリック達に向かってくる。
「けっ! 甘いよ。イーノフ!」
「はいよ。ソフィア! 一緒に手伝ってくれるかい」
「はい」
ソフィアとイーノフさんが手を上にかざすと、薄いピンク色の魔法障壁がリック達を包みこんでいく。魔法障壁に矢が当たりバラバラと落ちていく。驚いたオーク達は近づくリック達を威嚇するように牙をむき出しにした表情し、弓を捨てて今度は槍を前に突き出して待ち構える。
「だから…… 甘いって言ってんだよ! 死にたくなきゃ! 門への道を開けな」
メリッサさんは走りながら逆手に持った槍を大きく腕を引いて投げた。一閃の光が前方に瞬き雪原の凍った空気がさらに凍りつく。メリッサさんの投げた槍は、オークの集団に突き刺さり、そのまま勢いよくオークの体を貫通し次々とオークを吹き飛ばしていった。
地面が血にそまり幾多の断末魔が響く。メリッサさんが投げた槍が通った後オークの陣形は崩れて真ん中から裂けていた。裂けた陣形を見つめるオークの顔が恐怖にひきつっていた。
「イーノフ! いまだ!」
後ろを向いてメリッサが叫んだ。イーノフは静かにうなずき右手に持っていた杖を体の前に持っていき左手をかざす。
「わかったよ。メリッサ。氷の精霊よ。我にその刃の力を示せ! 氷槍舞踏」
杖を空に掲げてイーノフが叫んだ。直後に裂けた陣形の地面から氷の槍が、現れてオーク達に向かって飛んでいく。グシャビシャと肉の切れる音が周囲に響き、叫び声と汚い赤黒い血が雪原を染めていく。オークは避けた陣形がさらに開き崩れ始めていく。
「よし! 崩れた陣形の場所を突破して一気に砦まで行くよ」
「メリッサに続け!」
「リックは一番後ろだ。囲ってくるオークを蹴散らしな!」
「はい!」
手を軽く上下に動かすと投げた槍がメリッサに戻って。彼女は手元に戻った槍をふりましながら、オークの裂けた陣形に突っ込んでいった。メリッサを先頭に一塊の集団をなった、リック達は敵陣の乱れつき砦まで一気に攻め込む。リックは最後尾につけ彼の少し前をソフィアが走っている。
リックは背後を確認する。オークの軍団は陣形を立て直し、駆けぬけようとするリック達を。包囲しようと回り込んで来ていた。
「ソフィア! 俺に電撃魔法をかけて!」
「はい」
前を向いたリックがソフィアに指示をした。返事をしたソフィアは右手をリックに向け電撃魔法を放つ。青白い光の電源がリックに向かってくる。彼は右手に持った剣をタイミングよく振り上げ電源を受けとめ、器用にくるくると剣を回して電撃を刀身に巻き付けていく。
「これでもくらえ」
立ち止まって振り返ったリックは魔法を帯びた剣で斬る動作をした。リックの剣から放たれた電撃の真空刃がオーク達に向かっていった。電撃を帯びた真空刃は、触れるものすべてを切り裂き、周囲には電撃をまき散らす。電撃真空刃は、取り囲もうとしたオーク達の足を鈍らせ隊列を乱すのだった。
「よし!」
リックは前を向くと、すぐにまたスノーウォール砦に、むかって走り出すのだった。」
「はぁはぁ…… もうすぐだ」
オーク達を突破したリック達は、開いた城門から砦内に飛び込んだ。最後尾にいたリックが入ると、イーノフは城門に押し寄せようとしたオーク達に杖を向ける。
「氷の精霊よその冷たき息で全てを凍らせろ永遠氷風」
杖の先から激しく吹き荒れる風が発生してオーク達に吹きつけた。風を受けたオーク達は叫び声をあげることもなく一瞬で凍り付いた。また、同時に風が吹きつけた城門も氷つき氷の壁が出来きていた。満足そうにうなずいたイーノフは皆に声をかける。
「みんな無事だね? これでとりあえず外のオーク達はしばらくおとなしいだろう。今のうちに門と城壁を奪い返すよ」
「でも、イーノフ。エルザさん達の救出はどうするだい!?」
リック達が話していると砦の中から、オークが出てきて武器を構えて俺達に向かってくる。
「わかった。ソフィアとリックが砦の中を捜して! メリッサと僕が城門を取り返す。そうすれば砦の中の敵も僕らが引き付けられるから」
「わかりました! 行こう。ソフィア」
「いいね? 無理するんじゃないよ。それじゃ…… 頼んだよっと!」
メリッサが砦から出てきたオーク達に槍を投げた。槍はオーク達を次々に串刺しにしていく。砦を指さしてリック達に行けとメリッサが合図を送った。砦の内に向かおうと走り出したリックにイーノフさんが声をかける。
「リック! 一つだけ注意して! オークの中で体格の大きなオークが指揮官としているはずだ。こいつは他の操られたオークと違ってジックザイルが作った個体だ! かなり強いから気を付けてね」
「わかりました」
強い指揮官が居ると聞いたリックは、出会わないように祈るのだった。
リックとソフィアはスノーウォール砦内に入った。ビーエルナイツの抵抗のあとだろうか、扉の前には机やテーブルなどが置かれていた。静かに気配を消してリック達は慎重に砦の中を進む。シーンと静まり返った砦の中は、焦げた匂いと血の匂いが充満していた。
「うん……」
視線を上に向けるリック、ガタガタという物音が上からする。二階に誰かいるようだ。ソフィアもリックと同じく二階からの物音に気付いた。
「上から音がします」
「そうだね。先に二階から捜そうか」
砦にはいってすぐ目の前に扉があり、それを挟むように左右に二階への階段がある。ちなみに階段に挟まれた扉の向こうは食堂になっている。リックは出張で来た際に食堂で、支給された暖かいスープ味がよかったと思い出していた。
階段に来たリックは剣を構え、ゆっくりと階段を上がっていく、階段には騎士やオークの死体が転がっていた。
「えっと…… 確か二階は謁見とかで使う広間と作戦会議室と後はいくつか個室があったな」
小声でスノーウォール砦内を思い出しながら階段を上がるリック。階段を上ってその先の廊下の様子をうかぐう。死体がいくつか転がっているだけで生きてる人はいなかった。
「誰もいませんね」
「よし! 手分けして探そうか」
「わかりました」
階段を上がると広い廊下があって、リック達が上った階段はちょうど廊下の中央に配置されている。また、左右に配置された階段にはさまれるように砦の指揮官と謁見するようの広間がある。リックとソフィアは左右に分かれエルザ達を捜索する。リックはソフィアと別れ、広間を横断して向かいに位置する廊下の先へ向かうおうとする。広間を横目で見るとオークや騎士の死体が転がっている。
「うん?!」
廊下の奥に動く人影が見えた。直後に突き当りにある部屋の扉が閉まり音がする。詳細は確認できなかったが、人かオークが部屋に入ったようだ。リックは慎重に扉が閉まった突き当りの部屋へと行く。
「この部屋に入ったな」
リックは、第二会議室と書かれた扉を、開こうとノブに手を……
「おぅ!」
突然部屋から何者かが出てきた。リックはとっさに相手に剣を向けた。すぐに彼の顔は安堵の表情に変わる。
「よかった……」
「リック! 何してますの? そっか! オークが突然引いたのはあなたたちが……」
「俺達は助けに来たんですよ」
部屋から出てきたのはエルザだった。彼女もリック達を見ると安心した表情に変わる。ただ…… エルザは何か棒状のものを抱えている。リックは気になって尋ねる。
「えっ?! 何を持ってるですか?! それ!? 腕!?」
エルザが血だらけの人間の腕をかかえて、綺麗な白い鎧のお腹の辺りが血だらけになっていた。
「これは…… とりあえずロバート達のところに行きましょう!」
そう言うとエルザはリックを二階の広間に連れてきた。広間の奥には謁見用の玉座がある。玉座の裏には王室用の部屋があった。エルザは鍵を使ってその部屋に入った。
「エルザさんは一人だけ?」
「ううん。ロバートと生き残ったビーエルナイツとここに避難しているわ。城門がとっぱされてあっという間にオークがなだれ込んできたの……」
扉を開けるとバリケードなのか、ベッドやソファなどが積み上げられている。ここは広めの廊下になっていて、廊下というより部屋くらいの大きさがある。バリケードの後ろに弓を構えるビーエルナイツとロバートがいた。
彼を見てホッとした表情をするリック、二人に気づいたロバートさんが近寄ってきた。
「リック! 来てくれたのか!?」
「はい外でメリッサさん達がオーク達を駆逐しています。俺とソフィアはエルザさん達を助けに来ました」
「よかった……」
嬉しそうに笑ってリックと握手するロバート。だが、エルザを見たロバートは怒った表情に変わる。
「こら! エルザ! 勝手にどこに行ってた? うん!? その腕は……」
「ロバート! 彼の腕が見つかったわ! 早く治療を……」
「エルザ…… でも、もう彼は……」
「うるさい! どいて!」
エルザがリック達を置いて廊下の先の部屋へと向かった。ロバートさんはエルザさんを悲しそうな表情で見送っていた。リックはエルザさんについて行って部屋に入る。王族用のかなり広い部屋に天蓋のついたベッドが置いてあった。
エルザさんはベッドに横に立っていた。
「ゲルプ…… 見つかったよ。あなたの腕」
「なぜ騎士の…… あなたが……」
「だって…… あなたが私をかばって怪我を…… だから! 治すの!」
「無理ですよ…… この怪我じゃ……」
エルザがベッドの横で誰かと笑顔で接している。リックは彼女の後ろにそっと近づく。リックはベッドの中の様子を見た……
「うっ!」
ベッドの上には、一人の兵士が寝かされていた。両腕がなく体中傷だらけで、鎧は壊され兜は破壊され、顔は血で真っ赤に染まっている。リックに気づいたエルザが話しを始めた。
「彼は私をかばって怪我をしたの…… でも、時間が経ちすぎて…… 今の私達じゃ治療ができるか……」
エルザが俺の方を見て悲しい表情をする。この兵士は逃げる途中で、オークに襲われたエルザをかばって怪我をしたという。何とか一緒にここまで逃げてこれたけどエルザ達じゃ治療もできないという。
改めて兵士に顔を向けたリックが何かに気付いた彼は大きく目を見開く。寝かされた兵士が誰かわかったようだ。
「ゲルプさん! 俺ですよ!」
「リック! ダメよ! この人…… 目が……」
「リック? もしかして…… この間一緒に仕事したリックさんかい…… よかった…… あっあの手紙が…… 妻に届いたんだ……」
寝かされた兵士はリックが出張で来た際に世話になったゲルプだった。自分に指をさして話しかけるリックを止めるエルザ。苦しそうに話しかけるゲルプのリックを見る目は白く光を失っていた。
「リックさん、ありがとうね…… でも僕はもう無理……」
「なっなに言ってるんですか!? もうすぐ…… もうすぐ兵士を辞めて花屋になるって…… 夢を……」
「でも、この腕じゃ…… もう花も摘めない…… お客さんに花だって渡せないよ……」
悲しげなゲルプの声がリックに届く。エルザの抱えていたのはゲルプの腕だった。目をつむってしまいそうなゲルプにリックは必死に声をかける。
「一緒にここから脱出をしましょう!」
「リックさん…… 良かった…… 僕をおいて彼女達を早く助けてあげて……」
「ダメだ! ダメだよ! そんなの!」
悔しそうに拳を握ってうつむくリックだった。
「(どうしたらいい…… 俺はこの人を…… 助け…… 助けなきゃ! いや…… 俺はこの人を助けたいんだ! そうだ!)」
リックの脳裏に一人の顔が浮かぶ。銀色の長い髪に丸い赤い瞳に眼鏡をかけた彼女は優しく微笑んでいた。ソフィアならゲルプを治せるかもしれない。リックは顔を上げすぐにゲルプに声をかけた。
「しっかりしてください! 俺達が絶対に助けますから!」
「リックちょっとどこへ行くんですの?」
「すぐ戻ります! ソフィアなら! ソフィアを連れてきますから」
リックはすぐに部屋を飛び出して駆けだした。広い廊下を抜け広間に出て、ソフィアと別れた階段へ。
「いた! ソフィアだ!」
ソフィアはリックと別れたところで立っていた。
「うわ!」
ソフィアの向かって走っていたリックの右にあったがれきから、隠れていたオークが現れていきなり剣を振り下ろしてきた。リックは右足を引き体をそらして、左足で地面を蹴り後ろに移動してオークの剣をかわした。すぐに右手を剣にかけたリックは、剣を空振りした姿勢のオークの方を向いて前に出た。剣を抜きながら、すれ違いざまにオークの首を斬りつけ跳ね飛ばした。オークが膝はあおむけに倒れ、首が地面に転がる。彼はオークには目もくれずソフィアに体を向けた。
「ソフィア! ソフィア!」
「ふぇ! リック! ここですよ」
リックに気づいたソフィアは口元が緩んで眼鏡の奥の目が笑っていた。リックは彼女の笑顔を見た泣きそうになりながら叫んだ。
「ソフィアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
「ふぇぇぇぇぇぇ!?」
「ソフィア…… あの人を助けて…… ソフィア…… お願い…… 俺……」
「ふぇ!? リック…… どうしたんですか? 泣いちゃいました……」
リックはソフィアを思わず抱きしめて頭を胸にうずめて泣きだしてしまった。泣き出したリックの頭を彼女は優しく撫でるのだった。撫で終わったソフィアはリックの頭を体から少し離すと、手を頭の後ろに回してほほ笑んでくれる。それからやさしくリックの頬に手を当てて涙をぬぐってくれた。
「リック…… 大丈夫ですか?」
「俺は大丈夫だよ。ありがとう…… ソフィア! 来てくれ! けが人が!」
「はい」
ソフィアの手を引いてリックは、ゲルプの場所まで連れて行く。ベッドに寝かされたゲルプの横に彼の腕が置いてあった。彼女はゲルプの寝かされたベッドに腰かけると…… 少し悲しい顔をしている。
「ひどいです……」
「大丈夫!? この人俺がここで世話になって…… どうしても助けたい……」
「任せてください。リックのお友達なら私もお友達です!」
丁寧にソフィアはゲルプの腕を切られた部分に合わせるように置く。真剣な表情になったソフィアの赤い瞳は、力強くゲルプを見つめていた。
少してからソフィアゆっくりと呪文を唱え始めた。すぐにソフィアの手は優しく緑に光り始め、彼女はゆっくりと光った手をゲルプの体にかざした
「ソフィア、大丈夫?」
「大丈夫です! 絶対に治しますからね」
リックに向かって微笑み、自信満々の表情をしたソフィア、その笑顔はとても頼もしくみえた。
「ありがとう……」
リックが礼を言うと、ソフィアは優しく彼に微笑むのだった。
「「「「「キャー!」」」」」
エルザやビーエルナイツの悲鳴が聞こえた。リックは部屋の外に飛び出した。
「うわ!?」
部屋を飛び出したリックに、ロバートが目の前に倒れてきた。彼は思わずロバートを抱き止めた。
「ロバートさん!? 大丈夫ですか?」
「リック! 急にこいつらが襲って…… 君を呼びに……」
ロバートさんが指をさす方向を見ると、エルザ達の前に体の大きい灰色のオークが一体いて、彼女達を襲うおうとしていた。体色が他オークと違い体も一回り大きいオーク。この灰色のオークがイーノフが言っていた指揮官である。
「ちょっと! ロバート! 大丈夫? 覚悟しなさい! よくもさっきゲルプの腕を」
「えっ!? こいつがゲルプさんの腕を……」
リックの目つきが変わった。鋭くなった目でリックは、指揮官を睨みつける。ロバートを乱暴に立たせてリックは前に出る。
「リック! 何するの! こいつは私が…… うっ!」
リックはエルザを手で制し、彼女に顔を向けた。リックの顔を見た思わずエルザは声をあげた。目つきを鋭く口を真一文字に結びいつなく怖い顔をしたリックにエルザは何もいえなかった。
「エルザさんはロバートさんをお願いします」
リックが口を開くとエルザは静かにうなずいた。オークの指揮官が彼の前に顔を突き出してくる。
「ドケ! コロス!」
「うるせえな。知らねえよ。俺の大事な人が二人ほど奥の部屋に居て一人は治療中なんだ。静かにしてもらうぜ! 永遠にな!」
にっこりと微笑んだリックは、いつものように剣先を下に向け構えるのだった。




