表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一兵卒だけど無双する ~ 最強の王国兵士、勇者も姫騎士も冒険者もみんな俺が守る! ~  作者: ネコ軍団
騎士団編 エピソード2

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

54/263

第49話 衝撃の真実

「あの人がアッアナスタシア様……」


 さっきまでは平然と見ていた女性が、アナスタシアだとわかると緊張して動けなくなるリック。彼は子供の時の顔しか知らず、会ってすぐに気づけなかったのを少し悔しく思った。


「あっ!? あぁぁぁ……」


 子供の時にパレードで見たままの笑顔で、ニコッと笑ってリックに微笑むアナスタシア。嬉しさのあまり声にならない声をあげるリックだった。緊張しながらも、なんとか彼女に声をかけようと、近づくリックだった。


「あっあの…… おっおれ…… だっ第四……」

「私達は第四防衛隊のリックとソフィアです! よろしくです」

「アナスタシアです。本日はよろしくお願いいたします」

「えっ?!」


 挨拶をししょうとしたリックの横からソフィアが割り込んできた。彼女はリックと自分の名前を名乗り、リックの手をつかんだ。


「わっ!? ちょっと!? ソフィア!?」

「はいはい。挨拶は終わりましたかね! さっさと出勤ですよ。詰め所に入るですよ」


 リックの手を引っ張り、ソフィアは強引に、詰め所の中に連れて行こうとする。まだ、アナスタシアと言葉を交わしてない、リックは名残惜しそうに彼女を見つめていた。


「見てないで助けてくださいよ……」


 リックに窓からイーノフとメリッサが、ソフィアに引っ張られ詰め所に連れて行かれようとする、自分を笑ってみているのが見えた。


「おはようございまーす」

「うぅ…… おはよう…… ございます…… はぁ……」


 元気に挨拶をして詰所に入るソフィア、彼女に引っ張られながら小さく落ち込んだ声で挨拶をするリック。


「なにをそんなに落ち込んでるんだい? リック」

「わかってるでしょ! はぁ……」


 メリッサは窓から全部見ており全てを知っている、心配しているふりして声かけてきた彼女は満面の笑みだった。リック達に続いてアナスタシアとエルザとロバートの三人が詰め所に入ってきた。ロバートとエルザはすぐにカルロスと打ち合わせを始めた。


「えっ!?」


 アナスタシアが、リックとソフィアの席へとやってきた。


「リック様とソフィア様! 今日はよろしくお願いいたします」

「はっ! はい!」


 声をかけられたリックは、立ち上がって敬礼をする。急に立ち上がって、敬礼をした彼に微笑むアナスタシアだった。リックは嬉しくなりさらに話をしようと……


「あっあの……」

「よろしくお願いいたします! それで王女様……」


 リックが話しかけるよりも先にアナスタシアにソフィアが話しかけてしまった。リックはアナスタシアを前にすると、なかなか言葉でなくてうまく会話ができなかった。ソフィアとアナスタシアの会話が終わるのを待っていた。


「あっ!?」


 ソフィアとの会話を終えたら、アナスタシアはイーノフたちの方へと向かって挨拶をしている。リックはまた次の機会を狙って待つのだった。だが…… エルザ達と打ち合わせを終えたカルロスがリックとソフィアのそばにやってきた。


「リック、ソフィア、お前さん達は早速で悪いんだけど、もう視察が始まるから先行して視察先に向かってくれるかな?」

「はい! 行きますよ。リック」

「えっ!? はい……」

「もし暗殺者と戦闘になった場合はできるだけ捕獲優先でな」

「わかりました」

「はーい。行きましょうリック」


 返事をして立ち上がるソフィア、出動となりしょんぼりとするリックだった。


「あ……」


 最後に出動の挨拶をしようとアナスタシアの方を見たリック、だが、アナスタシアはイーノフとロバートと会話して盛り上がいた。ここであきらめてしまっては出動後にゆっくりと挨拶はできない。リックは意を決してアナスタシア様へ向かって歩き始め……


「えっ!? ちょっとまって!」

「どこいくんですか。リック。出動ですよ!じゃあ、みなさーん先に行ってます」


 ソフィアが、リックの腕を引っ張って、入り口に連れて行く。


「うぅ…… いってきます! あっ!」


 アナスタシアは出動する、リックとソフィアに向かって、笑顔で会釈をした。会話が出来なくても、笑顔を向けられリックの胸は躍った。


「うわぁ!」


 詰め所の外に出たら、不意にリックの前にまわり込んだ、ソフィアが彼の顔を覗き込んで来た。さみしそうな表情でリックをジッと見つめるソフィアだった。


「どっどうしたの? ソフィア?!」

「さっきから…… リックが全然私をみてくれないです……」

「えっ? ごっごめん! そんなつもりは……」

「もういいです……」


 うつむいてソフィアはリックに背を向けさみしそうにした。アナスタシアが現れてからリックは、ずっと彼女のことばかり考え、意図しないとはいえソフィアをぞんざいに扱っていた。気まずそうに頭をかくような動作をするリック、第四防衛隊へとやってきてから、いっつも自分に寄り添い、支えてくれたのはソフィアだった、そんな彼女に対してひどいことをしたとリックは反省する。背をむけたソフィアの頭を優しくなでるリック。


「えっ!?」

「行こう。ソフィア」


 リックは手をつないでソフィアと歩き出した。いつも自分からじゃないと手をつないでくれないのに、リックから手をつながれて驚くソフィアだった。


「どっどうしたんですか急に?」

「こうすればソフィアが安心するかなって? いやだった?」

「いやじゃないです! うれしいです」


 安心したように微笑んでいるソフィア、リックは微笑むソフィを見て胸をなでおろす。


「じゃあ。任務を頑張ろう」

「はい」


 リックとソフィアはアナスタシア達の行く先に、先回りをして安全を確認する役目だ。第三区画の店や施設などに先回りをして、二人で暗殺者が潜んでいそうな場所をチェックする。

 木の上や建物の隙間や施設のトイレなど、また一般人に紛れてる可能性もあるので、怪しい素振りの人間がいないかチェックする。


「ふぅ! つかれました。あっ! あそこにまだ行ったことないお菓子屋さんが……」

「ソフィア! こら! だめだよ。まじめにやらないと!」

「シュン……」

「終わったら二人で行こうね」


 リックの言葉に目を輝かせるソフィアだった。リックはソフィアの頭を撫でる、彼女は気持ちよさそうに目をつむるのだった。今のところは怪しい人間からが潜んでいいたりはなさそうだ。

 二人は第三区画の安全確認を終わらせ、いよいよバザー会場となっている第四区画の広場へむかった。広場に近づくと祭りのように通りには食べ物やなどの屋台が並んでいた。


「うわぁ! ひどいなこりゃ…… 広場をはみ出して通りまで並んでるじゃないか」


 広場から人があふれ最後尾と書かれた、看板を持った係の人間が誘導をしている。二人は入口に立っていた警備の人間に、兵士だということを説明してとりあえず広場の中へ潜入した。


「人がいっぱいですよ」

「だねぇ。こりゃこの人の中を確認していくのは大変だぞ」


 三日前にロバート達と来た時と違って、広場の中は屋台がところせましと並び、人であふれかえっていて身動きが取れない。


「とりあえず、地図にあった印がついた店を見に行くよ」

「ふぇぇ! はい! リック! 印が二十もありますよ……」

「はぁ!? アナスタシア様はいったいどんだけ買うつもりだ!」


 人をかき分けてソフィアとリックは、何とか警備をしている兵士のフリをして、アナスタシアが訪れる予定の店をまわる。エドガーの言う通り広場にはグラント王国の人間や、異国の人間、エルフやドワーフや獣人など世界各国からあらゆる人種の人が訪れていた。

 ただ、リックが行く店が全て黒づくめの服や、幼い格好をした人で、そして女の人ばっかりだった…… しかも、なぜかリックが近づくとあからさまに店員から敵意を向けられるのだった……

 広場の入口へとリック達が戻って来た。入り口から屋台までは少し距離があり、入り口の周囲は人がまばらだった。ごった返す人波を泳いで来た二人は少し落ち着きアナスタシアが来るまで待機する。


「本当にすごい人だな……」


 リックは背伸びをして、騒然してる広場の奥に視線を送る、坂になって上っている広場の先まで人がぎっしりと詰まっていた。


「あっ! 裏切者!」

「えっ!? 裏切者だと!? なんだ…… エドガーか」


 背後から声を掛けられたリックが振り返ると、鍛冶屋のエドガーがムッとした顔をし二人に向かってきていた。


「(ナオミちゃん…… やっぱこええな)」


 近づくエドガーの膨らました頬に、ナオミがひっかいたのだろう、傷がうっすらと浮き上がっていた。リック達を睨みつけるエドガー。


「リックおにーちゃん達が教えてくれなかったから! 僕ナオミ姉ちゃんに…… グス!」

「泣くなよ」

「もういいよーだ! 第四防衛隊にリックおにーちゃんの剣の代金水増しして請求してやるんだ」


 勝ち誇った顔するエドガー、だが、水増しで請求をされて困るのは、予算を気にするカルロスだけでリックは困らない……


「勝手にしろ。俺は止めたんだからな。自業自得だ」

「プクー!!!」


 頬をぷっくりと膨らませるエドガーだった。予算の水増しはどうでもいいが、エドガーは鍛冶屋で装備の修理や作成を担当している。彼と喧嘩をするのはあまりいい状態ではない。広場の外に並んだ屋台がリックの目に止まる。


「ごめんな。エドガー。ほら、あそこの屋台でアイスを買ってやるからそれで許してくれよ。なっ?」

「アッアイス? アイシュー! うーん。しょうがないな! 僕はそんな子供じゃないけど……」

「親方さんがニコニコです」


 鍛冶屋での仕事では、大人びた発言するエドガーが子供らしくアイスで、満面の笑みになる。リックはその様子が微笑ましかった。エドガーを連れてリックはアイスの屋台に向かう……


「(なんでだ…… 確かにエドガーには買うっていったけど……)」


 リックはアイスをエドガーに買い近くのベンチに腰を掛けていた。並んで座って視線を横に向けた。そこには……


「親方さん。アイスおいしいですね」

「うん、そうだね。ソフィアお姉ちゃん! ありがとうね。リックおにーちゃん」


 エドガーとソフィアが並んでアイスを頬張っている。なぜかエドガーだけではなく、ソフィアも一緒にアイスを注文しリックが支払った。


「リックごちそうさまです。おいしくて私うれしいです」

「えっ!? そっか、ならよかった」


 アイスを食べながら、リックの方を見てほほ笑むソフィア。嬉しそうにしてる、ソフィアにはリックは何も言えなくなる。


「(ソフィア嬉しそうだな。この笑顔を見られると思えばたまに奢っても…… うん!? 待てよ…… 最近は奢ってばっかのような気もするけど…… まぁいいや)」


 リックは首を横に振るのだった。立ち上がったリックは広場の人を眺めていた。本を購入して嬉しそうに広場から、出る人たちを見つめあることに気付く。なぜ鍛冶屋のエドガーが本のバザーに協力しているのだろうと。


「エドガーはなんでこのバザーに? 本とかばっかりであまり鍛冶屋は関係ないんじゃ?」

「うん。もちろん鍛冶屋でも端のほうに屋台だしてるけど…… メインはあれかな」


 エドガーが広場の入り口の脇を指さした。エドガーが指した方をみるとところどころに人だかりができていた。真ん中に人が立っていて周りの人がその立っている人を見ている。


「リック見てください! あの真ん中に立っている人は勇気の印を持ってる…… 勇者さんですかね?」

「本当だ……」


 人だかりの真ん中に立つ人間はライトアーマーを着て、胸元にグラント王国の勇者の証である、勇気の印をぶら下げている。


「でも、あの人って本物の勇者なのか? なんか雰囲気が……」

「ちがうよ。勇者の格好を真似しているだけだよ。他にもあっちには騎士とか兵士とかいるでしょ」

「えっ!?」


 エドガーに言う通りだった。近くには騎士の恰好をした人や、兵士の恰好をした人がいて、中には魔物のような恰好をしている者までいる。


「僕はあの真似してる人たちの剣や鎧を作って売ってるのさ」

「売ってるって!? あれって本物の鎧や剣なのか?」

「あぁ鎧はだいたい同じだよ。まったく同じにすると怒られるから胸の紋章とかを変えたり、防衛隊の制服は欠番になってる部隊の番号を入れてるあるよ。さすがに剣とか武器は切れないように加工してあるけどね」

「へぇ……」

「最近ああやって勇者や騎士の真似をする人が増えたんだ。コスプレって言うらしいよ。僕たちは模造品の鎧や剣をそっくりに作って彼らに売ってるのさ」


 リックはエドガーの話を呆然と聞いていた。さらに目を凝らしてよく見ると槍を持ったメリッサのような兵士や、アイリスと同じ格好をした勇者、シーリカやココなど王都でも、ある程度の知名度がある個人の真似をしている者達もいた。

 兵士の格好や騎士の格好を真似るとは、世の中には物好きはいるものである。


「面白いでしょ? みんななんのかんの言って騎士や勇者や冒険者には憧れるからな」


 エドガーによると実際に冒険者や騎士や勇者になるのは、才能や技術が必要になるが格好だけ真似るだけなら簡単だ。だから事情があってそれらの職業につけなかった人などに流行ってるとのこと。話を聞いたリックはなんとなく、彼らの気持ちがわかるような気がした、自分も騎士に憧れ小さい頃は真似をしていたのだから……


「じゃあ、あのいやらしい顔してる兵士はリックですね」

「えっ!? 何を急に!? いやらしい顔とかあの人たちに失礼でしょ」


 必死なリックに、ソフィアはにっこりと微笑むのだった。


「あっ! リック。もう少しでみんな来ますよ」

「えっ!? もうそんな時間か。ありがとうエドガー。じゃあ俺達は任務があるから」

「ううん! 大丈夫だよ。ごちそうさま。じゃあまたね」


 広場の時計を見たソフィアがリックに声をかける。アナスタシアの視察の予定の時刻が迫っていた。リック達はバザーの警備に扮して、広場の入り口の脇に立ってアナスタシア様一行を待っていた。すぐにアナスタシア様達がリック達の前を通り過ぎていく。アナスタシアの横に並んだエルザの目が輝いている。


「見てください! アンナ! イケメンの二人が手をつないで、いいですねぇ! さっ行きますよ! まずはグレムリン先生の新作を……」

「エリィ。確かにお買い物は楽しみですが。私はあなたのような趣味は……」

「何を言ってるんですか? 趣味なんて…… ないですよ! さぁ! ロビィも早く」


 アンナとはアナスタシア、エリィとはエルザのことで、ロビィはロバートのことだ。お忍びでの視察のため、それぞれ偽名を使って呼び合っている。

楽しそうに歩く二人の後ろを、顔を歪ませ腹を押さえながら、ロバートが付いて行っている。リックは心の中でロバートにお疲れさまと声をかえるのだった。

 リックの前でロバートが視線を向けた、リックは静かに頷いて問題なかったことを伝える。少ししてからメリッサ達がやってきた。


「どうだい? 広場は? うわぁ。やっぱり混んでるねぇ」

「じゃあここは僕たちが代わるから、リックとソフィアは中に入って三人のフォローを……」

「わかりました」


 リック達は入口の警備をメリッサ達に任せ、アナスタシア達を後を追いかけていく。多くの人ごみをかき分けながらエルザ達を探し見つけた。


「アンナこっちですわ」

「エリィ待ってください」


 エルザがアナスタシアの腕を引っ張って連れ回していた。リックは騎士であるエルザが、なぜアナスタシアを連れまわすのか不思議に思ったが、二人はとても楽しそうなのですぐに気にならなくなった。アナスタシアに追いついたリックとソフィアは、警備の兵士のフリをして距離を取りながら尾行していく。


「あっ! そこの兵士さん! あの人が!」

「はい!? あっあの!? リックー」

「えっ!? あっ! はいはい! ソフィア! この人には俺が付いていくから人を呼んで」

「わかりました」


 どうやら近くで揉め事が、起きたらしくリック達に声がかかった。リックは急いで揉め事の現場へ向かう。


「(ふぅ…… もう…… 値切りを拒否されたくらいで怒るなよ。早く探さないと……)」


 リック達が揉め事が起きた現場まで行き、近くの警備の兵隊に引き継いた。だが、わずかな時間であったが目を離したため、リック達はアナスタシアを見失ってしまった。


「リック! あそこです」


 ソフィアが指した方向に視線を向けるリック。そこにはアナスタシアとエルザを連れた二人組の兵士が、広場から路地へ通じる道に入って行こうとしていた。ロバートは近くにいないようだ。広場の中ほどで、メリッサ達を呼びに行ってる時間はない。リックはソフィアを連れアナスタシアたちについていくことにする。


「ソフィア! 行くよ」

「はい」


 リック達は広場から路地へと向かい、エルザとアナスタシアを追いかける。路地に入って駆けていくと、先の曲がり角から声が聞こえてきた。


「うへへ、クリムゾン先生の限定小説! ほんとうにこの路地で手に入るの? 口うるさいロバートをやっとまいたんだからね! よろしくね」

「エリィ!? なんかこの人達は変じゃないですか?」

「もう…… アンナ! そんなこと言うもんじゃないわよ! だいたいこういうところには裏で貴重な商品を売っている屋台があるのよ。ねぇ?」

「そうだねぇ! 残念だけど…… あんた達にあげるのは金属の刃だけかな」

「えっ!? ちょっとなんでよ!? うぎゃーーー!」

 

 悲鳴というよりは、怒りのこもった叫び声が曲がり角から響く。エルザが怒号をあげたようだった。

 リックはとっさに武器に手をかけて、曲がり角から飛び出した。ソフィアも弓を構えていつでも撃てる体勢を取る。路地の曲がり角の先は少し開けた広い空き地になっていた。リックが曲がり角から出た時に、二人の兵士の格好した男は、剣を持ってアナスタシアとエルザを、壁際に追いつめているのが見えた。


「やめるんだ! えっ?」


 アナスタシアが腰につけていた、紐のようなものを持つと、エルザをかばうように前に出て、二人の男に向かって振り回しけん制している。アナスタシアが手に取ってのは革製の真っ黒な鞭だった。


「逃げてください! エルザ!」

「ごめんね」


 すきをついてエルザは、男たちの横を通り抜けて、リック達の方へ。


「ソフィア! アナスタシア様を援護して」

「はい」


 ソフィアが弓を構えて矢を放つ。矢は一直線にまっすぐと男達むかって飛ぶ。


「チィ! 本物の兵士が来やがった」


 リックの声に反応した二人は、振り向いて矢をはたき落とす。リックはその隙をついて男たちとの距離をつめる。


「大丈夫ですか? アナスタシア様!」


 アナスタシアと、二人の男の間に、入ったリックは剣を構えた。


「ダメ! 私はいいから! エルザ…… エルザを守って!!!!」

「えっ?!」


 アナスタシアが大きな声でリックに指示を出す。


「エルザさんを守れって……」


 目の前にアナスタシアが居るのになぜか男達は、少し離れていたエルザに向かって行く。


「死ね! 王女!」


 男の一人が剣を持って、エルザに向かっていく。体勢を低くして駆ける男が、腕を曲げ剣先をエルザに向けて、突き出そうとする。


「待て!」


 とっさに反応したリック、アナスタシアの横から男の二人に向かって飛んだ。飛び上がったリックは、剣を体の近くに引く。背後からリックはエルザに向かう男に向かって、腕を伸ばして必死に剣を突き刺した。


「がっは!」


 なんとか間に合い、エルザに剣が届く寸前で、リックの剣が男の首を貫いた。男は血を吐き握られていた剣が、力なく地面に落ちて音を響かせる。


「ぎゃーーー!」


 もう一人の男がリックの足元に倒れた。やつの頭には矢が刺さっていた。


「危なかったです」


 この間の男と同様に、倒れた二人の男は徐々に皮膚が、鱗のようになってリザードマンに変わっていく。リックはアナスタシアに駆け寄って声をかける。


「大丈夫ですか? アナスタシア様! でも、なんで…… あいつらエルザさんを? しかもエルザさんに向かって王女って……」


 アナスタシアはリックから、顔を背け下を向いて口を押えた。気分を悪くし吐き気を催したのではとリックは慌てる。


「どうしたんですか? 気分でも悪くされましたか? それになんで? あいつらエルザさんを狙ったんでしょうか?」

「うぅぅぅ、なんでもありませんわ! さっさと護衛をしてください」


 急にアナスタシアは不機嫌そうに、立ち上がりゆっくりと空き地の入り口へ向け歩きし、その後ろをエルザついていく。ソフィアとリックが慌てて止める。


「ダメですよ。アナスタシア様が先を歩いたら狙われます。私達が先行しますからエルザさんと後ろに居てください」

「そうですよ。アナスタシア様は後ろを! エルザさん! アナスタシア様の後方の護衛をお願いします」


 エルザとアナスタシアが、顔を見合わせて困った顔をしている。


「どうしましょう…… これ以上は…… それにまだ安全とは言い切れませんし……」

「はぁ…… もういいわよ! リーナ! リック達になら話してもいいわよ」

「はっはい」


 アナスタシアがエルザの指示にうなずく。


「聞いてください。リック様。ソフィア様」

「なんですかアナスタシア様」


 リックの返事に、アナスタシアは大きく首を横に振った。


「違います。リック様。わたくしはリーナといいます。わたくしはアナスタシア様の影武者なんです。ほんとのアナスタシア様はこちらの……」


 アナスタシアはリーナと名乗り、エルザを手で指し示した。


「えっ!? どういうことですか? 影武者…… じゃあ本物のアナスタシア様って……」


 リックが口を開け、目を見開いて震える指で、エルザをさした。


「そうよ。わたしが本物のアナスタシアよ。よろしくね! リック!」


 笑顔で片目をつむってウィンクするエルザ、彼女は自分が本物のアナスタシアだと告げた。


「うええええええええええええええええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇー!!!!!!!!!!!!!!」


 驚きすぎたリックの声がこだまする。リックとソフィアはリーナとエルザを何度も交互に見ていた。


「リック様! お話は後です。新手が来ます」


 リーナが声があげた。リックが空き地の入口に目をやると、こちらに向かってくる五人の人影が見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ