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一兵卒だけど無双する ~ 最強の王国兵士、勇者も姫騎士も冒険者もみんな俺が守る! ~  作者: ネコ軍団
勇者編 エピソード2

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第39話 勇者の仲間

 リック達は北の山に戻り、レベル適正化作業の続きをする。作業が終わると同時に、リックとソフィアは神官としての準備を始める。本日から北の山の小屋で勇者を待つのだ。


「じゃあよろしくね。交代の人は七日後の昼頃に来る予定だからね。その間に勇者が来たら終わりだけど、来なかったらそれまではここでずっといるんだよ」

「わかりました。頑張りましょうね。リック?」

「うん。ありがとうソフィア」

「あたしらはもう帰るから、二人ともしっかりね」


 適正化作業を終え、メリッサとイーノフは王都へと帰っていった。北の平原と北の山の適正化は、リックの思ったより早く終わった。手こずったのは、捕獲をしなきゃいけない、マウントワームだけだった。


「どうしたの?」


 ソフィアはリックの全身を不思議そうに眺めている。


「リックの格好がいつもと違っておかしいです」

「あぁ、今は神官の格好だからね。だったら! ソフィアも違ってるじゃん」

「えっ!? 似合ってませんか?」

「ううん。かわいいよ…… でもちょっと……」


 リック達は神官の代理なので白い厳かな法衣に着替えていた。ソフィアの服はシーリカから借りて来たもので、体形の差から神官服の胸の部分が小さくはちきれそうになっていた。布が厚くて透けてはないけど、ソフィアの体のラインが強調され、リックは視線をどこに持って行っていいか戸惑っていた。首をかしげるソフィア、リックは彼女に視線を向けずに離れた。リックがはなれると寂しそうにしょんぼりとソフィはうつむくのだった。

 しばらくして…… 虫の音と木のすれる音がして夜が更けていく、結界で守れているので、小屋に魔物が侵入する心配はない。食料もフェリペが持ち込んだ分があるし勇者が来るまでやることが……


「暇だ……」


 椅子にすわったままリックがつぶやく。そう二人の任務は勇者が尋ねてくるまで待つことで、訪問がなければ六日も何もせず待機するしかないのだ。リックは窓へ目を向ける、真っ暗で何も見えない静かな窓を見て、アイリスが早く来ることを願うのだった。


「(はぁ…… こんなにもアイリスが来ることを待ち遠しく思うことはもう二度とないんだろうな……)」


 窓を見ながら小さくため息をつくリック、ソフィアは首をかしげている。ただ、深夜になった今日は、もう来ることはないだろう、リックは立ち上がった。


「ソフィア。もう今日は寝ようか」

「はい!」


 嬉しそうに返事をして立ち上がるソフィア、リックはふとあることに気付く。この部屋は滞在できるようにベッドはあるが、一人用のものしかないのだ。


「リック。はい! 寝ましょう。早くしてください」

「あっあの!? ソフィアさん……」


 ソフィアはまるで当然のように、ベッドに枕を二つ並べ、笑顔で布団開きながら、自分の隣の布団をポンポンと叩き、リックに隣の寝るようにうながす。


「ダメダメ!」


 リックは首を大きく横に振った。


「俺は…… 床に寝るよ」

「わかりました。良いですよ」

「えっ!? あっあれ?」


 すんなりと、床に寝ることを了承した、ソフィアに驚くリックだった。


「(やけにあっさりと引き下がったな。いつもならもっと粘るのに…… まぁあっさりと引き下がられると少しさみしいけど… まっいいや!)」


 リックはソフィアの気が変わらないうちに、布団を敷いて横になった。山に登ったり、マウントワームを捕獲したり、さらに王都と行ったり来たりしたリックは疲れから、布団に入ると早速ウトウトし始め意識が薄れていく。


「ベッドが固くて…… 寝れないですー! リック!? あれ? 寝てる…… なん…… 演技…… なかった…… す」


 薄れゆく意識のなかでわずかにソフィアの声がリックに届く。リックの顔が笑顔になる、寒かった背中がほんのりと暖かくなり、いい匂いが彼の鼻に届いていた。リックは暖かさと良い香りがなにか気になったが、眠気と心地よさが勝ってぐっすりと朝まで眠りにつくのだった。


「起きてください! 朝ですよ! リック!」


 ソフィアの声がして目を開けたリック、ぼやけていた視界が晴れると目の前にはっきりとソフィアの顔が見える。ソフィアは目を開けたリックを見て優しく微笑む。起きたばかりで、まだ意識がはっきりしなリックは、笑顔のソフィアを見て自然と口を開けた。


「今日もかわいいね…… ソフィア…… って!?うん? あれぇ? ソフィア!? なんで俺の部屋に?」

「寝ぼけないでください! 昨日から二人で神官をしてるんですよ」

「あっ! そうだった……」


 体を起こしたリック、背伸びをして体をほぐす。


「(うーん…… ゆっくり寝たのに体が硬いな…… それになんか柔らかくてぷにぷにした壁に挟まれる夢も見たし…… 疲れてたのかな)」


 リックはその場で足ふみをしたり、腰を曲げたりして体を動かしていた。


「ご飯の準備をしますね」

「あっ! 手伝うよ」


 腕まくりをしながらソフィアが、笑顔で朝ご飯の用意を始めた。リックは彼女と一緒に朝食の準備をするのだった。二人で小屋の真ん中にテーブルに、パンや携帯用の干し肉とか果物とか出して食事を用意した。全て保存食で味気ないけど、キッチンもないこの山の中では十分である。


「リック! この干したお肉はおいしいですよ」

「えっ?! ほんと? どれどれ? えっ?! ちょっと……」

「いいですから! はい! アーン!」


 ソフィアが干し肉を一口大に切ってつまんでリックの口に向けた。恥ずかしくてちゅうちょしたリックだったが、ここは二人きりで誰もいない山の中だと覚悟を決めて口をあけた。


「アー……」

「お邪魔しまーす! あの……」


 急に扉が開いて誰かが入ってきた。リックとソフィアは扉の方に視線を向けた。


「すいませーん! 私は勇気の印を…… リック!? あなたなんで!? あっ! なんで化け乳が一緒なのよ!? しかも何してるの!」


 アイリスは仲良く干し肉を食べさせるソフィアと、口を開け嬉しそうにしている、リックを見て大きな声をあげた。


「おい。アイリス。ノックもせずに勝手に入るなよ。ここは人の家…… 正確には借り物だけどさ」

「うるさいわね! 今はそんなことどうでもいいの!」


 顔を赤くしてアイリスがソフィアに近づいてきた。テーブルの横に来たアイリスは、体を曲げ座っているソフィアに顔を近づける。


「離れて! リックから!」

「えっ!? 私たちはご飯を一緒に食べてるんですよ。邪魔しないでください!」


 ソフィアも負けじとアイリスに顔を近づけ、二人は顔を突き合わせて言い争う。リックはアイリスとソフィアを止めようと立ち上がった。


「(うん?! いや待てよ…… アイリスが来たってことは神官をしないと! 手引書を…… あった!)」


 勇者がいつ来てもいいように、テーブル端においてあった手引書をリックは手に取った。


「えっと…… 小屋に来たアイリスに言う言葉はと……」


 リックは手引き書を目で追い、勇者が訪れた際に使うセリフを探す。


「あった! ほら始めるからアイリス! よく来たな勇者の資格を求めし者よ」


 アイリスはポカーンとした表情でリックを見る。リックはアイリスが反応しないのに気づいた。


「おい! アイリス! どうしたしっかりしろ! 続きを……」

「あの…… リック。その前になんであなたが? しかもメガネエルフと一緒なのよ!?」

「えっ!? あぁ。担当の神官がけがをしたんだよ。だから代理で俺が神官をしてるんだよ! ソフィアは相棒だから一緒に……」

「兵士って、そんなこともするのね。まって!? まさかあなた達二人でここに泊まったの? 不潔よ! ひどい! 私というものがいながら…… ヨヨヨ」


 大げさに驚いたアイリスは、しゃがんで両手で目を覆ってウソ泣きを始める。リックは冷めた目で、アイリスの行動を見つめるのだった。


「うわーん! リックが化け乳に……」

「さっきから失礼な呼び方で呼ばないでください! 私はソフィアです! この下水勇者!」

「なによ! あんただって! 私にはアイリスって名前があるんだからね!」

「もう喧嘩はやめろ」


 ソフィアとアイリスはプクっと、ほお膨らませて腕を組んでお互いに背を向けた。アイリスは王都に居た時と、服装は丈夫そうな布の青い上着と、同じ色の短いスカートに黒のタイツを履いてた。一つ変わったことは、腰に丸いリングのような金属の武器を、二つぶら下げていた。


「アイリス! 泣き声がしたズラ! 大丈夫ズラか?」


 少し甲高い、動物の鳴き声のような声が、天井から聞こえた。リックは視線を上に向けた。


「あっ! ソフィア! 上! 天井に!? 注意して!」


 天井を張う緑色のプヨプヨした物体が、這いずり回っていた。スライムが小屋に侵入したようだ。


「どうして魔物が…… 祠が起動して結界が動いてるのに…… ええい。そんなのは後だ」


 リックはソフィアとアイリスを、守ろうと腰にさした剣に手をかけた。それを見たアイリスは、慌ててリックを止める。


「ちょっと待って! リック!」

「なんだよ? もう! 早くしないと魔物に襲われるだろ!?」

「違うの! 待って!」


 アイリスはリックの手首をつかんで止めていた。


「キャー! スライムさんが! 気持ち悪いです!」

「ソフィア!」


 天井を這っていたスライムが、ソフィアの胸の上に落ちて来たのが見えた。


「(またソフィアの胸の間にスライムが…… そしたら…… 俺がとることに…… やった! でも、また怒られる……)」


 ソフィアの胸に落ちたスライムを見て心の中で邪な葛藤と戦うリックだった。葛藤は妄想のように膨らみ、ソフィアが頼んでもいないにに、自分ですぐにスライムに手を伸ばすか伸ばさないかということを悩みだしていた。


「あれ? ソフィア……」


 驚いた顔をするリック、胸にスライムが落ちたソフィアが、勝ち誇ったように笑っているのだ。


「フフフ…… 残念でした。スライムさん! 同じ手は食いませんよ」


 ソフィアが着ている神官服はシーリカのもので、胸のサイズが小さく胸はギュッと閉まって入れなかったのだ。スライムはソフィアの胸の上で行き場をなくしたように左右に動いている。

 ニヤッと笑ってソフィアが、動くスライムを掴むと床にたたきつけた。そのまま足をあげスライムを踏みつける。スライムのぷくっと膨らんでいた体が足に踏まれてへこみ潰れる。足でスライムを踏みつけ、動けなくしたソフィアは、手を挙げて魔法を……


「やめてーーーー! スラムンをいじめないで!」

「えぇぇぇ!? きゃあ!」


 アイリスはスライムを踏みつけていた、ソフィアの足を持ち上げてスライムを救出した。急に片足を持ち上げられたソフィアは、バランスを崩して尻もちをついた。リックはソフィアに駆け寄って声をかける。


「ソフィア! 大丈夫?」

「うぅ…… お尻がいたいです」


 ソフィアのそばにしゃがみリックは、彼女の肩に手をかけた。ソフィアは痛そうにお尻を押さえていた。怪我はないようでホッとしたリックはアイリスに顔を向ける。


「何をするんだアイリス!? いくらソフィアが…… えっ!? おっおい。アイリス!?」


 泣きそうな顔でアイリスは、スライムを撫でて立ち上がった。アイリスはリック達に立ちふさがるようにして両手を広げた。彼の後ろでスライムが喜んでいるように飛び跳ねていた。


「スラムンは私の友達なの! いじめないで!」

「友達? スラムン?」


 リック達が状況がわからずにいると、アイリスは振り向いてしゃがんで、スライムを両手に持った。アイリスは両手に持ったスライムをリック達の前に差し出す。アイリスの手の上でスライムがプヨンプヨンと動いてる。


「これが! わたしの友達で旅の仲間! スラムンっていうの」

「スッスラムン?! 旅の仲間って!?」

「よろしくズラ」

「うわぁ! しゃべった!」


 スライムが言葉を発し驚くリックだった。一部の魔物は人間の言葉を理解するが、スライムが人間の言葉をしゃべった例はない。


「すごい。スライムさんがしゃべりました?!」

「おらはスライムでも長く生きてるズラ。人間の言葉くらい理解できるズラよ」


 驚くリックとソフィアに得意げに答えるスラムンだった。


「へぇ。スライムって長生きすると人間の言葉がしゃべれるようになるんだな。聞いたことないけど……」

「何を言ってるのよ。本人がそう言ってるんだから理解できるのよ」

「そりゃそうだけど……」


 スライムが言葉を発するのを、まだ納得できるようなできない感じのリック、だが、実際に目の前でしゃべっているので信じるしかなかった。


「でも、アイリス。なんで? スライムを仲間に……」

「だって! この間リック達と別れた後、王様に会いに行ったのね。そこで仲間に若い男の騎士を欲しいって言ったら拒否されたの。そしたらさ女戦士とか女魔導士とかを仲間にって言われたのよ。私はいやだったのね! だって女だらけのパーティってギスギスしそうじゃない?」

「そうななのか? 俺にはわからん」

「もう……」


 リックから理解が得られず、不満そうに口をとがらせるアイリスだった。


「それに女性を仲間にってアイリスの子供が欲しかったんだろ」

「わかってるわよ。だから余計に嫌なの。私にはだってね……」


 上目遣いで恥ずかしそうにリックを見るアイリスだった。リックの言う通り、王様が男ではなく若い女性をあてがったのは、S1級の才能の子供をつくらせるためだった。リックはチラチラと視線を送られてくるアイリスの視線に気づくことはなかった。


「どうした? さっさと話を続けろよ」

「キーーーー!!」

「なんだよ」

「リック嫌いだよ」


 また口をとがらせ、腕を組みそっぽを向くアイリス、リックの後ろでソフィは、にやりと笑い拳を強く握るのだった。アイリスの視界に、ソフィアが見え彼は悔しそうに舌打ちをする。


「チっ…… まぁいいわ。それでね。王都を出て隣の町までの間くらいは若いお…… いや、護衛を雇おうかと思ってね! 冒険者ギルドに行ったのね」


 王様からの仲間を拒否したアイリスが、王都で手っ取り早く仲間を雇えるのは、冒険者ギルドだけだった。


「そしたらいい男がいっぱいいて悩んでたのね! そしてようやく小さくてかわいい男の子を見つけたの! 年齢は十歳くらいで目が黒くてクリクリで小さい頃のリックに似てるの子だったの」

「俺に似てるのはどうでもいい! でも、なんでだ? 屈強な男の方が頼りになるだろ?」

「チッチッ! リックは何もわかってないね! 既に屈強な男には女がいたり、少し自分の好みと違うところがあるもんじゃない!? でも、かわいい男の子を手懐けておけば…… 将来自分の好みに育てることが! おっと! よだれが……」


 口から出たよだれを拭うアイリスだった。王国で伝説になれる才能を持った勇者が、冒険者の少年を囲って自分好みに育てようなど、犯罪者の思考である。リックは本気で目の前にいるアイリスを逮捕するか悩んだ。縄を左手に持ったソフィアがリックの横に来た。


「リック。犯罪者ですよ。捕まえましょう」

「いや…… さすがに手を出してないからな…… 手をだしたら逮捕だ。こんな犯罪勇者!!!」

「ちょっと! 聞こえてるからね! 少しは小声でしゃべりなさいよ。あんた達さ!」


 リックとソフィアを指さして叫ぶアイリス。呆れた顔でリックはアイリスに尋ねるる。


「それでちゃんと護衛は見つかったのか?」

「うへ!?」


 目をそらすアイリスだった。彼の頭の上で漂うスラムンを見てリックは小さくうなずいた。護衛がここに居れば一緒に来るはずであり見つかってないのは明白だ。


「見つかるわけないか。どうせお前のことだから護衛じゃなくてただ若い男と一緒に隣町に行きたかっただけだろ」

「何よ! そうよ! 隣町に行くくらい一人でも平気よ。でっでもさぁ。私も女の子なんだから男に守ってもらいたいじゃない」


 不満そうにアイリスを見つめるリックとソフィア、それに気づいたアイリスは必死な表情になる。


「もう! いいでしょ!? それでさ。そのかわいい男の子がなんと女とパーティ組んでるじゃない? 頭に来たからその女に文句をいってやったのよ! 熊耳の子供のくせにかわいい男の子とパーティなんて許せないじゃない! それに子供同士じゃ男の子の面倒みられないでしょ」

「いや…… それは別にお前に関係ないのでは…… うん? 熊耳?」


 リックが言葉につまった。熊耳の冒険者ギルド関係者を彼は知っているからだ。


「でも女がギルドの偉いやつと知り合いみたいでさ! なんか私の方が悪者になって追い出されたちゃったのよ」


 アイリスがもめたのは王都の冒険者ギルドのギルドマスターココだった。心の中でココに謝罪するリックだった。


「うん。それはお前が悪い! 後で冒険者ギルドに謝りにいけ」

「えぇーー?! なんでよ?! リックのいじわる!」

「なにがいじわるだ! そもそもお前が文句をつけたのが悪いだろう」

「ぶー!」


 腕を組んで口をとがらせるアイリスだった。王様の仲間を拒否、冒険者ギルドではもめて誰も雇えなかった。


「結局どこでももめて誰も仲間になってくれなかったわけか……」

「ちっちがうよ! 私と感覚の合う人がいなかったの…… だってみんな…… ううん! これから素敵な男の子を見つけるのよ」


 必死に汗かきながら否定するアイリスだった。リックは少し寂しそうにアイリスを見た。幼馴染のリックにはアイリスの本音が分かる。本来ならアイリスの仲間になりたい奴は多い。だが、彼の才能を利用しようとする、やつらばかりで本当に信頼できる者は少ない。アイリスはそれが分かっているので自分の目にかなう仲間を探しているのだ。


「それでね。冒険者ギルドと王様からの仲間をあきらめて旅を続けてたらスラムンと遭遇したの! しかもスラムン! ちょー強いんだよ!」

「だてにスライムを三十年してないズラ! でもアイリスもなかなか強かったズラよ」

「でね、私が惜しくも負けっちゃって、すぐに立ち上がってスラムンを見てたら仲間になってくれたの」

「アイリスは仲間になりたそうだったズラ」


 楽しそうに会話をするスラムンとアイリス。リックとソフィアは微妙な表情をしていた。それもそのはずだ、伝説の勇者になれる才能を持ち、人類の希望になることができるアイリスが、魔物に負けて仲間にされているのだから……


「いまはスラムンと二人でいろんなとこへ行って困ってる人の依頼をこなしてるの! すごいでしょ?」

「スラムンさんは強くて優しいんですね。でも魔物さんなのになんで人間襲わないんですか?」

「おらは悪いスライムじゃないズラ! 人間と友達になって平和に暮らしたいズラ」

「そうなの! スラムンは魔王軍を裏切った裏切者として魔王軍に追われているの。だから二人で一緒に魔王を倒してスラムンを自由にしてあげるの」


 嬉しそうに飛び跳ねるスラムンを、アイリスは慈愛に満ちた表情で見つめていた。リックはどこか嬉しそうに笑っていた。


「どう? リック! 今なら私とスラムンと一緒に冒険ができるよ! 仲間に……」

「ならないよ! えっと! ほらささっと続きを始めるぞ。お主が本当の勇者であるか我に証明をしてみせ……」

「あっあのさ! 私の要求を拒否もひどいけど…… 書類をみながら神官のセリフ言わないでくれる!? 気分がでないし! しかも急に始めないで!」

「そんなこと言っても俺は今は神官代理だし! ほら、さっさとやるよ! 勇者であることを証明の為に山頂に生息するパープルスターフラワーをもって参れ!」

「もう、リックのいじわる……」


 納得できずにプクっと頬を膨らませアイリスは、小屋を出て渋々と山に向かう、リックとソフィアは見送るように手引書の記載されている通りに祠の前で見送るのだった。何かに気づいたアイリスは振り返ってこっちを向いた。


「そうだ! ねぇ!? パープルスターフラワー無しで勇気の印をちょーだい」

「いや、さすがに幼馴染でもダメだよ! パープルスターフラワーを証拠として王様に提出しないといけないから」

「そっか…… そうだよね。ズルはダメだよね。じゃあリックが一緒に……」

「だめです! 早くいくがよい勇者よ」


 アイリスの言葉を遮り、神官口調で命令するソフィアだった。


「あんたには聞いてないけど!? しかもちょっと神官口調でむかつくんですけど! リックー! メガネエルフにいじめられたー!」

「おっと!」


 抱き着こうとしたアイリスをかわした。アイリスはリックの横を通り過ぎていった。悔しそうにリックの方に振り向くアイリス。


「なんで!? よけるのよ! ひどい」

「危ないからどくですよ、リック!」

「ダメ! っていうか? それどこに隠してたの?」


 弓を構えるソフィアをリックは止める。アイリスの頭の上にいたスラムンが飛び跳ねる。


「早く行くズラよ。アイリス!」

「わかったわよ! じゃあ行ってくるね! 待っててねリックと…… 化け乳!」

「ふぇ!? この汚水勇者!」

「やめるズラ!」

「ソフィアも!」


 アイリスとソフィはお互いに舌をだした。リックとスラムンがソフィアとアイリスをそれぞれ止めた。ぶつくさ言いながらアイリスは渋々、北の山の頂上に向かって歩いていく。ソフィアはリックに促されて小屋に戻る。時々、振り返りアイリスを睨みリックに止められていた。

 一時間ほど後…… リック達は小屋でアイリスが帰ってくるのを待っていた。


「なんだ?」


 ドアが激しくノックされた。リックはアイリスが帰って来るのには早すぎると思いながらも小屋の扉を開けた。

 

「リック! ソフィア! はぁはぁ…… ゆっ勇者は?」

「もう、山頂に向かいましたよ? どうしたんですか? 二人とも慌てて!?」


 扉をあけると走ってきたのか、汗だくで肩で息をしている、メリッサとイーノフが立っていた。


「あのね、まずいことに、S1級勇者が北の山に向かったのが魔王軍にばれて! 山頂に魔王軍の魔物達が向かったみたいなんだ」

「魔王軍が!? 大変です。リック急いでアイリスを追いかけましょう」


 ソフィアがリックの腕を引っ張って叫ぶのだった。

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