最終話 兵士の日々は続く
アイリス達がスラムン達の元へとやって来て回復魔法をかける。リックの治療を終え、ソフィアとポロンとリックの三人もアイリス達の元へとやって来た。
「ズラ…… 魔王は!?」
「大丈夫よ。スラムン、私とリックで倒したから…… ありがとう」
「良かったズラ」
スラムンが目を覚ました。回復としたスラムンを優しく撫でるアイリス、その様子を見てリック達も微笑んでいた……
「アイリスお姉さま~! あーんおしゃべりしたかったわ!」
どこからか現れた金髪の長い髪の、ドレスを着た綺麗な女性が、アイリスに抱き着いた。急に現れた女性にみな驚き固まっていた。抱きつかれたアイリスは必死にとぉ伸ばし体をはなす。
「ちょっと何!? あんた誰よ?」
「えっ!? いやだぁぁぁ! もう! 私はシャルロッテ…… 違うわ。アイリスお姉さまからはキラ君って呼ばれてました」
「ええぇぇぇ!? あなたキラ君なの!?」
「はい! アイリスお姉さまが魔王を倒してくれたおかげで、魂が解放されて元に戻ったわ~! ありがとう!」
かわいくにっこりとほほ笑んでうなずく美人、リックとポロンとソフィアは驚いて固まっていた。魔王の呪いが解けたキラ君の体が元に戻り蘇生したようだ。ただ、彼…… 彼女は男性ではなく女性だった……
「ちょっと待って!? キラ君って男じゃないの!?」
「えっ!? 違うわよ。私は女よ。ずっと!」
「じゃあ、キラ君のたたずんでいたお墓とあのイケメンの絵は……」
「あっ!? あれぇ!? あれは私の死んだお兄ちゃんよ~! ははは! あれ!? あたしだと思ったの? やーだー!」
「なんかキラじゃないみたいずら……」
スラムンがつぶやく。キラ君…… シャルロッテは笑いながらアイリスの胸を叩き。アイリスは苦い顔をするのだった。リック達も二人の様子を苦笑いで見守っていた。すると突然アイリスの体が突然白い光に包まれた。
「なんだこれ!? アイリス?」
心配するリックにアイリスは笑顔を向けて大丈夫とアピールする。
「あぁ。見たことないわよね。これね。神の啓示っていうものらしいの。神様が私の行く先を示してくれるものらしいわ」
「神様が!? でも次の行先って? もう魔王は倒しただろ?」
「きっと、魔王退治のご褒美をくれるのよ。へへへ、私は神様からのご褒美で女の子になってリックと結婚…… 待っててね! リック!」
勇者であるアイリスは、魔王退治すれば願いをかなえるという契約を神と交わしていた。アイリスは白い光に包まれ消えた。
「うん!? 待てよ…… 魔王倒したの俺だぞ…… 神の啓示は俺に現れるべきでは」
「ダメですよ」
「えっ!?」
「リックは兵士ですよ。アイリスだから勇者は簡単に見えるけどいっぱい大変です。みんなアイリスだから来てくれたです。それにリックが勇者だったらリックが助けにこれないですよね?」
「えっ!? まぁ…… そうだね…… 俺なんか人から恨まれること多いしな」
気まずそうに頭をかきながら、ソフィアの言葉に納得するリックだった。
「だから! リックは兵士として私とずっと一緒にいるですよ。アイリスが帰って来る場所を守るです」
「わっわ…… うん。わかった。そうする」
「ふふふ」
ソフィアがリックに抱き着いた。彼女はリックの両頬に手を当てて顔を近づけ真顔になる。リックが了承の返事をすると、ソフィアは嬉しそうに笑うのだった。
少ししてからアイリスはリック達の前に戻ってきた。
「ちぇ。リック聞いてー! この先の魔界にはもっと強力な魔王や破壊神とかが、人間界を狙ってるんですって! ご褒美はそいつらを倒してからだってさ。はぁ…… ちょっと倒しに行ってくるね」
「お前!? もっと強力な魔王がいるって? そんなの他の勇者に……」
「ダメよ。他の勇者に危ないことさせたら死んじゃうでしょ。それにもっと強い魔王を倒したら、もっとたくさんの願いを叶えてくれるってさ!」
「お前だって危ないだろ?」
「私は大丈夫よ。それに危なくなったらリック達を呼ぶし!」
腰に手を当てて自信満々にほほ笑むアイリス。ポロンがホエーって口にあけてソフィアが感心した様子で見つめている。
「(はいはい…… でも、お前…… それって都合よく神様に使われてるだけじゃ…… 次の魔王を倒してもご褒美をアイリスにくれなかったら、友達として神様の言うことを信じるなっていってやらないとな…… でも、やだな。魔王殺しの兵士の次は神殺しの兵士なんて……)」
空を見上げながら、次の敵が何であってもアイリスを守ると、平然と思うリックだった。
「じゃあ行くわよ」
大地破壊剣と他の伝説の防具を回収したアイリスは、シャルロッテの手を引っ張り、すぐに次の魔王退治に向かおうとする。魔王の間から、出ていこうするアイリスに、リックは声をかける。
「アイリス。もう行くのかよ? せっかくだから一回王都に帰って…… みんなと……」
「ダメよ。さらに敵がいるんだったら、前に進まないと! 勇者に休息は不要よ!」
「ふぇぇぇ。残念です」
「もっと、一緒に居たいのだ!」
「大丈夫よ。ちょくちょく王都に帰るからね」
ポロンの頭を撫でてほほ笑むと、アイリスは手を振って魔王の間から出ていく。
「じゃあ、元気でね。しっかり王都を守るのよ! 私が帰って来る場所なんだから!!!!!」
「あぁ、わかったよ。約束だ」
「うん! またねえ!」
魔王の間からでる直前に振り返ったアイリスは笑顔でまたねと挨拶した。リック達は手を振ってアイリスの姿が見えなくなるまで見送っていた。
「さぁ…… ポロン、ソフィア、帰ろうか!」
「ふぇぇぇ、ダメですよ。残党がいないか確認です!」
「そうなのだ! 兵士はすぐに帰れないのだ!」
「はぁ…… そうだよね。じゃあ! 頑張ろう!」
「ふぇぇぇ! おぉーです」
「おぉーなのだ!」
リック達は魔王軍の残党がいないか、確認してから魔王の間から出ていった。魔王の間の出口からでると、すぐに彼らは声をかけられる。
「おわったかい?」
「えぇ…… あいつは魔王を倒しました……」
「そうかい。それでなんでアイリスはあんなに急いでたんだい?」
「あぁ。なんか新しい魔王が居るとかで、また旅に行っちゃいました」
「はぁ!? まったくせわしないねぇ…… じゃあ、あたし達も帰るかね」
「はい!」
返事をしたリック達はメリッサ達と共に魔王城から出た。
魔王城から出ると、エルザ、ロバート、リーナ、ミャンミャン、タンタン、ココ、シーリカ、みんなが彼らを迎えてくれた。
「リック! お前さん…… よくやったぞ」
最後にカルロスが泣きながら、リック抱き着いた。エルザ達は歓喜に包まれ、その他の人々は苦い顔をしていた。リック達は魔王城から帰還した。エドガーやナオミが泣きながら、リック達の帰還を喜んだ。
魔王プトラルドは倒れ、人間と魔族の長い長い戦いは終わった…… プトラルドが人間界に侵攻を宣言してから二十五年、アイリスが勇者の才能を見いだされてからは十五年の時が過ぎていた。魔王城での勇者アイリスとグラント王国連合軍の戦いは第一次魔王討伐戦として歴史に刻まれたのだった。
魔王城から帰還してから、一か月後…… アイリスが一時帰国した王都では魔王を討伐の祝勝パレードが行われた。
リック達はエルザ達が乗った馬車の横で警備してる。祝福を浴びる勇者アイリスと騎士団と横にいる兵士。いつもと変わらない光景だ。ただ…… 今回はエルザ達がリック達の事が、王に伝わり防衛隊も国民から祝福を受けている。エルザのおかげで少しずつこの国も良い方に変わっているとリックはうれしく思うのだった。
第四防衛隊でも少し変化が起こっていた。まず、エルザからメリッサに防衛隊から、ビーエルナイツの将軍へと出世の話があった、また、イーノフにも宮廷魔術師に戻らないと打診があった。しかし、二人ともこれを固辞した。メリッサはナオミのことがあり王都から異動しないと断り、イーノフはメリッサが居る場所が自分の居場所といって断った。ゴーンライトは異動希望を出し、来月からローズガーデンの防衛隊に配属が変わることになった。月の終わりには「樫の木」送別会が行われる。酔うとめんどくさいメリッサとゴーンライトの二人には注意が必要だとリックは身を引き締めるのだった。
そして…… リックにもエルザから、正式に騎士にならないかと誘いがあった。エルザ達のビーエルナイツとは違う、ジックザイルが前にやっていた騎士団をリックが団長になって復興させないかと……
「(でも、俺も断った。騎士団の団長とか忙しそうだし、俺にエルザさん達みたいに立派にふるまえる自信もないからな。俺はこれからも第四防衛隊として王都を守り続けていきたい。横にたってくれる彼女と一緒にね……)」
微笑んだリックは、すっと横に自分の左手を移動させた。そこにあった彼女の手を握り、急いで懐に手を伸ばた。
「どうしたんですか? 手を握ってくれるなんて珍しいです」
横を向いたソフィア。何でもない日の、出勤途中の朝、王都の人気のない道で、並んで歩いていた二人。
「ソフィア…… これを」
立ち止まり頬を赤くしてリックが何かを握ってソフィアに差し出した。ソフィアはリックの手の下に自分の手を出した。リックはソフィアの手の上に何かを置いた。リックが手をひっこめると、ソフィアの手のひらが見えて来る。自分の手のひらを見たソフィアは驚いた顔をしリックへ顔を向ける。
「これは…… 指輪」
「うん。俺と大事な友達を助けてくれた指輪。それをソフィアに持っててほしい。ずっと一緒に…… できたらどっちかが死ぬまで…… ダメかな?」
緊張した顔でまっすぐにソフィアを見つめるリック。彼はソフィアにプロポーズした。リックの言葉の意味を理解した、ソフィアは顔を真っ赤にする。
「はい…… 喜んで…… ふつつかものですがよろしくお願いします」
「ソフィア! ありがとう」
目に涙を浮かべてうなずくソフィア、それを見たリックは目を大きく開いて嬉しそうに微笑み彼女の肩に手を置いた。上を向いて少し背伸びをして目をつむるソフィアにリックは顔を近づけた。二人は何かに誓うように熱い口づけをかわすのだった。
「これから夜も昼もずっと一緒に居て毎日一緒に寝ますよ」
顔を離したソフィアが、いたずらに笑ってリックに宣言をする。リックは微笑みうなずいた。
「あぁ。わかったよ…… うん!? それって普段と変わらないんじゃ」
「ふふ。そうですね」
「はははっ!」
笑いあう二人、いつもと変わらない、いつもの王都だが、前の瞬間から、恋人から夫婦となった二人の目にはまるで、生まれて初めて訪れたかようないつもと違う新鮮な景色に映っていた。
「ずるいのだ! ポロンもノエルとリックと手をつなぐのだ!」
「うん、わかったよ。ほら! おいで!」
後ろからかけて来たポロン、二人はしゃがんで両手を広げ彼女を受け止めた。リックはポロンとノエルと手をつなぎ、王都グラディアの道を詰め所へと歩いて行く。
いつもと変わらない、兵士リックの日々は続く。新しい家族ソフィアと共に……