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第256話 魔王プトラルド 対 王国兵士リック

「クソおおおおおおおオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!」


 急降下しながら叫び、リックは両手に持った剣に力を込め、プトラルドを睨みつける。プトラルドは左手をリックに向けた。


「死ねえええええええええええ!!!!!! リック・ナイトウォーカーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 完全破壊弾がリックへと向かって放たれた。紫色の巨大な光は、高速でうねりを上げながら、リックへと飛んでいく。

 ジッと向かって来る完全破壊弾を見つめるリック。紫の光が彼の体を照らす。じりじりと熱さが頬に感じたリック、体が光に飲み込まれる寸前に両手に持った剣を頭の上で交差させ同時に振り下ろした。ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! という大きな音がしてリックの視界は真っ白になった。

 彼女の前には無数の魔物の躯が転がり、持っている槍には赤、青、紫、緑など魔物血が混じってたっぷりと付着していた。横の小さい相棒は肩で息をし、二枚の盾使いは盾を支えにして立っているのがやっとの状態だった。


「メリッサ! これは」

「なにが起こっているんですか?」

「りっリック…… 死ぬんじゃないよ……」


 急に激しく揺れる魔王城、柱は倒れ天井からは砂埃とともに屋根が落ちて来る。魔物達は逃げ惑いメリッサとイーノフとゴーンライトは魔王の扉を心配そうに見つめるのだった。

 暗闇…… 目の前はずっと暗闇が広がっているリックは、その中を浮かぶように漂っていた。視界にもやがかかり、眠気に逆らうような呆然とした意識のなか、彼がはっきりと覚えているのはアイリスが落ちて行き、光に包まれる前に二本の剣を振り下ろしたところまでだった。自分は死んだのか、生きているのか、それさえもわかない。うっすらとした意識のなかただ闇の中を漂うだけだった。


「リック! 起きてください」


 かすかにソフィアの声が聞こえたような気がした。愛しい彼女の声のリックの意識は徐々にはっきりとしていく。


「帰らなきゃ…… ソフィアのところに…… 俺が帰る場所…… 守る場所に……」


 彼女の元へと帰る。そう決意したリックは、意識を取り戻しカッと勢いよく目を開いた。


「ここは……」


 目を開けたリックには真っ白な壁のような天井のような物が見えた。体を起こして立ち上がるリック、足元に自分の剣と大地破壊剣(グランドバスター)が転がっていた。周囲の床は真っ白で左右の壁はなく空が無限に広がる、天井は高くただ真っ白で何もない空間が広がっている。

 手をついて起き上がったリック、軽く体の動きを確認する。破壊弾を受けた衝撃であちこちが、痛いが大きな怪我はしてないようだ。剣を拾ったリックはとりあえず前へと歩く。


「あれは……」


 しばらく歩くと、空間の先に人影が見えた、リックは歩く速度をあげて進む。人影がはっきりとしてくるとリックは眉間にシワを寄せた。そこに立って居たのは……


「やはり…… 生きておったか」


 プトラルドはリックを見て笑った。空間の先でプトラルドは右手に剣を持って立っていた。リックはプトラルドの手前までくると声をかける。


「ここはどこだ? アイリス達は?」

「心配するな。完全破壊弾の爆発のほとんどはこの決戦の間に吸収された。外にほとんど影響はない」

「決戦の間……」

「そうじゃ。魔王が勇者と雌雄を決するための場所じゃよ。本来ならここは勇者しか入れん場所じゃがな……」


 両手を広げて自慢するように、リックに穏やかに話をするプトラルドだった。


「わしをここまで追い詰めたのは貴様が初めてじゃよ」


 ゆっくりと歩きながらプトラルドは手を叩き、リックの十メートルほど前で立ち止まる。立ち止まるとプトラルドはリックに右手を差し出した。


「どうじゃリック・ナイトウォーカー。わしの部下にならんか? お前のような有能な男をみすみす殺すのは惜しい」


 プトラルドはリックに部下にならないかと勧誘してきた。勇者ではない兵士のリックなら誘いに乗るとプトラルドは思っているようだ。話を聞いたリックはうつむいて真顔で地面を見つめている。彼の脳裏に優しく微笑むソフィアが、次に自分に託して先輩や仲間や幼馴染の姿が現れる。


「黙れ……」


 顔をあげたリックは、眉間にシワを寄せプトラルドを睨みつけた。


「なっなんじゃと!? わしと貴様が組めば世界を征服しおぬしは世界の半分を治める将軍の地位を用意できるぞよ」


 リックが提案をけると思ってなかったのか、動揺し条件を提示するプトラルド。


「世界の半分も将軍の地位もいらねえ。だって……」


 首を大きく横に振ったリックは、右手胸の前に持って来て剣先を上に向け足をそろえる。


「俺は…… 世界に名を轟かせしグラント王国の王立第四防衛隊リック・ナイトウォーカー!!! 王国民によりそい彼らをその涙から守る盾であり鉄の防壁!!!! 誇り高き王国兵士だ!!! 薄汚え魔王と握手する手は持ってねえんだよ!!!!!」


 右腕を前に向けたリックはプトラルドに向かって叫ぶ。


「我が君グラント王の命により魔王プトラルドを討つ!!! お前にくれてやるのはこの金属の剣だけだ! 覚悟しろ!!」


 にやりと笑って彼は、いつものように両腕を下げ、剣先を下に向けて構える。


「そうか…… やはりおぬしは大局が見えぬただの馬鹿じゃな。兵士の身分がお似合いじゃ!!!!!」


 剣を構えて走り出したプトラルド、瞬時のリックとの距離を詰めた彼は、膝を曲げ腰を落として右腕を引くと鋭く突き出した。プトラルドの動きは速くリックはなんとか反応し体を斜めにし左腕の振り上げる。


「くぅ! あぶねえ」


 何とかリックは左手に持った大地破壊剣(グランドバスター)でプトラルドの剣を弾いた。プトラルドは右腕を横に広げられたような姿勢になる。にやりと笑ったプトラルドはすぐに踏ん張った、自然と剣を下げたプトラルドは、剣先を地面に着きながら地を這うようにして、リックの左横から斬りつける。


「よっと」


 リックは飛び上がってプトラルドの剣をかわす。彼の足の下をプトラルドの剣を通り抜けていく。


「死ねえ!」


 飛び上がったリックは右手に持った剣でプトラルドの首を狙う。プトラルドは剣を止め、素早く右腕を振り上げリックの剣を受け止めようとする。大きな音がしてリックの剣とプトラルドの剣がぶつかる。剣と剣越しに二人の目が合うと同時に笑う。


「チッ!」


 プトラルドは右足でリックを蹴った。体が浮いていたリックは蹴り飛ばされ、数十メートル後ろに飛んで行った。リックは空中で体勢を整え着地した。


「死ぬのは貴様じゃ!」


 走って素早く距離をつめ、着地した直後のリックに向かって剣を振り下ろすプトラルド。


「ぬう! こしゃくな」


 左手を振り上げ、大地破壊剣(グランドバスター)でプトラルドの剣を受け止めた。リックの足が地面にめり込んでいく、プトラルドの一撃が重くリックの動きが一瞬止まる。すぐに剣を戻して角度を変えてリックの左側から攻撃を続けるプトラルド。

 なんとかリックは大地破壊剣(グランドバスター)で攻撃を受け止めた。攻撃を受け止められたプトラルドだが、リックを見てはニヤリと笑った。

 白い空間で打ち合いを続けるプトラルドとリック。普段ならとっくに攻撃を見切り、かわし受けながして反撃に出るリックだったが、反撃がなかなかできずに徐々に押され始めた。


「くっ!」


 突き出されたプトラルドの剣が、リックの左肩のをかすめて装甲が吹き飛んだ。装甲が音を立てて床に転がり、鍛えられ盛り上がったリックの肩がのぞく。直後に肩に一筋の刀傷が出来て血が流れていく。


「チッ!」


 舌打ちをしたリックは右手の剣を振り上げた。余裕の笑みを浮かべプトラルドは後方に一歩下がって攻撃をかわす。剣が空を切ったリックは即座に剣を戻しながらまたプトラルドを斬りつけようとした。プトラルドは後ろに飛び上がってリックとの距離を取った。


「(クソ…… 攻撃を左側に集中してやがる…… やっぱりこいつじゃ)」


 リックは左手の先に視線を向けた。左手にはアイリスから託された大地破壊剣(グランドバスター)が握られている。大地破壊剣(グランドバスター)が重く、また形状もリックの剣と違うため、プトラルドの剣の鋭さに対処できなずに反撃のタイミングがずれてしまう。しかし、大地破壊剣(グランドバスター)でなければプトラルドは倒せない。

 プトラルドはリックが、大地破壊剣(グランドバスター)を使いこなせていないことに気付き、彼の左側に攻撃を集中させていた。


「はははっ! 動きが鈍いぞ! 兵士よ! 何が防壁じゃ!」


 笑いながらプトラルドは距離をつめ攻撃を続ける。左側を狙って攻撃を繰り出し続けられてリックは防戦一方になっていく。なんとか攻撃をかわし受け止めたいくが、なんどか攻撃をうけリックのヘビーアーマーの装甲が飛ばされていく。残ったのは腰当と膝当て、手首とヘビーアーマーからライトアーマーのような恰好へとリックは変わっていた。


「チィ!!」


 兜を吹き飛ばされた際に、流れた血が目に入って声をあげ、左目をつむったリック。体のダメージもあり足もややふらついた。プトラルドはその隙を逃さず、獲物を捕らえるがごとく、リックの左横から首を狙う。


「死ねエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 足に力をいれ踏ん張って、必死に左手を振り上げるリック、鋭く横から伸びて来てきた、プトラルドの剣に間に合うかギリギリのタイミングだった……


「(クソ! 重いんだよ! お前さ少し軽くなんねえか…… えっ!)」


 リックの左手から重みが消えた。羽のように軽くなった大地破壊剣(グランドバスター)は鋭くスピードに乗って伸びていき、完璧なタイミングでプトラルドの剣を弾いた。プトラルドは剣を弾かれあまりの衝撃に思わず剣を離してしまった。回転しながら飛んだプトラルドの剣が床に突き刺さった。驚愕の表情を浮かべプトラルドが声を震わせる。


「なっなんじゃ…… 動きが鋭く……」

「遅い!」


 右腕を勢い良くしたから振り上げたリック、剣を持っていた右腕を後ろに持っていかれた、プトラルドのがら空きの胸をリックの剣が伸びていく。プトラルドは、必死に体をそらして剣をかわすが、胸をリック剣がかすめ斜めに傷が刻まれる。


「グア!」


 声をあげる後ずさりするプトラルドだった。リックはプトラルドとの距離が開き、左腕をあげまじまじと大地破壊剣(グランドバスター)を見つめる。


「そうか…… やっぱりこいつ光の聖杯と同じ…… そっか! だからアイリスが重くて…… 俺に渡すように…… よし!」


 軽くなった大地破壊剣(グランドバスター)にハッとするリック、彼はブラックタートルの言葉を思い出した。大地破壊剣(グランドバスター)は光の聖杯と同じで、ブラックタートルが願いを込めて作った道具だ。光の聖杯のように人々の願いに敏感に反応しても不思議ではないのだ。アイリスは大地破壊剣(グランドバスター)を使いたくなかった。だから彼女は大地破壊剣(グランドバスター)に拒絶されなかったが使用できない重量になったのだ。リックは大地破壊剣(グランドバスター)の刀身に向かってつぶやく。


「俺の使いやすい形と重さに変われ!!!!!!!!!!!!!」


 リックの言葉に大地破壊剣(グランドバスター)は白く光輝いた。光がおさまると刀身が薄くなり片刃の刃へと変わっていた。


「よーし。いいこだ」


 変形した大地破壊剣(グランドバスター)に満足そうにうなずき声をかけるリックだった。プトラルドは信じられないと言う顔でリックを見つめている。


「なんじゃと…… 大地破壊剣(グランドバスター)の形が…… そんな馬鹿な!!!! 聖剣の形が変わるなど!!! あってたまるか」

「そんなの俺の知ったこっちゃねえよ。さぁ…… そろそろ終わりにしようぜ魔王さんよぉ」


 にやりと笑ってリックは両手に剣を持って剣先を下にして構えた。重く使いづらかった剣はない、両手に持ったのはリックがいつも使ういつもの武器だ。


「舐めるなよ。小僧! わしはあまたの魔族を束ねる魔王じゃ! 貴様のような兵士になどに……」


 プトラルドは両手を開いて前に出した。彼の両手の前に黒い刀身の剣が現れ握られた。リックとプトラルドは互いに両手に剣を持って構え対峙する。

 静かな時が流れるプトラルドとリックは対峙したまま動かなかった。ただ、意外にも先に動いたリックだった。腰を落として駆け出した彼は右手に持って剣でプトラルドに斬りかかった。右手を振りかざしプトラルドの首を狙って斬りつける。だが、リックの攻撃はたいした威力はない、プトラルドは簡単に彼の攻撃を受け止めた。にやりと笑ったプトラルド、彼は右手に力を込めた。プトラルドは右手に持った剣でリックに斬りかかる。

 しかし、これはリックの罠だった、自分の弱点を把握しているリックの狙いはそう反撃の反撃だった。リックは鋭く伸びて来るプトラルドの剣に向かって大地破壊剣(グランドバスター)を振り上げた。鋭く伸びた大地破壊剣(グランドバスター)はプトラルドの剣とぶつかった。


「くっ!?」


 大きな音がしてプトラルドの剣を大地破壊剣(グランドバスター)が弾いた。リックはニヤリと笑って右手を押し込む。右手を弾かれ体勢を崩していたプトラルドは押されそのまま後ずさりした。リックは両手を引いて、プトラルドとの距離を詰めると、視線をプトラルドの胸にある宝石のような心臓に向け、左腕に力を込める。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおりゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


 渾身の力を込め リックは大地破壊剣(グランドバスター)を振り上げた。プトラルドは大地破壊剣(グランドバスター)に向かって両手に持った剣を同時に振り下ろし向かいうった。激しい金属音がして目の前に火花が散る。片手の一撃であったがリックのカウンターの威力にプトラルドは押された。左右の剣は弾かれ白い床とプトラルドの足が、こすれ摩擦で煙が上がりプトラルドは後方に引きずられていく。

 押されバランスを取ろうと両腕を広げるプトラルド。リックは左腕を即座に戻しジッとプトラルドを睨みつけ走り出した。プトラルドの前に来てリックは両手を振りかざした。


「がっは!!!!!!!!!!!」


 リックは両手を同時に振り下ろした。彼の二本の剣はプトラルドの左右の腕を切り落とした。地面に向かって剣を握った腕が落ちて行き床に転がる。声を苦痛に顔を歪めプトラルドは後ずさりしリックを睨む。


「なぜだ…… なぜだああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 叫ぶプトラルドを真顔のリックは気にすることもなく、淡々と膝をまげしゃがむくらいに体勢を低くした。


「うるせえな。でかい声をあげるなよ……」


 右手を上げ握力を緩め手を振るように動かし、持っていた剣を回転させ逆手に持った。そのまま下に振り下ろし、プトラルドの右足の甲に突き刺した。プトラルドの甲をリックの剣が貫いた。これでもうプトラルドはリックから離れ逃げることはできない。終焉の時間は刻一刻と迫って来ていた。

 左手に持った大地破壊剣(グランドバスター)を右脇の近くまで引き右手を柄頭に添えたリック、顔をあげ幼馴染から聞いたプトラルドの胸にある宝石のような心臓を見つめる。最後の一撃…… 


「終わりだあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 リックは全身に力を込め飛び上がり、プトラルドに体ごとぶつかるようにして、心臓に大地破壊剣(グランドバスター)を突き立てた。今までに感じたことないズシリとした重い感触がリックの両手に伝わる。大地破壊剣(グランドバスター)はプトラルドの宝石のような心臓と体を貫いた。細長い薄い刀身が体を突き抜けていく。


「ウギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 激しい悲鳴をあげるプトラルド、リックは大地破壊剣(グランドバスター)から手を離し一歩、また一歩とゆっくりと後ろに下がっていく。プトラルドは苦痛に顔を歪めながらリックを睨みつけて前に出る。しかし、体がもう動けないのかリックの直前でゆっくりと膝をついた。目の前に立つリックを見上げるくやしそうにプトラルドは見つめていた。


「リック! 貴様! これで勝ったと思うなよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 耳が痛くなるような大きな断末魔が響き渡る。プトラルドの体が白くなって動きがとまり、灰のようにバラバラになって消えていくのであった。


「ふぅ…… うわ」


 リックの体から力が抜けた。彼は棒が倒れるように仰向けに倒れたしまった。決戦の間がぼろぼろと崩れていく光の粒になってい消えていく。


「青空…… それに白い…… ははっ。真っ白だな」


 決戦の間が消えてリックはいつの間にか魔王の間に戻っていた。魔王城の天井や壁や玉座や装飾品にいたるまで、すべて白くなって色を失っていた。


「勝った! 勝ったぞーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!! 俺が…… 俺達が勝ったんだ!!!!!!!!!!!!! ソフィア!! 俺やったよ!!!! なぁアイリス!!!!」


 両手をあげて歓喜の声をあげるリック。アイリスの名前を呼んだことで、アイリスが重傷を負っていたことを思い出した。


「そうだ!? アイリス!?」


 飛び上がるように起き上がったリックはアイリスを探した。


「リック!!! こっちですよ!」

「ソフィア! えっ!? クソ!!!!!!!!!」


 ソフィアに呼ばれたリックが、声がしたほうに振り返るとソフィアが座っていた。彼女の座っている前には、仰向けに倒れた血だらけのアイリスがいた。彼女の枕もとでポロンが立って居て泣いているのか顔を覆っている。事態を察したリックは急いでアイリスの元へと駆けていく。アイリスの横に座ったリック、彼が近づくのに気づいたアイリスは。目を開けて嬉しそうに笑った。


「リック…… 魔王…… 倒せた?」

「あぁ、プトラルドは倒したよ」

「そう……  よかった。でも…… わたしもうダメみたい……」

「おい!? 何を言ってるんだよ!? 大丈夫だよな? だってソフィアが」


 必死にソフィアにつめよるリック、だが彼女は静かに首を横に振った。


「リック! アイリスは…… もう…… ごめんなさい…… 私にも無理です!」


 目に涙を溜め目をそらすソフィア。深手を負ったアイリスは、ソフィアの治癒を受けたが、間に合わなかった。黒い剣に体を貫かれたアイリスは、ソフィアの治療では治せずもう死を待つしかなかったのだ。


「そんな…… ソフィア!? 嘘だろ? やっと魔王を倒したのに……」

「……」


 何も言わずうつむくままのソフィアだった。目をつむるリックにアイリスが優しく笑って声をかける。


「リック…… ソフィアを責めないで…… お願い」

「アイリス…… ごめん」

「ふふ。よかった…… ねぇ…… お願い…… 最後に私に…… ポーションを……」

「おい!? 目をつむるな! ポーションだな! わかった」


 リックは近くに置いてあったポロンの背負っていたリュックを開け、ポーションを取り出して、アイリスの体にかけた。ポーションが少し効いたのかアイリスが目を開く。


「ゴホ…… お願い… 最後に…… せっ……」


 血を吐き出して咳き込む、アイリス動きが徐々に静かになっていく。


「えっ……」

「リッリック!?」


 ポーションの瓶を口に持っていたリックは口にポーションを含み、アイリスの口に自分の口を重ねた。必死な彼は直接体内にポーションを送り込んで何とかしようとしたのだ。ソフィアは口を手で覆い驚き、ポロンは呆然とリック達を見つめていた。


「アイリス…… 頼む…… 生きてくれ…… 俺…… メリッサさんになんて言えば…… 二度も勇者を…… クソ!!!」


 リックは涙を溜め、静かになったアイリスの手を握って声をかけた。


「ん!? うふ!?」


 アイリスの体が少し白く光った。血が止まりアイリスは、目を大きく見開いた。


「おわ!?」


 穴だらけの竜巻鎧(トルネードアーマー)を着た、死にかけの、アイリスは復活して飛び起きた。起きたアイリスはリックの顔を見ると、口をすぼめながら近づいて来た。さっきまで悲しかったリックだったが、アイリスが元気になり瞬間で冷静になり、彼の額に手を置いて押し返す。


「リック!? うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! もっとよ! もっとよーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

「もうポーションがねえよ……」

「えぇ!? なくてもいい…… いや…… 待って! いま私の道具袋から……」

「おっおい! なにしてんだ?! やめろ馬鹿!」


 アイリスは自分の道具袋を取り出そうと竜巻鎧(トルネードアーマー)を脱ぎだした。勢い余ってスカートも脱ぎ下着が丸見えになりリックに怒られる。


「はぁ…… 元気じゃねえか…… まったく心配かけやがって…… 本当に馬鹿だな…… まぁ俺もか…… しかしなんで死にかけてたのに……」


 笑ってアイリスを見るリックだった。アイリスは回復ができないほどダメージをうけ強い生命でかろうじて生きている状態だった。そんなアイリスが府復活できたのは、リックからもらったポーションと、アイリスの勇者との生命力が起こした奇跡としか言いようがなかった。


「わっ!」


 リックにソフィアが抱き着いた。彼女は泣いているようでリックの胸元が濡れていく。


「よかったです…… アイリスが無事で…… それにリックも……」

「うん。俺もソフィアが無事でよかったよ」


 リックは強くソフィアを抱きしめ再会を喜んだ。一旦顔を離して顔を見つめ微笑み合う二人、すぐにソフィアは目をつむり自分の額をリックにつけた。二人の熱い抱擁を見てアイリスが叫ぶ。


「ちょっと!!! ソフィア!!! おかしいでしょ。ここは私がリックと……」

「ダメです。もうリックは私のです! 誰にも渡しません!!!」

「えっ!? ソフィア!?」


 背中に手をまわしリックの顔を自分に向けると、ソフィアが優しくリックに口づけをした。二人は人目もはばからず、二度と離れないと誓うかのような熱いキスをする。


「おぉ! ラブなのだー!」

「なっちょっと何!? 口と口で接吻なんかして!? しかも私の時に舌は…… この! 不潔よ! 二人とも! とういか私ももっとリックと……」 

「ラブしたいのだ? ポロンがしてあげるのだ!」

「わっ!? ちょっとポロンちゃん…… うれしいけど、ダメよ!」

 

 リックとソフィアが目を開けるとポロンが嬉しそうに、アイリスにチューしようとしてアイリスが嫌がっていた。ソフィアが何かを思い出してリックから体を離し立ち上がろうする。


「スラムンさん達の治療もしないと!」

「そうか。俺も手伝うよ」


 二人が立ち上がると、ポロンとのチューを終えたアイリスが、目の前に立ちふさがり止める。


「いいわ。私が行くから」

「でも、お前まだ怪我が……」

「ふふふ。舐めないでよ。私は勇者よ。もう大丈夫。それにリックだって怪我してるでしょ。ソフィアに回復してもらいなさい。ほら座って」


 アイリスはリックの肩に手をかけて強引に座らせた。二人に背を向けたアイリスは数歩歩いて立ち止まり前を向いたまま口を開く。


「ソフィア!」

「はい?」

「りっリックを…… よろしくね。頼んだわよ」

「はい!」


 うなずいて笑顔で返事をしたソフィアにアイリスは左手をあげ答えてスラムン達の元へと駆けていく。二人に背中を見せたまま、アイリスは静かに気づかれないように、目を手をあて、涙をぬぐう仕草をするのだった。

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