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第255話 託された思い

「こっこいつはプトラルドか!? ずいぶんとスッキリしたな……」


 光りがおさまってプトラルドが出て来た。小さくなったプトラルドはメリッサほどの大きさになり、全身真っ赤に染まり硬そうな鉱石のようなに体へと変わり、顔は体と同じように赤い顔であが、額にひし形の白い宝石が輝いている。プトラルドの肩の少し二振りの剣が浮いていた。浮かんだ剣は幅広の両刃の一メートルほどの刀身のロングソードで、白い柄を持ち刀身はリックと同じ黒く輝く黒精霊石製で黒く輝いていた。

 姿の変わったプトラルドをみて、アイリスが嬉しそうにリックの元へと駆け寄って来た。


「おい!? アイリス? これいったい?」

「これがプトラルドの正体よ。やっとこれで倒せるわ」


 アイリスがプトラルドを指さした。これが魔王プトラルドの本来の姿だ。プトラルドの倒す方法は一つ、戦いで真の姿へと戻し最後は……


「でも、倒すってどうするんだ?」

「これよ! これ! 額の宝石をこれで破壊するの。そこがプトラルドの心臓よ」


 アイリスが背負っていた大地破壊剣(グランドバスター)に手をかけ抜く。綺麗な青い刀身の両刃の剣がアイリスの両手に握られている。大地破壊剣(グランドバスター)で胸にある宝石のような心臓を破壊するのがプトラルドを倒す唯一の方法だ。


「よーし! 後は…… えっ!?」

「キャッ!」


 両手に持って構えようとして、アイリスは大地破壊剣(グランドバスター)の剣先で地面を叩いた。驚くリックだったがアイリスは真面目な顔で腰を落として両手に力を込めた。


「ふん! よっこいしょういちーーーー!!!」


 鼻息を荒くして力を入れアイリスは、必死に持ち上げ大地破壊剣(グランドバスター)を構えた。だが…… 剣先は震え腰が引けてとても戦えるようにみえない。


「もうやだーー! 重いよ!! 持てるけど構えて振ったり戦うの無理だよ……」

「お前…… 剣をつかえないのかよ? 待て! まえにお前は短剣を使ってたろ?」

「短剣は軽かったもん。それに最近はチャクラムしか使ってないもん!」


 アイリスは大地破壊剣(グランドバスター)を下してしまった。また、剣先が地面を叩く。

 その様子を見たプトラルドは、体を浮き上がらせて笑う。


「ははは! ロクに剣も使えぬ勇者か…… 死ねええーーー!」


 叫びながらプトラルドは前へ動き出した、徐々に速度を上げながら、肩の上に浮かんでいた剣を両手でつかんだ。二つの黒い剣を両手に持ったプトラルドは、顔の前で柄を合わせると二つの剣がつながった。

 黒い剣はつながり、長い柄の両脇に刃を持つ両脇に刃のついた槍のような剣へと変化した。プトラルドは剣を両手でもって体の前に回転させリック達に向かって飛んできた。


「チッ!」


 リックはかばうようにしてアイリスの前へでた。前に出たリックに向かって、プトラルドは上から剣を振り下ろす。リックは振り下ろされた剣にタイミングを合わせて自分の剣を振り上げた。大きな音がしてリックの剣は


「クソッ!!」


 プトラルドは剣を引いて、すぐに下の刃で今度は下から、リックを斬りつけて来る。右足を引いて上半身を反らしてなんとかリックは剣をかわした。重装鎧をかすめながら、リックの眼の前を黒い剣が通過していた。


「まだまだじゃ!!」


 プトラルドは二本の合わさった剣でリックを攻撃しつづける。連続で繰り出される攻撃にリックは防戦一方となってしまった。リックはプトラルドの攻撃を見極めめていたが、さすがに魔王となると一撃が鋭く速く剣が一本では防ぐの精一杯で押し込まれていく。


「(防ぐだけじゃいつかやられる…… こうなったら!!)」


 何度目かの攻撃をリックが剣で受け止めた。リックは右足に力を込めた。プトラルドの腹に向かって振り上げた。


「ぬう!」


 剣を受け止めた瞬間に、プトラルドの体を蹴り上げ、なんとか少し距離を取ったリック。


「いまだ!」


 少しだけ出来たスキに、リックは素早く腰につけていた、魔法道具箱の蓋を開けた。中から以前使っていた鉄製の予備の剣が十本ほど飛び出してきて近くの床につきささる。


「来い」


 鉄製の剣を左腕に握りぬいたリックは、両手に剣を持った状態でプトラルドと対峙した。


「そんな剣が役に立つのかな」


 両手に剣を持ったリックにニヤリと笑ってプトラルドは駆け出した。左腕を押し込むようにしてプトラルドはリックの右斜めしたから斬りつけてくる。リックはタイミングを合わせて彼の刃を右手の剣で受け止めた。

 リックはプトラルドの首を狙って左手に持った剣を振り上げた。正確なカウンター攻撃がプトラルドの首を捕らえた。だが…… プトラルドは体を後ろに反らしてリックの剣をかわした。リックの剣が虚しく空を斬った。プトラルドは左手を離し、右手だけで剣を持つと、体制を戻して今度は上から斬りつけてくる。すぐに左手の剣を戻してリックはプトラルドの攻撃を防ぐ。大きな金属のぶつかり合う音が魔王城に響き渡った。


「ふぅ…… 危なかった。フン!」


 左手で剣を押し込むリック、プトラルドは押され後ずさりし、リックの距離が開く。体制を戻し剣を構えたプトラルドがにやりと不敵に笑った。


「チッ……」


 ガキっと音がしてリックが左手に持った鉄製の剣が折れた。一回打ち合っただけなのに、黒精霊石製の剣を相手に鉄製の剣では、耐久力が絶対的に足りていなかった。


「はははっ!」

「うるせえなおめえはよ!!!」

「なっ!」


 リックは不意をついて持っていた折れた剣をプトラルドに投げた。プトラルドは剣を叩き落とす。リックはその隙に床に刺してあった剣を一本抜き、両手に持ちアイリスに声をかける。

 

「アイリス? なんとかなりそうか?」

「もうちょっと待って!」

「なるべく早くしろよ」


 プトラルドがリックに攻撃をしてきた。振り下ろされる剣を右手の剣で、防ぎ横目でリックはアイリスの様子を確認する。


「(ありゃ…… 難しいかな……)」


 泣きそうな顔してアイリスは大地破壊剣(グランドバスター)を持ち上げてなんとか使おうとしていた。しかし、あきらめたのか、首を横に振り、剣から手を離したアイリスはリックに叫ぶ。


「もういや。リック! やっぱりあなたがやってよ」

「いやいや、前に俺触れなかったじゃん! これはお前しか使えないだろ?」

「だってもてないもん! なんとかしてよ」

「えぇ!? ソフィア! ポロン! ちょっと助けて!」


 リックの指示を聞いて、ポロンとソフィアがプトラルドへ向かって駆け出した。プトラルドの手前で飛び上がった、ポロンが床をハンマーで叩く。飛び散った床の破片がプトラルドを襲い、プトラルドは剣でポロンが巻き上げた床の破片を防いでいた。さらにソフィアがスラムンを頭に乗っけたまま電撃魔法でを唱えてプトラルドの注意を引く。


「ありがとう」


 二人がプトラルドの注意を引くくと、リックはアイリスの元へとかけつける。


「うん!?」


 足元にいつの間にか、ソフィアの頭から降りていた、スラムンが居てリックと一緒にアイリスの元へとやって来た。


「アイリス…… リックには無理ズラ…… それを使えるのは勇者の資格をもつアイリスか…… アレックス・グーズマノフだけズラ……」


 治療がまだ終わってないのか、スラムンは少し苦しそうにアイリスに話しかけている。


「えっ…… アレックス・グーズマノフ…… そうだ!」


 アレックス・グーズマノフという言葉にリックが何かを思い出す。彼が思い出しのは、魔獣ゾルデアスとの戦いの後、グラント王国の守り神ブラックタートルが話してくれたことだ。魔獣ゾルデアスを討伐の為、アーロン・グーズマノフという人物に、四つの指輪を渡して協力してもらったという話だ。アレックスのフルネームはアレックス・グーズマノフ、魔王との戦いで四つ指輪を使用していた。そして光の力を操る勇者の才能がないのに、大地破壊剣(グランドバスター)を抜き使用した……

 自分の左手を見たリックは、四つの指輪を見て確信したようにうなずき、アイリスに向かって左手を伸ばした。


「アイリス! 大地破壊剣(グランドバスター)を俺に貸せ」

「えっ!? いいの?」

「あぁ、俺が使ってやるから早く剣を」

「わかったわ。はい! リック」


 アイリスはリックに大地破壊剣(グランドバスター)のグリップを向けた。リックは指輪をしてる左手で大地破壊剣(グランドバスター)をつかもうと手を伸ばした……


「うっ!」


 手が大地破壊剣(グランドバスター)に触れそうになるとリックは躊躇してとまった。指輪をしていれば大地破壊剣(グランドバスター)にふれても大丈夫なはずだが少し自信がない。


「怖いからまずはさきっちょをそっと……」


 大地破壊剣(グランドバスター)の柄頭の部分をそっと指先で触れるリック。以前なら触れた直後に電撃のようなものがはしったが今は何も起こらない。


「おぉ! これならいけるぞ!」


 声を出しリックは左手に大地破壊剣(グランドバスター)のグリップを握り持ち上げた。


「なるほど…… アイリスがいう通りだな」


 大地破壊剣(グランドバスター)はずしりと重く、力の強い人間じゃないと使えない。


「なんかこういう聖剣って軽いイメージがあるけど違うんだな」


 リックは軽く、大地破壊剣グランドバスターを振りながらつぶやく。その姿を見たプトラルドが驚きの声をあげる。

 

「なぜじゃ? 貴様がなぜ大地破壊剣(グランドバスター)を持てる?」


 プトラルドの声にリックは笑って彼に大地破壊剣(グランドバスター)の剣先を向けた。


「さぁ!? 俺も勇者かもしれないぞ?」

「やはり貴様…… わしを騙して…… バカにしおって! この!」


 プトラルドはポロンのハンマーを右手持った剣で弾き返して、ソフィアに向かって左手で火の玉を発射して二人を牽制して飛び上がった。


「まとめて始末してやる。はああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」


 左手をプトラルドは空に向けた掲げ、左手に黒い光が集約されていく。地面が揺れ空気の流れがプトラルドへと向かっていく。


「私が!」


 ソフィアが弓に矢をつがえた。プトラルドは彼女に視線を向けると右手に広げた。彼の手に黒い黒曜石の剣が握られる。プトラルドはソフィアに向かって剣を投げた。矢をソフィアがはなつよりも早く、黒く輝く剣がソフィアへと伸びていく。


「危ないのだ!!!!」


 叫びながらポロンがハンマーを持ってソフィアの前へと駆けてきて、彼女は向かって来る剣に向かって飛び、ハンマーを剣に叩きつけた。激しい音がしてポロンのハンマーとプトラルドの剣がぶつかりる。ポロンの目の前に火花が飛び、ハンマーと剣が重なり合う


「グググッ!!! 負けないのだーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 ポロンは声をあげ全身の力を込めてハンマーを振りぬいた。剣は軌道を変えソフィアからそれて魔王城の床に突き刺さった。ポロンは剣の勢いに押されて背中から落下する。


「うわああああああああああああああああああああなのだーーーーーーーーーーーーーーー!!」

「はい! キャッ!」


 落下するポロンをソフィアが慌てて受け止めたが、支えきれずにソフィアは尻もちをついて、二人は折り重なるように倒れた。


「ソフィア!? ポロン!!!」

「しびれたのだ」

「リック! 私たちは大丈夫です」


 体を起こした二人。左腕でポロンを支えながら、ソフィアがリックに手を振った。


「よかった……」


 二人の無事な様子にホッと胸を撫でおろすリック。プトラルドはジッと彼を見つめている。その口元がわずかに緩んだ。プトラルドへの左手に集まった光がどんどんと大きくなっていく。


「リック…… 行くわよ」

「えっ!?」

「プトラルドは全部吹き飛ばすつもりよ。あそこまで私が運んであげる」


 アイリスは魔法道具箱を開け空中に放りながた。中から伝説の防具である、竜巻鎧(トルネードアーマー)聖水晶(せいすいしょう)の盾と天上の兜の三つが飛び出した。飛び出した三つの防具は、アイリスへ向かって行き。あっという間に竜巻鎧(トルネードアーマー)聖水晶(せいすいしょう)の盾と天上の兜がアイリスに装備された。三つの伝説の防具を装備したアイリスは、羽根の生えた鎧の騎士のような姿に変わる。


「すげえ……」

「さすが伝説の防具でしょ!?」


 にっこりと笑ってリックの背中にまわりこみ、リックを抱えてアイリスは飛び上がった。一直線で凄まじい速さでプトラルドへ向かって飛んでいく。


「さぁ! かたをつけようぜプトラルド!」

「こしゃくな!」

「なっ!?」


 左腕を上にあげたまま、プトラルドは右腕を前にだしてリック達を指す。

 黒い光からたくさんの剣が飛び出してき、リック達に向かってくる。アイリスは華麗に飛んで剣をかわしていく。


「危なかったわね……」

「あぁ。さすがアイリスだ」


 剣が止まってつぶやくアイリスにリックは笑顔でうなずく。しかし、アイリスに剣がわずかにかすったのか、足の装甲が削れ血がつま先から垂れていた。プトラルドはアイリスをジッと見ながら舌打ちをする。


「チッ…… だが、こっちを狙う方がよさそうだ!!!!」


 プトラルドはリックを抱えて、飛ぶアイリスを狙って剣を放った。飛んでくる数十の剣を見てアイリスが顔をしかめる。


「卑怯者ね!」


 飛んでくる剣をなんとかかわしていくアイリス。


「キャッ!」


 悲鳴のような声が聞こえた。リックが横目で、後ろをみるとアイリスの肩の竜巻鎧(トルネードアーマー)を剣がかすめたようでで、装甲が外れ腕から血がでているのが見える。


「アイリス!?」

「クッ…… わたしは平気よ。リック! お願い! 魔王プトラルドを倒して!」

「でも……」

「前を見なさい!!!」


 前を向いたリックにプトラルド左手の光が大きく今にも爆発しそうになっているのが見える。


「あれが魔王の必殺技。完全破壊弾よ。もうあいつは城…… ううん。魔大陸ごと私達を吹き飛ばす気よ」

「そっそんな」


 ジッとプトラルドの手に集まっていく光を見つめるリック。プトラルドはニヤリを笑って右手の人差し指で円を描く仕草をする。


「何をしておる! いくぞ!」


 光りの玉からまた剣がでて、リック達の前に飛んでいく。しかし、今度は二人の目の前が、剣で見えなくなるくらいに無数の剣が、浮かび取り囲む。囲んだ剣先が一斉にアイリスへ向けられる。


「リック! このまま進むわよ。お願いね」

「わっわかった……」


 プトラルドへと飛ぶアイリスに向かって全方向から剣が飛んで来た。アイリスは猛スピードで剣をかわしながら進み、リックは近づいて来た、プトラルドの剣を両手に持った、二本の剣で叩き落とす。二人は剣の中を突き進んでいく。


「数がさすがに多いわね……」

「あぁ……」


 まっすぐ飛んでいたはずの二人だったが、剣をかわしながらいつの間にプトラルドから離れ、彼のはるか上とやって来ていた。


「キャッ!」

「おわ!」


 悲鳴がしてリックの体が横になって揺れた。二人の下から剣が飛んできてアイリスは横になってかわしたのだ。いつの間にか二人は剣の囲みを突破していた。リックの目に下に浮かぶプトラルドと光の玉が見える。光の玉は直径が五メートルを超えかなり巨大になっていた。二人の姿がちょうど光の玉に重なっており、プトラルドは二人を見失っているようで左右に顔を動かしている。


「このまま突っ込むわよ」

「わかった! 行け!」


 アイリスはプトラルドに向かって急降下を始めた。しかし…… 急降下をしたリック達にプトラルドはすぐに気づいた。右手動かして横から剣を二人に向かわせた。剣の接近に接触直前にアイリスが気づいて、回避しようとしたが、かわしきれずに一つの剣がアイリスの右足を貫いた。


「キャッ!」


 バランスを崩し速度が落ちたアイリスの横腹に別の剣がつきささった。リックの顔にアイリスから吹き出した血がかかる。振り向いたリックに腹を押さえ血を流すアイリスの姿が見えた。彼は慌ててアイリスに向かって叫ぶ。


「アイリス! すぐに地上に戻れ! 治療を!」

「お願い…… リック…… プトラルドを……」


 振り向いたアイリスは口から血を流して、にっこりと笑った。


「ばか! やめろ!? お前の治療を先にしないと……」


 リックの背中に両手を置いたアイリス。流れ出た血がアイリスの手を染め、リックの鎧の背中も赤く染めていく。リックの背中を見たアイリスは口の端から血を流しながら笑う。


「行きなさい! 私の代わりに…… プトラルドを倒して!!!!!」

「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」


 叫び声をあえるリック。彼の横を黒い剣が通り過ぎていく。同時にアイリスはリックの背中を精一杯に押した。アイリスに背中を、押されたリックは、落下しながらプトラルドへと向かって行く。直後にアイリスの体をプトラルドの剣が貫くのだった。

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