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第254話 勇者との再会

 魔王の間の扉を開いて中へ入ったリック達、部屋の奥に巨大な何かが、立っているのが見えた。


「ははは! グラント王国の勇者を殺すのは二人目だな…… アレックスと貴様だ! 勇者アイリスよ」


 部屋に奥に居たのは巨大な怪物で、視線を下にして誰かにしゃべっていた。赤く硬そうなぼこぼこした表面の筋肉が盛り上がり大きな体に、背中に黒い爪のついたドラゴンのような大きな翼が生えている。目は黄色く薄っすらと輝き大きな口は下あごから牙を生えて禍々しい表情をしていた。

 この大きな怪物が魔王プトラルドだった。リックが視線を下に向けると、プトラルドの足元にはアイリスが、うつぶせに倒れているのが見えた。


「あっ! ポロン! 行きますよ」

「わかったのだ」


 リックはアイリスの姿を見た、瞬間に厳しい表情をして無言で走り出した。ソフィアとポロンは慌てて彼を追いかける。


「さぁ最後だ! 英雄の勇者を殺され、絶望した人間どもの顔を見るのが楽しみだわい」


 プトラルドが大きく拳を振り上げた。アイリスは声に反応顔を上げる。ダメージをかなり負っているのか、アイリスの動きは遅くかすかに体がわずかに振るえている。プトラルドは笑って拳を振り下ろした、赤く巨大な拳がうねりを上げながらアイリスへ迫る。アイリスはどうすることもできずに、迫りくる拳を呆然と見つめるしかできなかった。しかし、その直後にアイリスの視界は何者かに遮られた。


「リッリック……」


 震えながらか弱い声をあげるアイリスの視線の先に、自分の前に立つルプレートの灰色の鎧を着た幼馴染の背中が見える。その背中は大きく頼もしく、いつも自分の危機に現れる、アイリスの心が熱く満たされ目にはうっすらと涙が浮かぶ。

 振り下ろされる拳にリックは黙って自分の剣を振り上げた。激しい音と衝撃がリックの右腕を襲う、衝撃を受けた手はふるえ、足が床にめり込んでいく。剣を振り上げたまま、リックは静かに冷たい目でプトラルドを睨みつけている。

 魔王プトラルドの拳は、リックの剣の鋭さに負けた。ブシュッという音がして、剣が拳に食い込んで、指を半分くらいまで斬りつけ、刃が骨の硬い部分で止まった。

 

「なっ!? 貴様は…… リック・ナイトウォーカー!」


 目の前に現れたリックにプトラルドは驚愕の表情を浮かべている。リックはプトラルドをジッと見つめてニヤリを笑う。


「へぇ…… 魔王様が一兵卒の俺のこと知ってるなんて光栄なこった」

「ふん。貴様と我が分身との戦いを見せてもらったからな」


 どこか見下したような口で話す、リックにプトラルドは不機嫌そうに答える。

 プトラルドはローズガーデンで、ジェーンの槍が具現化した時の、リックとの戦いを見ていたようだ。


「グゥ!」


 剣を引き抜くと紫色の血がプトラルドの拳から流れ出た。プトラルドは苦痛の表情をあげ、右手をおさえてリックを睨み付けている。

 リックはアイリスの横にしゃがみ、左手のガントレットを外し額に手をあてた。リックが額に手を置くとアイリスは少しほっと顔をしていた。きっとさっきまで激しい戦闘をしていたのだろう。アイリスの服は戦いのせいかどころど破れていたりしてボロボロだった。

 アイリスは伝説の防具と剣を、所持しているはずだが、何も一つ装備していなかった。天上の兜、竜巻鎧トルネードアーマー聖水晶せいすいしょうの盾も持たず、いつもの恰好に大地破壊剣(グランドバスター)だけ背負っていた。


「アイリス! 大丈夫か?」

「リック…… 来てくれたのね。私はまだ平気! スラムンとキラ君が……」

「わかった」


 首を動かして後ろを向くアイリス、視線の先を見ると少し後ろにキラ君とスラムンが倒れている。倒れてはいるが二人ともかすかに動いており、まだ息はあるのだろう。リックは立ち上がって左手をあげてノエル達に合図を送った。


「うん!? どうした?」


 アイリスがリックの左手を見て目を輝かせていた。リックは左手に四邪神将軍から出てきた金、銀、赤茶、青色の指輪をつけていた。以前は二つは、ポロンとソフィアに奪われていたが、ブラックタートルの助言に従い、菓子と引き換えに取り返した。


「リック…… 指輪をちょっと趣味じゃないけど…… きっと私との結婚指輪を……」

「違うよ! なんでお前と結婚するんだ! お前は俺の友達だろ!」

「なっ!? ちぇ……」


 口を尖らせて不満そうにしてするアイリス。魔王を前にしても、そんな態度をとるアイリスにリックはあきれ、構わずソフィア達に指示をだすのだった。


「ノエル、スラムン達を回復してくれ。ポロンはアイリスをお願い」

「はい」

「わかったのだ! ポーションをいっぱいもってきたのだ!」


 駆けつけて来たポロンが、アイリスを持ち上げ、ソフィアが向かったスラムン達の元へとつれていく。ポロンがアイリスを運ぶの見てプトラルドが手を伸ばす。


「まて! 貴様! 勇者をどこへやる!」

「おっと…… お前の相手は俺だ。しつこいと女に嫌われるぞ!?」


 振り向いたリックがプトラルドの前に立ちふさがる。プトラルドは悔しそうにリックを睨みつけた。


「リック! この! ガウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 プトラルドがリックに向かって大きく吠えた。あまりの大きな声にソフィア達は耳を塞ぐ。リックは動じずに静かにプトラルドを見つめている。

 咆哮が遠くへとこだましていくと、プトラルドが右手を前にだして構えた。右手の指はリックが斬りつけた後がふさがり傷になっていた。もう右手の血はとまって回復したのだ。ジッとプトラルドをみながらリックはアイリスに尋ねる。


「なぁ。アイリス、あいつローズガーデンの時と雰囲気が違うな」

「人間みたいな時は倒せたのよ。でも、急に光って大きくなったのよ」


 魔王の前にアイリスが来た時は、ローズガーデンで出会った時の老人のような姿であったという。今の姿がプトラルドの本来の姿なのだろう。リックは続けてアイリスに声をかける。


「アイリス、少し休んでろ。俺がこいつをぶっ倒してやる」

「リック!? ちょっとまって!」

「ソフィア、ポロン! アイリス達をお願い!」


 リックを止めたアイリスだったが、彼は止まらずにアイリスをソフィアに託すと、剣先を下に構え笑いながら、プトラルドに向かって左手で子供を呼ぶようにおいでおいでと動かした。


「なめおって! 魔王の力を思い知るがよい!」


 プトラルドは膝を曲げ腰を落とし、左足で地面を蹴りリックへと一直線に向かってくる。距離をつめた左拳を振り上げてリックを殴りつける。


「(さすがに魔王様! 今まで受けてきた攻撃の中でも一番に鋭いな。だけど一度見た攻撃は…… 俺に効かないよ)」


 向かってくる拳をリックはジッと見つめ、左足を斜め前にだし、左へと拳をさけ、プトラルドの右足の横へぬけていく。リックは狙いすまして右足首の近く人間でいうとくるぶしの下あたりを斬りつけた。


「グゥ……」


 声がしてプトラルドは膝をつき、リックはとびあがり、顔をさげたプトラルドの首の剣を突き刺した。

 

「グギャ!」


 剣を引き抜くと紫色の血がリックの手にかかる。リックはすぐに首から剣を引き抜き、プトラルドの体を蹴って、下がりながら着地する。


「やったか……」


 プトラルドから少し離れた場所に着地し顔をあげるリック。だが、プトラルドは首の左を手でおさえるだけで、平然として立ってを見つめている。


「えっ!? どうして…… 首の急所をついたはずなのに」

「こっこの…… なめおって! こいつ!」


 怒りながらプトラルドがリックへ顔を向け口を開く。口の先に紫色の、小さな光の粒や、渦巻きながら集約されていく。魔獣ゾルデアスが使っていた破壊光線だが、プトラルドが作り出した光の方が大きく激し輝いていた。リックは緊張した顔で手に持った剣を強く握りしめた。


「ウガアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 巨大な光線が放たれ、一直線にリックへと向かって来る。光に照らされ周囲の景色がリックの視界から消していく。いつものように剣先を下に向け構え、ジッと前を見たままリックは向かって来る光を見つめている。


「はっ!」

 

 目をカッと見開いたリックは剣を振り上げた。彼の剣が光線を叩いた、光線は弾かれ軌道がそれ、魔王城の天井へと向かって行く。

 リックの後方上空で、大きな音がして爆風が、背中を押す。リックは足に力を入れてなんとか踏ん張った。背後で小さな音がする、振り返ると細かい魔王城の天井ががれきが落ちていた。魔王の間の屋根は吹き飛び、何も遮るものが無くなった空は、光線が紫色の雲を晴らして青くすんでいる。リックは光に照らされながら右腕をまっす前に伸ばし魔王プトラルドに向けた。

 

「お前の攻撃は俺にきかないぜ」


 プトラルドはいやらしく笑った。


「はは! 無駄じゃ! どんなに貴様が強くてもわしは殺せん!」

「だったら試してやるよ!!」


 笑うプトラルドに駆けていくリック、プトラルドは腰を回転させ今度は長い尻尾で攻撃をしてくる。リックはタイミングを合わせ、剣を振り上げ尻尾を斬りつけた。ブシュッと音がして尻の先端が、切り落とされ飛ばされ回転しながら床へと落ちていく。


「ぐはああ!!!」


 プトラルドの顔が苦痛でゆがむ、リックは攻撃の手を緩めず、背中を向けたプトラルドの左足のふくらはぎを斬りつける。素早く剣を返した彼は、逆の足を斬りつけて、両足をダメージを負わせた。


「うがあああああああああああ!!!」


 プトラルドは叫び声をあげ、膝をついてうつ伏せに倒れた。リックは背中に飛び乗って、逃げないように翼を斬りつけた。

 

「終わりだああああああ!!!!!」


 リックは右腕を勢いよく引いて、一気に腕を伸ばし剣を背に突き刺した。


「ぎいいいやあああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」


 断末魔のような叫び声して顔をあげ、プトラルドの口から血が吐き出された。リックはプトラルドの体から下りた。背中を向いて剣の血を拭ってゆっくりとアイリス達の元へと歩きだした。


「これで…… さすがに……」

「ダメよ! リック後ろ!」

「えっ!? 嘘だろ!?」


 アイリスが叫んだ。リックが振り返ると、倒れていたプトラルドは青白い光に包まれる。そして光がさらに大きくなるのだった。

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