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第247話 最後の守り神

 ブラックタートルの顔から一メートルほど前で、鎌を構えてミャンミャンが対峙している。リックとココはミャンミャンを追っていた。目を吊り上げ、怖い顔でミャンミャンが、ブラックタートルを睨みつける。


「よくも私の料理を…… まずいなんて…… あんたの口に合わないだけでしょ?」

「はぁ!? 何をいうか寝てる僕にあんなクソゲロマズ料理を食わしたのが悪いんだ」

「だからだからまずいまずい言うんじゃないわよ。この!」

「ダメだよぅ!」


 ミャンミャンが鎌を伸ばすと、ブラックタートルの頭を狙って横から、ブラックタートルに向かって斬りつける。

 

「キャッ!」


 右の前足を鎌の軌道にだし、簡単にミャンミャンの鎌をはじくブラックタートル。ミャンミャンは、鎌から手を離さずに、耐えたが体勢を崩された。


「危ないな! もう怒ったぞ!」

「えっ!?」


 ブラックタートルが大きく口を開いた、口の周り空気が集約されて光り始める。


「ミャンミャン!」


 リックは叫びながら彼女の元へと急ぐ。しかし、すでにブラックタートルの口から、火の球が放たれミャンミャンへと向かって行っていた。赤い光がミャンミャンの頬を照らす。じんわりと彼女の肌に火の玉の熱が伝わり、一筋に汗がミャンミャンの額から頬を伝って落ちていく。


「させないよぅ!」


 ココがミャンミャンへと迫る。火の球に向かって短剣を投げた。短剣がぶつかって火の球は、ミャンミャンの手前で爆発した。ミャンミャンが目の前に爆発した火の球を見てほっとした表情し振り返った。


「ココ…… ありがとう」

「ミャンミャン! まったく、何度も同じ攻撃で失敗してるんだから少しは考えなよぅ! 冷静に行動しなよぅ」

「ごめんなさい。ココ……」


 うつむいて悲し気に謝るミャンミャンだった。直後に駆けつけたリックが、ミャンミャンをかばうようにし、彼女の前に立って剣を下に構えた。続いてココもリックの横に並び、短剣を両手に持って構えた。後ろに視線を送って、リックはミャンミャンに声をかける。

 

「大丈夫!? ミャンミャン!」

「はい、平気です」

「リックぅ! あいつをひっくり返すんだよぅ!」

「えっ!? ひっくり返す!?」

「うん、亀型の魔物はひっくり返すと立ち上がれないか、立ち上がるまで時間がかかって隙ができるよぅ」

「わかったけど…… どうすれば!?」

「そうか! わかったわ。リックさん、ココ! あいつの気を引いて!」

「大丈夫なの?」

「えぇ! お任せください」

「わかったよぅ! ミャンミャンに任せるよ! しっかりやるんだよぅ!」


 笑顔で答えるミャンミャンがリックに顔を向けた、彼は頷くとココと一緒に、ブラックタートルに向かっていく。ココが素早くリックの前に出て、ブラックタートルに向かい、ばかにしたような顔して舌を出して挑発する。


「のろまのドン亀! こっちだよぅ!」

「ええい! ちょこまかと…… この!」


 ブラックタートルがココに向かって火の球を出す、ココはブラックタートルの火の球を簡単にかわすと。


「当たらないよぅ! べー!」

「ムキーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」


 火の玉をかわしたココは、再び舌をだしてブラックタートルを挑発する。ブラックタートルは意地になり、何度も火の球をココに吐き出し続ける。ココが火の球を飛び上がってかわした。空中でリックに顔を向け彼女はブラックタートルを指さした。

 小さくうなずいたリックは、ココに夢中になっている、ブラックタートルのすきをついて、左へと回り込んだ。


「くらえ!」


 走って一気に距離をつめたリックが、ブラックタートルの左前足を斬りつけた。赤い血が左足から噴き出る。


「いたーい!」

「ははは、どうだ! 俺もいるぞ!」

「ムカー! この!」


 ブラックタートルはリックに向かって、体を回転させて尻尾で彼を狙う、地をかすめながら鋭い尻尾の一撃がリックに襲いかかる。


「よっと!」


 空気を切り裂きながら迫る尻尾を、リックはブラックタートルの尻尾を飛び上がってかわす。リックの足元を尻尾が通過する。着地したリックはブラックタートルとの距離をつめた。

 空振った尻尾に振り回せるように、ブラックタートルの体は半回転し、リックの目の前にブラックタートルの右の前脚が回って来た。リックは剣を振り上げて右前脚を斬りつける。


「えっ!? いーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」


 金属と金属がぶつかり合うような、キーンという甲高い大きな音が、大地の裂け目の底に響く。地面近くから振り上げて、上に向かって斬りつけたリックの剣は空を斬って甲羅に当たったのだ。

 

「いてて…… しびれた…… でも…… これでいい」


 リックの足への攻撃にブラックタートルは、甲羅の中に尻尾と首と手足をしまい丸くなってかわした。手足を甲羅にひっこめた、ブラックタートルの様子を見たリックは小さくうなずいて笑う。


「ミャンミャン! 後、お願い!」

「わかりました。さぁ…… わたしを助けて!」


 背中の背負っていた、鎌を両手に持って地面をつき、ミャンミャンは目をつむる。徐々に鎌がうっすらと紫色に光り出した。


「あれは!? 確か…… 武闘大会でスパイダーテンと戦った時と同じだな。いや少しあの時と違う…… あっそうか! 翼が生えてるな」


 ミャンミャンの鎌が、紫の小さなトゲが複数生えた禍々しい形に変わり、刃の部分はドラゴンの顔のような形になった。背中には大きな爪のついた翼が生え、鎌は大きな紫の大きな翼の生えた竜みたいなへと変形した。


「さぁ! いけー!」

「えっ!? こら! はなして!」


 竜に変形したミャンミャンの鎌から大きな禍々しい手が伸びて、甲羅をつかんで翼を広げて飛び上がってブラックタートルを持ち上げた。ミャンミャンの鎌は待ちあげ、器用にブラックタートルを上下にひっくり返す。


「やったー! これが私の鎌の必殺竜変化よ!」

「ミャンミャンよくやったよぅ!」

「すごい! ミャンミャン」

「えへへへ! 見直してください」


 ひっくり返された、ブラックタートル前に得意げな顔で、ミャンミャンが歩いて行く。リックもミャンミャンの後からブラックタートルへ近づく。必死に尻尾や手足を使って戻ろうとするブラックタートルに、ミャンミャンの鎌がブラックタートルの腹の上に覆いかぶさって押さえ込む。

 ひっくり返ったブラックタートルが悔しそうな顔で、近づくミャンミャンを見た。ミャンミャンは笑顔でブラックタートルに声をかけた。


「どう? 降参する?」

「くそ! 離せ! 力が全部戻ればこんなの簡単に……」

「もう…… ほら戻りな」


 ミャンミャンは鎌に向かって手を出して小さな声でつぶやく。手足を使って必死に戻ろうとするブラックタートルを、腹の上から押さえ込んでいたミャンミャンの鎌が元に戻った。

 鎌を拾ったミャンミャンはリックの横に立ってブラックタートルにほほ笑む。ブラックタートルは驚いた顔でミャンミャンを見た。


「どうして!?」

「ねぇ。まっまずい…… 口に合わない料理を食べさせてごめんなさい。でも、話を聞いてほしいの」

「そうだ。あのクソゲロマズ料理…… いた!」


 リックがまずいと口走った瞬間、ミャンミャンが彼の足を思いっきり踏んだ。


「えっ!? あぁ…… ごめんなさい……」


 目を吊り上げて怖い顔で、ミャンミャンがリック顔を覗き込み、ゆっくりと口を開く。


「まずいじゃなくて、く・ち・に・あ・わ・な・い、ですよ。リックさん」

「えぇ!? うっうん…… 口にあわない料理を食わせてごめんな。俺達は魔獣ゾルデアスのことを聞きたいんだ」

「魔獣ゾルデアス! そうだ…… 僕が起きたってことは…… やつが…… ごめん! 話を聞かせて」


 ブラックタートルは落ち着いた口調へ変わり、ミャンミャンがやったという顔をする。


「ミャンミャン、ブラックタートルを戻してあげて」

「えっ!? あっあの…… その…… 一度あの力を使うと…… 少し時間をあけないと使えないんです」

「そうなの? しょうがない」


 ミャンミャンがうつむいて気まずそうに小さい声で答えた。リックは振り向き、ポロンに向かって手を振った。


「ポローーーーン! こっちにきてブラックタートルを戻しすの手伝って!」

「わかったのだ」


 返事をしたポロンがリックに向かって駆けて来る。リックとポロンとミャンミャンの三人で、ブラックタートルをひっくり返すのだった。

 

「はぁはぁ…… ふぅ何とかなったな」

「重かったのだ。やせるのだ」

「ごっごめんなさい」


 リックとポロンとミャンミャンの三人で、なんとかブラックタートルをひっくり返して元に戻した。息を切らしながらブラックタートルの甲羅に背中をつけたリックは次にソフィアを呼ぶ。


「ソフィア、ブラックタートルを回復してあげて」

「わかりました」


 返事をしたソフィアが近づき、リックが斬りつけたブラックタートルの足を治療する。ハクハクとエメエメを両手にかかえ、シーリカが治療中のブラックタートルにリック達がここにきた理由を説明する。


「なるほど、君達が聖杯を代々守っててくれたんだね。ありがとう。それでこっちが守り神の子孫という訳か…… まったく人間に力を取られたなんて油断して!」

「すまんのじゃ」

「申し訳ないニャ」


 ブラックタートルがハクハクとエメエメをしかりつけると、二匹は抱えて持っていたシーリカの腕から、飛び降りて彼女の後ろに回って謝っていた。

 

「あゎゎゎ、ブラックタートル様…… 魔獣ゾルデアスはどこに居るんでしょう?」

「えっとね。魔獣ゾルデアスの体はここ南の荒野の地下深くを徘徊してるんだよ」

「あゎゎゎ!? 徘徊って? どういうことですか?」

「僕が魔獣ゾルデアスと戦った時に、一人の人間が協力してくれたんだ。人間と一緒に僕は聖杯を使って魔獣ゾルデアスの魔力を封じ大地破壊剣(グランドバスター)を奪い返した。僕が魔獣ゾルデアスを押さえ込んでその人間に僕ごと魔獣ゾルデアスを倒せとお願いした。人間は僕の望み通りに魔獣ゾルデアスと僕を剣で貫いてくれたんだ。その時の攻撃でできたこの大地の切れ目に僕と魔獣ゾルデアスは落ちた……」


 シーリカにブラックタートルが魔獣ゾルアデスとの戦いを説明する。シーリカが前にリック達に話してくれた、内容とあまり変わりわない。


「落ちていく途中に、大地破壊剣(グランドバスター)は僕と魔獣ゾルデアスから離れて地面に突き刺さった。大地破壊剣(グランドバスター)の威力で、亀裂が地底深くでさらに大きくなって、魔獣ゾルデアスだけがここよりさらに奥の地底へと落ちていったんだ」

「あゎゎゎ、大地破壊剣(グランドバスター)とブラックタートルさんは落ちなかったんですか?」

「うん。大地破壊剣(グランドバスター)はその後すぐに近くの岩にささって落ちなかった。僕も二回目にできた亀裂があまり幅が広くなくてすぐに甲羅が引っかかったんだ。そして二回目の亀裂はすぐに閉じられて僕は壁に挟まれたんだ。そしてそのまま僕は眠りについた」


 ブラックタートルが真剣に話を続ける。ちなみにブラックタートルによると、王都の南側が他の地域と違って荒野や砂漠が多いのは魔獣ゾルデアスの影響だという。


「あゎゎゎ。では魔獣ゾルデアスはまだこの下の地面の中に?」

「はい…… 魔力がなくなった魔獣ゾルデアスは意志がなくなり、地中を徘徊して自分の魔力を探しつづけています。魔力が復活したとなるとおそらく感知して地中から這い出てきます。そして月を経由して自分の魔力を受け取るはず……」

「月ですか?」

「うん。あいつは月夜に生まれた魔獣で月から魔力をもらったんです。あいつの魔力は聖杯から月へと飛ばされて月から送られます。だからあいつは月が自分の魔力で満ちれば…… 徘徊をやめて地表へと向かうはず」


 魔力が満ちれば魔獣ゾルデアスは地表にでて月から魔力を得るという。シーリカは現在魔獣ゾルデアスがどこにいるかブラックタートルに確認する。


「魔獣ゾルデアスが今どこにいるかはわかりませんか?」

「荒野のどこかにいるとしかわからないよ。でも…… どこに現れるかはわかります。シーリカさんでしたっけ? この辺で一番高い場所ってどこでしょう?」

「あゎゎゎ? 一番高い場所ですか? 範囲がどのくらいか」

「みなさんが南の荒野と呼んでいる場所です」

「それならゆらめきの塔だよぅ」

「なるほど…… ならきっと近いうちに魔獣ゾルデアスは夜にゆらめきの塔に上って、魔力を復活させようとするはずです。おそらくは次の満月の日でしょう……」


 ゆらめきの塔とは、この辺りを納めていた一族が、式典用に建てた塔で、現在は魔物が住み着いてダンジョンとなっていた。階層が十階以上あり、冒険者が宝探しや魔物討伐をしたり稀に盗賊の根城になったりする。ダンジョンの魔物は経験を少し積んだ冒険者向きで、初球から中級までの王都の冒険者がよく訪れるため、塔の周囲は冒険者目当ての商人が、集まり小さい集落になっていた。


「なら、決まりね。みんなゆらめきの塔に行くわよ」

「あゎゎゎ! そうですね。行くしかないですね」

「わかったよぅ」


 シーリカ達の言葉に、リックとソフィアとポロンは、顔を見合わあせてうなずく。魔獣ゾルデアス討伐の為にリック達はゆらめきの塔へ向かうことになった。


「あっそうだ!? 光の聖杯を持っていけば魔獣ゾルデアスの魔力を封印できるんだよね? リックさん、レイクフォルトから持ってきてもらえますか?」

「そうだな。わかった。隊長からアレクに相談してもらうよ」


 光の聖杯は王家の財宝となっており、持ち出すには許可がいる。幸い宝物庫があるレイクフォルトのアレクは王子で、リック達とも面識がありカルロスを通じて相談すれば持ち出すことは難しくないだろう。だが、話を聞いていたブラックタートルが小さく首を横に振った。


「いや、大地破壊剣(グランドバスター)を使って魔獣ゾルデアスの魔力と体を引き離さないと光の聖杯だけじゃ封印できない。大地破壊剣(グランドバスター)は勇者が持って行ってしまったんだよね?」


 ミャンミャンに顔を向けてブラックタートルが答えている。光の聖杯だけではなく、大地破壊剣(グランドバスター)もセットで使わないと封印はできないという。


「そっか…… じゃあ、リックさん、大地破壊剣(グランドバスター)を抜いた勇者アイリスにさんに大地破壊剣(グランドバスター)を持ってきてもらうことってできないですか?」

「えっ!? ごめん…… アイリスが今どこにいるか正確にはわからないんだ。魔王城に乗り込むから慎重に行動してるみたいで、俺達にも詳細を教えてくれないんだ」


 申し訳なさそうに答えるリック。以前はどこに向かうとか今どこにいるとか、手紙でアイリスは知らせてくれたが、最後の戦いに向かうアイリスは慎重になってリックにも居場所を伝えていなかった。


「うーん…… そうですか…… なんとか魔力が完全に復活する前に魔獣ゾルデアスを倒しましょう」

「よーし。みんな頑張ろう!!」


 ミャンミャンが笑顔で手を上にあげ、頑張ろうと気合を入れた。ポロンが真似してオーって手をあげると、タンタンも一緒になって手を上げた。


「よし。じゃあみんな行くわよ」

「あっあの!? 僕も行きます!」

「ちょっと、無理よ。あなた大きすぎるから村に入れないわよ」


 リック達を見つめていたブラックタートルが、一緒に行くととミャンミャンに告げた。ただ、ミャンミャンの言う通り、連れて歩くにはブラックタートルは大きすぎる。ブラックタートルはミャンミャンに向かって笑顔を向けた。


「フフ。大丈夫ですよ」

「大丈夫って!? どうするの?」


 ブラックタートルはシーリカに顔を向ける。


「シーリカさん、僕に祈っていただけますか?」

「あゎゎ!? はい。わかりました」


 返事をしたシーリカは、膝をついてブラックタートルに向けて祈りを捧げると、するとブラックタートルの体が白く光りだした。光がおさまるとブラックタートルの姿はなくなり、手のひらに乗るくらいの大きな黒い宝石が転がった。


「僕はこの宝石へと姿を変えました。僕の力が必要な時はこの石に祈ってください」


 黒い宝石が光って点滅すると、黒い宝石からブラックタートルの声がする。


「あゎゎゎ! わかりました。じゃあ、みなさん行きましょう!」

 

 ブラックタートルはヴァーミリオンスネークと同様に自分を石に変えたようだ。シーリカはうなずいて黒い石を拾って懐にしまう。魔獣ゾルデアスを討伐のため、リック達は大地の切れ目から出てゆらめきの塔へ向かうのだった。

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