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第245話 大地の裂け目の底へ

 ローズガーデンから王都へと戻り、リック達は第四防衛隊の詰め所へと帰ってきた。三人が詰め所に入ると、一番奥に座ったカルロスが手を上げて声をかける。


「お疲れさん、お前さん達、どうだった。リリィはしおらしくしていたかい?」


 カルロスはかつての仲間の娘リリィのことが、やはり気になるのか、最初にリックに彼女の様子を尋ねる。


「いえ、相変わらず。俺達に敵意むき出しですよ」

「ははは。まぁそれくらい元気の方がいいだろう」

「それで実は聖女シーリカから依頼がありました……」


 明日、ミャンミャンとタンタンが大地の裂け目で、見つけた魔物を確認に同行してほしいとシーリカから正式にリックに依頼があった。リックがカルロロスの机の前にいくと、彼は書類を持ったまま顔だけをリックに向けていた。リックがシーリカから魔獣ゾルデアスの調査と討伐依頼があったことを報告する。

 手に持っていた書類を机の上に置くカルロス、彼の顔はいつもの優しい顔ではなく、少しきつい顔へと変わっていた。


「はああああ…… 破滅の魔獣ゾルデアスねぇ」


 カルロスが深いため息をついた。厳しい顔をするカルロス、リックはカルロスが討伐依頼を断るつもりなのか不安になり尋ねる。


「もしかしてリーリカの依頼を断りますか?」


 少し慌てた様子でカルロスは、首を横に振ってすぐにリックに答える。


「いやいや。受けるよ。聖女さんの依頼だもん。でも、よりにもよって今かぁ……」

「あっ!? そうか。少しつらいかも知れないですね」

「メリッサさん達が居ませんからね」


 今の第四防衛隊は、メリッサとイーノフとゴーンライトが不在で、通常の業務は全てリック達が担当している。三人は先日のレティーナ王妃の反乱により、彼女の出身国であるローザリア帝国との関係が悪化した為、国境近くの警備に駆り出されている。

 しかも、エルザ達ビーエルナイツも北の国境に多く展開され、王都や他地域の守りは普段よりも手薄になっているのだ。


「そのゾルデアスというのが復活した場合は、防衛隊と冒険者ギルドで対応になるぞ」

「メリッサさん達がいないと、少しつらいかもしれませんね。でも、大丈夫です。俺達でなんとかします」

「そうか…… まぁつらいからと言って兵士が逃げる訳にもいかんしな……」

「大丈夫なのだ! わたしががんばるのだ!」

「はは。ありがとうポロン、そうだ! お前さん達、僕が一時的に現場に……」

「やめてください。ただでさえ人手不足なのに、余計な手間が増えるじゃないですか!!」

「そうですよ。冗談を言ってないでさっさと書類を片付けてください」

「お前さん達、ひどいな……」


 リックのソフィアの言葉に、ズーンと落ち込むカルロスだった。ポロンはカルロスの横に行き、彼の背中を優しく撫でるのだった。

 翌朝、俺とソフィアとポロンの三人は、王都グラディアの南の城門へやってきた。ここでミャンミャン達と待ち合わせ、一緒に大地の裂け目と向かう予定だ。


「ふぅやっとついた」


 到着してリックがため息をつく、門の前に通りに店が多く、ソフィアとポロンが足を止め、連れて来るのが大変だった。人通りは西門とあまり変わらないが、南門は商店が多くにぎやかだった。城門の前の広場についたリック達に向かって離れたところから声がかかる。


「こっちですよ。リックさん!」

「あっ! ミャンミャン、おはよう」

「はぁ、やっとリックさん達が来てくれてよかった」

「ミャンミャンさん一人ですか? シーリカやタンタンさんは?」

「シーリカはエメエメとハクハクを連れてリリィの様子を見るって先に行ってるわ。タンタンはあそこ……」

「何してるんだ? タンタンめ……」


 ミャンミャンが指した方へ視線を向けたリックがつぶやく。城門の広場に屋台があり、屋台の前には手をつんぎ、一緒に屋台を見てるココとタンタンがいた。相変わらず、五十を過ぎているはずのココの見た目は若く、タンタンと並んでも同じ年頃にしか見えなかった。

 嬉しそうに笑顔でポロンが、タンタンの背後から声をかける。


「おはようようなのだ! タンタンはココさんと仲良しなのだ!」

「あっ!? えっ!? ポロンちゃんこれは違う……」

「おはよぅ! ポロン、リックぅ、ソフィア!」


 振り向いたタンタンは、慌てた様子でポロンに違うと言っている。ココはポロンに振り向いて笑顔で挨拶をする。


「(ひどいやつだな)」


 振り向いたタンタンは、相手がポロンがわかると、そっとココとつないだ手をはなした。ココは特に気にしてないようだが……


「全員揃ったからそろそろ行くわよ」


 ミャンミャンが全員に声をかけて南の門を指さす。門の外に出て、ココとソフィアの転送魔法で、ローズガーデンまで行き、大地の裂け目をめざす。


「行くのだ! タンタン!」

「行くよぅ。どうしたの?」

「あっあう!?」


 ポロンとココが出発しようと、ほぼ同時にタンタンに手をだした。タンタンは二人の手をみて困った顔で視線を左右に動かす。リックは立ち止まってタンタンがどっちを選ぶか興味深く観察する。


「おっお姉ちゃーん!」


 泣きそうな顔でタンタンは、ミャンミャンの元へと駆けて行き助けを求める。


「チッ…… ずるいぞ。逃げやがったか……」


 タンタンの様子を見ていたリックが、悔しそうに舌打ちをした。しかし、ミャンミャンは近づいきたタンタンに、目を細めて少し冷たく見つめていた。やはりいくら甘いミャンミャンでも、都合のいい時だけ甘えられるわけが……


「僕は…… お姉ちゃんと一緒に……」

「えっ!? タンタン? なに言ってるの? 私はリックさんと…… って! 何してるんですか!?」

「いつものこうですけど?」

「わっ!? こら!? やめろ。ミャンミャン!」


 ミャンミャンはリックとソフィアが、手をつないで歩いてるをみて、二人の間に割り込んできた。


「こら! ソフィアも……」

「何をするですか!?」

「いいじゃないですか! いつも一緒なんだからたまには譲ってください!」

「いやです。リックの隣は私です!」


 割り込まれたソフィアが、ミャンミャンにつかみかかる。ミャンミャンもソフィアに応戦してつかみ合いになっている。


「(なんか!? ひどい争いだな)」


 タンタンがリックの横で二人の争いを見てひいてる。リックはふと何かを思いついてタンタンに視線を向けた。


「じゃあ…… タンタン。俺と一緒に行くか!」

「うっうん…… そうする……」


 小さいタンタンの手がリックの袖をつかむ。ココとポロンもミャンミャン達の喧嘩を、呆然とみていたので、リックは二人にも声をかける。


「ココ、ポロンも二人とも行くよ!」

「いくのだ!」

「わかったよぅ」


 少し安心した表情で、ポロンとココはリックの返事をした。タンタンを連れリックは、城門へと向かう、その後をココとポロンが走って追いかけるのだった。ミャンミャンとソフィアがリック達きづいて驚いて叫ぶ。


「待ってください。リックひどいです!」

「そうですよ。リックさん。ひどいですよ。まってください!」

「待たないのだ。喧嘩する人は置いて行くのだ!」

「そうだね。ポロン、行こうか」


 ポロンに言われて、ミャンミャンとソフィアはショボンと落ち込むのだった。リックとタンタンとココとポロンは、門をでてココの転送魔法で、ローズガーデンへとやって来た。後からソフィアとミャンミャンが、互い気まずそうな顔して転送魔法で追いかけて来た。ローズガーデンは大地の裂け目と呼ばれる大きな溝に囲まれた荒野に浮かぶ島のような町だ。


「うん!?」


 ココ達がローズガーデンへと向かう街道から外れて、ローズガーデンの東側の大地切れ目へと歩いていく。


「ちょっと待って!? 魔獣ってローズガーデンに地下に居るんじゃないの?」

「違うよぅ。ローズガーデンから少し外れた場所だったよぅ」

「でも、確か大地破壊剣(グランドバスター)の下にブラックタートルと魔獣ゾルデアスは居るんじゃ?」

「リックぅ。それは伝説だよぅ。実際は守り神のブラックタートルも魔獣ゾルデアスも大地の切れ目にどこにいるかは謎なんだよぅ。それに大地破壊剣(グランドバスター)の場所は大地の切れ目の底だけど、壁に覆われて室内になっていて外にでれないよぅ」

「あっそうだった……」


 大地の裂け目の下に降りるには、ローズガーデンの独房になっている穴の螺旋廊下を進むのが一番早い。だが、確かにココの言う通りに大地破壊剣(グランドバスター)のささっていた大地の裂け目の底は、壁と天井があった大きなドームの室内で外への出口はなかった。

 しかし、こちら側に大地の裂け目へと、下りていける螺旋廊下のようなものはない、リックはココに尋ねる。


「あのさ!? 大丈夫? 下に降りる階段とかなさそうだけど?」

「大丈夫だよぅ。これがあるからね!」


 ココが魔法道具箱からピンク色の大きな布を取り出した。布は畳んだ状態でもココの身長ほどの大きさがある。


「何これ?」

「冒険者ギルドの魔法道具のふんわり布だよ。これに包まれると体がふんわりと浮くんだよぅ。だからみんなをこれに包んで大地の切れ目をおりんだよぅ」

「うん。昨日もこれで切れ目の下まで行って帰りはココ姉ちゃんの転送魔法だったよ」

「へぇそうなんだ…… 冒険者ギルドはいろいろな道具を持ってるんだな」


 重そうに布を運ぶココにミャンミャンとタンタンが手伝う。大地の切れ目の前に先に着いていたシーリカが立っていて、リック達が手を振ると彼女も手を振ってこたえる。


「あゎゎゎ、みなさーん」

「ハクハクさんとエメエメさんなのだ」

「おぉ。ポロン!」

「ポロンにゃ!」


 嬉しそうにポロンが駆けていく。ポロンの視線の先にはシーリカの足元へ向けられ、そこには子犬のハクハクと猫のエメエメがいた。シーリカと合流すると、ココが先ほどの布を地面に広げる。布は大きくリックの部屋も包めそうなほどだった。


「さっみんな、真ん中に乗るんだよぅ」


 ココの指示でみな布の中央に立った。


「うわ!? なっ何これ!?」


 布の四隅が勝手に持ち上がりリック達を包む。不安そうにソフィアがリックの横に来た、彼はそっとソフィアを抱き寄せ彼女の頭を胸におき手を握った。


「しまった! 先を越された!」

「あゎゎゎ…… さすがに抜け目がありません」

「なっ何をブツブツ言ってるの……」


 リックとソフィアがくっついたら、すぐにミャンミャンとシーリカも、彼の近くに来てくやしそうな顔するのだった。布に包まれたリック達は密着して布の隙間から顔をだしている。ポロンとタンタンとココは布の端をつかんで顔を出す。


「飛んだのだ!」

「すごいです」


 リック達を包んだ布は、ゆっくりと浮かびあがり、大地の切れ目へとむかっていく。


「これがふんわり布のだよぅ。このままゆっくり大地の切れ目の下まで行くよ!」


 自慢げにココがリック達に説明をする。亀裂の大きな隙間の中央へ、リック達を包んだふんわり布が来ると、静かに高度が下がっていく。リックが視線を動かすと、横には岩の見えた崖が見え、下を向けると真っ暗な穴が続いていた。

 ゆっくりと穏やかに布に包まれたままリック達は大地の切れ目を下りていく。


「うん!?」


 裂け目を下り始めてから、しばらくして、リックの後ろでシーリカが、なんかくねくねと動いてる。しかもシーリカとリックの腰の間に誰かの手があるのが分かる。」


「あゎゎゎ!? リックさんお尻を触らないでください……」

「リック!」

「なに!?」


 リックの胸から顔をはなし、ソフィアが顔を上げて彼を睨む。


「いやいや、待ってよ。シーリカは俺の後ろにいるんだよ? それに俺は両手はソフィアと握ってるでしょ?」

「ふぇぇ!? 私は片手しか握ってないですよ」

「えっ!? じゃあこっちの手を握ってるのは?」

「ふふふ…… 残念でした。リックさんの右手の相手は私です! シーリカのお尻も私が触ってるの! うーん! シーリカのおしり弾力があって気持ちいい…… おっと! こうしておけば気になってシーリカはリックさんに手をだせないでしょ?」


 ミャンミャンが手をあげて、リックの手を握ってるのを、自慢げにソフィアとシーリカに見えるようにした。


「ダメです」

「あゎゎゎ! ミャンミャンずるいです! しかもお尻をさわるなんてひどいです」

「なっなによ。いいじゃない! ねぇ!? リックさん!?」

「こら! 暴れないで、落ちたら危ないよ!」


 ソフィアとシーリカが、ミャンミャンとリックの手をはなそうと手を伸ばす。しかし、ミャンミャンが抵抗し手を振り回した。三人が同時に動いたため、ふんわり布は激しく揺れ、ポロンとタンタンが必死に布をつかむ。


「うるさーい! 静かにするんだよぅ! 危ないよぅ!」


 ココに怒られた、ミャンミャンとソフィアとシーリカの三人は、シュンとして落ち込むのだった。その後、三人は大人しくふんわりに布に乗っていた。

 徐々に陽の光が遠くなり薄暗くなり、大地の切れ目の最下部がリック達へと迫るのだった。

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