第244話 破滅の魔獣ゾルデアス
ポロンが顎に、右手の人指し指をあて、視線を上に向け何か考えている。
「破滅の魔獣ゾルデアス…… なんかかっこいいのだ!」
「本当です。なんか強そうです」
嬉しそうにポロンが大きな声に叫んだ、シーリカはポロンが叫ぶとほほ笑んだ。
「ポロン…… まぁ確かに名前はかっこいいけど、破滅の魔獣なんて絶対に強いし悪いことが起こりそうな気しかしないよ……」
リックはポロンの頭を撫でた。彼女の発言で緊張が解けた、リックは視線をシーリカに向けた。
「シーリカ。破滅の魔獣ゾルデアスという何なの?」
「あゎゎ、はい。では少し長くなりますがお話しますね。はるか昔ジュリアス大陸を主が創造され間もない頃。大陸の東の海に破滅の魔獣ゾルデアスという怪物が現れました。」
シーリカが本をテーブルの上に置いて話を始めた。太古の昔に東の海に誕生した魔獣ゾルデアスは、現在のグラント王国があるジュリアス大陸に上陸し破壊の限りをつくした。当時のこの大陸には少数の人間が、守り神を崇めて暮らす平和な大陸だった。
この地の守り神である。白銀狼、翠球山猫、ヴァーミリオンスネーク、ブラックタートルの四体が人々と力を合わせて魔獣ゾルデアスに戦いを挑んだ。
四体の守り神と魔獣ゾルデアスとの戦闘は激しく七日にわたり繰り広げられた。その激しい戦闘で大陸の東は砕かれ海に沈み、大陸の北は氷に閉ざされ、大陸の西は山が削られて長い谷ができ、大陸の南の森は燃やされ荒野となったいう。
魔獣ゾルデアスは恐ろしく強く。激しい戦闘でブラックタートルを残して守り神は死んでしまった。ブラックタートルは死んでしまった、三体の守り神の肉体を使い光の聖杯と大地破壊剣を作り、三体の守り神の子供達に未来をたくし、魔獣ゾルデアスとの最後の戦いに挑んだ。
最後の戦いでブラックタートルは、大地破壊剣を奪われてしまい絶体絶命の窮地に追い込まれた。ブラックタートルの前に立った魔獣ゾルデアスは大地破壊剣をブラックタートルに向けて振り下ろした。
だが、最後の力を振り絞り守り神三体の力が込められた、聖杯の力を使い魔獣ゾルデアスの魔力を封印し、ブラックタートルは大地破壊剣で自らの体と魔獣ゾルデアスの肉体を貫いたという。
大地破壊剣が魔獣ゾルデアスとブラックタートルを貫いた時の衝撃でできたのが、ローズガーデンを囲む大地の切れ目だという。ブラックタートルは大地破壊剣と魔獣ゾルデアスと共に落ちて行った。
大地の切れ目の奥の大地破壊剣が刺さっている岩がブラックタートルの甲羅で、さらにその下に魔獣ゾルデアスの体が埋まっていると言われている。ブラックタートルは死後も大陸の南の大地に横たわり見守っているという。残りの三体の守り神の子供達は白銀狼が東の平原、翠球山猫が北、ヴァーミリオンスネークが西とそれぞれに分かれこの大陸を守っているのだった。
残された三体の神々は人々と共に大陸の復興を始め、魔獣ゾルデアスの魔力を帯びた光の聖杯は、癒しの効果を発揮したため教会の初代の聖女へと託されその体内に代々受け継がれるようになったいう。
その後、守り神たちは何代かに渡り、世代交代を繰り返すうちに交流は消えていき、魔獣ゾルデアスとの戦いと光の聖杯伝説は知る人も少なくなっていったということだ。伝説が風化するにつれて、光の聖杯の場所は、謎とされ受け継がれる聖女達は光の聖杯の存在は知らずに力の継承という形式だけのものとなり、光の聖杯は所在不明の秘宝となった。また、大地破壊剣もそのいわくは忘れ去られ、聖剣として勇者が使う剣となった。
シーリカ話を終えるとゆっくりと本を閉じた。
「あゎゎゎ、今のお話はリリィのお母さんジャイルが集めたものです。お話の中に出てきた魔獣ゾルデアスが復活しそうなんです」
「復活って? シーリカどうして?」
「あゎゎ、大地破壊剣が抜かれ魔獣ゾルデアスの体の封印を解かれてしまいました」
シーリカの言葉にうなずくリック。今から数か月前に勇者アイリスが、大地破壊剣を抜き魔王討伐へと向かった。だが、大地破壊剣が抜かれたのは二度目である。
「でも、勇者アレックスさんの時も大地破壊剣を抜いて魔王討伐の旅に行ったんですよね?」
「お兄ちゃんの時は、光の聖杯は聖女の中にあったから影響はなかったのよ。体だけの封印を解いても魔力が無ければ魔獣ゾルデアスは復活できません。ただ今は……」
「すいません…… わたしがアンダースノー村でシーリカ姉さまから光の聖杯を取り出したから……」
リリィがうつむいて悲しそうな顔をしている。シーリカが彼女の背中に手をおいて優しく声をかけた。
「あゎゎ、魔獣ゾルデアスの復活はあなたのせいじゃありませんわ。光の聖杯に…… 多くの魂が捧げられてしまったんですから」
「えっ!? 光の聖杯に魂が捧げられたって?」
「あゎゎ、光の聖杯に封印されたゾルデアスの魔力の封印を解くには、たくさんの生物の魂を捧げないといけません。そして…… レイクフォルトでの戦闘で……」
今から一か月ほど前に起きた、レティーナ王妃の反乱で、光の聖杯に魂が捧げられてしまった。捧げられた魂により、ゾルデアスの封印が解けるほどの魔力がたまったという。しかし、聖なる血を捧げれば、王の資格を得れ、魂が捧げられば魔獣の魔力が復活すると、光の聖杯の役割は多岐にわたるものだとリックは思うのだった。
「こんにちはー! シーリカ、リリィ! 来たわよ」
「ポロンちゃーん!」
扉がノックされミャンミャンとタンタンの声が聞こえる。タンタンに呼ばれたポロンが席を立ち、シーリカと一緒に玄関に向かう。リックは二人の後からついていく。
「こんにちはー! リックさん! ポロンちゃん、ほらタンタンも挨拶しなさい」
「わかってるよ。こんにちは、リックさん、ポロンちゃん!」
「こんにちは。ミャンミャン、タンタン!」
「こんにちはなのだ」
シーリカが扉を開けミャンミャンとタンタンを迎えいれ、リック達と挨拶をかわす。二人の足元にはハクハクもおりポロンはハクハクを見つけると嬉しそうに笑った。
「あっ! ハクハクさんなのだ。ハクハクさんにクルミのクッキーをあげるのだ!」
ポロンが嬉しそうにハクハクの為に、クルミのクッキーをテーブルに、取り行きすぐに戻って来る。クッキーを持ったポロンが、しゃがんでハクハクに手をだす……
「うわーなのだ!」
急に黒い小さい影がポロンを横切った。驚いたポロンは尻もちをついた。リックが慌ててポロンに駆け寄る。
「大丈夫?」
「クッキー取られたのだ!」
俺がポロンに駆け寄ると、ポロンの手を見て泣きそうな顔をした。横切った黒い影にクッキーを強奪されたようだ。リックは黒い影を探して振り向いた。
「あれは!? 猫……」
玄関からダイニングに続く扉の前に、小さい猫が一匹立っていた。灰色と黒の縞模様の緑の綺麗な目をしてる猫にリックは見覚えがあった。ハクハクが黒い猫に向かって吠えた。
「がうう! こら! ポロンはわらわの友達じゃ! クッキーを返せ!」
「ははは! 悔しかったらここまで来るにゃ! ハクハク」
「がう! なんじゃとわらわにむかって猫風情が!」
猫がハクハクの言葉に反応してしゃべりだした。ちなみにアンダースノー村での一件で、ハクハクが白銀狼だということが、知られてしまい言葉がしゃべれることもわかっている。ハクハクは正体が判明しても、変わらずシーリカと暮らしている。喋れることがわかってからシーリカはますますかわいがっていた。
「そうだ! あの猫!」
リックは猫のことを思い出したようだ。
「お姉ちゃん…… またハクハクとエメエメが……」
「こら! あんた達いい加減にしなさい!」
「なんじゃと!? わらわは守り神じゃぞ」
「フニャー! 僕は悪くないにゃ。悪いのはハクハクにゃ!」
「なに何か文句あるの!?」
「「……」」
ミャンミャンが、ハクハクと黒い猫の首を根っこをつかみ、持ち上げて両方に怒った顔を向ける。二匹ともミャンミャンの怒った顔が怖いのかすぐに大人しくなった。リックはミャンミャンに猫について尋ねる。
「ミャンミャン、この猫って?」
「あぁ、この子はアンダースノー村でリリィが子猫にしちゃったスノーベリー山の翠球山猫です。なんかあれ以来よく王都にくるんでシーリカと私達で引き取ったんです」
「そうだよ。名前はエメエメだよ」
猫はスノーベリー山に居る守り神翠球山猫だった。ミャンミャンに捕まったハクハクが不満そうな顔をする。
「わらわはこの猫を引き取るのに反対したのじゃぞ!」
「うるさいにゃ! ハクハクの癖に」
「なんじゃと! わらわは白銀狼じゃ!」
「キャッ! こら二人とも大人しくしないと夕ご飯あげないわよ」
ミャンミャンに首根っこをつかまれながら、エメエメはハクハクをひっかこうとして、ハクハクは吠えて威嚇してる。ポロンがミャンミャンの前に立って二匹を交互に睨んだ。
「ハクハクさん、エメエメさんをいじめちゃダメなのだ。エメエメさんもハクハクさんをいじめちゃダメなのだ」
「うぅ…… ポロンわかったのじゃ」
「なんにゃ!? 僕はいやにゃ……」
「いじめちゃ…… ダメなのだ…… ヒック!」
「わっわ! わかったにゃ! 大人しくするにゃ!」
涙を流して喧嘩を止める、ポロンにエメエメが慌てて了解していた。ポロンの涙には誰も逆らえない。ただ、ソフィアだけは、ポロンがウソ泣きをすると、すぐに見抜いて叱りつけることができる。
ポロンの涙によりハクハクとエメエメも落ち着き、リック達はテーブルへと戻った。ミャンミャン達が加わり、八人が同時にテーブルについた。すぐにシーリカがミャンミャン達に声をかける。
「あゎゎゎ。ミャンミャン、タンタン、どうでした? 大地の裂け目に異変はありました?」
「うん…… 大きな魔物がいびきかいて寝てたわ。まだ完全には復活してないみたいだけど……」
「すごい大きくて怖かったよ…… ココ姉ちゃんが対策を考えるってさ」
「あゎゎゎ、ありがとうございます」
「ミャンミャンさん達はどこにいってたんですか?」
「あゎゎゎ、ココと一緒に大地の裂け目に魔獣ゾルデアスを探しに行ってもらってました」
二人はシーリカの依頼で、大地の裂け目まで行ってきたようだ。この仕事のために二人の合流が遅れた。シーリカは二人の報告を聞いて、リックとソフィアとポロンの前に立って頭を下げた。
「あゎゎゎ、申し訳ありません。リックさん、破滅の魔獣ゾルデアスが復活したら、この地は大変なことになってしまいます。第四防衛隊の皆さんに討伐に協力をお願いしたいのですがよろしいですか?」
「わかった。第四防衛隊に戻って隊長に報告するよ。シーリカの頼みなら断ることもないと思うよ……」
「あゎゎゎ、ありがとうございます」
「じゃあ、とりあえず! ご飯食べよう! おなかすいた」
「うん、お姉ちゃんが料理してないから安心して食べられるしね!」
「タンタン!」
眉間にシワを寄せ、ミャンミャンが立ち上がった。タンタンは危険を察知して逃げ出した。ミャンミャンはタンタンを追い回す。そしてジェーンに捕まりミャンミャン達は叱られるのだった。