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第243話 お誘い

 牢獄の町ローズガーデン。ここはグラント王国の南に広がる平野を超えた、荒野にある犯罪者を収容している町だ。内部は普通の町のようになっており、囚人は部屋を与えられて生活する。兵士の監視が町にいるが、夜間外出の禁止を除き往来は自由だ。

 殺人、強盗などの独房行きの凶悪犯を除いた、囚人達はは武器を没収されて、封印の刻印で力と魔法を制御され、店を開いて商売をしたり畑仕事や家畜の世話などに従事する。

 リック達はローズガーデンへの町の通りを歩き、とある場所へと向かう。牢獄とは思えない活気のある中央の通りを進み、通りの端の十字路に出た。


「こっちですよ」

「わかった」


 リックの少し前を歩いていた、ソフィアが地図をみながら十字路の右を指さした。返事をしたリックが視線を左下へ向ける。


「うん、あれ!? あっ!? 居た。ソフィア! ちょっと待ってて!」

「えっ!?」


 慌ててソフィアに待つように指示するリック。彼の横にいるはずだったポロンがおらず焦ったのだ。すぐ振り向いたリックの五メートル後方に立つ彼女を見つけた。


「ポロン! 今日は牢獄プリンは食べないよ。みんな待ってるんだから」

「わかってるのだ」


 通りの横にあった、牢獄プリンが売っている店を、脇に箱を抱えたポロンが眺めていた。


「じゃあ。早くおいで」


 ポロンはリックの呼びかけ応じて、彼の元へと来たが名残惜しそうに、何度も振り返って店の窓を見ていた。リックの横を通りすぎたポロンはソフィアの横に行って彼女と手をつなぐ。

 

「ろーごくプリン美味しそうだったのだ」

「そうですね。でも、持ってきた王都のリュージュアイスのアイスクリームも美味しいですよ」

「それにポロンだって、樫の木でくるみクッキーを焼いてもらって持ってきただろ?」

「おぉ!? そうだったのだ。これもろーごくプリンと負けないくらい美味しいのだ」


 ポロンは脇に抱えた箱を上に嬉しそうに掲げた。


「(ふふ。喜んでもらえるといいね)」


 箱を掲げるポロンに微笑むリックだった。リュージュアイスとはソフィアが好きな王都のアイス屋で、樫の木は詰め所の近くにあるリック達が通う食堂でメリッサの実家である。ポロンはヴァネッサに頼んでクルミクッキーを焼いてもらい箱に詰めて持って来た。今日のリック達は、とある人達からローズガーデンにお呼ばれされ、王都の土産を持ってやってきたのだ。

 門番の立っている厳重な門をくぐり、ローズガーデンの北東のある区画にやってきた。ローズガーデンは一般の囚人は町で暮らし、町でさらに犯罪を犯した者や、町での暮らしに適さない重罪人や死刑囚などは地下の独房暮らしている。

 北東にある区画はその中間くらいの意味で、独房にいた囚人が町へ出る場合に、本当に問題ないか試す区画である。四階だての石造りの建物に入ると、静かな廊下に冷たい鉄製の扉が並んでいる。


「確か一階の奥から三番目…… おっ! ここだ!」


 並んだ扉の一つを指さしたリック、彼らの目的地はこの部屋のようだ。


「わたしがするのだ!」

「わかりました。強くどんどんしないで優しくするんですよ」

「わかったのだ


 笑顔でうなずき、ポロンが鉄製の扉をノックした。廊下に鉄製の扉が叩かれる音が響く。少し待つと鉄製の扉がゆっくりと開いた。


「あゎゎゎ! リック! ソフィア、ポロンちゃんよく来てくれました。どうぞ中へ」

「こんにちは。シーリカはもう来てたんだね」

「あゎゎゎ、はい! うれしくて…… さぁ! こちらへどうぞ!」


 玄関で笑顔でリック達を迎えてくれたのは王国の聖女シーリカだった。もちろん彼女はローズガーデンに服役しているわけではない。

 笑顔のシーリカに招かれ、リック達は部屋の中にへと入った。重厚な扉の向こうの玄関を抜け、正面の廊下を進み少し先に木の扉をシーリカが開けた。


「あゎゎゎ!? リリィ! リックさん達がいらっしゃいました」

「なっなんでリックが!?」

「あゎゎ!? どうしたんですか?」

「いっいや…… ただ、ソフィアさんとポロンちゃんだけいいのに」


 女性の声が聞こえ、扉の手前でリックは苦笑いをする。


「(聞こえてるぞ!? まったく…… うわ!? なんだ!?)」


 木の扉からリリィが顔をだし、リックに冷たい視線を送っていた。彼女は聖女の世話係として教会に入り、光の聖杯を狙い聖女シーリカを傷つけ、王国を混乱に陥れたため死刑となって独房に入っていた。だが、聖女シーリカと勇者アイリスの嘆願により、死刑を免れて独房からも出られることになった。今日はリリィの独房からの、出所祝いということでリック達は呼ばれたのだ。死刑回避には第四防衛隊のカルロスも手を貸しエルザの力も借りた。シーリカがリックを睨むリリィに注意をする。


「あゎゎゎ、リックはあなたの減刑に力をですね」

「わかってます。でも……」

「わかった。リリィがいやらなじゃあ俺は帰るよ。じゃあね」

「えっ…… やっ…… 残念です」

「あゎゎ!?」


 ふざけて帰ると言って背を向けるリック、シーリカとリリィがこちらを驚いた顔をしリックに向けた。しかし、シーリカは悲し気だが、心なしかリリィの顔が喜んでいるように見える。


「あゎゎ待ってください」

「えっ!? ちょっとまって!? シーリカ!?」


 振り向いたリックに、慌ててシーリカが、早足で向かって来るのが見えた。嫌な予感がリックの頭を駆け巡る、彼にシーリカが近づくと碌なことが起きないのだ。


「あゎゎ!?」

「あっ! 危ない!」


 シーリカが何かにつまづいて前のめりにリックにむかってくる。慌ててリックは両手を広げ、彼女を受け止めようとした。


「あっ! シーリカ姉さま!! ダメーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」

 

 両手を広げたリックを見たリリィが、焦った様子で、シーリカの後ろから手をのばし、彼女を突き飛ばした。


「きゃああああああああああああああああああああ!!!!」

「うわあ!!!!」


 リックは押されたシーリカに押されて、バランスを崩して背中から倒れた。倒れたリックの上に何が乗って視界が暗くなった。


「いたた! うん!? この白い布……」


 真っ白な布がリックの顔の前を塞いでいた。そして彼の頬には柔らかく弾力のある、感触がつつんで少しかぐわしい香りが鼻に届く。


「なんだ!? これは!? でも…… 息苦しい……」


 苦しいリックは、必死に呼吸をしようと大きく息を吸い込むが、白い布に覆われた柔らかい物体に、圧迫くされフガフガという情けない音をだしていた。


「あゎゎ…… リック様…… お尻のにおいをかかがないでくさだい…… 恥ずかしいです。できれば二人っきりの時に……」

「キャー! なにあんたシーリカ姉さまのお尻に顔をつけてるのよ!?」

「あゎゎゎ!? リリィ!? 押さないでください!」

「ぷはー! はあはあ」


 白い布がどかされてリックの視界が明るくなる。リックの顔を恥ずかしそうにしてる、シーリカと怒った顔のリリィがのぞき込んでいた。


「まったく…… シーリカ姉さまのお尻に顔をつけるなんて…… やっぱりミランダ姉さまの言う通り破廉恥男ですね!」

「なんでリリィが怒るんだよ!!! 元はといえばお前がシーリカを押すからだろうが!」

「キッ!!!!」


 リックの顔を睨みつけるリリィ。リックはゆっくりと立ち上がる。倒れたリックの顔にシーリカの尻が乗ってしまっていた。

 

「(そうか…… シーリカのお尻が俺の上に…… ぐへへ! もっとにおいを嗅いでおけばよかったな。うん!? 背筋が……)」


 頬を触りながらリックは、シーリカの尻の感触と匂いを思い出し、にやけていると背後にすごい殺気を感じ振り返った……

 

「リック……ギロリです!」

「ゆるゆるな顔してたのだ」

「はっ!?」


 リックにむかってポロンが指をさして、さらに彼を怖い顔でソフィアが睨み付けていた。


「ちょっと待て!? 今のは違う!」

「お仕置きです!」


 ソフィアが手を上にかざした。直後に彼女の手から、リックに向かって青白い電撃が放たれた。


「ギャアアアアアアアアアアアアア!!! なっなんで……」


 リックがソフィアの電撃が魔法で光る。全身がしびれ激痛が彼の体を通り抜けていった。


「リックが光ってるのだ!」

「勝手に光らせておけばいいですよ」

「いてて……」


 口をとがらせソフィアは、腕を組んでそっぽむき、ポロンはリックが電撃魔法によって光るのを楽しそうにみていた。リリィもなぜかすごい嬉しそうな顔でリックが電撃にやられるのをみていた。


「もう…… うるさいですわね。こらー! 何してるんですの!?」


 部屋の奥から一人が廊下に出て来て声をあげた。


「だってジェーン姉さま! こいつが私達の部屋に侵入してきて」

「リリィ! 今日は元からリック達を招待するっていいましたわよね!?」

「だって…… やっぱり女の子だけの方が良いんだもん」

「怒りますわよ!」


 奥から出て気の刃ジェーンで、彼女はリリィをしかりつける。ジェーンはすらっとした体形で身長が高く、真っ青な長い髪を左右の耳の後ろで結んでいる。少し垂れた茶色の目をして優しい顔をしていた。服装は以前ミャンミャン達が来ていたものと同じ囚人服だ。化粧して目つきをきつくしていた頃より、大分顔つきが穏やかでこちらが本当のジェーンの姿だ。

 彼女はアイリスが大地破壊剣(グランドバスター)手に入れる際にリック達に捕まって投獄された。四邪神将軍として魔王に仕え、王国を裏切っていた彼女には死刑判決が下り、独房に投獄されて尋問が終わり次第刑が執行される予定だった。リックはリリィの独房からの出所は、聞いていたがジェーンがここにいるのは知らずに驚き固まってしまった。

 ソフィアがリックの袖を引っ張って顔を覗き込んできた。


「ジェーンさんですよ!? リック」

「うっうん…… ジェーンさんはどうして?」

「驚いた? そこの聖女シーリカ様とアイリスのおかげて私も独房をでれたのよ」

「シーリカとアイリスが!? どういうこと?」

 

 リックがシーリカに視線を向けた、彼女は嬉しそうにうなずいて口を開く。


「あゎゎゎ、はい。アイリスさんにリリィの助命をお願いした後に、アイリスさんからジェーンさんの助命をお願いされたんですよ。二人はほぼ同時に助命されて独房からここに移されました」

 

 笑顔で答えるシーリカ。リックは小さくうなずく、以前アイリスはシーリカの依頼で国王にリリィの助命嘆願した。その代わりにアイリスが、ジェーンの助命をシーリカに依頼したというわけだった。王国一の才能の勇者と聖女の頼みでジェーンとリリィは互いに死刑から免れたのだった。


「でも、二人がどうして一緒に?」

「わたくしとリリィは独房が隣でしたのよ」

「そうですわ。ジェーン姉さまと話し合って…… 二人で……」

「わたくしたちの助命の願いがでてるのを聞いて、二人でけじめをつけて一緒に頑張るって約束したんですわ。二人を想ってくれる人の為に…… ねぇ、リリィ?」

「はい。ジェーン姉さま……」


 頬を赤くして、うっとりとした顔のリリィが、ジェーンの手を握っている。


「(そうか。シーリカの気持ちがリリィにも届いたのか。ジェーンさんとも一緒ならシーリカも安心だな)」


 二人の様子を見てリックは小さくうなずく。微笑んでいたシーリカが、目を開きハッとした表情になり手を握り合う二人に声をかける。


「あゎゎゎ! ほら、ジェーンさんもリリィももういいですから! 席につきましょう。ポロンちゃん手伝ってください」

「わかったのだ」

「わっわ!? ポロン!?」

「危ないですよ」


 シーリカはリリィとジェーンを押しながらポロンに指示を出す。うなずいたポロンは、リックとソフィアの背中に回り込み、二人を押して木の扉の中へと強引に連れて行くのだった。扉の向こうは、テーブルと椅子が置かれており、テーブルの上にはたくさんの料理が並んでいた。


「美味しそうです」


 テーブルを見たソフィアが嬉しそうに声をあげ。横のリックは彼女がつまみ食いしないかと警戒する。リック達が無事に席に座ると、シーリカがグラスを持って出所祝いを始めようとする。だが、ジェーンがシーリカに前に手をだして止めた。


「待って、シーリカ、もう食べていいんですの? ミャンミャンさんとタンタンさんは?」

「あゎゎ、ミャンミャンとタンタンの二人はあのクエストで少し遅れます。だから先に食べましょう」

「そうですか…… わかりましたわ。では先にいただきましょう」


 シーリカの友人である、タンタンとミャンミャンも招待されていたようだが、今は仕事中で不在だという。先に始めようというシーリカの提案で、リリィとジェーンさんの独房からの出所祝いが始まった。

 楽しく飲み食いをしてると、ふとシーリカが手を止め、真剣な顔でリックとソフィアとポロンに声をかけた。


「あゎゎゎ、リック、ソフィア、ポロンちゃん、実は聞いてほしいことがあるんです。いいですか?」

「大丈夫だよ」

「、ありがとうございます。実は今日は二人の独房からの出所祝いの他に第四防衛隊に頼みがあってお呼びしました」

「そうなんだ!?」

「頼みってなんですか?」

「それは…… 破滅の魔獣ゾルデアスの復活が迫っているのです」

「破滅の魔獣ゾルデアス!?」


 真剣な表情で話をするシーリカ。破滅の魔獣ゾルデアスという、聞いたことのない名前にリック達は驚き、リリィとジェーンがうつむくのだった。

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