第242話 王女の帰還
リック達がこじ開けた魔物軍団の穴にエルザ達が突撃した。よく訓練された千人の騎士達は、巧みに馬をあやつり、一塊となって魔物を吹き飛ばして突き進んでいく。
「リック、イーノフ、あたし達はまだだよ。ソフィアは少し離れてな」
「わかりました」
「わかったよ」
魔物軍団を突破したメリッサは、イーノフとリックに立ち止まるように指示をした。魔物軍団が立て直して追撃しようと前に出て来ていた。背後から迫る魔物の軍団に振り返ったリック、イーノフ、メリッサの三人が立ちふさがる。
目の前に先陣としてキラーサーベルウルフの集団と、指揮官なのであろうポイズンキャットが乗るファイアタートルが現れた。メリッサとイーノフがリックより少し前に馬を進ませた。
「リックは撃ち漏らしたのを叩きな。他はあたしらの獲物だよ」
「メリッサ! 今はもっと真剣にやらないと!」
「わかってる。行くよ」
槍を逆手に持ってメリッサは馬上から槍を魔物に向かって投げた。
メリッサさんの槍は先頭で向かってくるキラーサーベルウルフの頭を貫いた。槍の勢いは落ちず数頭のサーベルウルフを貫いて、ポイズンキャットが乗るファイアタートルの甲羅に突き刺さった。ファイアタートルの赤い甲羅がさらに自分の血で上塗りされていく。目から生気が抜けてファイアタートルが倒れた甲羅からでた首を地面に横たわせ、四本の足も力なく開き地面に倒れた。
「ニャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
ポイズンキャットが慌てた様子でファイアタートルの甲羅から、必死にキラーサーベルウルフにリック達に向かっていけと合図をだしている。次にイーノフがキラーサーベルウルフとポイズンキャットに杖を向けた。
「氷の精霊よ! 我にその刃の力を示せ! 氷槍舞踏」
地面から氷の刃が現れて、魔物たちにに向かって飛んでいく。キラーサーベルウルフの悲鳴と、グシャビシャと肉の切れる音が周囲に響き大量の血液が地面を流れていく。氷の槍の一つがポイズンキャットの胸に突き刺さり、ファイアタートルの甲羅の上で膝をついて倒れた。
ポイズンキャットとキラーサーベルウルフの、人間と同じ赤い色の血と、ファイアタートルの紫の色の血が混じってカラフルに地面を染めていく。
「さて……」
リックの前に一頭のサーベルウルフが現れた。イーノフの魔法をなんとか逃れてやってきのか体は傷つきフラフラとしている。長い牙をむき出しにして、リックへ向けているサーベルウルフだが、目に力はなく戦意を喪失していた。
「これが普通の戦闘なら見逃すけど…… 悪いな。そっちにはソフィア達が逃げてるからダメだよ……」
「キュイーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!」
リックは牙を向ける、キラーサーベルウルフの横に素早く回り込み、首に剣を振り下ろした。う甲高い悲鳴がし、キラーサーベルウルフの頭が、血を流し地面へと転がった。悲鳴を聞いたメリッサ達が振り向いた。
「悪い。リック、僕の魔法で撃ち漏らしたね。」
「でもそれが最後だ。エルザさん達を追いかけるよ。イーノフ、リック、行くよ」
「はっはい……」
撃ち漏らしたと言っても、リックの前に来たの戦意を失ったキラーサーベルウルフ一頭だけだった。リック達はエルザ達を追いかけ合流した。しばらく進むと目の前に小さな森が見えてきた。先頭を行くロバートが森を指して叫ぶ。
「エルザ! この小さな森の先にリーナ達が展開してる」
「わかったわ。あの森を通り抜けるわ…… 馬車を先に通しなさい。最後は私達よ」
「了解だ! 馬車を前にだせ!!!」
ロバートが馬を止め、騎士達に指示をだし、馬車を先に森に向かわせて、リック達は森の手前に展開した。馬車、騎士達と順に森へ入り、最後にリック達は魔物たちが追撃してくるのを確認してから森へ入った。
全速力で薄暗い森を馬でかけていく、後ろをみて追いかけてくる魔物の姿は見えないが、森の中に魔物鳴き声が響いてるので追いかけてきてるのは間違いないだろう。
「森の出口でリーナ達と合流して反転して反撃します」
「みんなもうすぐだよ!」
エルザが振り返って森の奥を指さして叫ぶ。薄暗かったリック達の視線が明るくなった。目の前にはビーエルナイツの大軍と馬に乗ったロバートの横にリーナが馬に乗り待っていた。
「みなさん。お疲れさまでした。こちらへ!」
「ありがとう。リーナ!」
ロバートとリーナの横に馬を止めリック達は反転する。皆で武器を構え、魔物軍団が出てくるのを待って、森をじっと見つめている。
「来ないですね」
「うん」
リックの横にいるソフィアが森を見ながらつぶやく。リック達がついてから、大分時間が経ったが未だに魔物軍団は出てこないのだ。最後に入ったリック達から、魔物軍団までの距離は百メートルほど、大軍団で森を進むのが遅くはなるが、一人も出てこないのはおかしい。
「どういうことだい?」
「わからないわね…… ロバート、誰かを様子見で向かわせて!」
「わかった」
エルザの十名ほどの部隊が、森へ戻り偵察へと向かう。待っていると、すぐに慌てた様子で偵察隊が戻ってきた。
「敵が私達に向かってきません! レイクフォルトに向かっていきます?」
「なっなんですって!? どうして?」
部隊のリーダーの女性騎士が、エルザに報告する。魔物軍団は森の途中で反転して、レイクフォルトへと向かったのだった。報告を聞いて慌ててエルザがロバートと話を始める。
「狙いは私達じゃなくて町っだったのね」
「あぁ。リーナ達の存在に気付いてたんだろう。敵はわざと追撃するふりをして町へとむかったんだ」
「誘導していたつもりが私達を町から離されたのね…… やられたわ。相手は町を占領して立てこもる気ね。急いでレイクフォルトに向かうわよ!」
エルザが大きな声で指示を出す。リック達は急いで馬を走らせてレイクフォルトへと向かうのだった。
「まずいな……」
焦るリック達、森の先で魔物達を、迎えうつつもりだった彼らは、かなりの時間を過ごしてしまった。レイクフォルトには、騎士とクリューバー隊長が率いる警備の兵士、合わせて二百名ほどしか残っておらず、十万の大軍に押し寄せられたらあっという間に全滅してしまう。
森を抜け全速力で平原を走りぬけたリック達がレイクフォルトへ迫る。森からまっすぐに街道を進めば、レイクフォルト城門の側面に出る。リック達がレイクフォルトに到着した…… そこには……
「おぉ!!! 遅いですぞ。みなさん」
レクフォルトの門の上で、クリューバーが立って笑いながら、大声でリック達に手を振っている。
「エっエルザ!!!??? クソ! 何をしておる! さっさとレイクフォルトを侵略しなさい!」
レティーナ王妃の声が荒野に響き渡る。魔物軍団が一斉にレイクフォルトに向かって駆けていく。
「ひるむな! 向かってくる者に水を浴びせろ! さらに城壁に水をもっとかけるんじゃ!」
クリューバーの指示で、レイクフォルトの城壁の騎士や兵士が、一斉に桶に入った水を魔物たちにかけていた。城壁を駆けあがろうとする魔物たちに、水がかかると苦しそうな顔をし、梯子を上っているものは手をはなし落ちていく。また、城壁にも水がかかっており触れるだけ魔物は苦痛に顔を歪めている。魔物の様子を見たクリューバーが叫ぶ。
「はははははっ!? 何度やっても無駄じゃ! フォルト湖の水は王家の墓を守るために、初代の聖女が祈りを捧げた聖なる水じゃぞ。魔物風情が簡単に触れるものではない!!!!!」
王家の墓が建てられた際に初代聖女が祈りを捧げ、フォルト湖の水を聖水へと変えていたのだ。クリューバーは魔物に聖水をかけ進軍を遅らせエルザ達が気付いて戻ってくるまで攻撃に耐えきった。
魔物軍団がレイクフォルトを、攻めあぐむのを見たロバートがエルザに叫ぶ。
「エルザ! 今が好機だぞ!」
「そうね」
前に出たエルザが馬を駆けながら頭上に剣を掲げる。
「さぁ!!!! みんな! 突撃よ!!!!! レイクフォルトを悪しき魔物の群れから救いなさい!!!!!」
エルザが剣で魔物軍団を指し、突撃の指示をだした。
「「「「「「「「「「うおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」!」」」」」」」」」」」
平原にビーエルナイツの雄たけびがこだまする。少数の兵士に苦戦する魔物軍団に、十五万の騎士達が側面から襲いかかった。騎士達は馬上からクロスボウで無数の矢を浴びせかけ、立ちはだかるキラーサーベルウルフやオークは馬で吹き飛ばして進む。ギガントコブラはクロスボウで目を狙い、頭を下げると騎士が飛び乗って頭を切り落としていく。囲まれたファイアタートルは足を集中敵に狙われて首に縄をかけられ集団で引っ張られ引きずり倒される。ファイアタートルの上に載っていた、ポイズンキャットは長い槍で引っかけられ、引きずり下ろされると集団に囲まれ馬上からの、槍攻撃で串刺しにされていった。
よく訓練された騎士達が魔物軍団を駆逐していき無数の血と肉片が大地を染めていく。エルザとリック達は、戦場をレティーナをめがけて駆けていく。
「クソこうなれば逃げて再起を……」
馬を操りレティーナが背中を見せて逃げようとする。メリッサは馬上で槍を逆手に持って右腕を大きく引いた。
「待ちな!」
「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!」
メリッサは逃走を図るレティーナの馬の足に向かって槍を投げた。馬の左の後ろ脚に槍がささり、馬はバランスを崩して倒れ、レティーは背中から倒れるようにして落馬した。
背中を強く打ったレティーナは体を起こし苦しそうに肩を押さえている。
「リック、今だ!! 捕まえな!」
「わかりました! 行くよ。ソフィア!」
「はい」
返事をして下馬したリックとソフィアはレティーナの元へと急ぐ。リックは右手に剣を持ち、彼の背後に隠れるようにしてソフィアは縄を準備する。
「来るな! 無礼者! 我は王だぞ」
「王だろうが何だろうが! 罪を犯した人間を捕まえるのが兵士だ! あんたは俺達に逮捕されるんだ!」
「黙れ…… 我に…… 向かって……」
近づくリックを見て立ち上がり、うつむきながらフラフラしながらリックに近づいて来る。リックは静かに持っていた剣を回転させ刃が無い側を前に向け、後ろを向いてソフィアに待つよう合図を送り前に出た。
「黙れーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!! 下民が!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
叫びながらレティーナは、手の爪をむき出しにし、リックとの距離をつめて来た。瞬時に距離をつめた、レティーナは右手をあげ迫って来る。リックは静かに黙ってレティーナを見つめている。レティーナが止まって勢いよくリックの首に向かて爪を振り下ろす。
「(右…… と見せかけての左かな…… 腕の角度から下から来るな……)」
ジッとレティーナの動きを見つめるリック。レティーナが止まった直後に、彼の視線がレティーナの顔から手から足へと移動していった。リックは右足の踏み込みの深さを見てレティーナが、いったん右手を引き左手に変えて攻撃してくると見抜く。リックはレティーナの誘いに乗って右手の剣を少し上にあげる動作した。
「ニヤリ」
レティーナの口角がかすかに上がっている。直後に彼女は右手を止め、今度は左手を下から振り上げリックの胸を斬りつけようとした。リックは予想したレティーナの動きに素早く反応した。剣を止め、前に左足を前に出し、左斜め前へと移動する。前に動くリックとレティーナの左腕が交差する。かすかにリックの頬にふわりとした風が吹き替える。レティーナの左手は空振り空を切った。リックは入れ替わるようにして、彼女の後ろへと抜け、右手に持った剣を振りかざし、振り返えりながらレティーナへゆっくりと体を向けた。
「よっと」
「ガハアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!」
がらあきの背中にリックは剣を振り下ろした。鋭く振りぬかれたリックの剣が、レティーナの背中へとめり込み、バキメキという乾いた音を立てる。体の半分ほどに斜め縦にめり込んだリックの剣は、彼女の背骨とあばらの一部を砕いた。
「あがぁ!!!??? なっなにを……」
叩から息がでず、さらに骨が砕かれた苦痛で、顔をゆがめレティーナは静かに膝ついた。リックは膝をついたレティーナを見下ろしていた。
「ソフィア! 縄を」
「はい」
レティーナの前に居たソフィアが駆け寄って彼女に縄をかけた。
二人は捕まえたレティーナを、エルザの前に連行した。両肩をリックとソフィアに押さえられレティーナを、馬に乗ったままエルザは睨み付けていた。レティーナもエルザを睨みつける。
「あなたを…… 絶対に許さ……」
「座れ!!!」
「クっ…… 下民が…… なんで…… こんな奴らに……」
リックはレティーナの頭を押さえ強引にエルザの前に強引にひざまずかせた。エルザの前でひざまずかせた、レティーナはブツブツとなにか言ってる。ロバートがリックからレティーナを受け取るために下馬して近づく。エルザはロバートがレティーナの前に行くと彼女に向かって口を開く。
「レティーナ・ローズ・グラント! 反逆罪であなたを逮捕します。法廷での寛大な処置は期待しないように! 連れて行きなさい」
「はっ!」
「クッ!? アナスタ…… 死を……」
「黙れ! 反逆者!」
悔しそうな顔でエルザに何か叫ぼうとした、レティーナをロバートが殴って黙らせて、縄を持って引きずられていった。こうしてレティーナ王妃の反逆は終わった。
レイクフォルトの門をくぐったリック達を、クリューバー達が迎える。エルザとリック達は馬を降りて彼の前に並んだ。
「エルザさん、第四防衛隊のみんな。見事なご活躍でした」
「クリューバー隊長こそ。この町のことを知り尽くされた見事な采配でした。ありがとうございました」
「老兵の最後の意地を見せられましたかな……」
「えぇ。すばらしい働きでした。これなら引退を撤回していただかないといけませんね」
「ははは、いやいや退役はいたしますぞ。最後にみなさんと戦えて光栄でした」
笑顔でエルザとクリューバーが握手をする。褒められたクリューバーは、少し恥ずかしそう頭の後ろを押さえる。
「そうですか。残念です。あんな素晴らしい作戦を考える人は簡単に……」
「実は…… 湖の水を使う作戦を考えたのは彼じゃよ。おいでなさい」
「えっ!? あっあなたなの!?」
握手を終えたクリューバーが後ろを向いて手招きをする。背後に居たレイクフォルトを、クリューバーと共に守っていた騎士と兵士が道を開け、恥ずかしそうにアレクがゆっくりと一人で歩いて来た。
「本当にアレク王子が作戦を考えたんですか?」
「うっうん…… 昨日、お母様たちと湖を見て気になってこの町の図書館でメイドさんと調べて、湖の水が聖水だってわかったの…… だから相手が魔物なら通用するかなって……」
「そうですか! ありがとうございます」
エルザはアレクの前にひざをついてかがみ礼を言うと、立ち上がってクリューバーに声をかける。
「でも、クリューバー隊長の後継者をもう一度探さないといけませんね」
「そうじゃな…… じゃがもうわしの後継者は見つけたぞ……」
「えっ!?」
クリューバーがひざまずき、アレクの前に両手で腰にさしていた、剣を差し出した。クリューバーは自分の後継者にアレクを選んだのだ。驚いて固まっているアレクにクリューバーは、優しい顔して頷きエルザに視線を送る。
「よろしいですかな? エルザ殿……」
「えぇ。かまいません。アレク様、クリューバー殿の剣を受け取っていただけますか?」
「いいの!?」
エルザがアレクにクリューバーの剣を受け取るように促す。アレクは戸惑いながら、ゆっくりとクリューバー剣に手でつかみ受け取った。
「ではアレク王子。わしにかわってこのレイクフォルトの町をお願いします」
「でも、ぼっ僕でいいの? エルザさん…… 僕はお母様の子供でここを危険に……」
「あなたは持てる力を使って立派にレイクフォルトを守りました。それに幼いあなたがレティーナ王妃と共謀していた可能性は低いでしょう。もしあなたが母のことを悔いているなら、ここの防衛隊としてグラント王国に忠誠を誓いなさい」
「はっはい! ありがとうございます。わっ!?」
「おっと! まずは剣の使い方から引き継がないといけませんな」
「ふふふ」
嬉しそうな顔でアレクはクリューバーの剣を空にかかげた。少し剣が重いのかバランスを、崩しそうになるアレクを、慌ててクリューバーが支える。
エルザは二人のやり取りに微笑む。彼女の後ろからメリッサが小声で話しかける。
「あんた!? 本当にアレク王子をここの隊長にするのかい?」
「もちろん一人じゃありません。私の優秀な部下と一緒です。それと…… ロバート!」
「はい。なんですか」
「ヴァージニアをアレク王子のメイドになるようにすぐに手配しなさい」
「母をアレク王子のメイドにですか?」
「はい。彼女以上に適任な者はいないでしょう」
「わっわかりました。すぐに手配します」
ヴァージニアはロバートの母でアナスタシア様の乳母をしていた。現在はエルザ達の拠点であるスノーウォール砦で過ごしている。アナスタシアの乳母であるヴァージニアをアレクのメイドとしておけば監視と教育の両方に適している。メリッサはエルザの采配に納得しうなずく。
「あれ……」
エルザがみんなから、少し離れていやらしく笑いだした。何かに気付いたリックの横をそっとリーナが通り抜け、気配を消してゆっくりと近づいていくく。
「なっなにを!? リ……」
「しー!」
リックが話しかけようとすると、リーナは振り向き笑顔で、口に指を当てて静かにと、リックに合図を送った。
「ふひひ…… これで…… ヴァージニアにアレクを仕込んでもらって…… アレクを別の意味で立派な男に……」
「ふふ。エルザさん! 私に聞こえてますよ!」
「リっリーナ!? ちっ違うの…… 違うのよ。私はほんとにアレク王子に!?」
「お待ちなさい!」
「いやーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!! 違うのよ!!!! そうじゃないのよ!!!!」
「ダメです。後でお仕置きです!!!!」
悲鳴を上げ逃げようとする、エルザの首根っこを掴んで、自分の元へと引き寄せるリーナだった。
「あーあ…… 何してるんですか。まったくいつもいい感じのところで…… はぁ…… まぁでもこれがエルザさんらしくていいか」
エルザは必死にリーナに違うと言い続けいた。怖い顔をしてリーナはエルザをしかりつけていた。周囲の人間は呆れながら二人の様子を笑顔で見つめるのだった。ビーエルナイツの活躍によりレイクフォルトの危機は去った。
レティーナ妃は逮捕され、王宮における反アナスタシア勢は、そのほとんどが駆逐されたこととなった。アレクはレイクフォルトの防衛隊隊長に就任し、王国南地域における最重要拠点レイクフォルトは事実上ビーエルナイツの傘下になった。これでエルザは王国のほぼ全域に渡り勢力を拡大し、ビーエルナイツによる王国の治安維持体勢が完成させた。暗殺者や反対派に追われ、王都から逃げだした王女アナスタシアは、自ら騎士となりその剣で敵を払い、グラント王国全土を掌握し、王都への帰還を果たしたのだった。