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第241話 陽動作戦

 レティーナが率いる魔物軍団が到着するのは明日の早朝。リック達は夜の間に出撃し相手を平原で待ち構える。

 メリッサよりヘビーアーマーへの変更指示があり、リックはイーノフとゴーンライトと共にレイクフォルトの更衣室で装備を変えていた。


「あんた達、準備はできたかい?」

「まだです……」

「って…… メリッサ…… なんで入って来たの? 着替え中だよ!」

「キャアアア!」

「えっ!? あっ! ごめん……」


 気まずそうに頭に右手を置いて慌ててメリッサが更衣室の扉を閉めて出て行った。なぜか、作戦の為に三人がヘビーアーマーへ着替えている部屋にメリッサが急に入ってきたのだ。


「(メリッサさんが申し訳なさそうな顔をしてたな。まぁ着替えはほとんど終わってるし、メリッサさんに見られても親父に裸見られたみたいなもんだからいいけどさ)」


 兜を両手に持ってかぶろうとした、リックに扉の向こうの声がかすかに聞こえる。


「あんたが扉を開けようとしてたから…… 着替え終わったのかと…… ちょっとおいで!」

「あーん! もうちょっとでイーノフさんとゴーンライトさんが裸でならんでるところを…… 覗けたのに!」


 真相が見えて来たリックは、首を横に振って兜を装着し扉を開けた。

 扉の向こうでは、メリッサがエルザの、首根っこをつかまえ、持ち上げている。エルザは悔しそうに足をバタバタと動かしていた。エルザがメリッサに嘘を吹き込み、扉を開けさせリック達の着替えを覗こうとしていたようだ。


「(はぁ…… この人は本当に! あなた王女でしょ? 兵士の着替え覗いてどうるすんですか!? まったく…… 後でリーナさんに告げ口してやる!!!)」


 ヘビーアーマーに装備を変更したリック達は、レイクフォルトの町の門の前に集合した。

 久しぶりにヘビーアーマーに袖を通したリックはまじまじと全身を見つめている。リック達グラント王国の兵士は、普段の勤務用の胸当てと腰当てだけのライトアーマーとともう一つ大規模戦闘用のヘビーアーマーが支給されている。

 警備や小規模の戦闘などの通常任務では、ライトアーマーで対応し、集団同士での戦闘になることが想定される場合など、必要に応じてヘビーアーマーを着用する。リックとメリッサとポロンとゴーンライトの四人は、前衛用の全身を覆うプレートメイルで、兜は頭頂部から後頭部にかけて金属におおわれ、戦闘時以外は、視界を確保するため、顔部分の装甲を開けている。イーノフとソフィアは後衛用のヘビーアーマーで、上半身と腰回りは装甲の熱い鎧で、腕は手首から肘まで足は膝まで装甲で、それ以外の部分は厚手の布で覆われて、リック達より動きやすくなっていた。兜も二人は頭頂部のみ金属で、後頭部と側頭部は布で軽めのものになっている。

 門の前には既に準備を終えたビーエルナイツ達が集合する。ビーエルナイツ達の数は千人程でもちろん全員馬に乗っていた。


「うん!? そういえば俺達は馬ないけど……」


 並ぶビーエルナイツを見てつぶやくリック。メリッサに引き連れられ、エルザの前に整列した。横にはロバートが立ち、更衣室覗きの件で、ロバートの叱られたのかか、エルザはシュンとしてるように見えた。


「第四防衛隊六名、集合したよ」

「了解です。では、みなさんに馬を用意しますね」


 茶色い馬が六頭リック達の連れてこられた。馬を見てリックはホッと胸を撫でおろす。いくらリック達でも、騎士に徒歩で突いていくのは無謀だ。


「リックは馬に乗れるですか?」

「あぁ。大丈夫だよ。田舎ではよく乗ってたし!」

「うぅ…… なのだ……」


 ポロンがうつむいて馬を見て不安そうな顔で、しきりにリックとソフィアの顔を見ていた。ポロンはゆっくりと、メリッサの足元へ歩いていき、彼女の手をつかんで軽く引っ張る。


「メリッサ…… わたし…… 馬に乗れないのだ……」

「えぇ!? しょうがないね…… ソフィア! ポロンと一緒に乗ってやりな」

「わかりました」


 恥ずかしそうにポロンは馬に乗れないことをメリッサに告げた。少し驚いた顔したメリッサはソフィアに一緒に馬に乗るように指示を出す。

 

「でも、メリッサ。ヘビーアーマーを装備した人間二人は無理では?」

「それもそうか…… じゃあポロンを町に……」


 イーノフの言葉に、メリッサはポロンをみて、少し寂しそうな表情をする。平原を移動し戦い素早く動くことが求められる今回の作戦で馬に乗れないポロンは連れて行けない。

  エルザがポロンの前に行き、落ち込んこんでいる、ポロンの手を握ってほほ笑んだ。


「大丈夫ですわ。ポロンちゃんには後方の馬車の護衛をお願いします」

「おぉ!? 馬車ならわたしも乗れるのだ!」

「後方の馬車には食べ物や武器とか大事な物があるの。護衛をしっかりお願いね」

「わかったのだ」

「ありがとう。じゃあ、馬車に案内してあげて!」


 ビーエルナイツの一人が呼ばれ、ポロンを馬車へと連れて行く。ポロンは嬉しそうに、ビーエルナイツに手を引かれていく。


「ちょっと待った。ゴーンライト、あんたも馬車の護衛に行きな」

「僕もですか? どうして?」


 驚くゴーンライトを引き寄せて、メリッサが耳元で小声でささやく。


「ポロンを一人にできないだろ? 頼むよ!」

「えぇ……」

「それにあんたも騎兵になって前で盾で戦うよりは馬車を守ってた方がいいだろ?」

「うーん…… そうですね。わかりました」

「エルザさん、ゴーンライトもポロンと一緒でいいかい?」

「えぇ。かまいませんよ」


 メリッサの指示を受けて、ゴーンライトも馬車の護衛まわるために、ポロンと一緒に向かう。

 

「ポロン、ゴーンライトのこと頼んだよ」

「わかったのだ! 行くのだ! ブーンコイトさん!」

「ゴーンライトだよ!」


 嬉しそうな顔で、ゴーンライトと手をつなぎ、一緒にポロンは歩いていく。リックはゴーンライトの背中にポロンをお願いしますと心の中で声をかけるのだった。


「じゃあ、行くよ。あんた達!」


 メリッサの号令で、リック達は馬に乗った。


「じゃあみんな。行くわよ!」


 エルザは第四防衛隊が馬に乗ると右手を上げビーエルナイツを進軍させる。彼女を先頭に横にロバートが並び、全員がゆっくりと進み始める。第四防衛隊はエルザとロバートのすぐ後ろをついていく。

 門をくぐる直前に見送りに来ていた、クリューバーがエルザの元に駆け寄って声をかけて来る。


「エルザさん。申し訳ありません…… 本来であればわしらも…… 行かねば」

「大丈夫です。クリューバー隊長も住人の避難をよろしくお願いいたします」

「わかりました」


 敬礼しクリューバーは返事をした。レイクフォルトの防衛隊と、町の残るビーエルナイツの合わせ、二百名ほどで町の人たちを、王家の墓がある小島に避難させる。


「さぁ行くわよ!」

「お気をつけて…… みなさんに幸運を……」


 号令をかけてエルザが馬を進める。クリューバーは頭をさげてエルザ達を見送っていた。リック達はレイクフォルトから北へと向かう。背後に見えるフォルト湖が小さくなり、平野が見渡せる小高い丘の上に並び、態勢を整えてレティーナ王妃の軍団を待つ。


「来たわね……」


 夜が明ける少し前、丘から見える平原が黒い大きな影に覆われていく。レティーナの軍団が近づいて来たのだ。リック達に気付いたのか、軍団の進軍が止まった。

 対峙する軍団は十万で、リック達は千人程ほどで戦力差は歴然としていた。大きな黒い影のレティーナの軍団が、一気に攻めてきたらあっという間に、飲み込まれそうな迫力にリックは怖気つきそうになる。

 徐々に夜が明けて優しく朝日に照らされ、大きな影しか見えなかった魔物集団の姿がはっきりとしてくる。

 リック達を狩ろうと綺麗に横に並んだ、血に飢えた大量のキラーサーベルウルフが見える。キラサーベルウルフの後ろには鎧に身を包んだオーク達がならんでいた。

 ところどころに体が大きく、チョロチョロ舌をだしリック達を瞳孔の開いた冷たく、感情のない目で見つめるギガントコブラと、大きな体のファイアタートルがいて、二つの上に毒々しい紫の爪を見せつけるポイズンキャットが乗っていた。

 そして軍団の中央に黒い禍々しい、大きな馬に乗った狼女になったレティーナの姿が見える。興奮してる魔物の軍団の鼻息が荒くなっていく。レティーナが命令をくだせば軍団は一気にリック達に襲いかかってくるだろう。


「さぁ! 我がしもべどもよ。あいつらを駆逐してやりなさい。進めーーーーー!!!!!!」


 レティーナが号令をかけると、魔物たちが進軍を始めた。最初はゆっくりとした進軍速度が、徐々に早くなっていく、黒い大きな波のような魔物の軍団がリック達を飲み込もうと迫って来る。

 エルザが前に出て剣を上空に向ける。リック達は全員武器を持ち彼女の顔を見つめた。


「いい!? レイクフォルトを守り通すわ! それが選ばれし(つわもの)の務め。栄光のグラントの白き騎士達よ。あなた達の一撃を醜い魔物どもにくらわせない! 闘志をたぎらせ! ここで死力を尽くすのよ!」

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」


 透き通るような声で味方を鼓舞するエルザ、馬に乗った千人の騎士が剣を空に掲げて叫ぶ。騎士達の雄たけびに、エルザが満足そうにうなずき、魔物の軍団を剣先で指す。

 

「弓隊! 前へ」


 小高い丘を一気に駆け登って来る軍団にむけて、騎士達が背中に背負っていたクロスボウで矢を放つ。矢が次々にキラーサーベルウルフに当たり、キャイーンという叫び声が響きわたった。

 敵は正面からの突破は難しいと考えたのか、矢の届かない位置までひいてリック達が陣取る丘を取り囲む。


「よし、計画通りね。敵の囲いが完了する前に薄いところを突破してレイクフォルトから引き離すわ」

「わかった。こっちだ」


 ロバートが指揮をし、丘の東側から下っていく。リック達はエルザを囲うようにして彼について行く。だが、魔物軍団がリック達の目の前をふさぐ。


「どきな!!! あたしの出番だよ!!!」

「えっ!?」

「「「「「「「「「「ウギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」


 大きな光の一閃が魔物軍団に向かっていき、魔物たちを串刺しにして突き進んでいった。魔物軍団に人一人分くらいの幅の陣形に細長い穴が開く。


「へへ、どうだい? 今ので一千くらいだね。あんたは?」

「なっなにを! 僕だって!」


 馬上で得意げにイーノフに笑顔を向けるメリッサだった。声をかけられたイーノフは悔しそうに前に出た。杖を持った右手の手首を左手てですかみ、イーノフは杖の先端についている宝石を魔物達に向けた。

 

「炎の精霊よ。我に力を! 炎大砲(ファイアキャノン)

「「「「「「「「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」


 イーノフの杖から、大きな火の玉が飛び出して、魔物軍団に一直線に向かって行く。魔物軍団を燃やしながら飛んだ火の玉は、軍団の中補で爆発し周囲の魔物達が消し炭へと変えていく。イーノフの魔法により、魔物軍団の隊列は大きな穴が開いたようになる。

 

「どうだい? 僕の今の魔法で千五百はいったね」

「いやぁ。多くて二百くらいだよ。あたしの勝ちだね」

「何を言ってんの? よく見てよ!? メリッサが明けた穴より大きいでしょ?」

「はぁ!? あんたこそ何言ってんだい? あたしのは軍団の端から端まで貫いてるだろ?」

「僕の魔法は横に大きく敵を崩した!」

「いいからあたしの勝ちだよ。昼飯を私によこしな」

「ダメだ、僕は負けてない。だったらもう一度だ!」


 勝手に二人でどっちが多く敵を倒したかの、競争をしはじめてその数の多さでもめているようだ。


「(あーあ、昼飯をかけたな…… 何やってるんですか…… まったく!)」


 大量の敵を前にしても、いつもと変わらない二人にリックは、呆れると同時に少しほっと安堵するのだった。リックの斜めに前にソフィアが馬を進めて振り返った。


「リック! 行きますよー!」

「えっ!? なに急に!? 待って」

「私の魔法で魔法剣つくってください」


 ソフィアが手を上空にかざすと、リックに向かって電撃魔法が放たれた。青白い光の稲妻がリックへと迫って来る。


「もう…… わかったよ」


 リックの刃が魔法があたって切れていく、半分くらい斬ったところ手首を返した。黒かったリックの剣の刀身が青白い光に包まれ白く見える。彼は電撃魔法を剣で受け止めて刀身に魔法をまとわせたのだ。これが彼の得意技の一つ他力魔法剣だ。


「ソフィア! これ作ってどうするの?」

「あの魔物さん達をやっつけてください」

「わかったよ……」


 ソフィアが目の前にいる魔物の軍団を指した。イーノフとメリッサの攻撃で魔物達は動揺しリック達を遠巻きに見ている。


「ほらよ!」


 リックは青白くなった魔法剣を、魔物の軍団に向かって水平に斬りつけるように動かした。青白く光り電撃魔法をまとった斬撃が、魔物の軍団に飛んで行く。斬撃は立ちふさがる、魔物軍団を次々に切り裂いていく。

 リックがはなった電源魔法の斬撃は、メリッサと同じく魔物たちの陣形を貫き、イーノフの魔法よりも横に大きく陣形に穴を開けていった。その様子をみてソフィアが大きく腕をあげて、勝ち誇った顔をしてメリッサ達の横に立って魔物達を指さした。


「見てください。私とリックが一番多くたおしたです! 二人とも私達にお昼ご飯を渡すです」


 左手を差し出しソフィアが、イーノフとメリッサに昼飯を渡すように要求する。


「(ソフィア…… もう…… お昼が多くほしくて二人の話を聞いて勝手に競争に参戦したな。そんなことに俺を勝手に使わないでくれよ……)」


 メリッサは魔物達を指すソフィアに向かって口を開く。


「はぁ!? 何をいってんだい! 二人で協力するのは反則だよ」

「そうだ! それなら僕とメリッサだって! 共同で……」

「二人の愛の共同作業が見えるです! やったです」

「「えっ!?」」


 馬上でイーノフとメリッサは顔を見合せ、頬を赤くし恥ずかしそうにして固まってしまった。ソフィアは早く早くと急かそうとしたが即座にリックが彼女の前に馬を走らせ止める。


「まったく…… ほんと呆れますわ。あなた達には……」


 リック達の横をエルザ達が、心底あきれた様子で走り抜けていった。リックがエルザ達が駆け抜けていくとメリッサに叫ぶ。


「えっ!? ちょっと! メリッサさん! エルザさん達を追いかけないと」

「えぇ!? ほら行くよ。イーノフ、リック、ソフィア!」


 エルザ達は第四防衛隊が開いた穴に突撃していってしまった。慌ててリック達は、エルザ達を追いかけていくのだった。

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