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第239話 王の資格

 エルザがリックに顔を向け、アレクから受け取った紙を彼に見せて来る。


「リックこれを見て」


 リックは紙を受け取って中身を確認する。どこかの本からアレクが抜いたのだろう、端の方が引きちぎったように破られていた。紙にはなにやら文字のような複雑な模様が書いてあり、模様の下にはインクがにじんでみえない個所もあるが、綺麗な文字で文章が書いてある。

 文章の内容は、”光の聖杯の力…… 素晴らしい! 式典で…… クリューバーの…… を奪い…… アレクを絶対に王にしてやる。エミ…… にする。アナスタシア…… させる” 文章が飛んで意味は分からないが、やはりレティーナは式典で何かを企んでいるようだった。


「エルザさん!? これって?」

「レティーナ王妃の日記かしらね。少し前の日付が紙の上に書いてあるわ」

「でも、これのどこがおもしろいんですか?」

「この模様みたいなのは、昔のグラント文字ね。意味は群衆の前で聖杯に高貴な者の血を注ぎ、王は威厳をしめせかしらね」

「えっ!? 聖杯に血をそそぎ威厳を示せって?」

「血をそそぎはそのままの意味ね。威厳を示せというのは注がれた偉人の血を飲むか浴びるか…… 多分…… 飲むのかしらね。はああああ」


 エルザはリックが、持っている紙を見ながら、大きくため息をついた。


「はっきりとは書かれてないけど、おそらく式典でクリューバーを襲ってその血を聖杯に注いでアレクに飲ませるのね。子供にそんなことさせるなんて、ほんと面白いわね……」

「げっ!? 血を飲ませるとか…… 面白くなんですけど……」

「ふふふ」


 エルザはリックに顔を向け複雑な表情で笑う。リックは紙をエルザに見せレイクフォルトの町を指さした。


「じゃあこれを持ってレティーナ王妃を捕まえに行きましょう!」

「ダメよ。クリューバーを襲うとはっきりと書かれてないでしょ。レティーナ王妃の投獄に失敗したらメモをとったのが誰だがすぐバレるわ。そしたらアレクが……」

「エルザさん……」

 

 メモは抽象的過ぎ確実な証拠ではない。レティーナ王妃を問い詰め、自白に追い込めれば良いが、シラを切られればそれまでだ。罪の確定してない王族にロバートの尋問も使えるわけもなく、証拠のメモがレティーナの目に触れれば、すぐにアレクが盗みだしたことは彼女に気づかれるだろう。

そうなればアレクの身が危ない。エルザはアレク王子に危険が及ばないようにしたいのだ。


「はぁぁ。もうアレクったら…… 日記なんか破いたら…… バレちゃうでしょ…… でも、ありがとう……」


 ブツブツ言いいながらエルザは、右手をリックに差し出し、アレクが持ってきた紙を受け取って大事にしまう。さっきアレクを心配していたエルザの顔は笑顔…… を通りこしてなんかいやらしく笑う。


「でも、お姉ちゃんばっかりじゃなくて、ちゃんと他の男の子も大事にするのよ…… フヒヒ」


 にやにやと笑うエルザにリックは首を横に振った。


「(だから…… せっかく異母弟を心配してやさしいなって思ってた、俺の気持ちをすぐに無駄にするのやめてくれませんか。すこし見直したのに…… まったく…… でも……)」


 紙をしまったエルザはベンチに座って、残っていた牢獄プリンを食べる。リックは立ったままエルザに尋ねる。


「レティーナ王妃はどうしてもアレク王子を王にしたいんですね……」

「うっうん…… ローザリアから来た妃ってことでね…… 結婚したころは貴族や王族から執拗にいびられたらしいわ。だから自分の息子を王にして見返したいんでしょう」

「そうなんですか。それは確かにかわいそうですけどだからって……」

「そうね。グラント王国は彼女の見返す道具じゃないのよ。国民がいてみんな生きてるんだから」


 ベンチに座ったまま大きく背伸びをした、エルザはリックに顔を向け明るく微笑むのだった。夜が明け始めて柔らかい朝日を浴びた、彼女の顔は少し赤く綺麗に輝いていた。

 

「さぁ。リック! 持ち場に戻りなさい。それと警備が終わったら第四防衛隊のみんなを昨日の会議室に呼んでくれるかしら?」

「わかりました」


 元気な声でリックに指示をだすエルザ。リックはエルザさんと分かれて、引き続き王家の墓の前での警備へと戻った。警備が終わり、防衛隊の詰め所に戻ったリックとソフィアは、エルザに言われたとおりに昨日の会議室に第四防衛隊は全員を集めた。

 リック達が集合した、直後にエルザとロバートがやってきて、警備の時にリックがみたレティーナ王妃の日記の内容が説明される。式典でレティーナ王妃達から、クリューバー隊長が襲われる、可能性があることをロバートがみんなに話す。話を聞いてメリッサさんが、難しい顔をして考え込んでから口を開いた。


「で? どうするんだい? 式典を中止にするのかい?」

「いや…… クリューバー隊長とはさきほど話して了承をえましたわ。式典でレティーナ王妃を逮捕します」

「わかった…… でも王妃を逮捕となると大変だね」

「おや? 珍しく弱気だね。メリッサ。僕達の任務が大変じゃなかったことなんかあるのかい?」

「ははは、そうだね。いつもこんなもんか!」


 イーノフと話ながらメリッサが豪快に笑ってる。いつもこんなもんかとか笑うメリッサ達に、エルザとロバートは苦笑いをしていた。


「じゃあ、みんな…… やるよ。配置を決めるからね」

「はい」


 笑顔から急に真面目な顔して、小島の地図をみながら、メリッサがリック達の配置を決める。

 会議が終わりリック達は式典が、行われる王家の墓のある小島へと向かった。昼も近くなってなり、早朝で準備中だった屋台も、ほとんど営業を始めて人が多くにぎわいだした。

 王家の墓の前には式典用に舞台が用意され、舞台の上には台が置かれ、王族用の豪華な椅子もいくつも並んでいた。ロバートとエルザとメリッサの三人は舞台の前のすぐ下にしゃがんで待機して、ゴーンライトとイーノフは舞台の袖に待機する。リックとソフィアとポロンは式典会場を見渡せるように入口付近で待機していた。

 リック達が配置についてすぐにエミリオとレティーナ王妃が現れた。二人は昨日、王家の墓の宝物庫から出していた光の聖杯を、舞台の上に台に置く。

 式典会場は椅子が縦に八列で横に十席ずつならんでいる。横の椅子は五席ずつで別れて、歩いて通れるように真ん中が広く開いいた。式典の時間が近づくと人が集まり始めて、あっという間に席が埋まっていく。アレクも到着し舞台の前に用意された椅子にレティーナ王妃と並んで座る。舞台にはエミリオだけが立ち主役の到着を待っていた。


「クリューバー隊長が来ましたよ」


 ソフィアが小島の桟橋を指さして答えた。小島に上陸したクリューバーがゆっくりと舞台へと歩いて行く。

 町の人たちは立ち上がり、大きな拍手でクリューバーを迎える。


「お疲れ様! クリューバー!」

「ありがとう!」


 舞台へ向かうクリューバーに町の人たちが声をかけねぎらう。クリューバーは左右を見ながら笑顔で手を振って歩く。

 式典が始まり、司会がクリューバーの経歴を読み上げていく。式典はクリューバーからエミリオから引継ぎとして、クリューバーの剣をエミリオに渡すことになっている。

 

「では、クリューバー隊長より、新隊長エミリオへの引継ぎをお願いします」


 司会が舞台の中央を手で指した。部隊の中央に立っていたエミリオが膝をついた。クリューバーがエミリオの向かい合うようにして、舞台の中央に向かって行く。クリューバー隊長が腰にさしていた剣を外して、両手の手のひらの上に乗せ、一歩ずつ歩いて行く。エミリオは膝をついてほほ笑んでクリューバー隊長を待っている、彼は防衛隊の緑の制服を着て護身用の短剣を腰にさしているのが見える。


「危ない!」


 エミリオがニヤッと笑って素早く短剣を抜いてクリューバーを刺した。


「「「キャアアアアアアアア!!!」」」

「「「うわあああ!!!」」」


 エミリオの行動に会場が騒然となっていく。すぐにレティーナとアレク以外の王族は席を立って会場の外へ走っていく。


「なっ!? 老いぼれ…… 貴様」

「ははは…… ワシも舐められたもんじゃ」


 エミリオの短剣をクリューバーは、鞘にはいったままの剣で受け止めていた。悔しそうにするエミリオにクリューバーは笑う。


「小僧…… 笑顔で隠しても貴様の殺気くらいはわかるぞ…… 観光客に紛れてお主みたいなのがよくるんじゃよ。ここはな」

「チィ! ぐはぁ!」


 クリューバーがエミリオ短剣を払いのけると、彼の腹を鞘の先端でつく。腹を押さえてエミリオは、前かがみに膝をついた。町のみんなは歓声をあげた。


「ふぅ…… さて、メリッサ、エルザ殿、こやつの逮捕を願います。みんな! すまんがわしを斬りつけるような奴の新隊長就任はさせん。式典は中止じゃ避難をしてくれ!」


 クリューバーに言われて町の人達が、ビーエルナイツとレイクフォルトの兵士達に誘導され、避難を開始する。貫禄のあるクリューバーの言葉に混乱することなく、町の人間は式典会場から出ていく。


「お待ちなさい! みんなここに残るのです」

「お母様…… やめてください。僕…… 怖いよ!」

「いいから来なさい。アレク!」

「レティーナ王妃…… あなた何をしてるかわかってるの?」

「うるさい! いいからどきなさない!」


 アレク王子の首にナイフを突きつけて、レティーナが壇上の真ん中に出てきた。飛び出して、レティーナを逮捕しようとしていた、メリッサ達は手をだせずに見送っている。

 メリッサがリックに視線を向けた。リックは小さくうなずいて右手を上げる。彼の横には弓をつがえてソフィアが構えていた。


「ソフィア。レティーナ王妃の腕だけを狙える?」

「大丈夫です。問題ありません」

「わかった。合図したらお願いね」

「よし。ポロンはメリッサさんの近くに行って、ソフィアが弓を放ったらあの男の子を捕まえて!」

「わかったのだ」


 ポロンが人ごみをかき分け、メリッサの元へと向かう。メリッサはポロンが到着するとリックに振り返り再びうなずいた。右手を下しはソフィアに合図を送った。


「ソフィア! お願い」

「はい」


 引き絞った弦を離し、ソフィアが矢をレティーナ王妃に向け放った。空気を切り裂き音を立て矢は、一直線にレティーナ王妃の短剣を、持った右手へと伸びていく。


「はっ!!!」

「ひっ!」

「おわ!? なっなんじゃ」

「えっ!? クソ! 魔法障壁か!?」


 アレクから手をはなし、レティーナは左手を前に向けた。彼女は魔法障壁を舞台に展開した、ソフィアの矢は障壁によって弾かれた。舞台にいたクリューバーだけが、魔法障壁が展開されると同時に弾かれ追い出された。


「フフフ。あなた達の噂は聞いてますのよ。第四防衛隊……」


 笑いながらリックに達を順に確認するように見るレティーナ。アレク王子はレティーナ王妃の足元に尻もちをついている。槍を出してメリッサが魔法障壁前に立った。


「あたし達のことを知ってるのかい。王妃様がご存知とは光栄だね。それであんたの狙いはなんだい?」

「もちろん狙いはアレクが王の資格をえること、そしてもう一つは邪魔なビーエルナイツとあなた達に消えてもらうことですわ」

「一人であたし達とやるのかい?」

「おほほほ…… 光の聖杯より王の資格を与えれし者は最強の軍団を手に入れますのよ」

「なっなんだって!?」

「ビーエルナイツと第四防衛隊を一緒に殲滅する。だから、あなた達をおびき寄せたんですわ。王都やスノーウォール砦ではなく大規模軍団の展開しづらいここにね」

「おびき寄せただって!?」

「そう…… あなた達にエミリオの名前を聞かせれば出てくると思ったんですわ」

 

 レティーナ王妃がポケットから瓶をだしてリック達に見えるように持ってる。瓶はイーノフがエミリオの魂を閉じ込めていた瓶だった。地下研究所でエミリオの魂を、奪ったのはレティーナで彼女が、エミリオの魂を新たな肉体に定着したのだった。


「イーノフ! あんた! 邪魔なこれをどかしな」

「わかった! どいてメリッサ!」


 壇上の袖からイーノフが駆けてくる。前かがみに膝をつき、倒れていたエミリオを、レティーナは蹴り上げて仰向けに転がせた。アレクは壇上の中央で怖いの泣きそうな顔で座っていた。アレクは腰が抜けて立てないようだった。


「本当はクリューバーの血が欲しいところですが…… エミリオ! あなたが生贄となりなさい」

「はっ!? なんで俺が? 俺はリックに復讐ができるからお前に……」

「チッ! 生贄にな・り・な・さ・い……」


 エミリオの髪をつかんで、レティーナが無理矢理エミリオの顔を彼女の方にむけた。レティーナ王妃の目が怪しく赤く光る、ジックザイルが使っていた幻惑魔法で、エミリオに赤い光が移って彼はうつろな表情に変わる。

 

「はい…… 王妃様!」

「いい子よ。そう最初から素直になりなさいね」


 壇上の台の上においてあった、光の聖杯を床にき、エミリオが自分の左手首を斬りつけた。ダラダラと血を垂らす左手首を、エミリオは光の聖杯に上に持ってきて血を聖杯へと注いでいる。エミリオは幻惑魔法のせいで、恍惚な表情を浮かべてアレクを見つめていた。

 アレクは恐怖に顔が引きつり腰を抜かし、尻もちをついたまま手を使って必死に後ずさりをする。


「エミリオ!? 君は一体何をしてるんだ。やめるんだ」


 イーノフが叫んでエミリオは反応をせず、ずっと左手から出た血を光の聖杯へと注ぎこんでいた。


「クソ!」


 怖い顔をしたイーノフが魔法障壁に向かって杖を向ける。彼の杖の先から赤い火の玉が、魔法障壁に飛んでいき障壁にひびが入る。


「もう遅いですわ…… 生贄を二重に用意しといてよかったですわ」


 光の聖杯が、エミリオの血で満たされると、彼は仰向けに倒れた。うっすら笑いながら光の聖杯を拾った、レティーナはアレクのもとへと行きしゃがんで声をかけた。イーノフは必死に魔法をはなって障壁を破壊しようと試みている。

 

「さぁ! アレクこれを飲むのです」


 笑顔で光の聖杯をアレクにむけるレティーナ、腰を抜かしたまま顔をあげて震えて首を横にふるアレク。


「いやあ…… お母様! もうやめて! 僕…… 王様になんかならない」

「なっ!? アレク! あなたは王になるのよ」

 

 髪をつかんで無理矢理上を向かされるアレク。だが、アレクは口を必死に閉じ血を飲もうとしなかった。


「やめて…… お母様…… 僕は姉上のこと……」

「そう…… じゃあ。あんたなんか…… いらないわ……」


 涙を流して訴えるアレクを、ジッとみつめるレティーナはあきらめたような表情になり、目から光が消え感情が消えていく。


「えっ!? おっお母様!?」


 レティーナは乱暴にアレクから手を離し、ゆっくりと光の聖杯を持って立ち上がった。直後にイーノフの魔法がレティーナ王妃の魔法障壁を破壊した。


「もう終わりよ。レティーナ王妃!」

「みんな! レティーナ王妃を取り押さえろ!」

 

 エルザが叫びながら、魔法障壁のなくなった舞台に駆け上がり、リック達はレティーナ王妃にむけて突撃した。


「フッ…… ははははは! わたし…… なんだったのよ…… 王の母になって…… 馬鹿にしたやつらを…… もう嫌だ……」


 舞台の上で振り向きリック達の方を向いてレティーナは大きな声で笑う。


「そうだわ。グラント王国なんていらないじゃない! 私が王になれば…… ふふふふ! はははははははははは!!!!! はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!!!」


 リック達を見て笑いながら、光の聖杯を口に当ててレティーナは、注がれたエミリオの血を一気に飲み干した。

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