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第238話 異母姉弟

 少しの間の沈黙の後、最初にメリッサが口を開いてエルザに尋ねる。


「光の聖杯なんか使ってどうするつもりだい? あれは確かケガの治療をするためのものだろう?」

「みなさんが知ってる光の聖杯は、正しい使い方をすればどんな怪我でも治し永遠に近い命を手にいれられるというものでしょう……」

「違うのかい? ケガの治療以外に何かつかえるのかい?」

「えっと…… ロバート、お願い」

「はっ!」


 エルザがロバートを呼んだ。彼は手に持っていた、表紙が赤茶色の古い本を開き、中を見ながら話を始めた。

 

「これはグラント王国の歴史書だ。これによるとグラント王国の王家には、光の聖杯の役割が三つ伝わっている」

「光の聖杯の三つの役割? なんだいそれは?」

「一つ目はさっきエルザがいった正しい方法で使い治癒をする役割、二つ目はよくわからんが四つの聖なる力を使って、封印の土地に邪悪なものを封印する役割…… もう一つ所有者たるものに王たる資格をえるという役割だ」


 ロバートは左手で本を持ち、右手の指をリック達に見えるように、一本ずつ立てて説明する。光の聖杯は傷を癒す以外にも様々なことができるようだ。メリッサが不思議な顔でロバートさんを見てる。


「でも、なんで三つの役割のうち二つは隠されてきたんだい?」

「それは多分、封印についてはいたずらに人々に恐怖を与えて混乱させないようにだよ。王の資格については王族以外の者の野望に使われないためだろう」

「さすがだな。ほぼイーノフの言う通りだ」


 イーノフがメリッサさんに説明して、イーノフの的確な言葉に、ロバートが感心し同意する。そしてロバートがイーノフに感心する様子を。なぜかニタニタした顔でエルザが見ていた。王の資格と聞いてジャイルを匿っていた、ヴィーセルが反乱を企てていたことを思い出したリックが口を開く。

 

「まさか!? ヴィーセルがジャイルの光の聖杯探しに協力的だったのは、三つ目の役割で自分がグラント王国の国王になろうとしてたからってことですか?」

「そうでしょうね。ヴィーセルがジャイルの光の聖杯探しに協力的で、ジャイルの研究資料を自分で読んだりもしてたみたいだしね」

「じゃあ、レティーナ王妃も同じ?」

「そこまではわからないけど…… でも、レティーナ王妃はどこも怪我はしてないし、邪悪な物を閉じ込める必要はないでしょうね。だったら王として君臨するか…… もしくは誰かに王の資格を与えたいか……」


 エルザは少し下を向いて複雑な表情をしている。はっきりと言わないエルザだが、リックは彼女がレティーナ王妃は王の資格を、アレクに与えようとしていると予想していることを察した。


「でも、これで…… 王家の墓の式典で何かを仕掛けてくる可能性が高いって訳だね」

「そうですわね。第四防衛隊のみなさんには悪いけど、これから明日の式典が終わるまで私達と一緒に小島の警備をお願いします」

「わかったよ。じゃあ、交代で仮眠を取りながらだね」


 メリッサが笑顔で大きく頷いた会議室での打ち合わせを終えた。リック達はエルザの指示通りに、王家の墓のある小島の警備を行う。日付が変わり、しばらくしてもうすぐ夜明けという頃、リックが防衛隊の詰め所で仮眠を取っていると誰かから声をかけられた。


「リック、ソフィア! 起きな。時間だよ」

「時間なのだ!」


 メリッサさんとポロンがリックの体をゆすって起こす。リックは体を起こして二人に手をあげて挨拶をした。


「ありがとうございます。ほらソフィア、起きて!」

「ふぇ!?」


 体を起こしたリックは、隣で寝ているソフィアの体に手を伸ばし、ゆすると彼女も目覚める。あくびをしながらソフィアは、体を起こし、サイドテーブルに置いてある自分の眼鏡を取ってかけた。赤い綺麗な目をこすってるソフィアの姿が、かわいくリックは思わず顔がゆるむ。


「なんで!? 二段ベッドで一つのところに二人で寝てるのだ?」

「えっと…… それは…… ソフィアが……」

「上は高くて怖いですからね」

「おかしいのだ? ソフィアはいつも高いところ平気なのだよ?」


 首をかしげてリック達にポロンが迫って来た。もちろん、真相は一緒に寝ようと、無理矢理ソフィアが下の段に潜り込んできただけだ。追及されてソフィアは、恥ずかしそうに顔を赤くする。メリッサはソフィアの顔を見つめ、少しあきれた顔してポロンに頭を撫でて声をかけた。


「じゃあ、あんたは一人で上の段で寝るかい?」

「ポロンは平気なのだ……」

「本当?」

「でも、メリッサが寝てほしいなら一緒に寝るのだ」

「はは、わかったよ」


 朝までリック達は交代で、退任式の式典が行われる、王家の墓がある小島の警備を担当していた。警備は二人一組で、ゴーンライトとイーノフ、メリッサとポロン、リックとソフィアの順だった。


「えっ!? 何ですか?」

「いいから手をだしな」


 ポロンを抱っこして、二段ベッドの上にて乗せた、メリッサが振り返りおもむろに手を出し、リックにも手を出すよう言って来た。

 

「これは……」


 メリッサはリックに金貨袋を渡した。急に金を渡されて驚くリックに笑顔でメリッサ口を開く。


「途中でなんか差し入れを買って持ってきな」

「差し入れ? 誰にですか?」

「行けばわかるよ。ちゃんと女の子が気に入るもん買うんだよ。ソフィア! よろしくね」

「わかりました」


 首をかしげるリック、女性が気に入る物とメリッサの言付けから、一緒に警備するビーエルナイツへの物だろう。だが、今まで差し入れをしたことなどなかった。

 リックとソフィアと詰め所から町にでて、王家の墓のある小島へと向かう。町の外は夜明け前だというのに人がでていて、屋台の準備をしたり町を飾りつけたりして退任式に向けての準備をしている。


「リック! あれをみてください!」

「えぇ!? あれは…… 牢獄プリンか!? あっちは監獄串焼き屋台だし…… 終身刑パフェや窃盗肉ドッグまであるぞ!?」


 ソフィアが指さした方向に視線を向けると、ローズガーデンの名物料理の屋台が並んでいてリックは驚いた。


「きっとブリジットさんが出店させたんですかね。前に名物を売り込みたいって言ってましたしね」

「だろうね。すごいね」

「そうだ! メリッサさんに頼まれた差し入れは牢獄プリンにしましょう」

「えぇ!? まだ準備中じゃない?」

「大丈夫ですよ。人が居れば売ってくれるものですよ。すいませーん!」

「そっそうなの!?」


 嬉しそうにソフィアが屋台の人に、声をかけて牢獄プリンを買っていた。


「こら! 差し入れなのに自分が歩きながら食べようとしないの……」

「えへへ」


 王家の墓のある小島でも、昨日はなかった横断幕や屋台が準備され、作業してる人が何人もいた。


「あれは……」


 王家の墓の入り口で、騎士達にエルザさんが指示をだしていた。リックはエルザに近づいて声をかける。


「エルザさん。王家の墓に何か?」

「あぁ、リック…… 昼間、レティーナ王妃達が何かを仕掛けてないから探してるのよ…… はわぁぁ」


 大きな口を開けてあくびをして眠そうな顔をする。大きなあくびをした後に、エルザさんは手を上に伸ばし、背伸びをしてうーんと唸る。よく見ると彼女の目の下にはクマが出来ていた。


「まさか…… 会議から今まで夜通し調査してたんですか!?」

「当たり前よ。見なさい…… 今日のクリューバー隊長の退任式をみんなが楽しみにしてるのよ。何も起こさせやしないんだから……」

「エルザさん……」

「さっ! まだまだ行くわよー! ロバートちょっと!」


 エルザが王家の墓の入り口へ向かう、半地下の階段に顔を覗かせてロバートを呼んだ。しかし……


「あっあぶない! 大丈夫ですか?」

 

 ふらついて倒れそうになったエルザ、リックが慌てて肩を掴んで支えた。

 

「リック…… 大丈夫よ」

「ダメですよ。ロバートさん!」


 エルザがリックの手をつかみはなそうとした彼はすぐにロバートを呼んだ。王家の墓の入り口で、作業をしていたロバートが振り返り、リック達の姿をみて慌てて階段をあがってきた。ロバートはリックと代わってエルザの肩をだき彼女に話しかける。


「エルザ。君はいいから少し寝なさい」

「大丈夫よ…… まだできるわ」

「ダメだ!! もう調査も終わる。後は私たちに任せなさい」

「ロバート…… わかった。少しだけね」

 

 渋々という感じでエルザはロバートに頷く。安心した顔をした、ロバートがリックへ顔を向ける。


「リック。すまんがエルザをどこか静かな場所に連れて行ってやってくれ」

「わかりました」


 リックはエルザを以前の警備の時に、つかった近くのベンチに連れ行き座らせた。ここなら王家の墓の外で作業をしている騎士達や警備につくリック達からもエルザの姿は見える。

 ソフィアが魔法道具箱から敷物をだしベンチに敷き、エルザが横になれるようにした。リックはエルザをベンチに座らせた。エルザはリックとソフィアを見て申し訳なさそうにする。


「リック、ソフィア…… ごめんなさい」

「大丈夫ですよ。あっあと、これ! メリッサさんから」

 

 リックは牢獄プリンが入った箱を渡す。箱の中には牢獄プリン五個入ってる。ちなみに本来は六個入りなのだが、ソフィアの分はすでに取のぞいてあった。


「何これ!?」

「ふぇぇぇ、牢獄プリンですよ。甘くて滑らかな舌触りで絶品です」

「ありがとう…… 後でいただくわ」


 そう言うとエルザは牢獄プリンの箱をベンチの端に置いて横になった。


「(もう…… ソフィア! 渡した牢獄プリンをジーとみつめないの! ソフィアのは取ってあるでしょ!? 余ったらもらいなさいね……)」


 ジッとエルザが置いた牢獄プリン箱をソフィアが見つめている。リックはソフィアの背中を押して持ち場へと戻るのだった。リックとソフィアの持ち場は、以前に門番をしたとき同じ場所で、王家の墓の入り口へと向かう階段の前だった。

 リックは門番をしながらエルザのことを気にかけていた。


「うん!? ソフィア! 悪い。ちょっとここをお願い」

「はい」


 ベンチに横になっている、エルザに後ろから誰か近づいてきた。リックは警備をソフィアに任せ、剣に手をかけてエルザのもとへと向かう。


「あなたは? 一人で来たの?」

「はっはい…… 姉上……」


 立ち上がりベンチの後ろに回ったエルザが、リックに背を向け誰かとしゃべっている。しゃべりかけてのはあまり大きくない人間で、リックからはエルザの姿は見えても誰からは見えなかった。リックは背後からエルザに声をかける。


「エルザさん? 大丈夫ですか? 誰かいるんですか?」

「あぁ。大丈夫よ」

「エルザさんこの人は?」

「あぁ、この人はリック。兵士で私のお友達よ」


 リックが近づくとエルザの背中越しに、小さい綺麗な顔立ちの男の子立っているのだ見える。


「あなたは…… アレク王子!?」

「はい。アレキサンダー・ロマノフ・グラントと言います。よろしくお願いします」


 ペコリと頭を下げるアレク、顔をあげると笑顔でつぶらな瞳で、エルザの手を握りに背中に隠れた。リックが怖いのか、背中に各荒れ田アレク王子は震えていた。優しくアレク王子の手をエルザが握り返すと嬉しそうにほほ笑む。


「姉上…… じゃない! エルザさん……」

「あっ! アレク。この人は私のこと知ってるからここでなら大丈夫だよ」

「そうなの? よかった。姉上! 実はお母様が……」

「レティーナ王妃がどうしたの?」

「これを……」


 アレク王子が一枚の紙をポケットから取り出した。ポケットにいれる時にうまく折れなかったのだろう。紙はクシャクシャになっていた。丁寧に伸ばして紙に目をやるエルザが驚いた顔をした。


「これは!? アレクこれを一体どうやって?」

「それお母様のなの…… 僕…… 字は少ししか読めないし意味が分からないけど…… でも、なんかその紙が怖くて…… お母様、最近ずっと怖い顔してるしてるし…… だからお母様の机から……」

「アレク…… 大丈夫よ。ありがとう。お姉ちゃんがなんとかするからね」


 エルザがアレクの王子の頭を優しく撫でると、安心したのかアレクは涙を流し泣き始めた。


「もう…… 泣かないの! 男の子でしょ? それにあなたは王子なのよ?」

「うっうっ…… ヒック…… でも…… でも……」


 泣いてるアレクを、しゃがんだエルザが、笑顔でやさしく抱きしめていた。抱かれていたアレクが、ベンチの置いてあった牢獄プリンに気づく。


「姉上…… あれ!?」

「うん!? あぁ! いいよ。これ食べな」

「なっなんですか? それ?」

「へへ。牢獄プリンって言うんだよ」


 自慢気にエルザさんが牢獄プリンの箱を開けると、アレクは箱の中を覗き込んで驚いた顔をする。ベンチに並んで座り、牢獄プリンを二人でうれしそうに食べていた。リックは王位継承を争っていると、聞いていたアレクとエルザが、親しくしているのが意外だった。


「さぁ。これを食べたら帰りなさいね」

「うん、ありがとう。姉上!」


 アレクがうなずくと、エルザは近く女性騎士のところに駆けていき、アレクについて行くように指示を出した。戻っていくアレクをエルザは優しい瞳で見つめていた。リックはエルんの横に立って彼女に声をかける。


「エルザさんは優しいんですね」

「はぁ!? そんなんじゃないわよ。本当は私よりももっと男の子たちと遊んでほしいわ」

「えっ!?」

「だって、アレクはあの美貌でしょ…… 将来は男友達ができる…… ぐへへ……」


 にやりと笑いアレクの背中を、いやらしい顔で見つめるエルザ。


「(はぁ…… またへんなこと言ってるよ。この人…… ほら! まだよだれが…… せっかくほめたのに台無しですよ! うわ! あっあの!? 急にまじめな顔してアレク王子が持ってきた紙をみるのやめてくださいよ。ビックリするじゃないですか!?)」


 アレクが持って来た紙を下してエルザは小さくうなずく。


「ふーん。レティーナ王妃も面白いことを考えてるわね」


 エルザは対岸に見える、レイクフォルトの町を見て笑ってつぶやくのだった。

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