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第236話 引き継げない未来

「ポーションと王家に墓に入るかもだから…… 松明もいるかな。後は……」


 リックはつぶやきながら、自分の机で遠出の準備をしていた。彼の隣でポロンが道具袋の口を広げて、ソフィアに見せて忘れ物がないか確認してもらっている。


「レイクフォルトって、この間いった大きい湖のところなのだ?」

「そうですよ」

「もう暑くなったから湖で泳ぐのだ!」

「ダメですよ」

「なんでなのだ? この間はメリッサから寒いから泳いじゃだめって言われたのだ。だから暑くなったらいいのだ!」

「違いますよ。メリッサさんは任務で来てるし寒いからダメだって言ってたですよ」


 アンダースノー村でアイリスの協力を得て手に入れた光の聖杯を、ビーエルナイツが王家の墓に届けに行った際に、第四防衛隊は護衛として同行した。その時にポロンがフォルト湖で泳ぐと言ってメリッサさんに怒られたのだ。ソフィアの言葉にリックがうなずいてポロンに彼も注意をする。


「うん。そうだよ。遊びに行くんじゃないんだからね。それにポロンはちゃんと体を拭かないから暑くても風邪ひくよ」

「えぇ。リックの言う通りですね。ちゃんと拭けるようになるまで泳いじゃいけません」

「ちぇなのだ!!!」


 口をとがらせて不服そうに腕を組むポロンだった。リックとソフィアは互いに顔を見合せて笑うのだった。

 準備が終わったリック達は詰め所から、テレポートボールでレイクフォルトへと向かった。三人はレイクフォルトの少し手前の街道に立っている。


「ほぇ。やっぱり綺麗なところなのだ」

「そうですね」

「ほんといつきても綺麗でのどかな町だな」


 街道の先にフォルト湖の半島につきだしてレイクフォルトの街並みがわずかに見える。レイクフォルトは半島の高さに合わせ、白い壁でオレンジの屋根でほぼ統一された家が、いくつにも上下に重なっている。フォルト湖は王都周辺に広がる平原の南端にあり、レイクフォルトの町は、フォルト湖に平原側に位置し、対岸には岩ばっかり荒野が広がっている。町のおもな産業は漁業と観光で、南の砂漠の国々と王都グラディアを行き来する旅人や商人の宿場町としても栄えていた。王家の墓はレイクフォルトがある半島の先の小島にある。

 町の入り口からリック達は、防衛隊の詰め所まで歩く。レイクフォルトの防衛隊の詰め所は街の外れの半島の一番高いところにある。湖からは一番遠いが町の入口が近くて町を見下ろせる場所だ。ちなみにレイクフォルトの詰め所は、リック達の小さい平屋に比べると悲しくなるくらい、綺麗な白い壁のオレンジの屋根をした五階建ての立派な詰め所だ。

 建物に入るとガラス張りで町が一望できる綺麗な空間に柔らかそうなソファと立派なテーブルが置かれ、他にも高そうな壺や絵が飾られてるロビーがリック達を迎えてくれた。

 窓の近くでメリッサが外の景色を見ながら立っているのが見えた。ポロンがメリッサを見つけ嬉しそうに走っていく。


「あっ! メリッサなのだ!」


 ポロンの声を聞き振り返ったメリッサは、彼女を見つけると笑顔でしゃがんだ。ポロンが近づくとメリッサは笑顔で彼女の頭を撫でる。続いてリックとソフィア駆け寄ると、少し恥ずかしそうに、ポロンを撫でるのをやめ立ち上がり、視線をリック達にメリッサは向けるのだった。


「リック達も来たね。お疲れ様、話は隊長から聞いてるね?」

「はい」


 返事をしリックは頷く。ソフィアが彼の後に続いて口を開く。

 

「クリューバー隊長さんの退任式の警備と…… 新しい隊長さんの就任式ですね」

「新しい隊長がエミリオって以外は特に問題ない式典なんだけどね……」


 真剣な表情でメリッサが窓の外を見つめる。彼女言う通りだ、新隊長がエミリオということがなければ、ただの退任式と就任式で第四防衛隊が出動することはなかっただろう。リックはイーノフとゴーンライトが居ないことに気付きメリッサに尋ねる。


「あのゴーンライトさんとイーノフさんは?」

「二人ならエルザ達を連れて式典の下見をしてるよ。あたしはあんた達が来るのをここで待ってたんだよ」

「えっ!? エルザさん達も来てるんですか?」

「当たり前だろ? 王族が来るんだから警備の主体はビーエルナイツだよ。さぁ、あんた達はクリューバー隊長に挨拶してきな。会いたがってたよ」

「リック。行きましょう」

「そうだね」


 リック達三人はクリューバー隊長に会いにいく。


「えっと…… レイクフォルトの防衛隊の部屋は確か二階だよな……」


 吹き抜けになっているロビーの階段を二階の奥の部屋に進むと、防衛隊と書いて重厚な両開きの扉にがあり、リックは扉をノックして開けた。扉の中は広さは違うが、第四防衛隊の詰め所と変わらず。机が十程置いてあり、奥には二段ベッドがそして倉庫代わりに宝箱が置かれている。

 クリューバーの机は詰め所の一番奥だった。


「あっ! いたいた!:


 詰め所の一番奥で緑の服を着た、白髪の人間が窓の外を眺めていた。


「こんにちは、クリューバー隊長!」

「こんにちはです」

「来たのだ!」

「おぉ! リックにソフィアにポロン、三人ともよく来てくれたね」


 リックが声をかけるとクリューバーは振り向き、嬉しそうにほほ笑んで手を出してきた。しわくちゃで少しゴツゴツした手とリックと握手した。

 笑顔でリックと握手をしたクリューバーは、次にソフィアとさらに中腰になり、ポロンとも優しく微笑んで握手した。


「今までお疲れ様でした」

「おいおい。まだ退任式が終わっても勤務は残ってるんじゃぞ? すぐに引退させんでくれ!」

「すいません。でも、まだ元気そうなのに退役されるなんて……」

「はははっ。わしはこの町を守ってもう五十年じゃぞ? そろそろ若い者に引き継ぐべきじゃよ」


 五十年と町を守ったと少し自慢げで、少し寂しそうにクリューバーが、リックの言葉に答えていた。五十年という月日を聞いて、自分はまだまだとリックは気を引き締め、目の前の先輩を尊敬のまなざしで見つめるのだった。


「じゃがのう……」

 

 心配そうにクリューバーが窓の外みて町の様子をみて黙った。

 

「何か気になることでも?」

「わしを引き継ぐ新隊長のことじゃよ……」

「エミリオですか?」

「そうじゃ。わしの後任に以前おぬし達ともめたあの下衆な勇者なのはというのはおかしいじゃろ? しかもあいつはリンガード王国で黒鋼の森で死んだはずじゃ……」


 エミリオは公式では王家の墓で魔王軍にさらわれ、無理矢理魔物に改造されてリンガード王国で、勇者アイリスに討伐されて死んだことになってる。クリューバーは窓に映る町を見ながら話を続ける。

 

「何か悪いことが起こるんじゃないかと心配でな。だから後任の名前を聞いて、すぐにビーエルナイツとお主たちの隊長のカルロスに相談したんじゃ」


 今回の依頼人はクリューバー本人からだった。リックはエミリオの魂を持ち去ったあのフードの人間が裏で動いているのだろうと推測する。防衛隊の隊長をエルザ達に黙って決められる人間など王族の人しかいない。また、クリューバーは町の様子をみて悲しそうな表情をしていた。


「わしの退任式はどうなっても構わん…… じゃがずっと守ってきたこの町が……」


 つぶやきながらクリューバーは心配そうに窓の外の町を眺めていた。リックはクリューバー隊長の肩に手をかけ、振り向いた彼に笑顔を向ける。

 

「わかりました。大丈夫ですよ。何もさせません。その為に俺達が来たんですから!」

「そうなのだ! ポロンが悪い奴やっつけるのだ!」

「そうですよ。私達にまかせてください」


 笑顔のリックにクリューバーは、一瞬だけ驚いた表情をしてすぐに笑顔になった。


「フッ。そうじゃな。ありがとう! リック、ソフィア、ポロン、この町を頼んだぞ」

「わかったのだ!」


 ポロンが元気よく答えると、クリューバー隊長は嬉しそうに彼女の頭を撫でていた。挨拶が終わり、リック達はメリッサの元へと戻ろうと振り返った。クリューバーは歩き出そうとするリックに声をかける。


「リック…… お主…… 良い顔になったな」

「あっ、ありがとうございます」


 振り向いて笑顔で礼をいうリックだった。長年兵士として町を守って来た、クリューバーに褒めらえたリックは嬉しくて思わずにやける。リックがにやにやと部屋から出て、廊下を歩いていたらソフィアが顔を覗き込んできた。

 

「リックが嬉しそうです」

「そうかな?」

「ほんとうなのだ!? ゆるゆるな顔してるのだ」

「うん。なんかクリューバー隊長に褒められたのがうれしくてね」

「みんないつもリックをほめてますよ?」

「そうなのだ! リックのすごさはみんなしってるのだ」


 確かにみんなリックのこと認めてくれるけど、彼にとってクリューバーに褒めらえたのは少し違う。第四防衛隊の皆は、カルロスがリックを見つけてきて最初からのことを受け入れてくれた。しかし、クリューバーは第四防衛隊とは関係のない、ベテランの兵士でレイクフォルトに、初めて来た時は迷惑もかけてしまった、そんな人に認められたことがリックは嬉しかった。

 階段を下りてロビーに戻るとメリッサが、今度は受付の近くにある柔らかそうなソファに座っていた。


「メリッサさん、戻りました」

「お帰り。いま騎士の一人がやってきてね。エルザさんからの伝言であたしらも下見に参加しろってさ」

「わかりました。どこへ?」

「王家の墓だよ。王家の墓の前で今の隊長から新隊長に剣を渡す儀式をするからね」


 リックとソフィアとポロンは、メリッサと共に王家の墓の前へ向かうため、レイクフォルトの防衛隊の詰め所を後にするのだった。

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