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第235話 観光町の静かな退任式

 朝の早い時間にリックは、出勤するために自宅から、詰め所までの道を歩いていた。彼は自分の後ろをチラッと見て気にする仕草をした。

 

「ふわぁぁぁぁ。眠いです……」

「わたしも眠いのだ。ふわぁぁぁぁ」

「ふふふ。移っちゃいましたね」

「なのだ」


 リックの少し後ろを歩く、ソフィアがあくびをして、続いて隣を歩くポロンが大きなあくびをした。リックはあくびを二人にため息をつく。この二人は休みだった昨日に夜遅くまで遊んでいたのだった。


「もう…… 昨日休みだからって遅くまで遊んでるからだよ。今日は勤務だから早く寝ようって言ったのに!」

「ポロンが遊びたかったです! 私はそんな子供じゃないです」

「違うのだ! ソフィアがわたしとのゲームに負けて何度も挑んできたのだ」

「はいはい。二人ともカードゲームに夢中で俺が早く寝ようって言っても無視してたくせに!」


 二人は前を行くリックに向かって頬を膨らませむくれている。ソフィアが早足で、リックに近づいて詰め寄り、ポロンも彼女に続く。


「だいたいリックが先に寝るから悪いです」

「そうなのだ! リックが悪いのだ」

「えぇぇ!? どうしてそうなるんだよ!?」


 リックが先に寝るから、悪いという理不尽な主張をするソフィア、彼女の横で腕を組んで同意し、得意げにうなずくポロンだった。ここ最近、二人はなんでもリックのせいにする。ポロンやソフィアに怒れないからすぐ彼のせいにするメリッサのように……


「(うん!? ちがう…… メリッサさんが俺のせいにするから二人が真似してるんじゃ……)」


 真実に気づいたリックだったが、時すでに遅く結局すべて彼のせいにされて、なぜか今日のおやつはリックが二人に買ってあげることになった。

 詰め所へと到着した三人、まだ誰も出勤しておらず。リック達は自分の席につき、他のメンバーが出勤するのを待っていた。

 しばらくするとカルロスがやってきた。カルロスがゆっくりと歩き、詰め所の入り口から自分の机へとむかう。


「隊長なのだ! おはようなのだ!」

「おはようございます」

「隊長。おはようございます」

「お前さん達。おはよう」


 リック達が挨拶すると、カルロスは笑顔で挨拶を返す。朝のいつもと変わらない光景だ。カルロスは自分の席に座り、机の上に置かれた書類に視線をおくると、すぐに顔を上げとリック達に視線を向けた。


「あぁ。お前さん達はちょっとこっちにきてくれるかい?」


 呼び出されたリック達は隊長の机の前に並んだ。リック達が机の前に並ぶまでの間、カルロスはまた書類に目をやっていた、彼は両手を組んで顔をまたあげた。


「リック、ソフィア、レイクフォルトのクリューバーはわかるな?」

「もちろんです。レイクフォルトの町の防衛隊の隊長さんです。銅の鍵が販売された時やこの間も王家の墓を開けてもらったり私たちがよくお世話になってます」

「うん。実は彼が退役して、レイクフォルトに新しい隊長が就任することになった。そこでクリューバーの功績に敬意を払いレイクフォルトで退任式を行うことになったんだ」

 

 レイクフォルトは王都から南にあるフォルト湖のほとりの町だ。レイクフォルトには王家の墓があり、銅の鍵が発売された際に、リックソフィアと出張で警備に赴いた。クリューバーはレイクフォルトの町の防衛隊の隊長で、出張で行った際にリックが当時勇者だったエミリオと、もめ事を起こし見逃してくれたりした。そのクリューバーが引退するので、退任式が行わると聞いてリックは首をかしげた。防衛隊の一隊長のために、わざわざ退任式を行うのは珍しいのだ。


「防衛隊の退任式をするんですか。意外ですね」

「まぁ、クリューバーは長年にわたり王家の墓という重要施設がある町を守り続けた王国の功労者だからな」

「隊長さんの時もあるのだ?」

「ははは。まだまだ先の話だし、僕には多分ないよ。そんなにポロンは僕を退役させたいのかい?」

「やなのだ。まだ隊長さんと一緒がいいのだ」


 首を大きく横に振るポロン、カルロスは彼女の反応を見てうれしそうに微笑む。二人の会話にソフィアとリックが口を挟む。


「ポロン。無理を言ってはダメですよ。それに退任式ができる人はみんな真面目に王国に貢献してきた人だけですよ」

「うん。隊長みたいな人は退任式してもらえないんだよ」

「なっ!? リック! ソフィア! お前さん達は…… 僕も怒るよ!」


 カルロスが腕を組んで目を見開き、強い口調でリックとソフィアに言っている。

 

「(いや怒るって言われても…… 隊長は無理でしょう)」


 リックはムッとカルロスを見て首を小さく横に振って無理だろうと心の中でつぶやく。なぜなら、カルロスは王国への貢献度より、絶対に迷惑かけた方が多い。まぁそれも主に彼の部下がだが…… ここ数年だけでも、頻繁に騎士団とめごと起こし、他国で好き勝手に戦争に参加し、建物を魔法などで吹き飛ばしたり、問題ばっかり起こしてる。あの大人しいゴーンライトでさえ、酔っ払って噴水を壊したりもした。

 カルロスの退任式がないと聞いた、ポロンは両手を上げ笑顔で彼に声をかける。


「そうなのだ? じゃあ、隊長さんの時はポロンが退任式をやってあげるのだ」

「おぉ!? ポロン! お前さんは偉いね。後でお菓子かってあげよう」

「ポロンだけずるいです!」

「そうですよ! ポロンを甘やかさないでください」

「うるさいな。元はといえばお前さん達が僕のことを……」

 

 シュンとしたカルロスの横にポロンが近づき、一生懸命背を伸ばして頭を撫でて慰めた。カルロスは笑顔で、ポロンが撫でていた手を持って、自分の頭から、はずすと笑顔で撫で返した。ポロンは気持ちよさそうに耳を閉じて目をつむる。


「ありがとうな。ポロン」

「隊長さん。元気になったのだ? よかったのだ」

「おぉ。ポロンは本当にいいこだな…… やっぱりお菓子を本当にかってやろう」

「ほんとか!? やったのだ!」


 菓子の買うってところだけ小声にするカルロス。小声にした会話が聞こえ、あきれた顔でカルロスを見るリックだった。ソフィアにも聞こえたのだろう、冷めた目で彼女はカルロスを見つめていた。


「さぁ! お話を続けるのだ」

「ありがとう。リック、ソフィア、ポロン、第四防衛隊はレイクフォルトに行ってクリューバーの退任式の警備を行うことになった。昨日、この話があったから、メリッサ達は直接レイクフォルトに行ってもう任務についているから向こうで合流しろ」

「はい!」


 返事をしたリック。メリッサ達が出勤してなかったのは、すでにレイクフォルトへ向かっているからっだ。娘のナオミちゃんの面倒をみてる、メリッサはいつも出勤が遅いが、ゴーンライトとイーノフはリック達より早いことが多い。ソフィアが首をかしげてカルロスに質問をする。


「でも、なんで退任式の警備に私達が行くんですか?」


 ただの退任式なら第四防衛隊が出動する理由はない。ソフィアの疑問にカルロスは小さくうなずいて答える。


「あぁ。警備は厳重にしないとな。なんせ王族がくるんだからな」


 王族を招いて盛大にレイクフォルトの退任式は行われるという。


「それにお前さんクリューバーに世話になったんだろ? だったら一言挨拶くらいしてこい……」


 カルロスは腕を組んでかっこつけて笑っていた。わかりやすくニヤニヤとしているカルロスを、リックは怪しみ何か他に理由があると察する。


「本当はなんか別の理由がありますね?」

「はは。バレたか…… 退任式と同時に防衛隊の新隊長の就任式があるんだ」


 防衛隊の隊長が不在にならないように、クリューバーの業務を引き継ぐ人間が当然いる。カルロスはリック達の顔を見て、真面目な顔になってゆっくりと口を開く。


「レイクフォルトの新しい防衛隊の隊長はエミリオだ」

「なっなに!? エミリオ!?」


 エミリオはかつて騎士団を率いていた、ジックザイルの孫で元勇者だ。だが、勇者としての才能がなく王国最上位の才能をもったS1級勇者アイリスに嫉妬して、魔物となってたびたびアイリスを襲っていた。リンガード国でリックに倒され、イーノフの力で魂だけ瓶に閉じ込めていたが、王都の地下で何者かに魂の入った瓶を奪われ行方不明になっていた。リックはカルロスの机に両手をついて身を乗り出し彼に尋ねる。


「どういうことですか? エミリオって確かあいつは?」

「そうだ…… イーノフとお前さんの報告だと何者かに彼の魂は持ち去られたんだよな?」

「はい…… 確かに俺達の前でフードをかぶったやつに……」

「うーん。そうだよねぇ。とりあえずそっちの件は僕が調べるよ。それよりもお前さん達早くレイクフォルトへ向かってくれ」

「どうしたんですか?」

「エミリオの名前を聞いてイーノフがすごい怖い顔してな。メリッサもいるしあいつのことだから大丈夫だと思うが……」


 椅子に深く腰掛け不安そうにするカルロスだった。エミリオと因縁のあるイーノフを心配しているようだ。リックは小さくうなずいてカルロスに答える。


「わかりました。行こう、ソフィア! ポロン!」

「ふぇぇぇ、わかりました」

「行くのだ!」


 リックとソフィアとポロンの三人は顔を見合わせて頷く。リック達はレイクフォルトへ向けて出発する準備を始めるのだった。

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