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第233話 混沌女神

 リックとアイリスは休憩所を抜け、他と同じような螺旋廊下を進んでいた。三つの休憩所を抜けた彼らに最深部が迫って来ている。アイリスがリックに顔を向け声をかける。


「リック…… 二人っきりだね…… 暗いね」

「そうだな。足元わるいから気を付けろよ」

「ありがとう。ねぇ? 覚えてる昔二人で…… 夜の山の小屋に行ったの?」

「あぁ。お前が手をつなごうとして俺が嫌がって泣いたときな」

「そうよ。その後に女の子を暗いところに置いていって! ひどいんだから!」

「俺だって怖かったんだよ。それに最後はちゃんと迎えに行っただろ?」

「そうだけど…… 私はもっと怖かったんだよ!」


 怖かったと訴えるアイリスにリックは呆れて笑う。なぜなら、リックがアイリスを迎えに行った時、アイリスは泣きながら猪を殴って倒しており、リックがアイリスのことが怖かったくらいだったからだ。その後、リックを見つけたアイリスは、大泣きしめちゃくちゃ彼に怒った。


「(そういや…… こいつは勇者の才能で昔からめちゃくちゃ強けど意気地なしだったな…… うん!?)」


 アイリスがリックの袖をつかんで引っ張った。


「ねぇ…… 今度は置いてかないでね……」

「はは。大丈夫だよ。アイリスのことをみんなから託されたから一緒にいるよ」

「うん! えへへ…… はい! って!? ちょっと! せっかく手を…… もういいわ……」


 袖から手を離してアイリスが手をだしてすぐに引っ込めた。リックはアイリスがひっこめた手に自分の手を伸ばす。


「えっ!?」

「さっきも言ったけど、足元が暗くてあぶないからな」

「あっ…… ありがとう」


 リックはアイリスの手首を、つかむと前に出て引っ張って歩く。アイリスは少し恥ずかしそうにうつむく。しばらく螺旋廊下を二人で、下へ向かって歩く。するとさきほどと同じようにまた広い空間にでた。

 ただここは休憩所ではなく椅子などは置かれてない。大きな空間の奥の壁に向かって人が立っていた。立っているのはジェーンで向かい側の壁の一部は大きな岩がむき出しになっていて、その大きな岩に一本の剣がささっておりその剣をジッと見ている。刺さっている剣が、大地破壊剣(グランドバスター)でここは最深部だった。

 リック達は二人でジェーンに向かって歩いていく。


「あーあ、みんな死んだのね。せっかく私が新しい肉体を与え生き返らせてあげたのに……」


 気配に気づいたジェーンは振り返り笑った。彼女の手には赤い柄をした槍を握られていた。リックの手を振りほどき、アイリスが前にでてジェーンに叫ぶ。

 

「ジェーンさん…… そこをどいてください。私は大地破壊剣(グランドバスター)を……」

「うるさい!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 怒りに満ちた表情で、ジェーンがアイリスを睨み付け怒鳴る。アイリスが立ち止まり、悲しい顔でジェーンを見つめていた。


「これはお兄ちゃんの剣よ! お兄ちゃんの剣をあんた…… ううん。王国の勇者…… そんなやつに渡すわけないじゃない!」


 叫びながらジェーンが、アイリスに向かって駆け出した。リックは剣を手にかけ、アイリスの前へと出た。


「リック!? いつも…… ごめんね。また力を貸して!」

「あぁ…… アイリスのだめだったら、いつでも力を貸してやるよ」


 振り向いて笑顔でうなずいたリック、彼は静かに剣を抜いた。アイリスはリックの笑顔を見て目を輝かせる。

 

「えへ!? 私のため!? それって…… やっぱり私のこと」

「俺達は友達だからな! ずっといい友達だ!」

「リック嫌い! もういい! あたし一人で行く!」

「あっ!? こら! 待てよ! 友達を置いて行くなよ!」


 アイリスはチャクラムを両手に持つと、前に出たリックを追い越し、ジェーンに向かって駆けだしていってしまった。


「待てって! アイリス! 一人じゃ危ないよ」


 リックの言葉を無視し、アイリスはまっすぐ前を見て、ジェーンに向かっていく。


「こら!? もう! なんなんだよ……」


 アイリスは一瞬だけ振り返り、ベーっと舌だしてすぐに前を向く。リックは首を横に振ってからアイリスを追いかける。


「リックのバカー!」


 リックへの悪口を叫びながら、アイリスは両手に持ったチャクラムを、二つほぼ同時にジェーンに投げた。速く鋭く空気を切り裂いて飛ぶ、チャクラムをジェーンは鋭く睨み付けていた。

 

「甘いわよ」

 

 二つのチャクラを飛び上がってかわすと、アイリスに上空から落下しながらむかっている。背中まで大きく槍を振り上げたジェーンが、アイリスにむかって槍を振り下ろす。ニコッと笑ってアイリスが後ろにジャンプした。

 振り下ろしたジェーンの槍が外れて床を叩き、大きな衝撃音がして砂埃と床の石の破片が飛び散った。


「ちぃ!」

「残念でした! 気を付けてね~!」

「はっ!?」


 アイリスのチャクラムが、戻って来て再びジェーンにせまっていた。ジェーンはチャクラムに反応し飛び上がった。


「あら!? 外れたの? 残念!」

「終わりだ。勇者アイリス!」


 ジェーンは飛び上がり、アイリスを追いかけ、右手にもった槍を引いた。チャクラムが外れたのを見て、残念そうに声をだしたアイリスに、ジェーンがせまって来た。ジェーンはアイリスの胸を狙い槍を突き出した。


「あはは! じゃあね!」

「クッ!」


 右腕を前に伸ばし、ジェーンは槍でアイリスを突く。だが、アイリスは上空で、たくみに上半身をそらして槍をかわすと、器用にジェーンの槍をつかんで足を曲げ、槍を踏んづけるようにして、地面にむかって飛んでいった。


「この! ちょろちょろと!」

「あはは、悔しかったらここまでおいで!」

「待ちなさい!」


 アイリスがしゃがんで着地すると、笑顔でジェーンに振り向いて走り出した。


「さすがアイリスだな。昔から痛いの怖いって攻撃をかわしたり防いだりは上手かったもんな…… よく参考にさせてもらったもんだ」

 

 立ち止まっていたリックがアイリスとジェーンを見てつぶやく。アイリスはリックに向かって走りながら片手を上にあげた。飛んでいたチャクラムが二つアイリスの手におさまる。二つのチャクラムはアイリスの魔法で制御されている。

 着地したジェーンは怒り、槍をかまえてアイリスを追いかける。


「こら! なんだよ」


 走って来たアイリスはリックの背中に隠れた。


「はい。追いつけませんでした。残念! リック! 後はお願いね」

「おっおい!? ずるいぞ」


 リックの背中から顔をだし、ジェーンに向かって笑いながら、アイリスはリックの背中を両手で前に押しだす。


「逃げるな勇者! どきなさい! リック!」


 体勢を低くし両手で持った槍を、自分の体の右側面に構え、ジェーンがリック達へと迫って来る。ジェーンが剣を構えてるのリックの左側面から槍を振りぬく。しかし、すぐに反応したリックが、ジェーンの槍を目がけて自分の剣を振り上げる。リックの振り上げた剣がジェーンの槍とぶつかって大きな音を立てた槍が弾かれる。槍をはじかれ立ち止まった、ジェーンはリックのことを睨みつけた。


「なっ!? あなた! どきなさいって言ってるでしょ!?」

「何を言ってる? お前の相手は俺とアイリスだぜ? これは戦いだ。一対一の試合をしてるわけじゃねえんだよ!!」


 悔しそうな顔で槍の刃先を、リックに向けてもう一度かまえた。


「ほら! ジェーンさんを連れてきたから頼んだわよ」

「うん!? アイリス、お前わざと俺のところに連れてきたのか?」

「フフ。そうよ。リックと戦う時は私が前にでて、敵をリックのところまで連れくるのが効率がいいからね」

「アイリス!? どういうこと?」


 確かにリックはあまり攻撃が得意ではなく、彼に相手を引き付けるのは理に適っている。アイリスは得意げに話を続ける。

 

「前にリックとソフィアと一緒に戦った時にソフィアは自然とリックの後ろに立って、敵がリックを超えないと来れないようにしてたから……」

「なるほど! そうか! ソフィアがアイリスに俺との連携のお手本を見せてくれたからか。さすがソフィア!」

「そう! ソフィアのおかげ…… ちっ違う! わっ私だってリックの相棒をできるってことだもん」

「なっなんだよ。何を怒ってるんだ?」


 目を輝かせてソフィアを褒めるリックを、アイリスがムスッとして顔で睨みつける。リックの相棒という話であれば、小さい頃から戦いごっこで鍛え合ったアイリスが最初の相棒と言うことになるのだが……


「あんた達いつまでも…… なめるんじゃないわよ」


 怒ったジェーンがリックを槍でついてくる。正確にリックの右肩を狙い鋭く突かれた槍。ジッとリックは槍の軌道を見つめている。


「遅い!」


 槍でリックを攻撃するのは自殺行為である。彼は王国一…… いやおそらく世界一であろう槍使いと毎日鍛錬をしているのだ。右足をひいいたリックは、右手を振りかざし、槍をかわすために、体をひねった。ジェーンの槍はリックの体の前を通過していく。

 リックは槍の刃先が体を通過した直後に、右手にもった剣を槍の柄に向かって振り下ろした。音がして剣が槍の刃の十センチほど下の柄の部分に当たって切り落とされて刃先の部分が床に落ちて転がる。ジェーンは槍を突いた姿勢のまま、槍が切り落とされたのを見て驚きの声をあげる。


「なっ! 私の槍が!?」

「俺の剣は黒精霊石製だからな。硬くてよく切れるんだ」

「黒精霊石!? そうか。エミリオの…… なるほどね……」


 リックは右足を踏ん張って、振り下ろした剣を返し、勢いよく振り上げジェーンの首を狙う。


「はっ!?」


 槍から手を離して捨てたジェーンが、しゃがんでなんとかリックの剣をかわした。彼の剣はジェーンの髪の毛をかすめていった。


「まだだ!」


 剣を返したリックは、剣を左肩まで引き、さらに追撃しようと剣で振り下ろした。


「させないわよ!!!」


 とっさにジェーンが手をリックにかざすと炎の玉が飛んで来た。リックは剣で炎の玉を叩き斬った。火の粉が舞いジュウっという音がし、炎の玉が二つに斬られ地面にへと落ちた割れた火の玉はリックの足元の床を焦がす。


「クソ!」


 リックが炎の玉を防いでいる間に、ジェーンは彼から逃げて距離を取っていた。リックは静かに剣先を下にしてまた構え、ジェーンは彼を怖い顔で睨みつけていた。


「あぁ! もう! ちゃんとやりなさいよ。リック!」

「じゃあ、お前がやれよ! 勇者だろ?」

「いやよ! だいたい剣を抜くなんてさ…… かっこいい男の役目なのになんで私が…… なんで勇者にしか抜けないようになってるのよ。本当はさ、リックに抜いてもらってさ…… 私は……」

「おまえ…… 今更それをいうなよ!」

「はいはい。魔王を倒すにはあの剣が必要だから抜くけどさ……」


 不満そうにアイリスがぶつくさ言い始めた。ジェーンがリック達の会話を聞いて怒りだした。


「何よ…… お兄ちゃんの剣を…… いらないっての!? もう絶対にあんたになんか渡さないんだから! はぁぁぁぁぁ!」


 ジェーンは膝を曲げ、腰を落とした拳を握り、肘をまげて力をこめた。彼女の体がどんどんと真っ黒の金属のような物に覆われていく……


「リック、これって!? 黒鋼の森の塔で会ったエミリオと同じ……」

「そうだ…… 全身が黒精霊石の体になってるんだ」


 ゆっくりと顔をあげた、ジェーンは頭から、つま先まで黒い岩のような、ごつごつした体になっていた。肩の部分は鎧のように丸くなって、手首と肘の間から尖った曲線を描いて光っ刃物のような角が生えている。背中にはごつごつした長い尻尾が生えて、先端を浮かせて漂わせている。

 リックをアイリスの身ながらジェーンはうっすらを笑った。


「はぁはぁ…… アイリス…… 殺す!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 体勢を低くして叫んだ瞬間、すごいスピードでジェーンがアイリスに向かっていった。腰を左回転させてながい尻尾でアイリスをジェーンが狙う!


「相手は俺だって言ってるだろうが!!!!!!!!!!!!」


 素早く反応したリックが、アイリスの前に立ちはだかり、ジェーンの尻尾を剣で受け止めた。リックは前を向いたままアイリスに声をかける。


「アイリス! 少し下がってろ!」

「うん」


 うなずいたアイリスは後ろへと下がり、リックとジェーンから少し距離を取る。


「……」


 黙って尻尾を戻したジェーンは左腕の角で、リックを串刺しにしようと突き出した。角がくるタイミングで、ジェーンの左側に一歩ふみだして、拳をかわしたリックは剣を振り上げた。彼の剣がジェーンの左上腕から肩の辺りを斬りつける。がりがりという音がしてジェーンの体に傷がついていく。

 斬られたジェーン少し痛そうな顔をしたが、その場で踏みとどまり、腕を戻してリックへと向いた右腕を振り上げ、今度は右腕の角でリックを切り裂こうとした。


「おっと!」


 リックはとっさに後ろの飛んで距離をとった。ジェーンの右腕が振りか下され空を切り角が地面を叩く。右腕を地面につけたまま、顔上げたジェーンがうらめしそうな顔でリックを睨む。


「邪魔するな! リック!」

「お前の言うこなんか聞けるか。俺は兵士だ。勇者を…… アイリスを守るのが任務だ」

「ふん…… お兄ちゃんは…… 見捨てたくせに!」


 言葉を吐き捨てにリックを睨むジェーン。リックは彼女を見ながら静かに悲しい顔をした。


「アレックスさんか…… ごめん……」

「えっ!?」


 リックが謝るとジェーンが驚いたような声をあげた。剣先を下に向けて、リックは視線を少し下にして頭を下げた。


「なんで! あんたが謝るのよ!」

「もし俺が…… アレックスさんがいた時に兵士だったら…… 命に代えても守ってたよ…… メリッサさん達だってきっとできる範囲で一所懸命だっと思う。でも、結果としてアレックスさんを守れなかった…… だからごめん」

「リック…… そうよね…… きっとみんなアレックスさんに頼り切ってたのよ…… だから私もごめんなさい」


 離れていたアイリスがリックの横に並ぶ、彼と同じように悲しそうな顔をして、うつむいてジェーンに頭を下げる。

 ジェーンはリック達の言葉を聞き、厳しい顔をして小刻みに震えている。


「だまれ! 守る!? ごめんなさい!? お兄ちゃんを…… 遅いわよ…… もうお兄ちゃんはいないの……」


 ジェーンは大地破壊剣(グランドバスター)の前にたたずみ。ぶつぶつとつぶやいていた。


「なんで…… なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでで!!!!!!! あんたあの時にいなかったのよよーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 興奮して自我を失ったジェーンは、叫びながらアイリスへと向かって来た。


「チッ!」


 リックはアイリスをかばうように前に出てジェーンを迎えうった。前に来たリックに右腕の角でジェーンが斬りつけて来た。リックは攻撃を受け止めるため剣をジェーンの右腕に向かって振り上げた。大きな音がしてリックの剣と、ジェーンの刃物のような角がぶつかりあった。


「クっ!」


 興奮したジェーンは、今まで以上の力が出ているのか、珍しく剣を押されるリック。とっさにリックは左手を刀身にそえ両手でうけとめる。


「リック!!! 邪魔するならお前からだ! 死ね! しねえええええエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!!!!!!!!!」


 ジェーンが力任せに腕を押し込んでくる。力強いアイリスが近くにいたら、巻き添えにくらうかも知れない。ただ、興奮し目が血走ってジェーンはリックをジッと見て彼しか見てないようだった。リックはアイリスに向かって叫ぶ。


「アイリス! ジェーンは俺が食い止める。お前は先に大地破壊剣(グランドバスター)を抜け!」

「えっ!?」

「いいから! お前の目的は剣を手に入れることだろ? 早くしろ」

「うん…… わかったわ」


 アイリスが大地破壊剣(グランドバスター)に向かって走り出す。興奮しリックしか目に入らなくなっていたジェーンはアイリスの動きに気付かない。


「よし! このやろう!!!」

「なっ!?」


 踏ん張って膝に力を込め、リックはジェーンの角を押し返しした。押し返されたジェーンは二、三歩後ろに後退した。左手を刀身から離して軽く振ってリックはまた剣を持った右腕を下げ構える。


「死ねって言ってんのよ!!!!!!!!!!!!!」


 叫びながらジェーンは体勢を立て直すと、走ってリックとの距離をつめ、右腕を前へと突き出した。冷静に突き出される角を見つめ、リックはギリギリまでジェーンの角を引き付けると、左足を前にだしてかわした。角の横へ出たリックは狙いすまして、剣を振り上げ、ジェーンの右腕を斬りつけた。

 さすがに黒精霊石製の体で、簡単には切り落としせないが、右手に肘と手首の間に一本大きな亀裂が入り、ジェーンは右腕を上にはじかれバランスを崩した。リックはさらに左斜め前に一歩進みながら体を入れ替えながら、ジェーンの足を斬りつけた。

 足も切れないが、ふくらはぎの横に大きな傷が入った。ダメージがあるのかジェーンが苦痛にゆがむ。


「なんなのよ!? あんた…… あんたなんか……」


 ジェーンが傷ついた右足でなんとか踏ん張って、体の向きを変え背後に回ったリックに、今度は左手で斬りかかる。だが、右足と右腕にダメージを負い、フラフラのジェーンの攻撃は遅くリックは難なくかわした。ジェーンは左腕を突き出した姿勢をリックにさらけ出した。右に移動し彼女の左にでたリックは今度は、左足のふくらはぎに剣を振り上げた。

 左に足に大きな亀裂が入り、ゆっくりとジェーンの動きがとまり膝をついた。


「おっお兄ちゃん……」


 ジェーンが両膝を押さえてうずくまってつぶやく。リックは警戒しながらジェーンの前に立って彼女を見下ろしている。

 アイリスは大地破壊剣(グランドバスター)がある岩まで到着した。アイリスが大地破壊剣(グランドバスター)に手をかけると白い強い光が発生した。

 ジェーンが光に気付いて振り返った。

 

「まっ待て! お兄ちゃんの…… 剣に…… 剣に触らないで!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 必死に立ち上がり、傷ついた両足をなんとか動かし、ゆっくりとアイリスへと向かって行く。


「そこまでしてアイリスに剣を抜かせたくないのか…… でも、させないよ」

「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」


 リックは後ろから、ジェーンの右足を斬りつけた。叫び声をあげながら、ジェーンは前のめりに倒れた。その瞬間に空間の光がおさまっていく。


「ふぅ…… リック!!!! 見てみて!!!! 抜いたよ!!!!」

「おぉ! よくやったな」


 アイリスが大きな岩にささっていた大地破壊剣(グランドバスター)を抜いて両手で持ち上げた。大地破壊剣(グランドバスター)は青白く光った太い両刃の剣で柄は大きな銀色の十字だった。


「えっ!?」


 アイリスはせっかく抜いた大地破壊剣(グランドバスター)をすぐに魔法道具箱に剣をしまおうとしていた。


「お前!? せっかくみんな苦労して手に入れたのすぐにしまうなよ」

「えぇ…… だってごつくて可愛くないんだもん。趣味じゃないし?」

「いやでも伝説の剣だぞ」

「あのねえ。伝説の剣でも見た目が好みじゃない場合だってあるでしょ? だからしまうのよ。使う時に出せばいいんだから」

「あのなあ……」


 アイリスは見た目が、好みではないという理由で、どんなにすごい武器や防具でも普段は着けない流儀なのだ。今まで手に入れた伝説の防具も必要にならないと着けない。


「(まったく…… 普通は少し振ってみるとか威力を確かめるとかしないか!? まぁいいか。もうアイリスのなんだし、剣の威力はアレックスさんで証明できてるしな)」


 魔法道具箱に大地破壊剣(グランドバスター)をしまったアイリスは、笑顔でリックの元へと駆けて来る。


「あんた達…… よくも……」


 ゆっくと体を起こしジェーンは立ち上がり、悔しそうに走って来るアイリスを睨んでいる。リックは剣を持つ手に力を込めジェーンに警戒する。


「あっ! ジェーンさん! みてください! ほら私ぬけましたよ」

「おっおい!?」


 笑顔でアイリスはジェーンのもとへと駆け寄ると大地破壊剣(グランドバスター)を魔法道具箱から出して両手に抱えて見せる。アイリスの行動にジェーンが驚いた顔で見つめていた。


「どういうつもり!? あなた私をバカにしてるの?」

「へへへ! どうです私もちゃんとした勇者なんですよ!? わかりました。これで私が魔王を倒すから…… もうやめてください……」

「えっ!? あなた!? なにを言ってるの?」

「グラント王国がアレックスさんを見捨てたのはダメだし…… 許せないと思う…… でも一番いけないのはアレックスさんの願いを無視することだと思うんです」

「お兄ちゃんの願いですって!?」

「はい! アレックスさんはきっとメリッサさんやイーノフさん、リックやソフィアやみんなで笑顔で暮らせる場所…… グラント王国や世界を守りたかったんだと思います。だから私は魔王を倒します。みんなが笑顔で暮らせる場所を守るために!」

「なっ!? あんたそれがお兄ちゃんの願いってなんでわかるのよ!? 嘘を言わないで!」

「でも、近いと思うんですよねぇ。だって私アレックスさんと同じように旅してきて…… みんなの笑顔をみてそう思ったんですもん! だからアレックスさんも同じですよ」

「アイリス…… あなた……」


 笑顔でジェーンの顔を覗き込み自信満々に答えるアイリス。勇者としての才能を見いだされて十数年、アイリスはアレックスと同じ勇者として、彼の旅を模倣し世界を見てきたただ一人の人間である。目に触れた光景や出会った人々の願いを、アイリス以上にアレックスと共有した者はいない。


「そうか…… アイリスが言うなら俺もきっとそれがアレックスさんの願いだと思います。だから……」


 リックはアイリスの意見に同意し静かにうなずきジェーンに声をかけた。


「お兄ちゃん…… そうだよね…… ごめんね……」


 大粒の涙を流してジェーンは泣きだしてしまった。


「ヒッグ…… アイリス…… ごめんなさい。私…… 自分のことばっかり…… 許して」

「はい! 許します!」

「えっ!?」

「私はいつでもだれでも本気で反省したら許すんです」

「あはは…… あんた馬鹿だね。四邪神将軍の一人を許すなんて……」

「はい。よく勇者らしくないって言われます」


 少し恥ずかしそうだが堂々と笑顔で答えるアイリス。アイリスの答えにジェーンは笑顔になっていた。


「危ない!」

「キャッ!」


 ジェーンがアイリスを突き飛ばした。


「グゥ……」

「ジェーンさん!!!」


 苦痛に顔をゆがめるジェーン。彼女のわき腹にさきほどリックが切り落とした、槍の刃先が刺さっていた。刃先は切り倒された時と違い、黄色のうっすらとした光を帯びていた。


「なっ!? これは……」


 刺さった槍の刃先が勝手に抜かれ、ジェーンの目の前に浮かびあがっていく。


「せっかく…… 勇者を殺せるチャンスだったのに邪魔をしおって……」


 浮かび上がった槍が瞬きながら声を発してる。


「うわああ!!?」

「キャッ!」

「グっ……」


 黄色い光が強くなり激しく光った。リック達は目を覆った。光がおさまるとジェーンの彼らの目の前に一人に男が現れた。

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