第232話 騒乱大王
二度目の休憩所出てリック達は進む。休憩所を出た先はまた同じような螺旋廊下でさらに下へ向かう。しばらく歩くとまた大きな休憩所に到着した。
「うん!? また誰かいる…… まぁこれまでの順番だと次はあいつか……」
休憩所の中央に誰かが立っているのが見えた。リックは次に現れるのが誰かもう予想がついていた。
「ほう、ここまで来たか…… つまりはジオールもモンドクスもやられたか…… あいつらも人間に二度もやられるなど情けない……」
待っていたのは赤い大きなワニ人間、騒乱大王クロコアイバーソンだった。彼もジオールやモンドクスと同じ四邪神将軍の一人だった。
「ポロン?! 何してるの?」
「何を言ってるのだ? もうわたししかいないのだ。だからここはわたしの番なのだ!」
振り向いて胸叩くポロン、彼女はスラムンやメリッサの真似をし、大きなどんぐりの形のハンマーを肩にかつぎ、クロコアイバーソンに向かって一人歩いて行く。
「ダメだよ! 一人じゃ…… えっ!?」
リックの横をソフィアが通り過ぎてポロンの横になr場う。
「私達ですよ。ポロン! 私と一緒にやっつけましょう!」
「わかったのだ! ソフィアと一緒なのだ!」
「リック達は私たちが隙を作るから先に行くですよ」
「行くのだ」
ソフィアが微笑んでリックに声をかけた。二人は同時に右手を上げ互いの顔を見てほほ笑む。
「ソフィア!? ポロン!? 何を言ってるの?」
「そうよ。ちょっとあんた達どういうつもりよ!?」
「みんな言ってましたよね。アイリスはやることがあるです。最後までアイリスを守る人間を残すですよ」
「リック、任せたのだ! 任務をちゃんと遂行するのだ!」
ジッと真剣な顔でソフィアとポロンはリックを見た。彼を信頼してアイリスを託す、二人の気持ちが表情からリックに伝わって来る。彼は小さくうなずいた。
「わかった。ソフィア、ポロン、気を付けて」
「大丈夫なのだ。ソフィアはポロンが守るのだ」
「ありがとうです」
ポロンの頭を優しくソフィアが撫でる。
「ソフィア……」
アイリスが、少し申し訳なそうな顔で、ソフィアに声をかける、ソフィアはアイリスに優しく微笑んだ。
「今日だけはアイリスにリックの隣をゆずるです。リックをお願いします」
「えっ!? ソフィア!? わかったわ。ありがとう。でも、譲るってなに!? 私が今までもこれからもずっとリックの隣にいるのよ?!」
「やっぱりダメです! リックの隣は私のです!」
「なっなんですって!?」
「もう! ソフィア! いくのだ!」
ポロンに引っ張られながら、ソフィアはべーっとソフィアは舌を出している。しかし、彼女は表情は笑って優しい。リックの隣にいるアイリスもソフィアに怒っていたが、ソフィアを心配しているように少し悲し気な表情をしていた。クロコアイバーソンに
「相手をするのだ! クロコソイバーソン」
「クロコアイバーソンさんですよ」
「なっなんだ!? 子供とエルフの女!? お前たちが相手か!? ははは! 面白い…… 俺も随分となめられたもんだな」
近づく二人にクロコアイバーソンは、目を大きく開いてバカにしたように笑う。ソフィアとポロンは笑われても動じることなく、少し距離を取りクロコアイバーソンと対峙した。
楽しそうにポロンが、どんぐりの形をした大きいハンマーを頭の上でクルクルと回転させている。ワニ男のクロコアイバーソンは、大きい戦斧を両手で持って腰を落として構えた。
「一気に行きますよ! ポロン!」
「行くのだー!」
ポロンが回転させていた、ハンマーを止めて、両手に持って構えると駆けだした。ハンマーを背中に届くくらいにまで、あげてクロコアイバーソンにむかって叩きつけた。クロコアイバーソンも戦斧を、振り上げてポロンに向かっていった。
「ガキが! なめるな!」
「どっかーんなのだ!」
大きな戦斧とポロンのハンマーがぶつかりあった。ガキーーーーンという金属のぶつかう甲高い音が休憩所の響き渡った。
「さすが…… ポロン」
ポロンがハンマーが打ち下ろした状態で止まって立っていた。クロコアイバーソンはポロンのハンマーの衝撃に耐えきれず、戦斧と一緒に吹き飛ばされて尻もちをついていた。顔を上げた状態でクロコアイバーソンは信じられないという顔でポロンを見つめ声をあげる。
「なっ!? バカな!? こんなガキが俺より力が強いだと!?」
ハンマーの柄を持って胸を張って、ニコッとポロンは笑った。
「ソフィア! 今なのだ!」
「えい!」
ポロンの合図ですぐにソフィアが、弓に矢をつがえると、クロコアイバーソンの頭を狙い矢を放つ。
「チぃ!!!」
とっさに首をひねって矢をかわす。ソフィアの矢はクロコアイバーソンの頬をかすめていく。矢がかすったクロコアイバーソンの頬から紫色の血がながれている。クロコアイバーソンは血を指で拭うと、ゆっくと立ち上がり斧を拾った。ソフィアとポロンは、武器をかまえながら距離を少しずつ詰めていく。
「フッ…… なかなかやるな。ではこれならどうだ!? はぁぁぁぁぁ!」
手で血をぬぐいクロコアイバーソンは悔しそうな顔して、奴は指が太くゴツゴツした、左手を上にむけて手に力を込めた。
左手に黒い光の玉が、現れ上空に向かっていく。やがて黒い光の玉が、神々しく輝いて消えていくと、玉の中から黒く輝き胸に紫の色の宝石をつけた鎧が現れた。現れた鎧に見覚えがあったリックが声をあげる。
「まさかあれ竜巻鎧か!? アイリス! お前竜巻鎧どうした!?」
「ちょっと!? なんで私を疑ってんのよ。ちゃんと持って魔法道具箱に入れてあるわよ。趣味じゃないからあまり装備しないけど……」
「でも! あいつが出したのは……」
「確かめる!? 出そうか?」
「いや…… ごめん疑って」
鎧は以前リックがクロコアイバーソンと戦った時に、身に着けた改造した黒い竜巻鎧にそっくりだった。リックはアイリスが、竜巻鎧を何らかの理由で奪われ、またクロコアイバーソンに改造されたと疑ったが違うようだ。
空中で別れた鎧がクロコアイバーソンに装備されていく。鎧を身に着けたクロコアイバーソンが、驚いた顔をするソフィアやポロンを見て笑う。
「ははは! 驚いてるみたいだな。これは竜巻鎧を模して作ったものだよ。我が魔族の技術で、能力は本物以上だがな」
笑うクロコアイバーソン、彼は竜巻鎧と、同じものを魔族の技術で作り出したのだ。得意げに左手で鎧の胸当てを触るクロコアイバーソンだった。彼を見つめているソフィアは、首をかしげて笑った。
「竜巻鎧さんの真似したんですね。すぐ真似するなんてポロンと一緒ですね」
「なっ!?」
ポロンに視線を向けたソフィア。両手を上げてポロンが怒った。
「わたしは真似っこしないのだ! 一緒にしないでほしいのだ」
「えぇ!? そうですか?」
ソフィアが優しく微笑む、ポロンは不機嫌そうに口をとがらせた。二人のやり取りが聞こえた、クロコアイバーソンから笑顔が消えてソフィアを睨み付けた。
「真似だと…… なめおって! この鎧の力を思い知るがいい!」
「ポロン来ますよ」
「負けないのだ! どっかーんなのだ!」
「ダメだ! ポロン!」
ポロンがクロコアイバーソンに、向かっていきハンマーで殴りかかる。クロコアイバーソンは斧を下した、ポロンの攻撃を正面から堂々と受け止める。距離を詰め飛び上がったポロンが、ハンマーをクロコアイバーソンの胸に向かって振り下ろした。
「おわ! 飛ぶのだ!」
鋭く伸びていくポロンハンマーがクロコアイバーソンの胸に届く寸前に、薄っすらと緑色に輝く風がクロコアイバーソンを包み、ポロンのハンマーが弾かれた。さらに風は強くポロンに吹きつけ、彼女を上空に吹き飛ばした。竜巻鎧は敵の攻撃を風の魔法で自動で防ぐのだ。
天井近くまで吹き飛ばされたポロンは浮力を失い地面に落下する。
「土の聖霊さんお願いです! ポロンを助けてください! 緩衝土」
額に手をかざし、ソフィアが魔法を唱えると、ポロンが落ちていくる床が黄色に光った。ポロンが床に落ちたが、床がソフィアの魔法で柔らかくなっており、ポヨンと優しく床が沈んで彼女を受け止めた。
床に座ってポロンは不思議そうな顔をし、ソフィアがポロンの元に駆け寄り、しゃがんで心配そうにポロンが無事か確認する。
「ポロン大丈夫ですか?」
「けがはないのだ。でも、とんだのだ。ハンマーがどっかーんされたのだ」
元気に答えるポロンに安堵の表情を浮かべるソフィアだった。床が柔らかくて沈んだのがおもしろかったのか、ポロンは床の上で笑っている。ポロンの頭をなでて立ち上がり、ソフィアがきつい目をしてクロコアイバーソンを睨み付けた。
「どうだ!? わたしに攻撃できまい?」
不敵に笑いながら、クロコアイバーソンが斧を構え、ゆっくりとソフィアとポロンに近づいてくる。リックは剣に手をかけた、彼は改造された竜巻鎧を着たクロコアイバーソンを倒している。自分なら、二人の危機を救えると、リックは前に出ようと……
「リックこれどうやって倒したですか?」
「えっ!?」
ソフィアがリックの方を向いて、手を振って聞いてくきた。急に質問されたリックは戸惑いながら彼女の質問に答える。
「どうやってって…… ちょっと説明しづらいけど…… 風で武器の軌道をずらして防いでるんだ。その後に風を起こして吹き飛ばしている。だから攻撃の途中でスピードに変化をつけるんだよ。フェイントみたいな大掛かりなのはだめだよ。当たる直前とかにスピードをかえるんだ…… そうすれば攻撃が当たれば吹き飛ばす風は発生しないから……」
「ちょっと! リックの説明はわかりづらいわよ。それにそれあなただけの感覚でしょ? ソフィアに無理じゃない?」
「ほぇぇ!? よくわからないのだ!?」
「えぇ!? だって…… 聞かれたから……」
リックの説明に、ソフィアは指を顎に置いて少し考え、にっこりとほほ笑んだ。
「わかりました! ありがとうです。ポロン……」
笑顔でうなずいたソフィアは、横を向いて口に手をあてポロンに耳打ちをした。
「いいですね。お願いします」
「わかったのだ!」
ポロンは両手に持ったハンマーを上にあげ笑顔で答えた。ソフィアは微笑み近づくクロコアイバーソンに目を向けた。
「じゃあ行きますよ!」
「まかせるのだ!」
元気よくポロンがハンマーを担いで、クロコアイバーソンに向かって駆けていく。距離をつめたポロンが飛び上がってハンマーを振り上げた、向かってくるポロンにクロコアイバーソンは、余裕な表情で斧を構えることもしない。
「どっかーんなのだ」
「はは! 攻撃は効かないというのにどうするのだ!? うわ!」
ポロンはクロコアイバーソンではなく。彼の手前一メートほどの床を叩いた。砂煙が舞い上がってクロコアイバーソンの視界を遮る。
「どっかーん! どっかーん!」
「クッ!」
クロコアイバーソンの周囲を回りながらポロンは床を叩き続ける。クロコアイバーソンは砂煙に囲まれ見えなくなっていた。
ソフィアは振り返りリックとアイリスに叫ぶ。
「リック! アイリス! 行ってください」
「でっでも……」
「大丈夫です。任せてください」
胸を叩いて自信満々なソフィアだったが、リックは不安で彼女の側から離れることができなかった。アイリスがリックの手を掴んで引っ張り前に出た。
「おっおい。アイリス!」
「何よ! あんた! ソフィアとポロンちゃんの相棒でしょ! 信じてあげなさいよ。守るだけが相棒の仕事じゃないでしょ」
真剣な表情で振り返ったアイリスはリックに強い口調で話す。アイリスの言葉がリックの胸に突き刺さる。リックはソフィアとポロンを自分が守らないと常に考えていたが、二人は相棒で仲間だ、時には信じて託すことが出来なければ、本当の相棒とはいえない。
「わかった。行こう。アイリス」
「うん」
うなずいたアイリスはリックから手を離し駆け出す。リックも駆け出しアイリスのすぐ後を追う。リック達はポロンが起こした砂煙に紛れて走って、休憩所の奥にある通路へと消えて行った。
「リック…… さぁ。行きますよ」
寂しそうにリックの背中を見送ったソフィアが後ろを向いて駆け出した。クロコアイバーソンを囲んでいた砂煙がゆっくりと消えていく。
「チッ! あれ!? どこに行きやがった!」
クロコアイバーソンの周囲から砂煙が消え視界が確保された。だが、彼の前には誰もいなかった。去ったリックはともかく、ポロンとソフィアもだ。
「こっちなのだ!」
声がしてクロコアイバーソンが振り返ると、彼の背後にポロンが立っていた。
「クソが!」
ポロンに向かってクロコアイバーソンが斧を振り下ろした。ポロンは斧をハンマーで打ち返した。その後、ポロンはまともに攻撃せずに、距離を保って後ろに下がっていく。クロコアイバーソンはポロンを追いかけ、休憩所の中央からリック達が向かった扉の近くまで下がっていた。
「ここでいいですね」
ソフィアはポロンとは反対に、クロコアイバーソンから距離を取り、中央から休憩所へ入って来た入り口まで戻って来ていた。
クロコアイバーソンと、ポロンの方を向いて、矢筒から矢を取り出す。
「ポロン。いいですよ。後は任せください。こっちに来てください」
「わかったのだ!」
「あっ!? こら待て!」
ポロンがソフィアに向かって走っていく。クロコアイバーソンはポロンを追いかけていく。矢をつがえて構えてソフィアのが狙いをすます。弦を弾く右手にソフィアは次の矢を持っていた。
ソフィアがクロコアイバーソンに向かって矢を放った。だが、それでは改造された竜巻鎧を装備したクロコアイバーソンには聞かない
「ははは! そんな矢では鎧の…… グっ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
一本の矢がクロコアイバーソンに向かっていき、風の魔法が発動すべく緑の光を放った。しかし、ソフィアは矢を放った直後に素早く次の矢を放っていた。一本の目の矢がクロコアイバーソンに届く直前に、ソフィアが放った二本目の矢が一本目の矢の端を射抜いて押す。
押された一本目の矢は加速し、風の魔法が発動する前に、クロコアイバーソンの左手首に突き刺さった。ソフィアは二本の矢をうつためにクロコアイバーソンから距離を取っていた。矢を矢で射抜いて加速させるだけでも常人離れしているが、彼女が放った矢は正確に鎧のつなぎ目を狙いを定めていた。
「バカな! なぜだ!? 貴様……」
「まだ終わらないですよ!」
ソフィアはすぐにまた矢を二本出して同様に矢を放つ。次は鎧の隙間をついて、クロコアイバーソンの右手首につきささる。
両手を射抜かれたクロコアイバーソンは、斧を落として手を腹に持ってきて立ったままうずくまる。
「ぐわわわわわああああああああああぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!! なぜだ!? なぜ!!! 矢が我に届くのだ!!!!!!!!!!!!!!!」
「ふぇ!?、攻撃を風が発生するタイミングから少しずらせばいいですよ。リックが言ったじゃないですか!? もっといきますよ!」
叫び声をあげるクロコアイバーソンにソフィアが首をかしげて答えていた。こうなると後は、ソフィアの気がすむまで矢を放っていくだけだった。あっという間に十本以上の矢がクロコアイバーソンに突き刺さった。
膝をついて信じられないという表情で、ソフィアを見たクロコアイバーソン。ソフィアは弓を構えて真剣な表情をする。
「ばっ化け物め……」
「失礼ですね。私はソフィア・シュラウド。王立第四防衛隊の兵士で…… リックの相棒です!!!」
「四邪神将軍の我が二度も兵士ごときに……」
「これで終わりです!」
ソフィアは叫びながら二本の矢を連続で放った。途中で押された加速した矢は、クロコアイバーソンの額に突き刺さった。
「ぐわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
クロコアイバーソンは叫び声をあげた膝をついてうつ伏せに倒れた。倒れたクロコアイバーソンの体は灰のようになって消えていった。
「ふぅ!」
「やったのだーーーー!!!」
ポロンがソフィアに向かって走って来る。ソフィアは弓をしまうとポロンに向かって走り出した。両手を広げたソフィアにポロンが抱き着いた。
「ソフィア! すごいのだ」
「いいえ。ポロンが頑張ってくれたからですよ」
抱き合って互いの健闘を称える二人。すぐにポロンがソフィアから離れた悲しそうに腹を押さえた。ソフィアは彼女が怪我をしたのかと心配し顔を青くした…… グゥキュルルル!!!! という音が地下に響いた。
「お腹すいたのだ……」
「えっ!? ポロン!? 大丈夫ですか?」
空腹でポロンが地面にへたりこんで座ってしまった。響いた音はポロンの腹の音だった。
「ふぇぇぇ。朝ごはん食べてからここまで何も食べてないですもんね。はい。ちょっと待ってくださいね」
ソフィアは笑顔でポロンの頭を撫で、魔法道具箱に入れていた弁当を取り出すのだった。