第231話 背信侯爵
スラムン達がジオールを倒した直後、リック達はジェーンを追いかけ先へ進んでいた。休憩所から続く通路の先は同じ円筒の巨大な穴で、壁伝いに螺旋廊下で下へと続いていた。下に進むほど魔物気配も強くなっていく、休憩所から先はローズガーデンの独房ではなく、ダンジョンなのだった。
薄暗い螺旋廊下を襲ってくる、魔物を蹴散らしながら進むと先ほど同じく広い休憩所に出た。
「みんな待ちな」
先頭のメリッサが手をだしてリック達を止めた。顔を上げたリックが前を向くと、休憩所の中央に何者かが立っているのが見えた。
「あんた何者だい!?」
「覚えてられてなくて悲しいな。私は背信侯爵のモンドクスだよ」
休憩所に居たのは、長い白い髪をした大きな髭を生やして、目の大きをしたモンドクスだった。彼はマウンダ王国を襲った四邪神将軍の一人だ。マウンダ王国で会った時と同じ、襟の大きい黒い裾が地面に着きそうな長いコートをつけて、コートの中は動きやすそうなズボンに黒の綺麗な貴族服を着て背中に大きな剣を背負っていた。
「ジェーンはどこだ?」
「わたくしに貴様らの始末を依頼して先に行ったよ。まぁわたくしも人間風情に使われるのは腹が立つが貴様らに復讐するために我慢せねばなるまい……」
モンドクスが剣に右手をかけた。素早く反応したリックは、膝を軽くまげ腰を落とし剣に手をかけた。
「えっ!?」
メリッサがリック達の前で、両手を広げ立ちふさがる。
「待ちな…… ここはあたしにやらせもらおうか」
「メリッサさん!? 俺達も行きます」
「ダメだよ。スラムンも言ってたろ? やることがあるってさ。あたし達は大地破壊剣までアイリスを連れて行くのが仕事だ。リック、あんたは最後までアイリスのそばにいるんだよ。友達のあんたがしっかり守ってやんな!」
「メリッサさん……」
槍を出し肩に乗せメリッサは、モンドクスの前にゆっくりと一人で歩いていく。イーノフがメリッサを追いかけて声をかける。
「ちょっと待って! メリッサ!」
「イーノフあんたはリック達をお願いね」
振り向いてイーノフにメリッサが優しく微笑む。すぐに厳しい顔で槍をかまえ、モンドクスを睨み付けたメリッサ。不敵に笑うモンドクスが剣を抜いた。
「ふふ…… 見えるぞ…… お前の心が!」
「えっ!? なっなに……」
地面から土が盛り上がり、人間の子供くらいの大きさになった。徐々に盛り上がった土の姿が変わっていく。
「ナッナオミ!? どうして……」
土は樫の木の給仕服を着た、メリッサの娘のナオミへと変わった。いつも元気なナオミだが、急に泣き出してしゃがみこんでまった。
「ママ…… 私を槍で突くの? 怖いよぉ!!!!! やだよーーーーーーーーーー!!!!」
「あっあたしは……」
泣きながらメリッサの顔を見て話すナオミ。さすがのメリッサも動揺してるのか、槍を下して声が震えて固まっていた。
「ナオミ!? ナオミ!」
突然ナオミちゃんの顔に炎があたり彼女を燃やす。驚いたメリッサが尻もちをついた
「ママッ! ママッ! マーマー!!!!!!! いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!! やめろ! やめろー!!!! やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!」
断末魔が響き、ナオミがいた場所に焦げた、四つの石がころがった。どうらやモンドクスが魔法で、意思をナオミの姿に見せていたようだ。
「うぎゃ!!!!」
さらにモンドクスの顔の近くで、小さい爆発が起こり彼は膝をつく。顔をあげたモンドクスは悔しそうな顔で前を向く。
「くっクソ! もう少しで」
「だまれ!!!!! ナオミちゃんを使うなんて…… この腐れ外道め!」
尻もちをついたまま、メリッサは転がる石を大きく目を見開いて見つめている。
「大丈夫かい!? メリッサ」
メリッサのすぐ後ろで、杖を構えたイーノフが声をかける。
「イーノフ!? あんた? ナオミに何てことをするんだ!」
振り返ってメリッサさんは膝をついたまま、イーノフの胸ぐらをつかんで凄みながら叫ぶ。落ち着いた表情でイーノフはメリッサの手を優しく掴む。
「よく見なよ。偽物だよ。ただの石を魔法でナオミちゃんに見せただけだよ」
「えっ!? あっ…… あっあ……」
「それに僕の知ってるナオミちゃんはママを困らせない。もし同じ状況でならママの為に自分を殺せっていう強い子だよ。ママのように…… 違うかい?」
「うっ……」
動揺して叫ぶメリッサに、冷静だが少し強い口調で、諭すようにイーノフが話をする。イーノフの言葉にメリッサは軽く息を吐き、フッと笑って彼の胸から手をはなす。
「そうだったね…… ごめん。もう大丈夫だよ。あんたはリック達を……」
「ううん。メリッサ…… 僕は君と一緒だよ」
「でっでも……」
「リック達は大丈夫。後輩を信用しなよ。さぁ一緒にあいつを倒そう!」
手を伸ばしてにこりと笑ったイーノフ。少し不満げにメリッサはイーノフを見つめている。
「フン…… そうだね。いつまでもあたしらが世話を焼くわけにはいかないね」
笑顔のイーノフに、少し恥ずかしそうに、メリッサが手を伸ばした。ガシっとイーノフは強く彼女の手を握りしめ、メリッサの顔が赤くなり少し驚いたような顔をする。だが…… メリッサが大きいからか、イーノフが彼女を引っ張り上げると、バランスを崩し後ろに倒れそうになる。
「情けないね…… まったく小さいんだから」
「うるさいな! 身長はしょうがないだろ」
大きなメリッサがバカにしたように笑いながら、イーノフに顔を近づけて上から見下ろしている。
「えっ!?」
見ろしていたメリッサの頬に手を置き、イーノフが彼女の顔を覗き込む。優しく微笑むイーノフさんに、少しほほを赤くして驚いた表情をするメリッサ。
「なっなんだい!?」
「よし! メリッサは泣き止んだね」
イーノフが微笑むと恥ずかしそうに顔をはなし、メリッサが手を目に当ててる。ナオミの幻影に泣かれた時に、メリッサはつられて泣いていたのだ。
「なっ!? うるさいよ! 急に! どういうつもりだい?」
「だって、ナオミちゃんがママは見た目で誤解されるけど泣き虫ってよく言ってるしね。だから泣き虫のママを守ってねっていわれてるからさ」
「はぁ!? ナオミのやつ…… ナオミは私が守ってるんだから……」
「大丈夫だよ。僕も君と一緒にナオミちゃんを守る……」
イーノフはメリッサの肩を軽く叩くと、前に出てモンドクスを睨み付けて杖を構える。
「それと…… 泣き虫なママ…… 君もね」
「えっ!? イーノフ!」
振り返りニコッと笑って、少し恥ずかしそうにイーノフがつぶやくと、メリッサが顔を赤くして止まっていた。
「二人が…… やったです!」
「すごい! キャー! あつい! あついわ!」
「ほぇぇ! ラブなのだ!」
「こら! せっかくの二人が良い感じななんだから! 三人ともやめろよ!」
ソフィアとアイリスとポロンが一斉に声をあげ、必死にリックが三人を止める。
「(あっあの!? モンドクスにその怒りをむけてくださいよ……)」
なぜかメリッサはリックを睨みつけていた。少しの間、リックを睨みつけていたメリッサがモンドクスへと体を向けた。槍を両手に待ち、腰を落として、メリッサが槍を構えた。イーノフはメリッサを横目で見て苦笑いをしている。
「さっさと片付けて…… あいつらをぶっ飛ばすよ!」
「ダメだよ…… 叩くのはリックだけだからね。それもちゃんと訓練としてやりなよ。問題になるから!」
「わかったよ。リック! 後で訓練しようね」
「うん、彼は頑丈だからいくら叩いても平気だしね」
イーノフは振り返りリックに微笑むのだった。
「あの!? なんか二人の俺の扱いひどくないですか? 訓練でも痛いんですけど!?」
「うるさい!」
「えぇ……」
自分の扱いの悪さにリックがしょんぼりとする。ソフィアとポロンとアイリスは彼を見て笑っていた。
「いい加減しろ! べらべらとくだらないことを! 貴様ら全員ここで始末してくれるわ」
イライラした様子でモンドクスが、両手で剣を構え叫んで駆けだす。
「ふーん。あんた意外と早く動けるんだね。さすが将軍様だ」
「黙れ!!!」
剣を振り上げてモンドクスは、メリッサとの距離を一気に詰めた。メリッサは槍を構えたまま余裕の笑みを浮かべている。
「死ねええええええええええええええええええええええええええええええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」
「死ぬのはあんただよ!!!」
剣が振り下ろされるより速く、体勢を低くしてスッと前に出たメリッサは、槍でモンドクスの左肩を一突きした。手を上にあげた状態のままモンドクスは固まって、顔は苦痛に歪ませるのだった。
「なっ!?」
「ほおら! よそ見してる場合じゃないよ」
槍を引き抜いたメリッサが追撃で槍をつく。剣を降ろして左腕をダランとさせた、モンドクスは必死に槍をかわす。押されているモンドクスは、一歩ずつゆっくりと後ろにさがっている。下がっていくモンドクスにイーノフが杖を向けた。
「クックソ!」
「メリッサ! 離れて炎の聖霊よ! 力を! 精密誘導爆破」
「ウギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
メリッサはすっと二歩ほど後ろに下がる。直後にモンドクスの足元と、顔で小さい爆発が起こり、彼はバランスが崩す。
「今だ! みんな! 先に行くんだ!」
「はっはい!」
イーノフが休憩所の向かいにある先に続く扉をさして叫ぶ。リック達はうなずいて四人で扉に向かって走り出した。
「グっ!? 逃がすか!」
走りだしたリック達に気付いたモンドクスは立ち上がり。左手をリック達に向けた。彼の左手の先に空気が渦巻き、紫色の光が集約されていく。
「邪魔すんじゃあないよ!」
叫びながらモンドクスの足を、メリッサさんが槍を横に薙ぎ払う。
「うわ!」
足を払われてモンドクスは横に倒れた。リック達はモンドクスの横を駆け抜け休憩所を抜けて出て行った。メリッサはリック達を見送ると満足そうにうなずく。
メリッサは槍を戻し、倒れたモンドクスの足元に立って、見下ろしながら喉元に刃を突き付けた。槍を喉元に突き付けられたモンドクス、しかし、彼の顔には悲壮感のようなものはなくジッとメリッサを見つめている。
「覚悟しな!」
「フフ…… 調子に乗るなよ。はっ!」
「うわっ!? クソ!」
モンドクスの白い立派な髭が激しく光った。メリッサは目がくらみ左腕で顔を覆う。気づいたらメリッサの周囲には、大きな灰色の煙で覆われていた。
「イーノフ! 無事かい?」
「あぁ。大丈夫。君のすぐ後ろにいるよ」
イーノフの声を聞いて安心しうなずくメリッサだった。警戒しながら周囲をうかがうメリッサ、意外にも煙はすぐに晴れていく。薄れていく煙の中、モンドクスが自分の前に立っているのに気づくメリッサ。どうやらモンドクスは、整えだけに目くらましをつかったようだ。メリッサは改めて彼を仕留めようと槍を構えた。しかし……
「なっ!? これは?」
モンドクスが四人並んで、メリッサ達の前に立っていた。しかもメリッサ達にやられた傷も修復されている。メリッサは目の前に現れた四体のモンドクスに驚き戸惑い、モンドクスの姿を何度も首を振って確認する。戸惑うメリッサを見てモンドクス四体が同時に笑う。
「「「「ははは! どうだい? 驚いたかな? 私は増えるんだよ」」」」
「メリッサ!? 落ち着いて! ただの分裂魔法だ! 本体を倒せばいい。今本体を……」
杖に手をかざしてモンドクス達に向けたイーノフ。剣を構えた一体のモンドクスがイーノフへと向かっていく。
「黙れ! 貴様の相手は俺だ」
一体のモンドクスがイーノフとの距離をつめ斬りかかった。イーノフは後ろに飛んで剣をかわした。
「あっ!? メリッサ!?」
メリッサがイーノフさんに斬りかかったモンドクスの背後から槍を突き刺した。刺されたモンドクスがフッと消える。
「これで一体消えたね。さて行くよ! イーノフ! 面倒だから全員あたしがたおしてやる!!!!」
「もう…… それでいいよ」
ニヤっと笑って槍を頭の上で回転させ、構えたメリッサが残った三体のモンドクスに向かっていく。
「ばっバカな三対一…… ギャー!」
一瞬で距離をつめてメリッサさんが槍で、三人並んだうちの中央に居たモンドクスの胸を突き刺す。次に背後にまわりこもうと動いた、モンドクスに槍を左手一本で体をひねって上からたたきつける。モンドクスの頭が一瞬で真っ二つに割れた。
槍を構え直し最後の一体の方を向いてメリッサがほほ笑んだ。
「あんたが本体だね!?」
「なっ!? やめろーー!」
モンドクスが叫ぶと同時に、メリッサの槍が横に振られ、最後の一体の首が吹き飛んだ。メリッサはモンドクスの首が床に転がるとにやりと笑った。
「メリッサ! 気を付けて! 今のは本体じゃない!」
「なっ!? なに!?」
「ははは! そうだ魔法使い君の言う通りだよ」
モンドクスの笑い声が響き渡る。残っていた煙が一気に晴れていく。煙が晴れると、メリッサ達を三十人のモンドクスが囲んでいた。
「なっ!? こいつら……」
「残念だったな。もっと増やせるぞ……」
モンドクスの白い髭が光ると、モンドクス同士が二体に分裂し、数がさらに五十人に増える。
「どうだ!? 全員の相手ができるかな」
余裕の表情を笑みを浮かべるモンドクス達、イーノフとメリッサは顔を見合わせて呆れた顔をしてる。
「はん! なめんじゃないよ。だったら全員かたづけてやる。なっ!? イーノフ」
「もちろんだよ。僕達もなめられたもんだ立った五十人とはね……」
「はっ! 強がりを……」
二人の言葉に、モンドクスは驚いた様子で声を出した。大きく息を吐きメリッサが槍を頭の上で数回まわして構えた。だが、メリッサさんの前に立ってイーノフが手をだして彼女を止める。
「なんだい!? 邪魔だよ」
「待って! さっきは全部メリッサがやったんだから! 次は僕の番でしょ?!」
「チッ…… わかったよ。」
悔しそうな顔してメリッサが構えをといて、笑顔のイーノフが杖に手をかざした。大量の敵を前にどちらが戦うかもめる、二人を見つめるモンドクス、将軍である自分が舐めらたことに彼は怒りを覚えるのだった。
「貴様ら本当に…… なめおって」
「大丈夫ですよ。なめてません。本気で一気に行きます。氷の精霊よ! その刃で全ての敵を蹴散らせ! 氷槍乱舞」
イーノフの杖が青白く光り、モンドクス達の足元の地面から、氷の刃が現れて向かっていく。最初の攻撃で数人のモンドクスが胸を突かれて消える。氷の刃を避けたモンドクス達は剣を構えてイーノフに向かってくる。
「おっおい! こっ氷が…… おっ追ってくるぞ!? くっ来るな! 来るなああアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」
「「ぎゃああああああああああああああ」」
執拗に氷の刃は、モンドクスを追い回して、彼らに突き刺ささる。イーノフに向かって来たたモンドクスたちは一人、また一人と消えていく。
モンドクス達は散り散りになって逃げだした。イーノフの氷の刃により、モンドクスはあっという間に十体ほどに減らされた。二体のモンドクスが同じ方向に逃げていく、氷の刃が二体にむかっていく。
「おい!? 何をする!?」
二体のモンドクスの一体が、一人の足を剣で斬りつけ、その場から駆けだした。氷の刃が足を斬られたモンドクス一人に集中し襲いかかる。
逃げたモンドクスがイーノフを睨み付けた。
「貴様…… よくも! だが、今度は……」
「ふふふ。お前が本体だな」
「あっ!? 待ちな。イーノフ!」
モンドクスに向かってイーノフが駆けだした。いつもなら逆になるが、メリッサが後からイーノフさんを追いかける。
イーノフさんの接近に気づいたモンドクスが剣を構えてむかっていく。杖を構えて立ち止まった、イーノフは口を少し動かして魔法の詠唱を始めた。
「死ね!」
腰を落として両手で持った剣を振り上げてイーノフさんに向けた斬りかかる。メリッサさんが慌てて槍を投げようとするが間に合わない。
ニヤッとイーノフさんが笑い体を斜めにして剣をかわす。
「クッ……」
だが、イーノフはかわしきれずに剣は、彼の左腕の肩をかすめて、制服が破れ血が噴き出す。苦痛に顔を歪めたイーノフはだったが、前に出た右手に持った杖をモンドクスの顔に突き付ける。
「立派な髭だね…… これが君の力の源だね……」
「なっ!? 何だ!? 貴様! なぜわかった!?」
「フン…… 魔法使いが魔力の源を探れないわけ無いだろ…… 逃さない。君の…… お前の負けだよ…… 炎の聖霊よ! 炎大砲!」
杖の先から大きな火の玉が、至近距離でモンドクスに発射された。一瞬で彼の顔面を炎が包み込み燃え上がり。炎は激しく高い天井が黒く焦げるほど燃え上がった。
「髭がーー!? 俺のひげがー!? あっ熱い! 熱いよおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」
燃えた顔を両手で覆い上を向き、モンドクスが叫んでいる。黒い煙が手の指の間から立ち上っている。
火が消えて、手から顔を外し、イーノフの見下ろすモンドクス。彼の顔は、黒く焦げて皮膚がただれて、髭はなくなっていた。
「貴様…… よくも…… ゆっゆるさん…… ゆるさんぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
モンドクスの崩れた顔を見て、左腕を押さえながらイーノフが笑った。
「今だ…… メリッサ! やつはもう分裂魔法をつかえない! 倒すんだ!」
「イーノフ……」
振り返ってイーノフさんがメリッサに叫ぶ。イーノフの言葉に頷いたメリッサが槍を逆手にもって、振りかぶり槍をモンドクスに向かって投げた。
「この…… 死ねーー!」
モンドクスがイーノフに拳に振り上げる。だが、すぐに一閃の光が拳を振り上げていた、モンドクスの胸を貫いて行く。モンドクスの胸にメリッサの槍が突き刺さったのだ。
槍はモンドクスを貫通し壁に突き刺さった。穴の開いたモンドクス胸から、大量の血が噴き出してイーノフにかかる。
「うぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
メリッサの槍が突き抜き、少し間をおいて大きな声が響き渡る。モンドクスは膝をつき、すぐに仰向け倒れて動かなかくなった。以前と同じく灰のように細かくなってモンドクスは消えていった。
それを見たイーノフも膝をついて仰向けに倒れて、拳を握って右手をあげて大きく笑った。
「いたた……」
すぐに右手を降ろしてイーノフさんが左腕を押さえる。ゆっくりと歩いて怖い顔のメリッサさんが、イーノフの頭の上に立って顔を覗き込む。
「あんた! 無茶して!」
「はは、大丈夫だよ。ちょっとかすったくらいだから…… いた! もう少し優しくしてよ」
「うるさいんだよ! 大人しくしてな!」
イーノフの横に座ったメリッサが、イーノフの左腕を乱暴に触ってケガの状態を見てる。すぐにブスっとした表情のメリッサの左手が優しく緑色に光った。メリッサはイーノフに回復魔法をかけているのだ。
「まったく…… あんたはバカなんだから……」
「ばっバカって…… 君に言われたくはないな」
「でも…… 無事でよかったよ……」
「うん……」
メリッサは目に涙を浮かべ怒りながら笑っている。イーノフは体を起こし、そっと右手をメリッサの頬に当てた。
「えっ!? もう……」
「たまにはいいだろ? 誰もいないし……」
右手で優しくイーノフは、メリッサの顔に自分の顔を近づけ、唇を重ねるのだった。