第230話 疾病魔人
頭にスラムンを乗せたキラ君の隣にゴーンライトさんが立ち、すこし離れた場所にジオールがいてにらみあう。はりつめた空気が周囲をつつんでく。スラムンがゴーンライトの方を向いて何やらつぶやいている。
「死ねーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
沈黙を破りジオールが、叫びながらスラムン達へ向かって駆け出した。体は大きいが、ジオールのスピードかなり速い。スッとゴーンライトさんがスラムン達の前にでてきて、彼は手に持った二枚の盾を前に向けて重ねた。
「行きます! 闇土障害物」
「うわ!? チッ! こんなもの」
ジオールを囲うように、彼の胸ほどの高さの壁が現れた。スラムン達とジオールの間に壁が十枚ほど置かれジオールを阻害する。ゴーンライトは攻撃が不得意だが、相手の攻撃を遅らせたり、阻害したりする腕は一流だ。
「今ズラ! アイリス! 先に行くズラよ」
「わかった…… これ!」
「なんズラか?」
キラ君にアイリスは袋を差し出して握らせた。スラムンはアイリスに向かって飛び跳ねる。
「スラムンの好きなサンドイッチだよ。あいつを倒したらみんなで食べてね」
「わかったズラ! 楽しみズラね」
嬉しそうにキラ君の頭の上で飛び跳ねるスラムン。キラ君もうれしいのか両手を上下に振っている。アイリスは二人を見て微笑んでいる。
「何してんだい! 行くよ」
「はっはい!」
メリッサに呼ばれたアイリスが駆けだす。リック達は壁の横を通って向かいの扉へと走っていく。
「貴様ら!? 待て!」
邪魔されて悔しそうな顔をした、ジオールが壁に手をかけて飛び越えようする。
「行かせないズラ! キラ! ゴーンライトさんの作った壁に隠れてジオールのとこまで行くズラよ」
ジオールは壁の上に乗って、飛びながらリック達を追いかけようとした。キラ君はゴーンライトの作り出した壁に隠れて。ジオールに気付かれないように近づいていく。
ジオールはキラ君が隠れてる壁の一枚前の壁に飛び乗った。
「今ズラ!」
キラ君が壁の上に飛び上がりジオールの前に出た。突然、現れたキラ君にジオールは驚いたが、すぐに右の拳を振り上げて攻撃態勢に入った。
「このっ!!」
ジオールはキラ君に向けて右拳を振り下ろす。キラ君が両手の盾で拳を受け止める。すぐにキラ君の頭の上のスラムンが飛び跳ねてジオールの顔の前に!
「ははは! スライムごときが、何をするつもりだ!?」
ジオールは顔の前にいるスラムンを見て、不敵な笑みを浮かべている。キラ君からジオールが右手をはなして、今度は右手の平で目の前にいるスラムンを叩こうとした。
「ズラズラズラーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!! 必殺! スラムンファイアーズラアアアアアアアアアアア!!!!」
空中で口をすぼめたスラムンから大きな炎がジオールに向かって発射された。
「あっ!? クソ!!!!!!!!!!!!!!」
余裕な顔をしていた、ジオールは青ざめた顔に変わり、壁の上でのけぞった。何とか炎の着撃は避けたが、炎はジオールの頭の二本の角のをかすめた。
「ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
のけぞってバランスを崩したジオールは壁から落ちた。ゴーンライトが作り出した壁と壁の間に、ジオールが背中から落ちて大きな音がする。
「どうだズラ!」
炎を吐いたスラムンはキラ君が飛び上がり、捕まえると下に倒れているジオールに叫んだ。壁の上に乗ったスラムンに、リック達が扉に到着し奥へ進むのが見えた。ゴーンライトが作った壁がゆっくりと消えていく。
「クソ…… スライムがごときが……」
悔しそうな表情でジオールが起き上がる。角が真っ黒になってる。スラムンの炎はかすった程度ではあったが、焦げたジオールの頭の角がボロボロと崩れていく、ジオールは気づいて無いのか角のないままスラムン達にむかって歩き出す。
「角がない方が男前ですね。ジオールさん」
「はっ!?」
笑いながらゴーンライトがジオールを指をさして声をかけた。
「つっつのが!? 貴様!? 何をした?」
ジオールは頭を触って角が無いことがわかると、最初焦っていたが、すぐにスラムンを睨み付け表情が怒りにみちていく。
「オラが吐いたのは地獄の業火ズラよ!」
「地獄の業火だと? 上級の魔物しか使えない技を…… なぜスライムごときがこの技を!?」
「厳しい野生で生き残るためには…… 強くなるしかないズラよ! 強くなれば自然に技は身につくズラ!!」
「強くなるだと!? 下等なスライムのくせに!」
「オラは野良の魔物として三十年生きたスライムズラ! 将軍と呼ばれ魔王軍に守られてきたおぼっちゃん達とは違うズラよ」
「なっ!? 貴様!? 殺してやる!」
怒ったジオールが再び駆けだす。盾を持ったゴーンライトがまたスラムン達の前にでてかまえた。
「ゴーンライト、待つズラ! 任せるズラ! オラは炎だけじゃないズラよ! キラ行くズラよ!」
キラ君がスラムンを頭にのせてボーンライトさんの前に出る。
「氷の精霊よ我に力を貸すズラー! 凍結空間」
スラムンの体が青く光り、再び口をすぼめたスラムンの口から、今度は白い煙のようなものが勢いよくジオールに噴射された。
「わっ! うわ! なっ何をする!?」
ジオールは顔の前に手をだして必死に抵抗してる。スラムンの口から、ジオールに向け発射された煙が彼を襲う。真っ白な煙に巻かれてジオールの姿が見えなくなり、ジオールが必死に手を動かし、煙を払っている影だけが煙に映っている。
徐々に白い煙が徐々に消えていった。
「クソ! あっ足が!? うっ動かん」
煙が消えて足を押さえているジオールの姿が現れた。ジオールの足元は地面から、膝くらいまで白い氷に覆われて凍り付いていた。
「もう動けないズラね!どうだズラ! 四邪神将軍もたいしたこと無いズラな! 降参するズラか?」
スラムンが勝ち誇ったような声でキラ君の上で飛び跳ねている。
「貴様! スライムの癖に! もう許さんぞ! 本気になってやる。スーーーーーーー!」
ジオールが息を大きく吸い込むと、体どんどんと膨れ上がって丸くなっていった。以前、リック達と戦った時は体が浮カビ上がったが、今はスラムンに足を氷漬けにされているので浮かび上がらない。限界までパンパンに膨れ上がったジオールは口をすぼめると、彼の口から真っ黒な雲がモクモクと吐き出される。
雲がジオールのすぐ上に浮かび、螺旋廊下の松明の光を遮り少し薄暗くなった。
「雨を降らす気ずらね。疾病魔人の本来の力ってわけズラか……」
「ふふ! 今は雨だけじゃないぞ!」
「なっなにズラ!?」
ジオールは不敵に笑い、両手をスラムンに達に向けた。するとジオールの頭上に、吐き出された雲から、大きな雷が発生してスラムンを襲う。青白い光が瞬きながらキラ君へと迫る。
「危ないズラ! キラ」
キラ君が何とか反応し、雷を盾で防いた、しかし、威力が強いのかキラ君は後ろに押され倒れそうになり、顔を歪めきつそうな顔をする。雲を吐き出しながら、ジオールはうっすらと笑いながらスラムン達を見つめている。
「防いだか…… でも次はどうかな? 雲の量が多ければ多いほど雷は威力をますぞ!」
雲を吐き出しながら、しゃべるジオールが再び手をスラムン達に向けた。同時に青白い稲妻が雲から光を放って瞬き二人に向かって行く。
「逃げろ! キラ! えっ!?」
白い稲妻の光を浴びながら叫ぶスラムン。直後に、二枚の盾がキラ君の前に突き刺さった。
「最終防御!」
ゴーンライトの声が響き、地面に突き刺さった盾が大きくなって、キラ君に向かってくるジオールの雷を防いだ。盾はゴーンライトの物だった。キラ君とスラムンは大きくなったゴーンライトの盾の陰に隠れている。二人に笑顔でゆっくりとゴーンライトが近づく。盾の周りではジオールの雷が轟いている。
「すごいズラ! ゴーンライトさん」
「いやぁ、僕が盾を持ってるのは味方を敵の攻撃から防ぐためですから」
「キラも嬉しそうズラ!」
嬉しそうにキラ君がゴーンライトに手を叩いて喜んでいる。ゴーンライトは珍しく褒められて恥ずかしそうにする。スラムンがゴーンライトに声をかける。
「ふぅ、でも、あの雷は厄介ズラ」
「雲を何とかしないと雲が大きくなると雷も強くなるみたいですね……」
「オラがやつの口に……」
「スラムンさんを!? あっ! そうだ! 雷は上から…… そうだ! こうしましょう! ちょっとこっちへ」
スラムンがキラ君からゴーンライトの肩に乗った。ゴーンライトはジオールに聞こえないようにスラムンに小声で話をする。
「わかったズラ! キラ。ゴーンライト。頼むズラよ!」
「任せてください!」
キラ君が持った二枚の盾のうち一枚をゴーンライトさんに渡した。
「行きますよ。キラ君! スラムンさん!」
ゴーンライトの大きくなった盾が徐々に小さいくなっていく。盾が元のサイズに戻った。直後にゴーンライトの盾にジオールの雷が当たり盾は二枚とも倒れた。盾が倒れると同時に一枚ずつ盾を持った、キラ君とゴーンライトさんが左右に分かれて走り出す。
「はは! 盾しかない貴様らが分かれてどうするつもりだ!」
キラ君とゴーンライトに向けて雷が落とされる。しかし、二人は盾で防ぎながら、走り回っている。ジオールは二人にめがけて雷をはなち続けた。
倒れたゴーンライトの盾が少しずつ動きだす。雷が光るたびに星形のマークのついた、大きな鉄製の四角い盾が、少しずつ動いてこっそりとジオールに近づく。まるで何かが這ってるようだ……
「うん!? なんだ!? なぜ盾が俺の足元に?」
雷を動かすことに集中していたジオールは、足元に盾が近づいてきていたのに気づかなかった。
「かかったズラーー!」
盾と地面の隙間から、素早く飛び出したスラムンがジオールの顔に張り付く。
「貴様…… ぐちゅ…… んちゅ!」
スラムンはジオールの顔に張り付き、雲を吐き出していた、口に自分のからだを入れて栓をする。苦しそうな表情をするジオールだった。口をふさがれたジオールの体がさらに膨れ上がっていく。雲が吐き出されずに、に雲がたまってる膨れて行ってるようだ。
スラムンはジオールの顔に、張り付いたまま、肥大化するやつの体を見つめていた。
「はっ?!」
目を見開いたスラムンは何か思いついた顔をした。
「キラ! ゴーンライト! 別れて横から盾で押すズラ!」
「えっ!? わっわかりました。行きますよ。キラ君!」
キラ君とゴーンライトがジオールの大きくなった体を左右から盾で挟む。二人が挟むとジオールの体は、潰れていき縦に細長くなっていく。
「ンぐ!? んちゅ!」
「そうズラ! 押し込み続けるズラーーー!」
盾を前にだしてゴーンライトとキラ君がジオールの体を必死な顔して押し続けた。ジオールは苦しそうにもがいている。
「グバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!! やっごぼぉ!!! やめグバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ジオールの膨らんだ体は左右から押されてドンドン縦に細長くなっていく。すぐにジオールの限界が訪れた。パアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! 強烈な破裂音が地下に響き渡った。
ゴーンライトとキラ君が押し続けたジオールは破裂した。スラムンは吹き飛ばされた。ジオールの体はキラキラと舞い上がり細かい粒になって周囲に散らばった。
「やったズラ……」
ひらひらと地面へと向かって落ちていくスラムン。
「危ないです! わっわ!!!!」
スラムンが落ちそうなところに、駆けて来たゴーンライトが何とかつかんだ。だが、ゴーンライトはスラムンを掴むとバランスを崩し倒れてしまった。倒れる時にゴーンライトは、とっさに背中を地面に向けスラムンを胸に抱えた。倒れたゴーンライトは笑いながら彼の胸で、平べったくなっているスラムンに声をかける。
「やりましたね」
「でも…… 疲れたズラ」
「うがあああああああああああ!!!」
叫び声が聞こえた。二人が視線を向けるとキラ君がアイリスがもらった袋を掲げて走って来る。
「じゃあ休憩にしましょう。サンドイッチで!」
「そうずらね!」
サンドイッチと聞いたスラムンは、ゴーンライトの胸の上で嬉しそうに飛び跳ねるのだった。