第227話 聖剣は牢獄の下に
アイリスがソフィアとポロンを睨むのをやめ、静かに真剣な顔をして、リックとソフィアとポロンを見ている。
「まぁ真面目な話をすると…… ローズガーデンにある祭壇から大地破壊剣がある場所まで私達だけじゃ心細いから協力してほしいのよ」
「あぁ。大地破壊剣はローズガーデンの地下深くに剣がささってるんだよな」
「そうよ。祭壇から独房の螺旋廊下を下った先に大地破壊剣がささってるのよ。かなり長い廊下で魔物もでるから護衛をお願いしたいの」
大地破壊剣は勇者アレックスが、魔王との戦い敗れて殺された彼の傍らに落ちていた。次にこの剣にふさわしい勇者が現れるまで、大地破壊剣は回収されて元にあった場所に戻された。
剣が戻されたのは、ローズガーデンの地下の洞窟の奥深くの岩だった。大地破壊剣は元々この岩に刺さっていた。何人もの人間が聖剣を抜こうしたが、アレックス以外に抜ける者はいなかった。
なぜ、大地破壊剣がそこにあったのかは不明だが、グラント王国が建国されるはるか昔から、岩にささっており周辺の民から、聖剣と崇められいた。ローズガーデンがある地域をグラント王国が統治したさいに、その時代の国王が犯罪を正義の剣が裁くという意味で、岩の上に牢獄の町ローズガーデンを建設した。
リックはアイリスの顔を見つめ、ついにアイリスはアレックスに匹敵するのか、勇者へと成長したのかと感慨深くうなずくのだった。
真剣な表情からニコッと笑ってアイリスが話を続ける。
「まっ実はあなた達はもう断れないだけどね。隊長さんには許可はとったもん! 剣を抜くまでちゃんと護衛して、私のかわいい勇者としての姿をその目に焼きつけなさいよ」
「なんだよ。それじゃお願い来たんじゃなくて次の任務を知らせに来ただけじゃないか」
「えへへ」
いたずらに笑って頭をかく仕草をするアイリス、リックは微笑み小さく息を吐いた。
「はぁ…… わかったよ。しっかり護衛してやるから、アイリスは大地破壊剣をちゃんと剣を抜けよ」
「何を言ってるのよ。大丈夫よ。私を誰だと思ってるの? グラント王国S1級勇者のアイリス様よ!?」
「普段のアイリスより態度が大きいです」
「でっかいのだ」
「こら! うるさいわよ。ソフィア!」
勇者の才能ランク最上級のS1級と、認めららたアイリスなら大丈夫だろが、リックは自信満々な顔して胸を張る、アイリスをみるとすこし不安になるのだった。
しばらく何かを考えて魔物生息図を取り出して見た、ソフィアが首をかしげてアイリスに声をかけた。魔物生息図は兵士に渡される王国にどんな魔物が出るか乗っている本だ。
「でも、これ見るとローズガーデンの地下には強い魔物でませんよ? 護衛必要ですか?」
「えっ!? だって…… 私が剣を抜くところみせられたら…… メリッサ姉さんが喜ぶかなって…… だから…… ついて来てもらおうって思って……」
うつむいて少し恥ずかしそうにするアイリス。メリッサは伝説の勇者アレックスと結婚していた。ちなみにアレックスの亡骸の傍らに落ちていた剣を、元にあった場所に戻したのはメリッサだ。なぜかメリッサ以外の人間は大地破壊剣に触れられなかった。しかも、触れたメリッサでさえ大地破壊剣を、敵に使用しようとすると、拒絶されたという。アイリスは自分が大地破壊剣を抜き、アレックスを継ぐところを彼女に見せたいのだ。リックはアイリスの気持ちが嬉しく笑顔でうなずく。
「そうか。アイリス…… わかったよ」
「わかりました。私も頑張ります」
「頑張るのだ!」
リック達が答えるとアイリスも嬉しそうに頷いた。
「ありがとう! ソフィア、ポロンちゃん…… リック! んー!」
「うん!? 何してるんだ? タカクラ君の真似でもしてるのか?」
リックの隣でアイリスが顔を上にむけ、目を閉じて口を尖らせた。アイリスの意図が分からず首をかしげるリックに、目を開いて彼を見たアイリスは頬を膨らませる。
「リック。なっなにしてるのよ!? 早くしなさいよ!」
「なっなんだよ? 急に?」
「はぁ!? こういう時、恋人同士はせっ接吻でしょ?!」
「ふーん…… ポロン! アイリスとチューしてあげて」
「わかったのだ! チューなのだ」
「あぅ! ちょっとポロンちゃん!?」
ポロンが席から飛び降りて、アイリスの顔を押さえて口にチュっと口づけをした。アイリスは抵抗したが、ポロンの力にはかなわない。ポロンの力にはリックもメリッサさんも、苦戦するほどなので勇者のアイリスでも不意につかまれたら逃げられない。
「ぷはぁ! 私の…… 初めてのチューがポロンちゃんに……」
「いやなのだ?」
「ううん!? いやじゃないの!? でもちょっと複雑…… わっ! やめて!」
笑いながらポロンは、またアイリスの顔を押さえ、今度はほっぺたに口づけをする。リックはポロンに口づけされるアイリスをうらやましく見ていた。なぜなら、彼が初めてほっぺたに口づけされたのが、酔っぱらったメリッサだからだ。この点ではリックは、アイリスに大差で負けていた。
「(ふふ…… この光景をエドガーとタンタンが見たらアイリスはかなり恨まれるんだろうな)」
ポロンとアイリスを見て、微笑むリックとソフィアだった。食事も終わり四人はしばらくくつろいでいた。リックとポロンとアイリスがカードゲームで遊び、ソフィアは本を読み、時々リック達を見てほほ笑んでいる。
「ふわあああああなのだ」
ポロンが眠そうにあくびをした。もうそろそろ寝る時間だ。リックはポロンに声をかける。
「さてポロン。そろそろ寝ようか?」
「ねむいのだ! 寝るのだ!」
目をこすって眠そうにするポロン。リックはアイリスに視線を向けた。
「アイリスは帰らなくて平気なのか?」
「うーん。もうこんな時間か…… でも、スラムンもキラ君もどうせ帰って来るの遅いから……」
ポケットから紐のついた、懐中時計を出し、時間を確認したアイリスがソフィアに声をかける。
「ねぇ!? ソフィア、今日はここに泊まっても良いかしら?」
「良いですよ」
「やった! じゃあ、リック!」
手を伸ばしたアイリスが、リックの腕をつかみ、自分の方へと引き寄せる。
「なんだよ。引っ張るなよ」
「何言ってるの? ここに私が泊まるのよ? リックと寝るに……」
「ポロン! 今日はアイリスが一緒に寝てくれますよ! よかったですね」
「ほんとなのだ!? わーいなのだ! 私の部屋はこっちなのだ」
嬉しそうな顔したポロンが、アイリスの手を握り、自分の部屋を指さして行こうとねだっている。
「えっ!? ポロンちゃん? 私はリックと……」
「やったのだ。いっぱいアイリスとお話するのだ!」
ポロンの様子を見てほほ笑んだソフィアが、アイリスの後ろからニヤッと笑って声をかけた。
「アイリス、ポロンをお願いです」
「ちょっと!? ソフィア!? あんた!? 始めからこれを狙って私が泊ってもいいって!?」
「ニヤリです!」
「覚えてなさいよ! ソフィア!」
「うん!? わたしと一緒じゃいやなのだ?」
泣きそうな顔をポロンにされてアイリスが困った顔をする。
「えっ!? 違うのよ。ポロンちゃんと一緒は嬉しいの」
「じゃあ行くのだ」
アイリスはポロンに手を引かれて、ポロンの部屋へと連れて行かれる。部屋に入る瞬間に振り返り、アイリスはソフィアをジッと睨むのだった。ポロンの部屋の扉が閉まるとソフィアはそっとリックの手を握った。
「じゃあ今日は二人で寝ましょう……」
「えっ!? うっうん……」
顔を真っ赤にしてうなずくリックにソフィアは微笑む。リックとソフィアは手をつないでリックの部屋へと向かうのだった。
翌日、リック達とアイリスは一緒に詰め所に出勤した。スラムン達を待たなくていいのかと、リックが問いかけたが、アイリスの予想ではスラムン達は詰め所にいるという。
詰め所について中に入ったあリックに、カルロスがぐでーっと机に突っ伏している姿が見えた。リックは慌ててカルロスに駆け寄る、カルロスの頭の上にはスラムンが乗っており、彼もよれよれとして元気がないように見えた。
「たっ隊長!?」
「あっすまん大きい声ださないでくれ…… ソフィア…… 水を……」
「お酒臭いのだ!」
「リック。隊長は二日酔いですね…… 昨日飲みすぎたですよ」
「なんだ…… 心配して駆け寄って損した……」
昨夜、第四防衛隊とアイリスパーティの、リーダーという同じ立場のカルロスはスラムンの二人は、盛り上がり酒を飲みすぎたようだ。アイリスは、カルロスの頭の上に乗っている、スラムンに顔を近づけ鼻をつまんだ。
「もう! スラムンもお酒くさい! 飲みすぎたでしょ!」
「すまんズラよ。隊長さんが飲ませるズラからつい……」
「もう! キラ君のこと見てていったでしょ!?」
「キラはイーノフさんが見ててくれたズラよ」
「えっ!? ほんとだ……」
イーノフが自分の席で、キラ君に本を見せている。リック達に気付いたイーノフは、手をあげて挨拶し嬉しそうに話をする。
「うん。キラ君は何を言っても、黙ってうなずいて聞いてくれるんだ…… うれしかったなぁ……」
「なんだい!? いつも一緒に居る人は黙ってないってかい?」
「ちっ違うよ!? メリッサ!?」
イーノフの隣の席でメリッサが、腕を組んで不満げに声を上げている。メリッサは機嫌が悪いようだ。
「だいたい。なんであたしとゴーンライトを誘ってくれないんだい!? ねぇ!?」
メリッサはイーノフの隣の席にいる、ゴーンライトにイーノフの頭越しに声をかける。どうやら酒好きの彼女は、飲みに連れて行ってもらえなかったのが不満のようだ。
「いや…… 僕は別に……」
「あぁ!?」
立ち上がり、ゴーンライトを睨むメリッサ。怯えた彼は必死に目をそらすのだった。カルロスが不機嫌なメリッサに二日酔いがつらく、顔をしかめながら声をかける。
「ほら、メリッサ、ゴーンライトを脅すのやめなさい。だいたいお前さんはナオミちゃんの世話があるだろ?」
「それに僕と隊長はメリッサが帰った後、たまたまやってきたスラムン達と飲みに行ったんだよ!?」
「あーはいはい、あたしは邪魔だったんだよね!?」
そっぽむいてへそを曲げるメリッサ、リックは大人気ないなとあきれると同時に、カルロスもイーノフもメリッサが、酒好きなの知っているのだから、誘えば面倒なことにならないのにと思うのだった。
「うん!?」
ポロンがメリッサの前に立ち、カルロスとイーノフさんを怒った顔で見つめてる。
「メリッサは怒っちゃダメなのだ。みんな仲良くなのだ。あと隊長もイーノフもスラムンもメリッサにごめんなさいするのだ! 仲間外れはダメなのだ」
イーノフとカルロスとメリッサがポロンに怒られる。ポロンに言われたメリッサは気まずそうに頭をかくのだった。イーノフとカルロスはポロンに言われて、気まずそうにメリッサに謝るのだった。三人を見て満足そうにうなずくポロンの頭をソフィアが優しく撫でるのだった。
「よし、お前さん達集合してくれるかい」
メリッサに謝ったカルロスは、席に戻ると第四防衛隊の全員を机に集合させた。呼ばれた全員は隊長の机の前に並び、カルロスの左横にスラムンを頭に乗っけたアイリスとキラ君が並んで立つ。
「もうみんなもわかってると思うが、アイリスちゃんが大地破壊剣を取りにローズガーデンに向かう。お前さん達は大地破壊剣を受け取るまで護衛を頼む」
「わかったよ」
アイリスがどうだって言う顔して俺達の前に立ってる。大地破壊剣を取りに行くまでの勇者になって、すごいのはわかるけど態度でかすぎだぞ。
メリッサさんがアイリスの顔を見ながら目を細めて、感心した口調で話しかける。
「ついに大地破壊剣まで…… まさか、あんたがねぇ…… 最初に会った時は変な勇者って思ったよ。」
「本当だよ。いきなり抱き着いてくるし、女の子だと思ったら男だしね」
「あっあの?! イーノフさん!? 男って言うのやめてください! 私は女の子ですからね!」
プクっと頬を膨らまし、アイリスがイーノフへと詰め寄った。そしてアイリスはうっとりした顔で、イーノフの腕をつかんだ。
「あわわ! リック。何とかして!」
「どうです? 男かどうか試してみます? ふふふ…… かーわいい!」
必死にイーノフがリックに助けを求めている。イーノフに抱き着きアイリスは彼の胸に額を擦り付ける。
「えっ!? おい!? アイリス! 胸に指をはわすな!」
「うるさいわね! あんた達が昨日やってたことに比べればマシじゃない!! まったく壁が薄いのにポロンちゃんに聞こえたらどうするのよ!!!」
「うっ!? うるさい!!! そんなに激しくは……」
「リッリック!!!」
顔を真っ赤にしたリックは、アイリスをイーノフさんから引き離した。ソフィアはアイリスの言葉に、顔を真っ赤にしてうつむいた。昨日、二人で寝たリックとソフィアは当然のようにやることはやっていた。引きずられるアイリスはソフィアの前で叫ぶ。
「フン。ソフィア! リックは必ず奪い返してやるんだからね!」
「ふぇぇぇ……」
「そもそもお前から奪ったわけじゃないだろうが!!!」
「キーーーーーーー!!!」
ポケットから白いハンカチを出して口にくわえ下に引っ張るアイリス。普段ならスラムンがいい加減止める時だが、二日酔いのスライムはほとんど機能していなかった。呆れた表情をし、メリッサとカルロスが額に手をおいて顔を横に振っている。
「まったく…… そんなんだから変な勇者とか言われるんだぞ!?」
リックはハンカチを咥える、アイリスにあきれた顔をする。ゴーンライトはそんなアイリスを見つめて嬉しそうにしている。
「僕はアイリスさんは立派な勇者だと思いますよ。ローズガーデンに居る妻も会えたら喜ぶと思います!」
「妻? ゴーンライトさんの奥さんってローズガーデンに居るの? 犯罪者なの?」
「違うよ。ローズガーデンの町長のブリジットさんがゴーンライトさんの奥さんなの!」
「えっ!? そうなんだ!?」
ドンバル国での旅行の時にアイリスは、ブリジッドとゴーンライトに会っておらず、二人が夫婦だとは知らなかった。ちなみにゴーンライトは毎日ローズガーデンから王都のテレポートボールで通っていた。また、エルザさんからの情報によるとたまに遅くなって帰れない時は、イーノフの家に泊めてもらっているという。なぜエルザがリックも知らなかった事情を知っているかは謎だが……
カルロスがすっと立ち上がって扉を指さした。
「とっとにかくお前さん達はすぐにローズガーデンに向かってくれ!」
「はいよ。みんな行くよ! 準備しな」
メリッサがリック達に号令をかけた。リック達は準備を整えるのだった。
まず、イーノフがアイリス達と一緒に先に転送魔法でローズガーデンに向かい。残ったメンバーは各自テレポートボールでローズガーデンへ移動するのだった。