第223話 本物現る
リックがパロメに肩を貸してポロンが彼女を支え屋敷まで運んだ。
赤茶色のレンガの綺麗な屋敷は内部も清掃が行き届いて綺麗だった。二階の大きな部屋に通されたリック達は、ピンク色のシーツの大きなベッドに彼女を寝かせた。
ベッドに寝かされたパロメをすぐにナオミちゃんが回復魔法をかける。ベッドの横でリック達はその様子を見つめていた。庭で木を切っていた男が横に並ぶとリックが彼に体を向けた。
「俺は第四防衛隊のリック。こっちは同僚のソフィアと冒険者のミャンミャン。回復魔法をかけてるのがナオミで、ドワーフがエドガーと男の子がタンタン。ハンマーを背負ったのがポロンだ」
「僕はエディです…… 立っててもなんなんでソファに腰かけてください…… あっ!」
エディとリックが自己紹介をすますと彼は部屋から出ていった。リック達はナオミとパロメをベッドに残し、エディに言われたように部屋に置かれたソファに座る。部屋にはベッドの他に大きなソフィアが二つでテーブルを挟んで置かれていた。しばらくするとワゴンにお菓子とティーセット乗せてエディさんがやってきた。
「いやぁすいません。皆さんお構いもせずに」
「ちょっと! エディ! 何お茶なんか出してるのよ。こいつらパパの手先よ!」
「えぇ!? でも、お客さんだし……」
パロメがベッドから上半身を起こし、エディさんに文句を言っている。だが、彼女はすぐに左肩を押さえて顔がゆがませる。
「いたた……」
「まだ動いたら駄目だよ。ポロンの一撃をまともに受けてるんだから」
「いちおう手加減はしたのだ!」
「はいはい…… ほんと? 肩の骨が思いっきり折れてるけど……」
「したのだー! ブウなのだ!」
手加減したと不満げにするポロン、元から力の強い彼女が、大きいハンマーで叩けば、常人であれば怪我するか下手したら死んでしまう。ポロンが顔を膨らませてナオミちゃんにムーって顔を向ける。
「まぁまぁ、喧嘩しないでください。これどうぞ僕が焼いたんですよ」
「美味しそうです」
「ほんとうだ」
「おぉなのだ!」
エディはポロンの前にクッキーの皿を置いた。ポロンとソフィアとミャンミャンの目が輝き、クッキーを手に取って口に入れた。
「美味しいのだ!」
「本当! 美味しいわね。ポロンちゃん! ほらタンタンも食べてみな」
「美味しいです」
「ちょっと! みんな! ずるいよ。私の分取っといてね」
ポロンとソフィアとミャンミャンがクッキーをパクパクと食べて、それを見たナオミが必死に残しておくようにいってる。エディはポロン達の様子に苦笑いをしている。
「終わったー!!! 私もクッキー!!」
「ははっ」
「ごめんなさい」
ナオミも治療が終わってクッキー争奪戦に参加してる。ソフィア達のクッキーに対しての、ものすごい執念に苦笑いするエディ、リックは気まずくエディに謝るのだった。
ゆっくりとパロメも起き上がりベッドから歩いてきた。安心した顔してエディがパロメに紅茶を渡して、パロメさんは嬉しそうに口をつけた。
リックは二人の様子を見て話を始める。
「お二人はいったいどうしてここに? パロメさんは誘拐されたんじゃないんですか?」
「ううん。私は自分の意志でここにいるの。誘拐って騒いでるのはパパだけよ。だってエディとは昔からのお友達ですもの」
「そうだよ。僕は元々この屋敷を所有していた貴族の息子です。昔は夏になるとここに遊びにきてパロメとは幼い頃からの友達なんです」
二人は幼い頃からの友人だと言う。では、なぜモリドールは誘拐などと言ったのだろう。
「じゃあ、どうしてモリドール男爵は亡霊騎士に誘拐されたなんて……」
「それは私が亡霊騎士だから…… あなた達も見たでしょ? 私がこの森の亡霊騎士なのよ」
「なんでそんなことを?」
「この廃屋に人を来させないためにね。ずっと私が亡霊騎士をしてたのよ。まったく廃屋とか森にあるとすぐにみんな肝試しとかして近づこうするんだもん」
パロメがリック達を睨む。ポロンとエドガーとナオミは首を横に振った。彼らは依頼があったから、ここに来ただけで決して肝試しなんて不謹慎な気持ちで来たわけでない。リックとソフィアも同じだ……
「(うん!? まぁ二人はね……)」
ミャンミャンとタンタンがパロメに睨まれ申し訳なさそうな顔をする。冒険者の二人は、興味本位で肝試しみたいな気持ちで、ここにやってきた。
「どうして? そこまでしてここを守るんです?」
「だって、ここ私の屋敷だし!」
「えっ!?」
両手を広げ、この屋敷は自分のだというパロメ、驚くリック達を見て彼女はいたずらに笑った。
「まっ正確には一時的に買い取ってるだけなんだけどね」
「どういうことですか?」
「私の両親が借金をして夜逃げしてしまい…… 借金を返すためにこの屋敷を私がパロメに買ってもらってたんです」
「そう。だからこの家は私のなの」
「僕はパロメにお金を返してこの家を買い戻すために近くの鉱山で働いて、時々大好きなこの屋敷の庭の手入れをパロメに頼んでさせてもらってたんです」
借金で苦しむエディの為にパロメは、この家を買い取りエディは、家を買い戻すために働いている。リックは話を聞いて首をかしげた。
「でも、ならどうして? 誘拐騒ぎに? この家はパロメさんの物で亡霊騎士もパロメさんなんだよね?」
「それは…… 僕はいつか…… この屋敷を買い戻して…… パロメと……」
「私もエディが頑張ってお金を貯めるのを待ってたの…… でも、パパが私から無理矢理にここをうばったのよ」
「えぇ!? モリドール男爵が? どうして?」
「私をエディから引き離して、ベストウォールの領主の息子と結婚させてるためよ。そしてこの屋敷は潰して宿屋にして祝福の泉を汲み来る人相手にお金を稼ぐつもりなのよ」
パロメとエディは互いに顔を見合せて暗い表情をしうつむく。
「じゃあ、モリドール男爵から屋敷を奪い返すために? 誘拐を?」
「ううん…… パパは私が戻ったらまた同じことするに決まってるわ。だからエディにここをまた買い取ってもらうの」
「えぇ!? どうやって?」
「僕とパロメが契約した際に、倍の金額を払えばいつでもここと買い戻すことが可能という契約なんです。それは所有者が移っても五年間は有効なんですよ」
「でも、金はどうやって? エディさんは金もってるんですか」
「今はないわ。だから時間を稼ぎの為に誘拐をでっちあげたのよ。この森にあると言われる本物の亡霊騎士の宝を見つける為にね」
「本物の亡霊騎士の宝?」
「そうよ!」
顔をあげてパロメが意気揚々と話す。
はるか昔にこの地を治めていた騎士がいた。騎士はかつてこの森からは、豊富にパロメはとれ、彼は莫大な財産を築いた。だが、侵略者によって騎士は殺されてしまった。その騎士は亡くなる直前に森に財産を隠していたという。森に亡霊騎士が出るのは、この財産を守るためと言われている。ちなみに、戦争により傷ついた騎士が戻ってきて、朽ち果てた場所に泉が湧き、それが今の祝福の泉という伝説が残っている。
リックは厳しい表情で二人の夢のような話を聞いていた。
「そんなの見つかるわけ……」
「大丈夫よ。さっきあなた達から逃げる時に森の奥に洞窟をみつけたのよ! きっとあの洞窟にお宝があるに違いないわ」
「えぇ!? 本当かい? パロメ! 早速行こう!」
「うん! エディ! 行きましょう!」
エディはパロメの話を聞いて興奮気味に立ち上がった。パロメも立ち上がり二人は、嬉しそうに手を握って喜びあう。ナオミが二人の様子を見て微笑んで立ち上がった。
「ねぇ!? みんなパロメさん達について行こうよ! 面白そうじゃん!」
「えぇ!? ナオミ姉ちゃん…… 僕達の仕事はパロメさんを連れ戻すことだよ」
「だってお宝をみつければパロメさんは戻るんでしょ。だったらいいじゃん」
「うーん!? ポロンちゃんとタンタン君は?」
「僕はナオミお姉ちゃんに賛成だよ。お宝探しに行ってみたい」
「わたしも! 行ってみたいのだ」
「わかった…… パロメさん、エディさん、僕達もついていっていいですか?」
「かまいませんよ。協力していただければ報酬も出しますよ。ねぇパロメ?」
「もちろん、この屋敷の代金を抜いた金額ですけどね」
ポロン達は二人について森にあった洞窟へと向かう。もちろんリック達も同行する。屋敷をでて祝福の泉へ行き、パロメの案内で森の中の道なき道を進んでいく。
「ほら! あそこの洞窟よ」
パロメが立ち止まった指さした。彼女の指の先には岩肌が見えた、森の小高い丘の下にできた小さい洞窟があった。丘のすぐ近くまで木が生えていて、近くまでよらないとわからず。財宝を隠すにはちょうど良い場所だった。
森の入り口から中を覗き込むポロン達、少し先で真っ暗なっておりほとんど中はみえない。ソフィアの魔法で灯りをつけ全員で洞窟の中にはいる。
先頭はポロンとタンタン、次にエドガーとナオミが並び、その後にパロメとエディが続く。リックとソフィアとミャンミャンが最後尾を進む。洞窟は二人が並んで、やっと通れるくらいの大きさで、とこどころ岩が下につららみたいに出ている。リックは頭をさげないとぶつかりそうになる。
しばらく歩くと大きな空間が現れた。天井が高く町の広場くらいのかなり大きな空間で、中央に大きな四角い石柱が立っていた。
「あれは? ポロンちゃん行ってみよう!」
「わかったのだ!」
ポロンとタンタンが、中央に立っている石柱に向かっていく。リック達も二人の後を慌てて追いかけた。
「うわ! パロメさんなのだ?」
タンタンとポロンの前に、長い槍が飛んできて突き刺さった。槍はパロメが使っていた槍と同じで、刃が十字で黒い柄の物だった。二人は驚いて立ち止まった。
「違うよ。ポロン! そっちは本物亡霊騎士だ」
ゆっくりと四角い石の裏から、漆黒の鎧を身にまとった騎士が現れた。騎士は黒い兜の顔の部分が、牙の生えた恐ろしい鬼のような、面になっていて目が緑色にひかっていた。
リックは剣を抜いてポロン達の横に立つ。
「うん!? クソ!」
騎士が手の平を上に向け、手首をまげおいでおいでというような動作をすると、泥の人形が棍棒のような物を持って五体ほど現れた。丸い空洞とただの一本の棒状の空洞が、目と口のようになっていて、無表情に泥人形がリック達を取り囲んだ。
「まぁ…… そうだよね。財宝泥棒を歓迎なんかしねえよな。でも…… 死んだ奴が金なんかいらねえだろ? 生きてる俺らが役立ててやるからよ。悪いけどあんたを倒して財宝はもらう」
亡霊騎士に向かってリックはつぶやき剣を持つ右手に力を込めた。
「ソフィア、ナオミちゃんはパロメさん達とエドガーをお願い! ミャンミャンとポロンとタンタンは泥の人形を片付けて」
「わかりました」
「お願いしますね。ほら、行くわよ二人とも!」
リックにほほ笑んだ、ミャンミャンが背中から鎌を抜き、泥人形に駆けだしていく。ポロンとタンタンもミャンミャンに続く。泥人形たちはポロン達に襲い掛かる。
真ん中にいた亡霊騎士は、銀色に光る両刃の太い剣を抜いて、両手に持ってソフィア達に斬りかかろうとガシャガシャと音を立てて走ってきた。
「おい! まてまて…… お前の相手は俺だよ」
リックは剣を抜きソフィア達に前に立つ。リックに向けて亡霊騎士の剣が振り下ろさた。リックは剣を額の上に横にして亡霊騎士の剣を簡単に受けとめた
衝撃がリックに右手に伝わる。剣を合わせながら、リックは手に力をこめて剣を右に移動していく、細いリックの剣はしなって亡霊騎士の剣がうけながされて地面に叩きつけられた。
「もらった!」
リックは剣を自分の体の横にひいて、亡霊騎士の左側から、剣を横から首を狙い斬りつけた。とっさに亡霊騎士は左手を剣から離し、リックの剣を左の前腕部で受け止めた。
金属のぶつかり合う音が洞窟に響く。亡霊騎士の前腕の三分の二くらいから先が吹き飛び、回転しながら地面に落ちてカランカランという音を立てる。
「なるほど……」
リックの目の前には亡霊騎士の斬られた腕がある。血もでてなければ亡霊騎士はいたがるそぶりも見せない。斬られた腕の中に中身はなく空洞だった。
「中身がないです」
「そうだね。亡霊騎士の名前通りだね」
剣を返したリックはさらに追撃をしようとする。右手に持った剣で何とか亡霊騎士はリックの一撃を防ぐ。
「クッ!」
亡霊騎士は片手で剣を押し返し、リックと間合いをあけると、右手に持った剣を俺に投げて逃げた。リックが投げられた剣をかわしたスキに亡霊騎士は背を向け石柱に向かって逃げ出した。リックは慌てて亡霊騎士を追いかける。
石柱の前に刺さっていた、槍を掴むと亡霊騎士は、片手で槍を抜き柄を脇に挟んで構える。太い両刃の剣より槍の方が軽く片手であっても槍の方が使いやすいのだおうr
亡霊騎士の兜の顔の目の部分が緑に光った。表情はないはずだがリックには、余裕で笑っているように見えた。
「余裕だな。ただ、槍は分が悪いぜ……」
リックは槍を構える亡霊騎士を見て笑う。彼の毎日の訓練相手は、王国一の槍の使い手だった。リックは膝をまげ腰を落とし、右手を前にだし剣を地面に水平にして構える。